kuranuki: 2012年1月アーカイブ

ソフトウェア開発にはどんな役割が必要だろうか。よくあるウォーターフォールの世界では「要件定義」「基本設計(外部設計)」「詳細設計(内部設計)」「実装」などといった名前で工程を分けることで役割を分けています。アジャイル開発のスクラムでは「プロダクトオーナー」「スクラムマスター」「チーム」といった名前で分けています。役割の名前が違えば、ソフトウェアのつくり方が違うかというと、そうではなくて「やるべきこと」は同じだと考えています。

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ソフトウェアをつくる上で「やるべきこと」は何か

ソフトウェアをつくる上で「やるべきこと」は何かをざっくりと分けてみます。

最初に、どんな困った問題を解決したいか、どんなことを便利にしたいか、といった根源的なことが思いつきます。次に、どうやって解決するか、何をつくれば良いか、というアプローチを考えます。そして、それを実際に動くようにプログラミングしていく訳です。

一人でつくる場合も、大勢でつくる場合も、実際はもっと色々あるかもしれませんが、ざっくり考えるとこんな感じで3つに分けることができます。

実際に作っていくとわかりますが、アプローチを考えることとプログラミングしていくことは一方通行ではなく、行ったり来たりで実現していくのが最も効率が良いやり方で、それはアジャイルと呼ばれています。


アジャイル開発に「外部設計」はあるのか

アジャイル開発で「外部設計」がないと思ってるなら間違いだ。「外部設計」はフェーズの名前ではなく「何を作るか」を決める役割のことだと思えば、モノ作りには必要なものだとわかる。 https://twitter.com/#!/kuranuki/status/162184317823496192

アジャイル開発では、少人数のチームで「多能工」という考えかたのもとで、一人のプログラマが多くの役割をもちます。そして、工程を分けること無く、実際に動くソフトウェアを中心に開発を進めていきます。

ではアジャイル開発で、ウォーターフォールでいう「外部設計」は無いのかというと、そんなことはありません。「外部設計」という「期間」は無いですが、「外部設計」に相当する「役割」は存在します。

「外部設計」とは「何を作るか」を決めることです。例えば、ある機能を追加しようとしたときに、どんな画面遷移をするとか、画面の中の配置はどうするとか、つまり、「プログラムをどう作れば良いか」を決めることです。それがないとモノ作りはできません。

プログラムがどのように動作すれば正しいか、を示したそれを「仕様」と呼びます。「仕様」は必ず必要ですが、それが「ドキュメント」でなければいけないかというと、また別の話です。SonicGardenの開発スタイルでは、ドキュメント化までしないで以下のようなホワイトボードで「仕様」を共有しています。この後、Pivotal Trackerにチケット化し、すぐにプログラミングに入ります。

スクラムでいうプロダクトオーナーの大きな役割の一つが、この仕様を決めることで、すなわち正解を決めることで、それはとてつもなく大変なことです。なぜなら正解と言ってもビジネス的な観点から本当の正解かどうかはわかりません。そんな中で決断をしなければいけないのは大変な訳ですが、アジャイルであれば、もし正解でなかったら直せば良いのです。

アジャイル開発が変化するビジネスに対応できるというのは、こういうことなのです。


「要件定義」とは何だったのか?

どんな問題を解決するのか、ビジョンやゴールを決める役割ですよね。「目的設定」って感じですか。 RT @toshi_yoshimoto: ちなみにウォーターフォールにおける「要件定義」は、どんな言葉がいいでしょう? RT @kuranuki: 「外部設計」って言葉がよくないよな。 https://twitter.com/#!/kuranuki/status/162303438758219776

ウォーターフォールには「要件定義」という工程があります。それに対応する言葉があるか、というご質問に上記のように答えましたが、その後少し考えて、違うのかもしれないと思ってきました。

「要件定義」という工程は、誰のためのものだったのか、本当にソフトウェアを作る上で必要な工程なのか、常識を捨てて論理的に考えてみました。

そのソフトウェアで、どんな問題を解決するのか、どんなことを便利にする機能を作るべきか、というのは、「外部設計」で仕様を決める前に必要です。目指すゴールや、つくったソフトウェアによってなしえるビジョンを決めることと、どんな機能を作るのかを決めることが必要な「役割」です。

