2012年2月アーカイブ

ウェブサービスをローンチさせるということは、とても大変なことだと実感しています。ここでいうローンチとは、世の中に出すことでユーザに使ってもらう状態になることを言っています。ビジネスとして成立させるにはさらに遠い道のりがまっています。だけど、まずはローンチしないと始まらない。しかしローンチさせるだけでも大変です。

日常の中でインターネットを使っていれば「こういうサービスがあればなぁ・・」と思ってアイデアが浮かぶことがあると思います。もしくは、新しくローンチされた誰かのウェブサービスを見て「これ、同じこと考えてた。やってれば良かった。」と思うこともあるでしょう。しかし、ウェブサービスのアイデアを閃くことから、実際にローンチできることまでには、実に大きな溝があります。


Campfire in NB
Campfire in NB / Martin Cathrae


自分でプログラムやデザインが出来るか、もしくはそれが出来る信頼に足るパートナーが見つかるか、といったことも重要ですが、もし、たとえプログラムを作ることができるとしても、オープンソースやクラウドによってコストが下がったと言っても、実際にローンチに至るまでは難しい、という印象があります。


ウェブサービスのローンチに必要な「情熱」

ウェブサービスのローンチが難しいのは、そこに至るまでには相当な「情熱」が必要だと感じているからです。いや、なにがなんでもローンチさせるという「執念」かもしれません。

最初にアイデアが閃いてから、実際に企画を考えたりプログラムを作っていく途中に、挫けるタイミングはいくらでもあります。例えば、ちょっと競合調査をすれば、他に良いものがたくさん見つかります。そうすると、作ったとして本当にユーザが使ってくれるんだろうか、自分のやっていることに意味はあるんだろうか、等と、ついつい考えてしまいがちです。それでも自分が正しいと信じる「情熱」が必要なんです。

また、エンジニアにありがちですが、プロトタイプを作って満足するというケースや、逆にこだわり過ぎていつまでたっても完成しないというケースもよくあります。開発する技術を習得したかったり、腕試しをしたかったりという情熱だけでは、ローンチまでは至らずに終わってしまいます。ここでも、ウェブサービスをローンチした先のゴールがあって、そこに向かう「情熱」がないと続けられなくなってしまいます。

「ちょっと儲かりそう」とか「あれなら自分でもできそう」くらいの気持ちでは、なかなかローンチまでは難しいです。とはいえ、そこまでの情熱を燃やし続けるのは大変なことですし、何も工夫しなければ挫けると思います。


「情熱」を維持するための最も効果的で最も危険な方法

もっとも効果的な情熱の燃やし方としては「退路を断つ」という方法で、サラリーマンの場合は会社を辞めて独立したり、会社経営や個人事業主をしていたとしても、受託などの他からの収入をなくしてしまうことをすれば、やろうとする新規事業に賭けるしかなくなるので、なんとしてもローンチしようとするでしょう。

しかし、それではリスクが大き過ぎます。そもそもローンチできたからといってマネタイズするまでは、かなりの時間がかかりますし、そちらの成功の方が大変です。

そういうリスキーな方法ではなく、副業的に少しずつ進めたり、限られた時間の中でも続けていきローンチに漕ぎ着けるために、なんらかの仕組みを作ることで、情熱を保ち続けることが出来るのではないか、と思います。


「情熱」を維持するための仕組みを作る

ソフトウェアはユーザがいて初めて存在してるのと同じです。そこで、まずは自分たち自身がユーザになれるサービスにした方が良いでしょう。よく「ドッグフードを食べる」と言われますが、自分たちで普段使っていれば改善の意欲は湧いてきますし、最悪、他にユーザがつかなかったとしても存在価値を感じられます。逆に、自分が使わなければ次第に忘れていってしまうことになります。ソニックガーデンのサービスも基本的に自分たちが必要だから作っているものが殆どです。

ソフトウェアは使う人が重要ということで、自分たち以外に最初に使ってくれるユーザを探すというのも大事なことです。誰かが使ってくれて、良いことも悪いこともどちらにせよフィードバックをもらえることは大きなモチベーションになりますし、責任感も緊張感も増します。

最初のユーザを巻き込みつつ、自分たちをうまくドライブするには、イベントなどへの出展や応募に参加するというのは良い方法です。期限が決まりますし、着地しなければいけないですし、それなりの完成度でなければ注目されません。イベントへの応募は良い動機付けになりますし、もしそうしたイベントで賞をもらえたらメディアにも注目されます。

