自律的に現場を改善できるチームをつくるための「ふりかえり」の進め方 〜 KPTと進め方のノウハウ

自律的に現場を改善できるチームをつくるための「ふりかえり」の進め方 〜 KPTと進め方のノウハウ

現場のオペレーションを改善するために、最初に着手するなら何か?と聞かれたら、いつも「ふりかえり」から始めましょう、と答えています。かつてトラブルの起きているプロジェクトに入ったときも、まず始めたのは「ふりかえり」からでした。
「ふりかえり」とは、文字通り現場の活動を振り返って、改善のアクションを考えることです。反省会のようにも思えますが、すべてが終わってから反省する訳ではなく、現状分析を行って、うまく続けていくための未来を向いた活動です。
この記事では「ふりかえり」という習慣について、そして、ふりかえりを実践するにあたって、進め方とポイントについて紹介します。

 

ふりかえりの進め方”KPT”とは

上の写真は、私たちソニックガーデンで「ふりかえり」をしている様子です。ソニックガーデンでは弟子を採用していて、その弟子と師匠とのふりかえり風景です。このように、特別な道具はなにも必要ありません。必要なのは、ホワイトボードが1枚あれば十分です。

写真の中のホワイトボードを見てみると、そのふりかえりの内容が書かれていますが、3つの区域に分かれているのがわかるでしょうか。ソニックガーデンで実施しているふりかえりの方法は「KPT」と呼ばれているもので、ふりかえりの中ではメジャーな方法です。
KPTは、Keep/Problem/Tryの略で、「Keep=よかったこと」「Problem=悪かったこと」「Try=次に試すこと」の3つのフレームワークで考える方法です。先ほどのホワイトボードを3つの区域に分けているのは、KeepとProblemとTryに分かれているという訳です。

ホワイトボードを左右に分けて、その左側を、さらに上下に分割します。左上をKeep、左下をProblem、右半分をTryを書き出す場所として用意します。それだけで、ふりかえり開始です。

 

ふりかえり”KPT”の具体的な進め方

ふりかえりで話すことは「仕事の進め方」についてです。仕事の進捗や報告の場ではありません。普段の仕事をするときより少し視点を変えて、自分たちの仕事の進め方を外から見る感じで考えます。なので、進捗会議とは別の時間をとって実施するのが良いでしょう。
最初にするのは、KeepとProblemを洗い出していくことです。そのもとになるのは、前回のTryとやったことです。KeepとProblemを出していく際のポイントは、起きた事象そのものだけではなく、良かったことや悪かったことに至るプロセスについて書くと良いでしょう。

このときは、とにかく全員で出すことを優先します。ひとつひとつに議論をしているとキリがありません。まずは出し切ってしまいましょう。このホワイトボードに出すことで、個人で抱えていたKとPを、チームのKとPとする訳です。
KeepとProblemが出尽くしたら、それらを一旦チームで共有をした上で、Tryを考えます。Tryを考える際のポイントは、具体的なアクションに落とし込むということです。「○○を気をつける」というようなものはTryとは言えません。

「気をつける」が何故駄目なのか、それは具体的に何をすることなのか、次回のKPTのときに、ちゃんと出来ていたかどうかを判定出来るものでないといけないからです。Tryという位なので、絶対の正解でなくて良いので、仮説となるアクションを決めましょう。

 

ふりかえりの期間と、その効果

ふりかえりは1週間単位くらいで実施していくと良いでしょう。初めてのふりかえりでは、前回のTryもなく、これまでの歴史もありますから、長くなると思いますが、1週間単位が定着すると、短い時間でできるようになります。

ふりかえりを継続的に進めていくと、徐々にふりかえりの仕方自体もうまくなっていきます。先週よりも今週、今週よりも来週と、段々と良くしていく訳です。
ふりかえりは一人でやっても効果はありますが、チームでやるとより一層良いでしょう。個々人が自分の内面に持っていた「良かったこと」「悪かったこと」を、メンバーと共有して、一緒に「次に試すこと」を考えるというのは、チーム作りに役に立ちます。

一緒にチームを改善するためのアイデアを考えることを続けていくことで、メンバー同士が一つのチームになっていく感覚を持つことができます。
また、もしチームにカルチャーがあるとして、新しく入ったメンバーがいたとしたら、そのメンバーにカルチャーを伝える最も効果的な方法が「ふりかえり」になるのではないか、と考えています。

 

ふりかえりの「習慣化」から「日常化」を目指す

ふりかえりをずっと続けていくと、チームには自分たちで現場を改善していくのだという意識が芽生えます。そうなると、自らふりかえりを行い、そしてまた改善を重ねていくことが出来るようになります。