それを「要件定義」と呼ぶかというと違和感があります。実は「要件定義」なんてのは、一括発注で請け負いたいシステムインテグレーター(SIer)側だけの理屈ではないか、と考えています。そもそも、全ての要件を「定義」しようとするものではないのではないでしょうか。

どんな機能が必要かなんてことは、ソフトウェアを使うユーザがいる限り変わってくるし、立ち上げのタイミングか拡大のタイミングかなどのビジネスの状況によって変わってくるはずです。一度で決まるものではなく、少しずつ決めていくものです。

リーンスタートアップで言う「顧客開発」をするのは、この役割の一環です。顧客からのフィードバックを受けながら、必要な機能は何かを変えていきます。よくいうピボットするというのはこの役割の中でのことです。それ以外の変更はただの試行錯誤です。

ソフトウェアを作るためには、「仕様を決めること」「プログラミング」の他に、顧客(ターゲット)は誰かを考えて、ビジネスプランを検討し、そして出来たソフトウェアをプロモーションするという役割が必要です。それは「マーケティング」そのものです。

よって「要件定義」なんてものはなく、マーケティングがあって、それを推進するのはビジネスオーナーと呼ばれる役割だと考えています。

スタートアップするには、ハスラーとハッカーとデザイナーの3人いると良いといいます。つまり、それはこの3つの役割に相当するのです。

アジャイルの文脈であれば、下の2つの役割の中での話で、リーンスタートアップの文脈であれば、それにビジネスオーナーの役割を加えた話であることがわかります。これらを工程の期間で分けるのではなく、役割分担の中で渾然一体となって進めていくことで、ビジネスを成功させる確率を高めるように思います。


SonicGardenの「納品のない受託」ソフトウェアパートナーシップモデルでは、ビジネスオーナー向けプランとプロダクトオーナー向けプランの2種類を用意しています。くわしくはお問い合わせください。


あわせて読むと良いかも:プログラマと漫画家〜「何を作る」のか考えたいプログラマと「どう作る」を追求するプログラマ


Twitterでの質疑応答を追記しました


本書は、シカゴを拠点におき、全世界向けにプロジェクト管理ツールなどのオンラインツールを提供する企業である「37signals」の成功までに至った独自の経営哲学を書いた本です。37signalsは、プログラマだったら誰でも知ってる「Ruby on Rails」の作者であるDHHが所属することでも有名です。

本書は以前に発行された同名の書籍の完全版ということで、イラストなどが入っていますが、内容は基本的に同じです。私自身、以前に発行された本を持っており、既に読んではいたのですが、改めて読み直すきっかけにも良いと思い、今回の完全版を購入しました。数年たって改めて読んで感じたことは、時代が彼らの働きかたに少し追いついてきたように思いました。



37signalsは、私たちSonicGardenにとってベンチマークにしている会社のひとつです。だからこそ、本書「小さなチーム、大きな仕事」と、Webでも公開されている「Getting Real」は、バイブルのようなものとして全員で読み込んでいます。今回、完全版が出たのを機に、改めて社員のみんなに読んでもらおうと思っています。もはや「本書に共感できること」をSonicGardenの募集要項にいれたいくらいだし、もし本書を読んで気に入ったと言ってる人とは、すぐに仲良くなれるような気がします。

37signalsの哲学は帯に書かれていますが「会社は小さく。」「失敗から学ぶな。」「五時には帰宅。」「けんかを売れ。」など、一見すると突拍子も無いことのように思ってしまいます。しかし、本書を読み進めていくと、それらは単なる思いつきによる奇抜さではなく、徹底的なロジカルでシンプルな思考に裏付けられたものだと気付かされます。

チャレンジをする人は少なからず常識から外れたことをしなければいけない場面が出てきます。そうした人にとって、本書は世間一般の常識とは違ったとしても十分に成功することが可能だと勇気をくれる筈です。