もし、そういうイベントがタイミング的になかったり、もうちょっと前の段階で人を巻き込みたいとしたら、プライベートなプレローンチパーティを開催するのは良い手かもしれません。自分たちの知り合いの中で、作っているサービスを使ってくれそうな人たちに集まってもらいお披露目パーティを開催するのです。その日付が決まると、それまでに恥ずかしいものは出せないので一生懸命追い込まれることになります。また、実際に会って意見をもらうことで、非常に強いフィードバックを得ることができますし、そうして協力してくれた最初のユーザはファンになってくれる可能性が高く、今後の口コミや招待なども期待できます。

その他人を巻き込む期限を設定するときは、あまり長くしすぎない方が良いです。つい完成度を気にしてちょっと長めに設定すると、必ずだれてしまいます。長くても1ヶ月くらいでゼロから必要最小限の機能を作るくらいの期間設定が良いと思います。その必要最小限の機能をリーンスタートアップではMVPと呼んでいます。小さいものを作るには小さな情熱で済む訳です。

なんとか情熱を絶やさずにウェブサービスをローンチさせるには以下がポイントになりそうです。

  • 自分たちで使うこと(自分たちが必要としているものを作ること)
  • 他人を巻き込むこと(馴れ合いの中でグダグダにしないこと)
  • 短い期限を設けること(かっとなって出来る範囲にすること)

それでようやくローンチできたとしても、本当に大変なのはマネタイズするまでです。ローンチ後に続けていけるかどうか、そこには我慢と執念が必要になってきます。その話はまた別の機会に。


ソニックガーデンが自分たち用につくった営業支援ツール"Keep in touch(仮)"のプライベートなα版のモニターを募集しています。くわしくはこちら。モニター希望して頂ける方は、@kuranukiまでリプライください。

このところ、いくつかキャリア系のサイトにむけての対談をさせて頂きました。人材流動性が高まりつつあるということなのか、割と多くの方にも読んで頂けたようです。対談は記事の寄稿と違って、一発本番のみなので緊張もしますが、時間がかからないので好きです。

キャリア系のサイトでの対談の中でということもあり、エンジニアがこれからの時代、どういったスキルやマインドが必要になるか、ということを話しています。

この対談記事を読むと、スーパーなSEかスーパーなプログラマしか生き残れないんじゃないか、と不安になるかもしれません。でも、私はそうなって良いんじゃないかと思っていますし、これを読んでそれは「スーパーエンジニア」だというのであれば、それが「普通のエンジニア」と思われるような業界にしていきたいと思ってるんです。

もう、理系の大学を出て、専門外だけど選ぶ仕事がないからってシステムエンジニアを目指すとかやめて欲しいんです。文系なら営業、理系ならSEって、誰でも出来る仕事だと思われて、すごい残念な選び方をされてるし、SIerも今までそういう人たちを採りすぎてた。ちゃんとITのプロを目指したい人だけが入れる業界にしたいですよね。

人と話せて、企画ができて、ものづくりができて、サポートもできる人こそがプロフェッショナルなエンジニア。プロフェッショナルなのだから、続けるために努力や才能が必要だとしても、それはそうでしょう、と思うのです。


目指すエンジニアの姿が見えているならば、それ以外の仕事をしていて上達する訳がないんです。サッカー選手のはずが、他の競技の練習してるようでは試合に勝てる訳がないんです。キャリアを積みたいなら、それが活かされる仕事を選ばなければいけないですよね。

だからといって、やみくもにフリーランスとして独立するとか、会社を起こすとかしちゃうと、それはそれで積み重ねたかったエンジニアとしての時間よりも、別のことに時間をとられてしまうので、気をつけた方が良いです。

ちゃんと、プログラマならプログラマとして集中してキャリアが積めて、その延長上に自分の報酬があがっていけるようなビジネスをしている会社に移るというのが、一番ではないかと思うのです。

ちなみに、ソニックガーデンはそれが出来る会社です。


記念すべき10回目を迎える Developers Summit 2012(デブサミ)に参加、そして講演させて頂きました。

デブサミ10周年、おめでとうございます。そして、ありがとうございました。10周年という節目で講演させてもらえて、本当に光栄でした。



私は、1日目の「【16-A-7】あの人の自分戦略を聞きたい!」への参加と、2日目の「【17-C-3】オフェンシブな開発~「納品しない受託開発」にみるソフトウェア受託開発の未来」にて講演をさせて頂きました。後者の資料で前者の資料を包括してるので、後者の方を公開します。

デブサミで思い出深いのは、2006年のデブサミにて、XPユーザグループの代表をさせて頂いていたときに、コミュニティ枠で講演をさせて頂き、そこでベストスピーカー賞を頂いたことです。

そのときに発表したのは「カイゼン型開発」というテーマで、プロジェクトの開始前に最低限のソフトウェアを作ってしまい、最初から保守開発を始めるという進め方を提唱しました。多くの共感を頂いてのベストスピーカーだったと思いますが、一方で「理想的だが現実的ではない」という意見も沢山頂きました。