定期的な「ふりかえり」を習慣にする。これが目指す第1段階です。
次の段階になると、ふりかえりそのものが当たり前になって、日々の仕事の中で出来るようになってきます。普段の仕事の中で、何かした時に自然と少しずつ、ふりかえりをしていきます。それが出来ると、週に一度のふりかえりはいらなくなります。

わざわざ、週に一度のタイミングまで待つ必要はないですし、日々の中で出来ていれば、KPTをしても何も出てこなくなるでしょう。そのように、「ふりかえり」を日常のことにしてしまうのが、第2段階です。
このように、それまでイベントごととしてやっていた「ふりかえり」が、日常の習慣になってしまうことも、「ふりかえり」をする効果です。私たちでは、こうした「習慣化」や「日常化」のための手段として、「小口化」というコンセプトをもってやっています。
ソニックガーデンでは、普段はイベントとしてのふりかえりはしていません。小口化されていて、誰もがあたりまえに日常的にふりかえりをしているからです。

しかし、中途入社した社員にはメンターがついて、イベントとしてのふりかえりを定期的に実施します。習慣化されて日常的にふりかえりが出来るようになるまで続きます。ソニックガーデンではルールなどはありませんが、ふりかえりをするということが、守破離の守です。
ふりかえりをすることで、人もチームも成長できます。ふりかえりを身につけた人やチームは、自律的に成長していくことが出来るでしょう。成長がない仕事を続けるというのは、一生同じ仕事を続けるということになります。ふりかえりをして、少しずつでも成長していけると良いですね。

 

 

おまけ:ふりかえりで起こる、よくある問題

ふりかえりを始めて、慣れないうちはいくつか問題が出てきます。そして問題のあるふりかえりでは、だいたい似たような悩みを抱えているものです。おまけとして、よくある問題をケース毎に紹介するとともに、対応方法を考えてみます。

 

「Keepが出てこない」

自分たちのプロジェクトに良いところなんてなくて、問題だらけだという訳です。理想が高いのかもしれませんし、非常にストイックなのかもしれません。しかし、前回のふりかえりよりもよくなった点が出てこないとしたら、非常にまずいです。

そもそも前回のふりかえりで出たTryが全てうまくいかなかったということであれば、Tryの出し方もまずかったことになります。そこから改善するようにしましょう。

 

「Problemが悩み相談」

Problemを出すときに、ただ悩んでいることを出しても、Tryは出せません。実際に起きてもいない問題を心配するようなことは必要ありません。起きてしまった問題を「悪かったこと」として出すと良いでしょう。

 

「Tryが具体的でない」

Tryを考えるときに、「気持ち」を出してしまうのはNGです。気持ちでは、次に何をすれば良いかわからないですし、なによりも、次のKPTのふりかえりをするときに、出来ていたか出来ていなかったかを明確に判定することができません。

Tryは、「試してみること」なので、それが必ずしも正解でなくても良いのです。次のふりかえりまでに試してみることで、良いものであれば続ければ良いし、駄目であれば変えれば良いのです。そのためには具体的なアクションである必要があります。

 

「生産性を問いつめる」

Problemを出したときに、よくあるのが「間に合わなかった」「残業してしまった」みたいなものです。それ自体は起きてしまった問題だから良いでしょう。しかし、そのときに考えるTryで、生産性を問いつめてはいけません。

もし本人が精一杯がんばった結果として間に合わなかったのだったとしたら、さぼっている訳ではないので、それ以上の劇的な生産性の向上はないでしょう。時間をかけて生産性を高めるしかありません。本人の努力以外の改善案を考えましょう。
また、似たような話で「見積もりが甘かった」もNGです。見積もりはそもそも外れるものです。「見積もりが甘い」という問題にしてしまうと、バッファを積むしかなくなってしまい、その先に待ってるのは泥沼です。

 

「進捗会議になってしまう」

ふりかえりをやってるはずが、ひとりひとりが進捗状況と業務上の課題を報告する進捗会議になってしまっていることもあります。しかし、ふりかえりは、「どんな意識で仕事に取り組んでいるか」「どうすれば効率的に仕事ができるか」といった仕事の進め方について話し合う場です。進捗会議は別にやりましょう。
また、ついついProblemを見て、リーダーが説教に入ってしまうことがありますが、それもよくないです。ふりかえりで目指したいのは、自らふりかえりを行い、自ら改善していくという意識を持たせることです。説教をして正解を教えてしまうと、自分たちで考えなくなってしまうでしょう。

倉貫 義人

株式会社ソニックガーデン代表取締役社長。経営を通じた自身の体験と思考をログとして残しています。「こんな経営もあるんだ」と、新たな視点を得てもらえるとうれしいです。

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