売上目標をなくしてもうまくいく? 〜 案件よりも人を優先する経営哲学

売上目標をなくしてもうまくいく? 〜 案件よりも人を優先する経営哲学

2014年7月からソニックガーデン4期目に入りました。支えてくださる皆さまのおかげです。本当にありがとうございます。今後ともよろしくお願いします。Facebookでの私の挨拶全文は以下よりご覧ください。

よくこうした挨拶では「過去何%アップしました」「今期の売上目標はxxです」みたいな数字での成果や売上目標に言及することがよくありますが、あえて私たちはそういったことには触れていません。実際のところで言えば、毎年おかげさまで黒字で過ごしていますし、少しずつですが成長もしていますが、そういった数字をそこまで重視していないからです。

なぜならば私たちソニックガーデンでは、数字よりも大事にしている価値観があるからです。それは、何においても”人”を優先するというカルチャーです。この記事では、私たちの考える「社員優先」の経営哲学について書きました。

案件よりも人ありき

案件や仕事があって、それを実行するために社員がいるという考えかたが一般的な会社の姿かもしれません。しかし、私たちの場合は、それとは逆に、働いてくれる人がいるから仕事をするというような考えかたをしています。にわとりたまごの話のようですが、どちらが先か、ということです。

従来のシステム開発の世界だと、大きな案件をすることがチャレンジで、会社の売上にもインパクトのある仕事になるので、自社の社員だけでこなせない大きな案件が取れるとしたら、それにあわせて人を調達するようなことをしたりします。それが案件ありきの経営の仕方です。

案件ありきで人を集めると、結局うまくいかなくなることが多いと感じています。急募で集めると、本当の実力もわからずに採用することになるかもしれないし、チームワークを築く時間もありません。急募で集めた人とは、そもそも本当に一緒に働きたい人だったのか、仕事があるから一緒に働いているのか、わかりません。できれば、一緒に働きたいと思える人と働きたいですよね。

私たちソニックガーデンでは、一人の社員を採用するのに平均して半年ほどかけてお互いに検討します。ジョインしてからも実際に案件に携われるまでに3ヶ月くらいかかったりします。とても慎重に採用と教育を行っています。そうすると、急に沢山の仕事の依頼があったところで対応することは難しくなります。

特に私たちのやっている「納品のない受託開発」では、クライアントの顧問として担当する仕事の仕方をするので、受けられる仕事の数には限度があります。クライアントと長い関係を築くことを目指すので、次々と新しい案件をしていく訳にはいきません。

おかげさまで沢山の引き合いを頂いていますが、社員の数は限られているし、案件を引き受けるために社員を急募するということもしません。なので、本当に申し訳ないことですが、タイミングによっては、お断りすることも、お待ち頂くこともあります。しかし、ここで妥協して急募して人を入れてしまっては、お客さまへの品質という面でも、働く社員同士のカルチャーの面でもよくないということがわかっているので、しないのです。

お客さまが私たちに期待して頂いていることの一つは何かというと、高いホスピタリティを備えた優秀なエンジニアが揃っているということです。そして、私たちの強みの本質とは何かといえば、優れた素養を持つエンジニアを選別し、一流になるまで教育し、エンジニアたちが働きやすい環境やキャリアパスを用意している、ということです。その強みを維持するためには、急募して人を集めるなんてことは出来ないのです。

私たちは、人材の急募はしていませんが、常に募集はしています。ただし本当にいい人が入ってくれるまでは、無理して案件を増やすことをしないで待ちます。いい人が入ってくれて初めて、それにあわせて受ける案件も増やします。必ず働く人が先ということなのです。

売上目標なんてなくていい

ソフトウェア開発のビジネスでは、コストのほとんどを人件費が占めます。その他の経費は人件費に比べたら誤差の範囲になります。他の業種に比べて設備にかかる先行投資が必要ないため、返済のキャッシュフローをまわすために無理して人を増やす必要もありません。だから、人ありきの方針をとることができるし、そうすべきなんだと考えています。

しかし、これも一般的な話になりますが、普通は目標の数字が与えられていて、それを実現するためには案件を採ることから考えざるを得ないのだ、ということもあるでしょう。確かにそうです。売上目標のような数字があれば、それを実現するためには、まずは案件の数から考えてしまうでしょう。

実は、私たちソニックガーデンでは、営業目標や売上目標のような明確な数字の目標はありません。「今期の目標としてxx億を目指そう」なんてことは言わずに、皆で出来る範囲で頑張って、その結果を皆で享受しようという考えかたでいます。

営業目標や売上目標がなくて、社員が頑張れるのか?と心配されるかもしれません。しかし、小さな会社では当たり前のことですが自分たちが頑張らないと自分たちの給料が出なくなってしまいます。何百人、何千人と社員がいれば、自分が働いて稼いだお金が、自分の給料になっているとは思いにくいところはあるかもしれませんが、小さな会社ではそんなことはありません。各自が自分の責任を果たさなければ、お互いに迷惑をかけることになってしまうのです。

そもそも「納品のない受託開発」に携わるエンジニアは、直接の営業やマーケティングをしている訳ではないので、売上の数字は自分のコントロールできる範囲を超えています。「納品のない受託開発」でエンジニアにとって目指すことは、お客さまとの長いお付き合いです。関係が長く続けば続くほど安定しますし、新規獲得のコストもかけずに済みます。大事なことは技術を磨き、良いパフォーマンスを発揮して、お客さまに満足して頂くことになります。数字ではないのです。

