三者三様
これから、毎週定例になっているチームミーティングの時間だ。深呼吸をしてミーティングルームに入ると、すでにチームメンバーは全員揃っていた。このチームミーティングは、僕にとって気が重くなる時間だ。新しくチームのマネージャーに就いておよそ二ヶ月。最初こそはいいチームにするぞ、と意気込んでいたものの、蓋を開けてみれば、なんとも言えない、シラケた空気が続いていた。特別仲が悪いわけではないけど、一致団結したチームかと言えばそうではない。
見方によっては、それぞれが自分たちの仕事に集中して取り組んでいると言えるけど、僕がイメージしていた「いいチーム」からはかけ離れていた。仕事について熱く話しながら、時には誰かが言った冗談に対して笑い声が起きる。周りからは一目置かれ、会社からも大きな期待をかけられる、希望に満ちたチーム。……になるはずだったけど、現実は難しいものだ。
そして、同時に、自分が思い描いていたリーダー像と、今の自分も遠くかけ離れている。
僕にとってのいいリーダーは、熱くビジョンを語って、仕事が誰よりもできて、みんなをグイグイ引っ張っていくような存在。けど、いざマネージャーになってみると、そう簡単にはいかない。中間管理職としての仕事と自分が担当する仕事に追われて疲弊し、熱く語るようなエネルギーも生まれず、みんなを引っ張る余裕もなく、日々振り回されてばかりいる。プレイングマネージャーと言えば、聞こえはいいけど、組織の駒になったような感覚が、前よりも強くなっている気がする。気のせいだといいのだけど……。
「おつかれさまです。じゃあ、定例ミーティングを始めましょうか」
強引に微笑みを浮かべ、空いている席に座る。隣には、いつも通り襟をパリッとさせながら、背筋を伸ばして座っている赤井さん。向かいでは、ベテラン男性社員の加藤さんがあくびをしながらスマホをいじっている。
加藤さんは、広告代理店からの転職組。前職での経験を活かしながら、マーケティングチームで働いている。自分のことをあまり話そうとしないし、感情を表に出すこともない。淡々と仕事をこなす、なんというか、摑みどころがない人。それが、この二ヶ月ほど一緒に働いた加藤さんの印象だった。数年ごとに会社を転々としている、いわゆるジョブホッパーだという噂も聞いたことがある。
「はぁ……」
加藤さんの隣でため息をついたのは、僕の一年後輩の女性社員、古田さん。昨年度、営業部からマーケティング部に配属された。マーケティングの仕事にはだいぶ慣れてきているし、営業部での経験も十分あるので、この二ヶ月は特に大きな問題もなく過ごしていたけど……。
「ふ、古田さん、どうしました?」
古田さんはビクッと肩を上げ、「え、あ……いや、なんでもないです」としどろもどろになりながら返答する。
どう見てもなんかありそうだけど、あまり詮索するのもよくないので、あいまいにうなずいてやり過ごす。
毛先をうっすらと黄色に染めていたり、持っている手帳やペン、スマホケースがすべて派手なショッキングイエローだったり、出社して自分の席につくギリギリまでヘッドホンをつけて大音量で音楽を聴いていたり……。マイペースで、独創的な雰囲気を持つ人だというのが、この二ヶ月で彼女に抱いた印象だった。
「じゃあ、定例ミーティングを始めましょうか」
三人が各々のタイミングで軽くうなずく。
「えっと……まずは業務進捗の確認から。加藤さん、『これから茶』のリニューアルは順調ですか?」
「特に問題なく。味の方向性も決まったので、ぼちぼちデザイン案に入る段階です」
「古くからある定番商品のリニューアルなので、いろいろと大変ですよね」
「上がうるさいのは、どの商品でも一緒ですから」
仕事の質に関しては加藤さんは何も不安はなかった。社内での立ち回り方も心得ているし、他部署や協力会社との連携もうまい。僕自身、仕事に関しては学ぶことが多い。なんで、加藤さんがマネージャーになっていないのか、不思議なくらいだった。
「ええっと……古田さんは、そうだ、いよいよ来月ですね。炭酸水『Hours』のリニューアルの発売開始が」
「ああ、はい。PR施策の大詰めで、今週はバタバタしそうです」
「わかりました。大変だと思いますけど、頑張ってください」
「……はい」
古田さんはうつむき加減にうなずく。何かがつっかえているような返事が気になるけど……まぁ、大丈夫だろう。
「赤井さんは、引き続き僕のサポートをしながら、マーケティングの仕事を覚えていってもらいます。今のところ、どうですか?」
「ええっと、今は、例のスポーツドリンクのリニューアルにあたって、調査データを整理しているところです。なんとか、なるかと思います」
赤井さんは真面目で頑張り屋さんなので、これからどんどん成長していってくれると期待している。ただ、真面目が故に、周りに気を使いすぎている気もするけど、若い時は誰しもそうだよなとも思う。僕だってそうだった。
「うん、一緒にやっていきましょう。さて、大きな動きはそのくらいでしょうか」
「それにしても、リニューアルばっかだな、うちは」
加藤さんがポツリとつぶやく。それは、誰しもが心のどこかで思っているけど、口に出さないでいることだった。ここまでのミーティングの内容を見てわかるように、紛れもない事実だ。
「ああ、まぁ、大事ですから。この会社を支える、主力商品をアップデートし続けるのは」
心の中では、大きくうなずきながらも、口からは会社をかばうような言葉が出ている。マネージャーって、こうやって間に立つのも大事だよね……多分。
「アップデートって、言葉だけはかっこいいけどねぇ」
首をかしげながら、皮肉っぽくつぶやく加藤さん。部屋の中の空気が、ずんっと重くなった気がする。
ただ、話の流れ的にはちょうどよかった。まさに、加藤さんが言ったこの会社の問題点に関わる話を、今日はしなければいけなかったのだ。
「そ、その話に関わるんですけど。残りの時間は、一昨日の管理職会議であった森沢本部長からの発信を、みんなにも共有しようと思います」