確かにその時は、事例もなく、ただの仮説に過ぎなくて、実現するための技術も足りていませんでした。しかし、それから6年経過した今、あの時のアイデアを実現すべく努力してきた結果、私はソニックガーデンを作り、実際の事例を作って、ただの理想ではないことを証明してきました。

今回の10周年のデブサミで、その私の経験した結果を、デブサミ2006で講演して提案して共感を頂いたことへの、自分なりの回答をする機会を頂けたことは、本当に嬉しく思います。


【17-C-3】オフェンシブな開発~「納品しない受託開発」にみるソフトウェア受託開発の未来

これまでの受託開発のスタンダードは「人月による一括請負」でしたが、そのビジネスモデルでは、顧客にとってユーザのニーズやビジネス環境に応じた仕様変更が困難で、開発者にとっては生産性を幾ら上げてもビジネスに貢献できない、といった多くの問題がありました。

それに対し、クラウドを活用し、開発と運用を分離せず、月額定額の利用料をベースにした新しいビジネスモデルの構築に挑戦し、その結果「納品がない受託開発」に辿り着きました。本講演ではこの「納品のない受託開発」について、実際の事例をもとに紹介します。


伝えきれなかったこと

今回のデブサミのテーマ「10年後も世界で通じるエンジニアであるために」に対する私なりの考えは、10年後も通じるためにはエンジニア自身の努力もたしかに必要ではあるけれど、それだけでなくて、エンジニアがこれまでよりも、もっと重視されて、もっと素晴らしい仕事であると思われるような社会を作っていくことも大事なことだと考えています。

その10年先の未来、ソフトウェアエンジニアの所属する会社としての一つの理想型が「リーンソフトウェアビジネス」という考えかたのもと、小さな組織としての会社が沢山できて、そこで大きなマーケットを創っているということを、私は考えています。エンジニアには、そうした社会で働くには何が求められるのか、それを考えてほしいと思っています。


デブサミ2012アワード

3/20に追記:

デブサミアワードが発表になりました。

私の講演は、セッションの評価✕来場者数で19位でしたが、満足度ランキングでは3位に入ることができました。ありがとうございます。ランキング2位のまつもとさんの裏番組で健闘した方だと思います。アンケートのコメントも沢山頂けてありがとうございました。


講演の際のTweet集

100人のプロが選んだソフトウェア開発の名著 君のために選んだ1冊」という本が翔泳社から出版されます。僭越ながら私も寄稿させて頂きました。翔泳社さんのご好意でブログで原稿を公開しても良いということでしたので公開します。


本書は、2月の16日17日の2日間で開催されるDeveloper Summit 2012(デブサミ)の10周年を記念して出版される本で、デブサミ当日に会場でも購入することができますし、この本の多くの著者の方々もいらっしゃるようです。私も両日とも参加します。

私の選んだ本は、Eric Sinkの「Eric Sink on the Business of Software 革新的ソフトウェア企業の作り方」という本です。色々ある本の中で1冊だけ選ぶというのはとても難しかったのですが、私がプログラマでありながらビジネスを考えるきっかけになった本ということで、この本を選びました。他の方と被らなければ良いなーと思ってたんですが、アプレッソの小野さんが選んだのと同じ本でした。。。ま、それだけ良い本だということで。


起業のサクセスストーリーはたった一つじゃない〜起業を考えはじめたプログラマに読んでもらいたい1冊

革新的ソフトウェア企業の作り方 Eric Sink on the Business of Software


「起業すること」は、多くのプログラマが一度は考えることだと思います。オープンソースやクラウドといった環境が整いつつあり、スタートアップについても以前に比べ遥かに多くの知識を得ることができるようになりました。私としては、たくさんのソフトウェア企業が出てきてほしいし、プログラマ自身が起業することは多いに賛成なのですが、それでも、安易に会社を辞めたりするのではなく、まずは、どういった企業を作りたいのかを考えるべきだと思います。もちろん、本当に起業すべきかどうかも考えるべきです。

自分一人で食べていくフリーランスなのか、コンサルティングや受託開発をするのか、自社の製品を広めたいのか。ベンチャーキャピタルから出資を受けるか自己資金か。短期間での上場を目指すのか。目指すビジョンによって採るべき選択肢は大きく変わってきます。世の中で目にするスタートアップに関する情報は、ウェブサービスを立ち上げてベンチャーキャピタルから投資をうけ、上場かバイアウトによって一攫千金を得たというようなサクセスストーリーが多いです。しかし、それだけが成功のビジョンではないはずです。