なにより数字の目標を先にもってくると、数字だけを追いかけることになってしまいがちです。見るべきなのは数字ではなく、お客さまです。私たちソニックガーデンでの商売の哲学として「お客さまを財布として見ない」という言葉があります。数字に追い立てられてしまうと、数字を達成するために、どうやってお客さまからお金を引っ張ってくるか、というような考えになってしまうことも少なくないのではないでしょうか。しかし、それではお客さまとの長期的な関係は築けません。

「納品のない受託開発」では、月額定額にすることで自らそこに縛りを入れています。月々に頂く金額が決まっているので、エンジニアはお金のことは心配せずに、ベストを尽くすことが出来ます。お客さまに喜んで頂けることに最大限の力を発揮できる環境は嬉しいものです。そうして、しっかり継続させていくことが出来れば、それが会社の売上に直結し、働く自分たちの給料になるわけです。とてもシンプルだと思いませんか。

なぜ出来るのか

売上目標もなく、人が入るまで仕事を拡大していかないなんてことが、どうやって実現できるのでしょうか。3つ理由があります。まずは小さな会社だからということ、次に「納品のない受託開発」というビジネスモデル、そして、私たちの会社がプライベートカンパニーだからということです。

社員の数が少ないので、自分たちの給料は自分たちで稼ぐんだという気持ちは強くなります。ただ、小さな会社であっても、社員が「仕事をすれば給料はもらえる」という意識でいるとそううまくはいかないかもしれません。自分で稼ぐ意識を高めるために、私たちは毎月のお客さまへの請求書の内容確認は、担当しているエンジニア自身が行います。また、社内の数字は各自の給与額以外はすべてオープンにして共有しています。そうすることで自分たちが何をすべきなのか見えてきます。

また、それぞれの仕事がどうすれば会社の売上に繋がるのかということを共有していなければいけないでしょう。そのためにもビジネスモデルがハッキリしていることは大事なことだと思います。そして「納品のない受託開発」というビジネスモデルでは、大きな案件で一時的な大儲けができるものではない代わりに、継続的にキャッシュフローのまわりやすいスタイルであるため、人ありきで案件を始めることができるのです。それは人数に応じたストック型のビジネスなので、期のはじめに期末の数字がだいたい見えています。野心のある経営者からすると面白味はないかもしれませんが、私は良いと思っています。

そして、最後のプライベートカンパニーという点こそが一番の肝かもしれません。私たちソニックガーデンの株主は、社長である私と副社長だけです。投資が入っている訳でもないので、誰かに急成長を強制されることがなく、自分たちの考えで成長のスピードをコントロールすることが出来ます。

そうすると、「スケールしなくて良いのか?」「大きくしたくないのか?」ということを良く聞かれますが、もちろん、多くのお客さまを助けたいし、会社も成長していって欲しいです。ですが、それによって品質が下がってしまうとしたら、結局はお客さまに迷惑をかけることになってしまいます。また、社員にとっても、信頼のおける仲間と楽しく働けるというカルチャーを失うとしたら、本末転倒です。もちろん、早い速度で成長しつつ、様々なものごとを破綻しないで済むような方策は今後も考えていきますが、今はまだ至っていません。

ただ本当に会社を大きくしていかなければいけないのか、そのことは常に考えていきたいところです。その価値観によって働きかたは大きく変わってきます。大きくすることが社長のエゴや野心ではうまくいかないのは明白です。「雇用の創出」なんて言葉も理由にはならないでしょう。会社を大きくすること、経済を拡大していくことも大変に意義のあることではありますが、これからの時代において、本当にそれだけで多くの人が幸せになれるのか疑問です。

ただ会社を大きくするのではなく、「働いている人たちが幸せになれること」そして「お客さまと長いお付き合いでお役に立てること」を実現できることが、これからの会社の成功の姿ではないでしょうか。私の考える「良い会社」は、お客さまと働く社員の双方が幸せであることが条件だと思っています。その上で、社会に貢献していければ尚よしかもしれませんが、お客さまと働く社員の幸せがなくては話になりません。

いくら大義のためといって個人を犠牲にするなんてことはありえないし、なにも一つの会社だけが大きくなる必要もありません。今の時代、なんでもアウトソースできるし、企業同士もコラボレーションして事業はやっていけるので、本当に一緒にやっていきたい会社の仲間は、共通のビジョンを持った人だけで良いのではないでしょうか。

こうした考えは一つの価値観です。これで全てだとは思っていません。世の中には沢山の会社があって、それぞれの会社には、それぞれの価値観があります。私は私の価値観をこのブログを通じて伝えるようにしています。会社の中は近い価値観の人たちで集まる方が幸せで、社会の中には様々な価値観をもった会社が沢山あって自分にあった価値観の会社を選べることが幸せだと思います。

優れたエンジニアになればなるほど、その自分で選べる選択肢は広がっていきます。そうした中でも、私たちと一緒に働くことを選んでくれた、ソニックガーデンのメンバーには本当に感謝しています。そう思うと、社員を大事にするというのは当たり前のことですよね。

倉貫 義人

株式会社ソニックガーデン代表取締役社長。経営を通じた自身の体験と思考をログとして残しています。「こんな経営もあるんだ」と、新たな視点を得てもらえるとうれしいです。

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