新米マネージャー、最悪な未来を変える

長瀬光弘 著

「最悪な未来なら、変えればいい」

マネージャーに昇進した西原健太。しかし、チームをまとめる難しさに直面する。部下との関係、意見の対立、自分の弱さ……。再びリッキーと出会い、チームを「いい感じ」にするための知恵を学んでいく。問題 vs 私たち、言いたいことを言い切る、一人ひとりの強みを活かす。マネージャーとして成長していく健太の姿を描く。

仕事エンタメ小説シリーズ第二弾。


目次

第一章 新米マネージャー
正解がない仕事 / 三者三様 / 希望を創る商品

第二章 最悪な未来、再び
眩しい光景 / お決まりの公園で / カチカチ / チームをいい感じにする

第三章 問題vs私たち
こんなもん? / 頭がパンパン / 部下が全然仕事してくれなくてさ...... / 問題とどう向き合うか / チームのふりかえり / 問題vs私たち / 【変わった未来】希望は、ここに?

第四章 言いたいことを言い切る
僕もBがいいと思います / 不意打ち / 言いたいことを言えない / あと二〇点 / 意見をぶつけ合う / 混沌に入るチーム / 【変わった未来】また、揉めそうですね

第五章 一人ひとりの強みを活かす
僕が試されている / 最悪な推論 / 弱いチーム、弱いマネージャー / 強さとは? / パズルのピース / 比べない / 【変わった未来】これだから、強いチームは......

第六章 未来と希望と
僕が行きます / 託します / いい感じ / 未来 / 希望

エピローグ
突き抜けてますか? / 太陽と公園

とある日の健太の日記


装丁:鈴木成一デザイン室 / イラスト:大桃洋祐

定価:2200円(税込2420円) / 判型:四六判並製 / 頁数:288ページ / 発刊:2026年2月5日


前作紹介

入社一〜三年目で、「仕事が楽しくない」「いつもいっぱいいっぱいで働いている」……といった悩みを抱えている人は、前作『私はロボットではありません』をぜひ手に取ってみてください。本作の主人公でもある健太が、リッキーとの対話を通じて「自分で自分をいい感じにする」スキルを身につけていく成長物語です。

なお、本作は『私はロボットではありません』を読んでいなくてもお楽しみいただけます。

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書籍をお持ちの方は こちら から全話読めるようになります。
第1章
新米マネージャー

正解がない仕事

「この仕事は、ルーティンワークじゃありません。僕たちが向き合っているのは、正解がない仕事」

「正解がない仕事……ですか?」

「そう、正解がないから、教科書もない。前にやっていた方法が通用しないこともある」

「は、はぁ……」

夏に向けた準備運動をしているかのような、強い日差しが入り込むオフィス。窓の遠く向こうには、梅雨におあつらえ向きのよどんだ雲がこちらの様子を窺うように漂っている。

目の前で首をかしげているのは、僕の初めての部下、赤井さん。パリッとした襟に、爽やかなブルーのネクタイ、センターで分けたセミロングが似合う、入社三年目の誠実な男性社員だ。営業部で二年経験を積んだ後、僕が初めてマネージャーを務める、マーケティング部第四グループに配属になったのだけど、これまでの仕事との違いから苦労しているようだった。

「で、でも西原さん」

「健太でいいですよ。隣のチームにも同じ苗字の人がいてややこしいですからね。みんな、そう呼んでます」

もう、三回ぐらい言ってる気がするけど……。上司を名前で呼ぶことを躊躇するのもわかる。新しいチームになってもうすぐ二ヶ月ほどが経つけど、まだ、僕とは少し距離を感じているようだ。

「あ、ああ……えっと健太さん。正解がない仕事なんて、どうすればいいんでしょう。これまでは、決まった得意先のところに行って、だいたい同じような依頼を受けて、それをミスなく処理すればよかったんですけど。マーケティング部だと、考えることとか、やらなきゃいけないことがいっぱいで……」

「そうですよね。営業部にいても、いずれ正解のない仕事に携わると思うけど、新人の頃はまだ簡単な仕事だけだろうし」

そうは言っても、赤井さんにはまだマーケティングの中では簡単な仕事しか依頼はしていないのだけど、慣れるまで大変なのはすごくわかる。

「マーケティング部の仕事は多岐にわたる。商品の企画から、中味の開発のリード、デザインやネーミングを決めるブランディングにPR施策……。新商品をゼロから作り上げ、世の中に届けるまでのほぼすべての工程に関わります」

「そ、そうですよね。配属した日に、健太さんから聞きました。すごい大変だな、と思って」

「うん、大変。めっちゃくちゃ大変。でも、なぜかやめられない。そんな不思議な仕事」

「はぁ。でも、そんな大変な仕事で、しかも正解がないって。どうすればいいか……」

「タスクばらし」

「タスクばらし……?」

「ザッソウに、ふりかえり」

「ザッソウ? ふりかえり?」

「この三つのスキルを活用できれば、赤井さんも、正解のない仕事でも成果を出せるようになる」

「そ、そんなこと言ってる人、YouTubeにはいないですけど……」

公園にはいるよ、と言いかけたけど、さすがにわけがわからないだろうと思い、喉のあたりで止めておく。

「少しずつ、教えるよ。まずは、タスクばらしからかな。今の仕事の目的を整理して、目的を達成するために必要なタスクを出してみる。そして、それぞれのタスクにかかる時間を見積もってみる」

その後、僕は赤井さんにタスクばらしの方法を教える。五年前の、あの不思議な男との、不思議な対話を思い出しながら……。

十分ほど、赤井さんと一緒にタスクばらしをしてみると、彼の顔が一気に明るくなった。

「ああ、そうか。何が目的なのかすらわかっていないのに、仕事なんてできないですよね。机に向かっているだけで、仕事した気になっていたのかもしれないですね、僕」

「そうそう。飲み込みが早いですね。その感覚、忘れないように」

「ありがとうございます。どこで教わったんですか? こんないいこと」

「ああ、えっと……。それは、またおいおい話すよ」

「ええ、なんですか、それ。気になります」

「う、うん。さぁて、次の打ち合わせが始まるかな」

僕は、わざとらしくつぶやきながら、赤井さんから逃げるように、オフィスを後にする。どうやってタスクばらしを身につけたのか、内緒にしたいわけではないけど、彼との不思議な時間は、僕だけの宝物にしておきたいような、そんな気分だった。

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