この本の良いところ、私の気に入っているところは、評論家による後付けの理屈や理論ではなく、彼ら自身が実践していることを、自分たちの生の言葉で書かれているところです。本書を読んでいくと「自分だったらどうする」「どうすれば彼らのように出来るか」「彼らの間違いは何か」といった形で、脳を非常に刺激してくれます。

ここで得た「ひらめき」があり「情熱」が湧いたなら、今すぐ動き出しましょう。思うだけでは何も変わらないのです。彼らの言葉を使うと「Get Real(形にしてみよう!)」なんです。


以降は、私が読んでポイントだと思ったところです。

見直す

この章では、様々なビジネスで常識だと思われていたことを見直すきっかけを与えてくれます。なぜ計画をしなければいけないのか。なぜ会社は大きくしなければいけないのか。なぜたくさん働かなければいけないのか。当たり前だと思われている、これらのことに答えを持っている人は多くはいないでしょう。

これはきっかけです。見直す第一歩は疑問に思うことです。今までの慣習に疑問を持つことから始めてみましょう。

P.22 計画ではなく実状にあわせて予想と呼んだらどうだろう。(中略)予想を計画に変えたとたん、危険な領域に入り込むことになる。計画は、過去に未来の操縦をさせる。目隠しをするのと同じだ。
P.26 小さなビジネスを目指すことに不安を抱かなくていい。持続的で、利益の出るビジネスを行っていれば、それが大きかろうと小さかろうと誇るべきことなのだ。


先に進む

この章では、新しくビジネスを始めることを決意したときに、先に進めるために必要なものと必要でないものについて教えてくれます。必要なことは、何か重要なことをする意思、自分たちに必要なものを作ること、アイデアだけでなく作り始めること、少しずつの時間を見つけること、自分だけの信念を持つこと。

本当に大事なことは、資金でも時間でもなく人でもなく、現実のビジネスを実際に進めていくことから始まります。

P.35 これは人生の仕事なのだ。どこにでもあるような製品をもう一つ作りたいのか、それとも革命を起こしたいのか。(中略)自分の見たかった変化を他の誰かが起こすのをまっていてはいけない。
P.60 ビジネスに対して「利益を上げる方法は将来みつける」なんて態度をとる人は話にならない。(中略)利益にいたる方針のないものはビジネスとは言わない。それは趣味だ。

進展

大量の資金や人、時間や人脈などが無ければ成功しないという思い込みをなくし、今あるカードの中でどう進めれば良いか、何をやって、何をやめれば良いのかの指針をこの章では学ぶことができます。全体像を捉えるところから始め、すべてを詳細に考え作り上げようとせず、何をしないかの決断を繰り返す。

本質を掴むことは、流行りのテクニックやツールを使うことよりも大事なことであり、自分自身の本質は何かを考えるべきです。

P.74 芯の部分を見つけるには、「もしこれを手放しても、自分が売るものはまだ残っているか?」と自身に問いかけることだ。
p.79 できるだけ「これについて考えよう」ではなく「これについて決断を下そう」と思うことだ。決断する姿勢を持つことだ。完璧な解決を待たず、決断して前進するのだ。

生産性

この章では、生産性を上げるための方法、生産性を下げないための方法、そして何よりも、生産性とは一体何かを見直すきっかけを与えてくれます。やみくもに沢山のことをしたからといってそれは生産性が高いとはいえないのです。しなくていいのは何か、どの程度で良しとするのか、考える必要があります。

生産性をあげるポイントは、少しずつ見える範囲の目標の中で、一時的に頑張るのではなく、こつこつと進めることなんでしょう。

p.106 思い切って行動に踏み切る前にあなたが行おうとしていることの本当の価値を定めよう。(中略)すでに多くの労力を費やしていたとしても取り組んでいることを中止にするのが正しいこともある。
p.134 優先順位付けについてアドバイス。数字やラベルで優先順位を付けてはいけない。(中略)視覚的に優先順位を付ける。最も重要なことを一番上に配置する。次に重要なことはその下。こうすれば、最も重要なことは一度に一つだけだ。