起業を考える上でも、企業のあり方には様々なビジョンがあることを知っておくべきだと思い、本書を推薦します。

この本には「小さなISV」という表現が出てきます。ISVとはIndependent Software Vendorの略。自社でソフトウェアを作り販売しているソフトウェア会社のことです。中でも、特に少人数で構成されている会社のことをそう呼んでいます。著者のEricはこう言っています「小さなISVは小さいままでいる傾向がある。大きくなるにしても、成長はゆっくりとしている。有機的に成長し、自身の利益を投資することで成長する。小さなISVは地味でも収益を上げていることが多い」。こうした会社のあり方も一つのビジョンなのです。

私は、学生時代にベンチャー企業で働いた後、大手のシステムインテグレータに就職し、そこで12年働きました。その大企業の中では、現場部門から企画部門など様々な部署を経験させてもらい、そこでの最後の2年は社内ベンチャーという形で小さな組織を経営する経験をしました。今は、その社内ベンチャーである「SonicGarden」をMBOすることで、株式会社ソニックガーデンの代表取締役をしています。ソニックガーデンも小さな会社であり、これからもさほど大きくしていくつもりはありません。それが私のビジョンだからです。

私たちはアジャイルソフトウェア開発が好きで、自分たち自身で実践していたいと思っています。アジャイル開発では分業をしないため、プログラマはただコーディングをするのではなく、ソフトウェアを作る全ての役割を担います。プログラマが多くの役割を担うことで、間接的な職種や情報共有のための会議などを極力なくして高い生産性を発揮できるようにするために、小さな組織であることを大事にしています。小さな組織で大きな収益をあげることは、時間を販売していては成立しないため、ビジネスモデルが重要になります。

ソフトウェア企業の場合は大量の資金調達がなくても成立するため無理に上場する必要はありません。小さい組織のままで大きな利益をあげていくことで、社員全員で、長く豊かな生活を送るというビジョンをもっています。一般的な起業とは違うイメージかもしれませんが、こうした考えかたもあるということです。

起業を考えたとき、一か八かの一攫千金を狙って大きな賭けに出るようなビジョンだけではなく、ローコストながらも着実に成長するようなビジョンもあると知っておくことはとても大切です。本書を読むことで、後者のビジネスにおいてオーナーシップを持つにはどうすれば良いか、プログラマならではの視点から学ぶことができます。


先日「ユーザエクスペリエンスのためのストーリーテリング」という本を献本頂きました。ありがとうございます。本書はユーザエクスペリエンスとストーリーテリングについて学ぶことのできる本です。前半は、ユーザエクスペリエンスそのものについての重要性の理解から、表現としてのストーリーテリングの必要性について説明し、そして、本書の後半では具体的なテクニックも交えて手法について解説しています。



具体的なテクニックや内容は本書を読んで頂くのが良いと思いますので、以降では私が本書を読んで感じたことや、考えたことを記しておきます。書評というよりコラムになってしまいました。


ユーザエクスペリエンスの難しさ

そもそもユーザエクスペリエンスとはなにか。ソフトウェア開発で言えば、ディスプレイに表示される画面のインターフェースのことではありません。それは単なるユーザインタフェースに過ぎないのです。ユーザエクスペリエンスとは、利用者がそのソフトウェアと対峙をした際に感じる気持ちや感覚、結果として受ける印象や思考の流れのことまでを含んだもののことです。

ユーザエクスペリエンスの設計は、単に出来ることを満たせば良いかどうかという機能の話だけではなく、どんな色や絵を配置するかといった見た目の話だけでもなく、ユーザ自身の体験を設計しなければいけないので非常に難しいことです。しかも、設計者が設計したものを「伝える」方法はさらに難しいのです。「ユーザの体験」を伝えるって一体どうすれば良いのでしょうか。

そこで「ストーリー」を使います。ストーリーとして表現すること、伝えることで、「ユーザの体験」を考えることが出来るし、共有することができます。ストーリーテラーとして書き出すことで、利用者の心理状況を具体的に考えることができるし、オーディエンスはストーリーを読むことで利用者の気持ちを追体験することができます。


ユーザエクスペリエンス設計は誰が身につけるべきか

製品のユーザエクスペリエンスは、誰が設計するべきでしょうか。もしくは、ユーザエクスペリエンスの善し悪しを誰が判断すべきでしょうか。単にUX専任のデザイナーがいれば済む話ではありません。ユーザエクスペリエンスとは製品そのものを表すと言ってよくて、だからこそ、製品やサービスの責任者自身が、ユーザエクスペリエンスの設計に携わるべきです。専門家にアウトソーシングして済む問題ではないのです。

製品やサービスの責任者であれば、ユーザエクスペリエンスを考えるべきだし、他に作り手がいるのであれば、それを伝えなければいけません。ユーザインタフェースの設計に画一的な答えはありません。使うユーザやシチュエーション、そのサービスで実現したいビジョンによって、ユーザインタフェースは変わってきます。そのユーザインタフェース設計の前提となるのがユーザエクスペリエンスについての共有です。

