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第12章 経営者の想像を越え、会社の枠が広がった「業務ハック」の誕生

【連載】ソニックガーデンストーリー 10年分のふりかえり

「納品のない受託開発」を掲げ、フルリモート勤務や管理しない組織など柔軟な働き方を実践するソニックガーデン。
メンバーへの取材をもとにその10年の歩みを追いました。

セキュリティに対する意識の向上、専属チームの発足など新たな動きが起きた2017〜18年。ほぼ時を同じくして、ソニックガーデンの新たな事業となる「業務ハック」も産声をあげました。

とあるメンバーがもたらした“経営者の想像を超える”業務ハックの広がりは、倉貫や藤原に経営のあり方としても新たな気づきを与えていきます。

12-1 タスクをばらす

2016年にプログラミング初心者で入社をした高木は、Railsチュートリアルを通して基礎を学ぶ日々を過ごしていました。ソニックガーデンにとって、プログラミング初心者の育成は未開拓の領域です。安達がメンターのような役割として付き、ふりかえりを行いながら、少しずつ高木の成長を見守っていきます。

「いんてるさん(安達のあだ名)から少しずつタスクをもらって、朝会夕会で進捗を整理して、と細かくふりかえりの機会をもらっていました。一週間に一回はKPTをして、YWTを三ヶ月とか半年に一回程度。今は新卒社員も増えこうしたサイクルの形が整っていますが、おそらく私や先輩の新卒社員の育成過程で構築されていったのだと思います」(高木)

プログラミングについて学びながら、打ち合わせでの議事録、社内イベントの司会などの仕事を通して、修行を重ねていく高木。安達とのふりかえりを重ねるなかで、仕事に対する理解を深めていきます。

「いんてるさんには何度も、『この仕事のゴールのイメージついてる?』と聞かれたのを覚えています。新人の頃は、言われた仕事がどれくらい作業量や時間が必要なのか見当がつかないですよね。だからこそ目の前にある仕事を、細かいタスクにバラしていくことで、いつ、何をすればいいかを明確にする必要があります。ここまで考えることで、はじめて仕事を進めるイメージが持てる。いんてるさんは、プログラミングスキルに加えて、こうしたタスクとの向かい方も教えようとしてくれてたんだと思います」(高木)

1年、2年と少しずつプログラミングを学びながら、納品のない受託開発を進めるうえでも重要なタスクマネジメントの力も身につけていった高木。社内ツールをはじめ、少しずつ開発にも携わるようになっていきます。

12-2 業務ハック

高木が懸命に修行していた2017年ごろ、ソニックガーデンのもとに少し変わった相談が舞い込んできました。とある中小企業が、社内業務の効率化のために、業務システムを構築したいという内容でした。

「それまでは、納品のない受託開発=新規事業だったので、また違う角度の相談がきたな、と思いました。藤原が窓口でいろいろ話を聞いていたのですが、どうもRailsを使って開発するほどの規模でもない。じゃあ、それまでもときどき扱っていたkintoneを使ってみてはどうか、と試しに提案して進めていったんです。これがうまくいって、案件として成立した。『業務システム』の開発もソニックガーデンの事業としては筋がよさそうだぞ、ということがわかったんです」(倉貫

しかし、当時は“新規事業”の納品のない受託開発で手一杯だったソニックガーデン。そこで、白羽の矢が立ったのが高木でした。

「両親が業務システムで悩む姿は、ずっと頭の片隅に残っていました。だから、中小企業の業務改善はずっとやりたいと思っていた領域だったんです。ちょうど仕事に慣れてきたところで、kintoneを使った業務システムの開発を、藤原さんと一緒にやっていかないかという話が出てきて。ぜひやらせてください、とチャレンジしはじめました」(高木)

こうして、スタートした業務システム開発の事業。最初に高木が担当したお客様はkintoneの使い方には慣れているどころか、当時の高木より使いこなせていたといいます。