競合相手

ビジネスである以上、競合相手は必ず存在します。競合との差別化をどうするか、競合を真似ることの無意味さ、競合にけんかを売ることで立場をはっきりさせること、などを学べます。しかし、本当の見直しは、競合との戦いを気にする必要がない、ということです。大事なことは自分たちのビジネスがどう成立するか、なのです。

p.153 あなたが他の人たちとただ同じようになるのであれば、なぜあなたは別にやる必要があるだろう?(中略)単に他を真似るのではなく、あなたが信じていることで戦うほうが良いのだ。

進化

この章では、製品やサービスを進化させるにあたって、顧客の声か自分の考えか、どちらを優先すべきかを学ぶことができます。常識的に考えれば、顧客の声を聞かないことはありえないですが、まずは否定することを考えます。それは自分自身のアイデアにさえ否定するのです。まずは否定することから、何を実現すべきかが見えてくるのです。

p.157 あなたのゴールは製品があなたにとって正しいものであり続けることだ。誰よりもあなたがそれを信じなくてはいけない。

プロモーション

制約の中でプロモーションを行い、自分たちと製品を知ってもらうにはどうすれば良いか、学ぶことができます。資金がなくても、自分たちが学んだことや舞台裏を見せていくことで、自分たち自身の魅力を知ってもらうという方法です。

自分たちのビジネスにとって、誰にどのように知られることが大事かを理解していなければ、大手メディアに載るにはどうすれば良いかなんてことに苦心してしまうし、きっとそれは無駄なことでしょう。

p.193 マーケティングは、会社の皆が行うものである。三六五日、二四時間いつでも。(中略)マーケティングは独立した出来事ではなく、日々やっているすべてのことの集まりなのだ。

人を雇う

組織を小さいままにする37signalsの真骨頂は、人の雇用についての哲学にあります。人が足りなそうだからといってすぐに雇うのではなく、まずは自分たち自身でやってみる。やってみることで学びがあり、人をどう雇えば良いかわかるようになるのです。

急激な人の増加をよしとせず、採用するにあたっても履歴書や経験年数、学歴などをみるのではなく、自ら仕事を見つけて働けるような人材を、必要であれば世界中で採用しようとしています。

ダメージ・コントロール

ビジネスを進めると問題の一つや二つ出てきます。そうしたときにどう対処すべきかを知ることができます。ここでも一般的な大企業がやるべきと思われていることを、本当に小さなチームがすべきなのか、見直しをしています。

p.238 顧客と社員の間に人が多いほど、顧客の声は歪んだり失われたりしていく。チーム全員が顧客とかかわりをもたなければならない。(中略)製品を作る者を顧客のフィードバックからかばってはいけない。直接の批判はみんなで受け取ろう。

文化

チームの文化とはそもそも、作り上げるものではなく、自然と出来るものであるという見直しが出来ます。文化は、そのチームが選んできた選択やルールなどから生まれてきます。37signalsがどうやってその文化を産み出してきたのか、この章では知ることができます。

p.249 人を子供扱いすれば、子供のような仕事しかしない。これが多くの会社、多くの管理職の人の扱い方だ。(中略)何にでも許可を必要とする環境は「何も自分で考えない文化」をつくる。

目次 こちらから引用

  • まず最初に
  • 見直す
  • 先に進む
  • 進展
  • 生産性
  • 競合相手
  • 進化
  • プロモーション
  • 人を雇う
  • ダメージ・コントロール
  • 文化
  • 最後に
  • 37シグナルズについて

人数の少ないベンチャーや小さな会社では、仕事の「かけもち」はよく発生します。SonicGardenでも同様です。SonicGardenでプログラマは、お客様との要求開発からデータベースや画面の設計、プログラミングからクラウドでの運用、サポートなどもします。それだけでなく、会社の経営上の必要なことであれば、割となんでもしますし、案件の掛け持ちも普通にあります。