ユーザエクスペリエンスがちゃんと伝わっていなければ、ユーザインタフェースや機能についての本当に細かい点まで伝えないと思い通りにならないと嘆くことになるでしょう。しかし、ユーザエクスペリエンスが共有できていれば、そんなことにはならないはずです。製品やサービスの責任者であれば誰でも、ユーザエクスペリエンスについて学び、伝え方としてストーリーテリングを学び、実践すべきです。その学びのきっかけとして本書を読むと良いでしょう。


アジャイルとユーザエクスペリエンス

ソフトウェア開発においてはアジャイル開発というのは、ユーザエクスペリエンスを高める最良の方法だと、考えています。ソフトウェアの場合は、実際に動かすまで本当にどんなユーザ体験が起きるのかわかりにくいという問題があります。動くソフトウェアなしでユーザエクスペリエンスを高めることはとても難しいのです。よって、アジャイル開発を通じて動くソフトウェアで確認していくことは効果的なんです。

ではストーリーは不要でしょうか。そんなことはありません。大河ドラマほどになるような膨大なストーリーを最初から最後まで用意しておくようなことは必要ありませんが、プログラミングをしていくにあたり、やはり何かしらのよりどころがなければ、ユーザインタフェースの設計に一貫性を欠くことになってしまいます。

アジャイルの場合は、一気にすべてのストーリーを書き上げるのではなく、少しずつ書いていき、それにあわせて少しずつ動くソフトウェアを完成させていき、その動くソフトウェアからのフィードバックをうけてまた、ストーリーを書き直したり書き足したりしていくというやり方になります。アジャイル開発では昔から、作るべき仕様を「機能」や「要求」と言わずに「ユーザストーリー」と呼んでいたのです。


アジャイルジャパン東京サテライトでも、ユーザエクスペリエンスに関するセッションがありますので、ユーザエクスペリエンスに興味をもったなら、ぜひご参加ください。


目次 こちらより引用

  • 1章:なぜストーリーなのか?
  • 2章:UXストーリーの効果
  • 3章:ストーリーは聞くこと、そして観察することから始まる
  • 4章:ストーリーの倫理
  • 5章:UXプロセスにおけるストーリー
  • 6章:ストーリーを集める
  • 7章:ストーリーを選択する
  • 8章:アイデアを生むストーリーの使い方
  • 9章:ストーリーで評価する
  • 10章:ストーリーを共有する
  • 11章:ストーリーをクラフトする
  • 12章:オーディエンスに配慮する
  • 13章:ストーリーの構成要素を組み合わせる
  • 14章:構造とプロットを作る
  • 15章:ストーリーの伝え方
  • 16章:新しいことに挑戦する


AgileJapanアジャイルジャパン2012は、メイン会場を大阪に移しての開催ですが、東京でもサテライト開催します。

アジャイルジャパン2012東京サテライト

午前中のアジャイルサムライ著者やTOC岸良氏のキーノートスピーチについては、大画面を使ってのUST生放送をパブリックビューイングします。そして、午後は東京オリジナルのコンテンツを用意しています。

私は東京サテライトの実行委員でもあるので、大阪には行かないで、東京を盛り上げていきたいと思っています。


もっとしびれるようなソフトウェア開発がしたい

今年の東京のアジャイルジャパンはサテライト開催のため、いわゆる王道のアジャイルではなく、サテライトだからこそ尖ったメッセージをもって取り組みたいと考えました。熱い大阪に負けない位、熱くてエネルギーの坩堝のようなイベントにしよう、と。

アジャイルはソフトウェア開発の現場で産まれました。プログラマたちから始まったムーブメントが、マネジメントの場面、顧客との関係、そして会社の組織変革へと広がって来ました。それに伴い語られる問題が、大規模なプロジェクトでどうすれば良いか、組織の経営者や顧客にどう伝えるのか、固い会社の中でアジャイルをするには、といった話題ばかりになってきたように思います。そういうの正直ワクワクしないんです。

そんな制約や体制の中でどうすれば良いかなんて考えるのではなくて、そんな前提をぶっ壊すようなアイデアやアクションをとるのがアジャイルだったと思いたいのです。モノ作りの原点に帰って、もっとしびれるようなソフトウェア開発がしたいのです。

CultsCults / Man Alive!