「私の方がわかっていないことが多いのに、毎回相談してくれるんです。不思議なことに、相談した後は満足してくれているようでした。そのお客様が困っていることは本当は何なのか最初は分からなかったのですが、打ち合わせを重ねるうちに少しずつ本当の課題が見えてきたんです」(高木)

12-3 業務ハック勉強会

お客様は、業務改善の何に困っているのか。高木が気付いたのが、「多くの企業において、業務改善の担当者が1人になっている」という課題でした。

「たとえ担当者がkintoneを使えたとしても、他の社員も使うようにならないと業務改善には繋がりません。でも、社内で業務改善を推進する人たちは往々にして孤立というか、社内で1人になってしまうことが多いんです。私が最初に担当した方もそうでした。そこで、どうすれば業務改善が進むかをお客様と一緒に考えていくようにしたんです」(高木)

業務改善の推進を担当する人は、kintoneの使い方に加え、「社内で1人」になっていることに悩んでいる人が多いのではないか。共に、社内での浸透を考えるうちに、「同じ悩みを持つ人が集まって、勉強会を開くのがいいのではないか?」という考えを持つようになります。

そして、高木はそのアイデアを実行に移し、2017年12月に「業務ハック勉強会」を開催。その後も全国各地で開催し、「業務ハック」という役割を周知させていきます。この高木の活躍には、藤原もいい驚きを得ていました。

「ポツポツと単発であったkintoneの案件が、ぎっさんが入ったことで大きく広がっていきました。勉強会をしたり、kintoneに関する本を書いたりもしていたし、プログラマでありながら、業務ハックという新たな事業をつくっていく役割も担っている。それまでのソニックガーデンにはあまりいない珍しいタイプです。しかも、業務ハックは、彼女が常々話していた『両親の悩み』に繋がる事業でもある。不思議なものですが、仕事と人生との重なりが起きるものなんですよね」(藤原)

12-4 枠が広がる

実験的に採用した新卒社員の高木が業務ハッカーとして、活躍の幅を広げていく。高木の入社時は業務改善の事業は形どころか、発想すらありませんでした。そう、倉貫や藤原など経営者の想像を上回る展開が、新入社員という“イレギュラー”な存在によって起きたのでした。

「経営者が考えている範囲はやっぱり限られているんです。我々が考えている枠からはみ出すような発想であったり、動きが生まれることで、会社としての枠も広がっていく。そういう経営のあり方もあるんだ、と業務ハックの展開から気づきを得ましたね。

一方でそうした動きを生むためには、一人ひとりが何を考え、何をしたいかをしっかりと聞いて、経営側がプログラマが活躍できるような環境を用意する必要があります。むしろ、それこそが経営者の役割なんだと改めて考え直すきっかけにもなりましたね」(藤原)

業務ハックという事業の枠が広がったことで、採用の枠も広がりを見せることになります。そうしたなかで、JavaScript経験者や高木以外の女性プログラマなど、それまでにない中途採用者も増えていくことに。ここで、さらなる多様性を、ソニックガーデンは得ることになります。

こうした組織の変化を受け、2019年をふりかえるブログで倉貫はこう記しています。

“今では毎年のように採用している新卒採用も最初はイレギュラーでしたし、全社員リモートワークというのも最初は一人の在宅勤務というイレギュラーがきっかけでした。イレギュラーというからには想定していたわけではありません。そうしたイレギュラーを、組織に少しずつ取り込んでいくことで組織のアップデートを図ってきたというわけです。

(中略)社員が住んでいる場所の広がり(18都道府県)はもちろん、海外や国内を旅しながら働くプログラマたちがいたり、子育て中のお母さんプログラマがいたり、自社の経理を担当しながら顧客の顧問までする業務ハッカーがいたり、自社サービスの営業が得意な人がいたり。関係会社まで含めると50名以上の組織になりました。”
新規事業のための会社つくりを試した実験と結果 〜 イレギュラーを取り込む多様な組織」(Social Change) より

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