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一般的には、掛け持ちや兼務は効率を落とすため悪いことだと思われていますが、私は組織にとって逆に良いことではないか、と思うようになりました。確かに、効率だけを考えたら一つの仕事だけに専任することの方が良さそうに思えます。実際に、それなりの組織になると総務や経理といった部門に分けますし、もっと大きな会社になれば人事部門、企画部門などより専門性をもった細かな部署に分かれるようになります。

しかし、そうした専門部署が会社を悪くする原因の一つではないか、と思うのです。


専門部署が無駄を生む

役割分担のしっかりした組織では、忙しそうに見えて実は暇な社員が沢山いるんです。細分化された役割と目標の中で、もし早く仕事が終わってしまったとしたらどうするか?その役割を超えて別の何かをする訳ではなく、その役割の中で品質を高めようと努力してしまうんです。世の中の仕事の大半は、80%程度の品質で済んでしまうはずですが、それ以上の品質向上を目指すのはかけるコストに対して見合う成果としては非常に小さいです。

もしExcelの見栄えを直したり、印刷物をキレイに出そうとしてる人がいたら、それは暇な人です。

実は、ソフトウェア開発でよくある「人月」の契約でも、それが起きがちなんじゃないかと思っています。発注側の意識というよりも、受注側は人数分のコストを受け取ってしまったら、他にすることもないので、それだけに専念しすぎてしまって、無駄に綺麗な仕様書とかに拘ってしまうのです。

かけもちせずに一つの役割だけでお金をもらってしまうと、それに依存せざるを得ないため、本末転倒することがおきてしまうことがあります。政治家が掛け持ちできずに選挙に当選することが仕事だと思ってしまう政治屋になるという話もよく聞きます。大企業だと、品質管理部やセキュリティ監査部といった部署がありますが、その部署の人たちにとって「取り締まること」が仕事になると、会社のパフォーマンスを落としかねなくなります。

この問題は、専門部署の人たちが真面目であればあるほど、その役割を全うしようとし過ぎて起きてしまうのです。


掛け持ちが助け合いをうむ

人がいないために、やむなく仕事のかけもちをやったりしますが、そうすると自分の役割を超えた視点を持つようになります。もちろん本業があってのことですが、組織全体のゴールは何かを常に考えていなければいけないので、お互いに助け合うようになります。それぞれの人にとって好き嫌いや得意不得意があるので、適材適所に人を配置することは大事ですが、一つだけの役割で業務分掌を決めずに、なんでもするというスタンスが助け合いの文化をつくります。

掛け持ちすると、とても忙しくなります。そこで100%の品質や成果を求めるのではなく、組織のゴールが明確に共有されてさえいれば、しなくて良いことも沢山みえてくるんです。掛け持ちしてると無駄なことをしてる余裕がなくなるんです。キレイなExcelとか用意してる暇なんて無い。大事なポイントは、すべてを100%にしないという割り切りを全員に浸透させることです。

100%を超えた掛け持ちは、ただのブラック企業の過労働になってしまいます。

また、一人に一つの役割だけしか持たないとなると、個人の目標も一つになってしまって、それに賭けるしか無いということが起きます。それが本人の頑張りだけで何とかなるのであれば良いのですが、世の中そうはいきません。掛け持ちしてれば、一つ駄目だったとしても、もう一つの方で頑張れば良いんだという気持ちも起きたりするので、精神的にも良いんじゃないかと思います。


トータルフットボールが出来るチームへ

私は、サッカーでいう「トータルフットボール」という戦術が好きで、チームとして理想的だと考えています。「全員攻撃・全員守備」の意識で、ポジションはあるにしても、ゴールのためにはお互いに遠慮しあわない。トータルフットボールは「選手一人一人が同じくらい高い技術と戦術眼を併せ持ち、なおかつかなりのスタミナが必要」ということですが、むしろ、社員にはそんな風に育ってほしいと思うし、そういうチームを目指したいと思うのです。

本書は、日本ではあまり有名でないグレイトフル・デッドという1960年代にアメリカ西海岸でうまれ、ビートルズやストーンズよりも大きな市場を作ったというバンドの活動を通じて、最新のマーケティングを学ぼうというビジネス書です。