そこで、アジャイルジャパン東京サテライトでは「モノ作り・製品作り・サービス作りへの原点回帰」をテーマに【アジャイル meets スタートアップ!】として開催することにしました。スタートアップといっても、必ずしも会社を作ることではなく、スタートアップとはソフトウェアを創る人とビジネスを創る人が一体となって、新しい製品やサービスをつくっていくことだと位置づけています。


どうすれば大規模の人数でもアジャイルっぽくするか、よりも、小さなチームで大きな成果を出すのにどうすれば良いかを考えたい。

情熱のない人たちの多い会社を変えるにはどうすればいいか、よりも、自分の人生を捧げるほどの情熱を仕事にぶつけることを考えたい。

変わってくれない他の誰かを変えようとすること、よりも、自分自身がアジャイルであり続けるために挑戦していくことを考えたい。


ソフトウェアでも世界を変えることができる場所があります。次の市場を創りだすことのできる場所、それが新規事業すなわちスタートアップです。そして、ソフトウェアによる新規事業の主役は「ハッカー」であり、中心の場所は「モノ作り・製品作り・サービス作り」の現場で、そこで求められる姿勢は「アジャイル」なんです。

アジャイルジャパン東京サテライトでは、アジャイルのもう一つの出口としてのスタートアップにフィーチャーして開催したいと思います。

最後に、私が東京サテライトのサイトに書いた東京側の主旨文を載せておきます。ぜひご参加ください。皆様に会えるのを楽しみにしています。


アジャイルジャパン2012 東京サテライト開催に向けて

アジャイル誕生から10年が過ぎ、「アジャイル開発」は以前とは比べようもないほど広く知れ渡り、多くの事例が生まれ、様々な場面で応用されてくるようになった。そして、アジャイルが広まれば広まるほど、組織で活用するための「マネジメント」の話題や、組織に根付かせるための「既存の組織改革」の話題が多く聞かれるようになってきた。

アジャイルが「ソフトウェア開発」の現場だけの手法で終わることなく、マネジメントや組織改革の取り組みに繋がっていくことは、自然なことで素晴らしい試みに違いない。アジャイルは大人になった、アジャイルに携わる私たちが大人になったのだ。良く言えばアジャイルは成熟したのだが、一方で本当にアジャイルは、そんなお行儀の良いものだったか?という疑問が沸々とわいてきた。

アジャイルの本質が人や組織にあることに異論はないが、10年前にアジャイルが登場して感じたことは、もっと破壊的で混沌としつつも、それでいて本当に役に立つソフトウェアを創りだすことが出来る期待感だったはずだ。ソフトウェア開発は、実際に作ってみなければわからないことばかりだし、だからこそプログラミングを中心に据えるやり方が良いとモノ作りの現場から始まったのだ。

本来のアジャイルは既成概念や体制を批判し、新たなムーブメントを作ろうとするロックだったんじゃなかったか。だからこそ惹かれたんじゃなかっただろうか。

そうであれば、既にある企業の組織改革やマネジメントに目を向けるアジャイルがある一方で、もう一方に振り子を、しかもエクストリームに振る必要があると感じている。つまり、ゼロからソフトウェアを作りビジネスを創りだしていくというスタートアップにも目を向けたい。ソフトウェアを創る人とビジネスを創る人が渾然一体となって、新しいモノやサービスを作り上げる場面でのアジャイルの活用だ。

そこで、AgileJapan東京サテライトでは「モノ作り・製品作り・サービス作りへの原点回帰」をテーマに【アジャイルmeets スタートアップ!】として開催する。

「スタートアップ」というと会社を起こすイメージがあるが、会社の設立=起業ではない。会社を作るかどうかに関係なく、新しいモノやサービス、製品をゼロから作り出すこと、そしてモノ作りからビジネスを創っていくことこそがスタートアップなんだ。そして、ソフトウェアでゼロからイチを創ることや、何かを新しく始めることにおいて、アジャイルほど適した進め方は無いはずだ。

昨年の震災以降、多くの日本人がその価値観を見直し、変えてきているように思う。新しい働きかたを提案して自ら実践する人たちや、これまでに無かったサービスを産み出し市場を作ろうとする人たち、そうした日本の未来につながる新しい動きがたくさん出始めている。

AgileJapan東京サテライトでは、そうしたムーブメントを応援すべく、アジャイルが新しいサービスやビジネスを創りだす上でどのように役に立つのかを学べる場を提供したい。新しいことを始めようとする気持ち、新たな息吹を感じたい気持ち、未来につながる新しい変化を起こしたい気持ちを持っているなら、ぜひ参加してほしい

新しいアジャイルの1歩を踏み出そう。


アジャイルジャパン2012東京サテライト

AgileJapan2012で私が最も期待しているセッションをご紹介します。

アジャイルも活用した新しいビジネスモデル

アジャイルとビジネスモデルに関するパネルディスカッションなので、本来であれば私がぜひ登壇して「納品のない受託開発」を紹介したいところですが、私は東京サテライトを担当しており、大阪に行けないため代理で弊社ソニックガーデンの副社長に出てもらうことにしました。彼が表舞台に出ることはあまりないので貴重な機会ですが、ソニックガーデンの契約書など全て彼の仕事なので、私よりも具体的な話が聞けるはずです。