TwitterやFacebookで話題になっていたので興味は持っていたのですが、またイロモノなのかなぁと敬遠してましたが、違ってました。割と硬派な内容で、無理矢理こじつけた訳でなく、ちゃんとしたマーケティングの本でした。

しかも、フリーミアムやバイラルなどといった最近のウェブ界隈で行われている最先端のマーケティングをインターネットの無い時代にやっていたという話で、グレイトフル・デッドの活動を紹介すると共に、事例としてDropboxや、Yコンビネーター、Google、MySQL、Mashable、Amazonなどの話が出てきます。ここに並んでいる名前を見ているだけで読みたくなりますよね。



本書で紹介されているマーケティングは、実際はこうだったら良いのになぁと思ってしまうようなマーケティングを実際にやってみた様子が紹介されています。これまでのマーケティングの常識に従っていたら出来ないことをやってのける彼らにしびれます。

本書には共感出来るところが沢山ありましたが、中でも私がぐっときたところから、学んだことを幾つか残しておきます。


1章 ユニークなビジネスモデルをつくろう

p.62「グレイトフル・デッドは、ビジネスモデルの革新が、製品の革新と同じかそれ以上に重要であることを教えてくれる。」

彼らは、業界の常識だったアルバム販売による売上を目指すのではなく、ライブから収入を得ることに全力を注ぐというビジネスモデルの転換をしたそうです。それによって、新たな「ファン体験」を生み出すことができ、ライバルとの差別化だけでなく、バンドとファンの両方が連鎖的に恩恵をうけることが出来るようになった、と。

ここから学べることは、業界の常識に闇雲に従うのではなく、自社と顧客にとって本当の利益は何かを考え、それを実行に移すということだと思います。


4章 ありのままの自分でいよう

p.92「ファンは、グレイトフル・デッドの"偽りのない本物らしさ"に親しみを覚えた」

勘違いしがちだけど、企業としての活動は「ちゃんと」してないといけないと思い込んでるところがある。プレスリリースや広報などは特に。しかし、ちゃんとすればするほど個性がなくなってしまうのも確かで、そうでなくて自分たち自身の個性を出して良いんだということを教えてくれました。


5章 「実験」を繰り返す

p.104「グレイトフル・デッドは、リスクを取り、新しいことに挑み、失敗と成功から学び、全身し続けることを教えてくれる。」

失敗は悪いことではなく、そこから学びとって次に活かせば、それは実験なんだと言うことができる。挑戦を繰り返して、失敗から学んでいかなければ、成功は産まれないという主張は、とても共感できます。見直しのサイクルを短くして、何度も実験をしてみることが大事です。


8章 変わり者でいいじゃないか

p.133「私たちは、ある意味ではみんな変わり者なのだ。賢い会社は、変わり者を理解し、そこから市場を作り出す。」

当たり前だけど、すべての人が同じ嗜好を持つ訳ではなく好き嫌いがあって、全員に好かれるものは作り出せない。変わり者の集まりが市場になることを改めて再確認させてくれます。しかも、このインターネットの時代に本当に変わり者だけを集めたとしても、それなりの市場になるはずです。


12章 中間業者を排除しよう

p.182「グレイトフル・デッドは、自分と顧客との間にある何層もの中間業者を取り去り、顧客を直接取り込むことを教えてくれる。」

直販の方式は、本当に顧客を大事にするのならば、とても重要で、中間業者による付加価値のないマージンを搾取することを防ぐことができます。本当にその中間業者が必要かどうか考え直すべきで、今やインターネットによって様々な中間業者をなくすことが出来る時代になっています。


19章 自分が本当に好きなことをやろう

p.253「グレイトフル・デッドは、自分たちがやっていたことが本当に好きだったのでそれをやり通した。そしてもちろん、結果的に成功した。」

好きなこと、情熱を持てることを仕事にすることが、人生にとって非常に意味のあることだと思わせてくれます。そして、情熱を持って仕事をすることの方が成功する可能性が高くなることを示してくれています。

グレイトフル・デッドほどの成功までいかなくとも、好きなことを仕事にしている方が、きっとうまくいく確率は高くなるだろうし、何よりも、そうして過ごした人生の方がなんと楽しいことだろうか。


目次 こちらから引用



  • 序章 「グレイトフル・デッドのライブほど素晴らしいものはない」

  • PART ONE THE BAND バンド

  • 1章 ユニークなビジネスモデルをつくろう

  • 2章 忘れられない名前をつけよう

  • 3章 バラエティに富んだチームを作ろう

  • 4章 ありのままの自分でいよう

  • 5章 「実験」を繰り返す

  • 6章 新しい技術を取り入れよう

  • 7章 新しいカテゴリーを作ってしまおう

  • PART TWO THE FANS  ファン

  • 8章 変わり者でいいじゃないか

  • 9章 ファンを「冒険の旅」に連れ出そう

  • 10章 最前列の席はファンにあげよう

  • 11章 ファンを増やそう

  • PART THREE THE BUSINESS  ビジネス

  • 12章 中間業者を排除しよう

  • 13章 コンテンツを無料で提供しよう

  • 14章 広まりやすくしよう

  • 15章 フリーから有料のプレミアムへアップグレードしてもらおう

  • 16章 ブランドの管理をゆるくしよう

  • 17章 個人事業者と手を組もう

  • 18章 社会に恩返しをしよう

  • 19章 自分が本当に好きなことをやろう


2011年に起業してから学んだことを改めて思い返しています。まとめると以下のような3つの学びがあったように思います。

  • 人の縁こそビジネスの基本
  • 仕組みや規則はシンプルが一番
  • 変化しないことは現状維持ではない

これらの学びと、その学びから得られた2012年の行動指針について考えました。

船舶用コンパス シンガポールの古物商で購入 その2 - 写真素材
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人の縁こそビジネスの基本

「人との出会いを大事にしましょう」なんて、みんなわかってそうなことですが、会社員をしている頃と起業してからでは、その重みが本当に違うんだと実感しています。会社員の頃は、やはり組織に属していますから、新たな出会いや社外の繋がりがなくとも「ワークする」仕事は沢山ありました。しかし起業してからというと、お客様にしても、パートナーにしても、新たに採用する社員にしても、どれも縁がきっかけで産まれています。

紹介してもらってお仕事を頂いたり、勉強会で出会った人にお仕事をお願いすることになったり。新たな出会いがあることで、思っていた未来から外れることがあるけれど、それが成長の機会だったりします。そのためには、いつもと同じ場所にいたり、同じコミュニティにばかり行っていては駄目だと気付きました。私の2011年は「リーンスタートアップ」というキーワードに惹かれて勉強会やコミュニティに参加したことで、これまでにない人たちとの多くの出会いがありました。

「新しい違うフィールドに出て行く勇気をもつこと」が1つ目の行動指針です。

そして「キープインタッチ(Keep in touch)」も大事です。一度きりの出会いはただのすれ違いに過ぎず、何度か会う機会があってこその「縁」です。これまでだったら勉強会に足繁く通うことで知り合いが出来て縁になっていくこともありましたが、最近はFacebookのおかげで縁が出来やすくなったように思います。自分のことを知ってもらっているというのは、ビジネスをしようとする際にすごいアドバンテージになります。エンタープライズ分野のビジネスでは特に、人と人の繋がりや縁が大事にされますし、これからはより一層そうなっていくのだろうと思っています。

こんな当たり前のことを今更ながら実感していますが、会社の傘から出てみないと気付けなかったことでもあります。改めて多くの出会いと縁に感謝です。


仕組みや規則はシンプルが一番

大きな会社に属していると、そこにある規則や常識が世間一般のものと同じだと思ってしまうことがあります。特によくわからないことや苦手な分野については、既に用意されたルールに従うことは簡単なことなので、つい従ってしまいがちです。起業して自分たちの会社の規則などを決める際も、元々いた会社の規則を参考にすることも考えたのですが、重厚長大すぎると気付いたのでやめました。自分たちの考える会社像やビジネスモデルにあわせて、必要最低限なシンプルなものを作ることにしました。