そして、そのパネルには当然ですが「価値創造契約」を掲げる永和システムマネジメントの方が登壇されます。そこもきっと永和システムマネジメントの木下さんが出てくるものだと思っていたら、登壇するのは市谷くん(papanda)だというのです。DevLOVEの立場でなく永和システムマネジメントとしての立場での彼から、そのビジネスモデルについて語られるというのは、これも貴重な機会ではないでしょうか。

そして、何よりこの2人が同じ舞台に立つということに、私の極めて個人的な感情ですが、なんとも不思議な運命を感じているのです。


会社を変えようとした2人

私がこれまでの仕事人生において、最も暑苦しくて面倒くさい(賛辞です)、そんな人を思い出すといえば、永和システムマネジメントの @papanda こと市谷くん、そしてもう一人は弊社ソニックガーデン副社長の藤原です。(敬称略で普段の呼び方で書いてます)

市谷くんと藤原の2人は今でこそ袂を分かち、別の会社で働いているけれど、もしかすると今も同じ会社で共に働いていたかもしれません。何故なら彼ら2人と、そして私は、かつては同じ会社で働いていたからです。そんな2人と私の関わりを少し紹介します。



市谷くんと藤原の最初の出会いは、当時その会社で私が作って運営していた社内SNS(今のSKIPの元になったもの)の中で立ち上がった社内イベント企画の運営委員会でした。

Developers Summit(デブサミ)に刺激を受け、社内デブサミをしようと言い出したのは市谷くん、そして、その運営に乗り出したのが藤原でした。旗を振る市谷くんと、先に進める藤原と、今思えば、そのイベントのCEOとCOOとしてうまく機能してたんだな、と思います。近くで見ていても、楽しそうに輝いている良いコンビでした。

そして彼らはそのイベントをやり遂げ、会社の風土を少し変えてしまうことになるのです。それについては以下の記事が詳しいです。この頃は、この2人に今の未来が待ち受けているとは、私を含め誰一人予想すら出来ませんでした。

身近な仲間と繋がり、刺激を与えあう「社内デブサミ」はいかにして生まれたか ~「会社の空気を変える」社員のつくる社内イベント


後に彼らのこの活動は時を経て、別の場所で大きな実を結ぶことになります。

ひとつは、IT業界の若者たちに大きな影響を与えるコミュニティに成長したDevLOVE。社内デブサミの経験を経たのち、市谷くんは外に意識を向けました。

もう一つは、社内SNS:SKIPというサービスとなり、ソニックガーデンの事業の大きな柱となりました。藤原の会社風土を変えた経験がビジネスになりました。

彼らがその社内イベントをやっていた頃、私はソニックガーデンの前身である社内ベンチャーの立ち上げに奔走していたのを覚えています。そして新規事業の新しいチームを作るなら、この2人と共に、と考えてました。出来ることなら一緒に働きたいとも思ったのですが、当時の私の政治力の至らない点などもあり、それぞれ別の部署で働く彼らが、その私のチームに入ることはなかったのです。


市谷 聡啓 氏 株式会社永和システムマネジメント

市谷くん。彼は私が大手SIerの中でのアジャイルに取り組んでいる頃に、そこに中途入社してきたのでした。大阪から上京してきたばかりの彼とは、同じ大学出身だったり、住んでる家が近所だったり、接点も多くて仲良くなり、よく話をしたものでした。当時の私は既に「ディフェンシブな開発」を発表するに至るほど、自分自身はSIerのビジネスモデルとそこでのアジャイルの難しさを実感し、社内向けのSNS開発に自分の戦略を変えた時期でした。

そんな私から見て、現場でアジャイルに取り組み、傷つき苦しみながら挑戦を続けている姿は、まるで自分の若い頃を見ているかのように思えていました。大手SIerでぶつかる壁にことごとくぶつかっていましたね。だからこそ、私は彼の相談にはのりたいと思ったし、期待もしていました。私の出来なかったアプローチで彼ならば成し遂げるかもしれない、と。私が彼に出来ることの一つは、彼がやってみたいということに対して「やれば良いじゃない」と極めて軽く返すことでした。それは、かつて私が平鍋さんにしてもらったことで、本人が重く考えてることを、相談相手が軽く返してくれたら、気軽な気持ちでチャレンジできるから。これはまた別の平鍋さんとのエピソード。

しかし数年後、彼はその会社を去ってしまったのです。理由は私は知りません。もっと話をしておけば良かったと悔やむこともありました。ただ、彼はもう大阪から上京したてのただのパンダではなく、社外に多くの居場所をもつまでに成長したからかもしれません。