私たちが会社についての一般常識が少なかったことも幸いしたのかもしれませんが、会社の仕組みを決めていくにあたり、一つ一つどういう意味かを勉強しながら決めていったので、いらないものをなくしてシンプルに出来たのだと思います。そのプロセスを経たことで、これまで常識や制約だと思っていたことは、ただの会社内に限ったルールだったことを思い知りました。勿論、日本の法律から外れることは駄目ですが、それ以外はビジネスの創意工夫として色々するべきです。

起業する前に「社長は会計や資金繰りが大変でやりたかったことが出来なくなるよ」と言われたこともありました。しかし、それは真実ではありませんでした。その人たちが考えるビジネスの常識に過ぎなかったのです。何か新しいことに挑戦しようとするならば、それまでの常識だと思われていたことよりも、自分たちのビジネスについては、自分たちが一番良く知っているので、だいたいにおいて自分たちの頭で考えたことは正しかったことが多いです。

「常識を疑って自分たち自身で考えて行動すること」が2つ目の行動指針です。

慣習や常識に無闇に従うのではなく、自分たちで考えて、自分たちなりの「答え」を持っていることが大事です。会社における決めごとの全てに「何故そうしたのか?」の理由があるべきだと思うようになりました。それが会社内の哲学やポリシーになって社員のみんなに浸透すれば権限委譲も出来るようになります。しかし、その結果として、いつか今の自分たちの中ですら「会社の常識」が出来てしまう時がくる筈で、そうなったときに自分たちで自分たちが作った常識を壊していくという意思を持っていたいと思っています。


変化しないことは現状維持ではない

これも良く言われることで、ただ現状維持をしているつもりで何も変えないで安定して経営をしていくことは、実は現状維持にすらなっていないということがあります。起業したばかりの頃は混沌としていて、安定してるなんてことはなくて色々と考えて変えてくるのが当たり前で、いつかもっと安定させたいと思ったりもしましたが、世の中は自分たちだけでまわっている訳ではないので、そうそう安定するなんてことはないんですよね。

会社員でいたころは、半年や1年といった単位で評価されて、場合によっては組織変更や異動などにより数字がリセットされることもありましたが、起業するとそんなことはなくなります。年度の目標や期ごとの評価も大事ですが、その期間を走りきれば良い訳ではなくて、間違いだと気付いたり、もっと良いアイデアがあったりしたら、どんどん変えていかないといけないし、そうした方がうまくいっているように思います。

会社を経営していくと少しずつ安定しそうになりますが、いつまでも起業したてのような気持ちと状態を維持していけるようにしたいと思っています。そのために、常に会社に新たな変化を持ち込んでいきたいし、既にある仕組みを壊すことができるとしたら、それはトップにしか出来ないことです。「愚者は経験から学び、賢者は歴史から学ぶ」という言葉がありますが、歴史に学びすぎて経験できないなんてことの方が実は愚かで、変化をするためには経験しないとわからないことが多いはずです。

「変化するために新たな経験に投資していくこと」が3つ目の行動指針です。

経営するということは、会社がもつ経営資源をどこに賭けるか(投資するか)を考えることだと思っています。お金を生み出す営業活動や制作といった仕事をすることも大事なことですが、生み出された資源をどう使うかを考えることこそが経営者の仕事になるんだと思います。会社を立ち上げたばかりで大きくないうちは、次の半年や1年先のために何にどれくらい賭けるのかを考えるので精一杯です。しかし、この先経営をつづけていくことで、10年経ったときには、そこから10年先の未来のために賭けれるような会社にしていきたいと考えています。それが会社の成長のような気がします。

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  • 倉貫 義人
  • SonicGarden 代表取締役社長
  • ソニックガーデンの創業者で代表取締役社長。日々アジャイルソフトウェア開発とリーンスタートアップを実践しています。クラウドを活用したワークスタイルの変革を目指しています。「心はプログラマ、仕事は経営者」がモットーです。
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