再び私の前に現れた時、彼は永和システムマネジメントの人になっていました。再会したときの彼の目は、大阪から希望をもって上京してきた、あの時の目をしていました。彼はもしかしたら、最後の場所を見つけたのかもしれません。


藤原 士朗 氏 株式会社ソニックガーデン

藤原士朗。彼は私が大手SIerで現場を離れ管理職になって初めての新卒採用したうちの一人でした。私が採用したもう一人の藤原の同期は、今や私よりも有名になったid:rx7こと並河です。今思えば、その年の新人は良い人材が揃っていたのですね。彼らの入社したころの私は、社内にアジャイルチームを作り、多くの人を集めていた時期でした。

しかし、ちょうど彼らが入社して数年した頃、私に大きな転機が訪れます。ある事情により私のチームが解散させられることになってしまうのです。十数人いた私の部下は全て別のプロジェクトにもっていかれ、残されたのは、藤原ただ一人でした。2人きりのチームになってしまい、色々と考えた結果、たった2人で初めて触るRubyを勉強しながら社内SNSを作りはじめたのでした。私がRubyで社内SNSを作ると言い出したとき、彼にはどうするか聞いたのを覚えています。私についてくるということは普通のSEとしての出世からは外れてしまう、ただしエキサイティングであることは間違いないが、どちらを選ぶか、と。彼は即答しました、私と一緒にRubyで社内SNSを作ることに。

その数年後、彼も社内の人事異動によって、私のもとから去っていくことになります。その代わりに並河が戻ってきて、私のもとで今のクラウドに繋がる技術に取り組みブログを書き始め、それが今のソニックガーデンの基盤に繋がるのですが、それはまた別の並河とのエピソード。藤原が、私の元から離れている間に、部門の壁を越えて社内デブサミを立ち上げたのが市谷くんだったのです。そこで繋がったのです。

さらに数年後、藤原は私の元に戻ってきてくれました。彼と2人で作った社内SNSを事業の柱とする社内ベンチャーSonicGardenの誕生です。その彼は今、私とともにMBOをし株式会社ソニックガーデンの副社長をしています。


アジャイルも活用した新しいビジネスモデル

市谷聡啓と藤原士朗という、私と何度もすれ違い繋がって、離れていったり、同志となったりした私の人生とも大きく関わった2人が、AgileJapanという大舞台で、一緒に壇上にあがり対談をするということに、数奇な運命を感じているのです。

「価値創造契約」と「納品のない受託開発」この2つのビジネスモデルは大きな違いがあります。それは、実際にやっている私たちだけにしかわからないことかもしれませんが、もしかしたら、このパネルディスカッションを通じて、その違いについて知ることが出来るかもしれません。

私は何より、この2つのビジネスモデルを代表する、2人の男の運命の対談が楽しみで仕方ないのです。

AgileJapan アジャイルジャパン2012

日本最大のアジャイルに関するイベント「Agile Japan(アジャイルジャパン)」が今年も開催が決定しました。開催日は3月16日の金曜日です。今年の場所はメイン会場を大阪に移して開催します。

昨年から実施している全国各地で開催するサテライト開催が今年もあり、東京は「東京サテライト」として開催します。(私は東京サテライトの実行委員でもあります)

今回のアジャイルジャパンでは「今こそ語り合おう、アジャイルのABC 〜Agileを知る、Businessをつくる、Changeを起こす」というテーマのもと、Agile/Business/Changeの3つの柱でセッションのプログラムが組まれています。



キーノートには、「アジャイルサムライ」の著者である Jonathan Rasmusson 氏が来日され、「The Surprising Science Behind Agile Leadership ~ アジャイルリーダーシップの背後にある驚くべき科学について」という講演をされます。

もうひとつのキーノートには、ゴールドラット・コンサルティング・ディレクターである岸良 裕司 氏による「全体最適のマネジメント改革 ~ 変えるのは現場ではない、マネジメントである ~」という講演があり、豪華な2本建てとなっています。

メインの大阪会場では、この貴重なキーノートを生で聞くことができます。東京を含むサテライトでは、本講演をユーストリームによる生放送しますので、みんなで鑑賞しましょう。入門から事例まで、幅広く取り揃えたセッションは、日本でアジャイルのことを知る最も良い機会になると思います。オススメです。

アジャイルジャパン2012のくわしくはこちらから。東京サテライトについてのくわしくはこちらです。

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  • 倉貫 義人
  • SonicGarden 代表取締役社長
  • ソニックガーデンの創業者で代表取締役社長。日々アジャイルソフトウェア開発とリーンスタートアップを実践しています。クラウドを活用したワークスタイルの変革を目指しています。「心はプログラマ、仕事は経営者」がモットーです。
  • 詳しいプロフィール
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