チームをいい感じにするために何をすればいいのか。
正解がわからないまま、あなたはまた日々の仕事に戻る。
とあるメンバーの仕事ぶりに納得がいかないあなたは、どう改善すればいいか頭を悩ませる。同時に、会社から課されたミッションへの突破口を見出せずにいた。
チームで起きる問題に、マネージャーとしてあなたはどう向き合う?
こんなもん?
リッキーとの久しぶりの再会から一週間。特に、何か大きな出来事があったわけでもなく、チームの状態は相変わらずよくも悪くもないとしか言いようがない状態だった。
僕は自分が担当するいくつかの商品の仕事をしながら、本部長からミッションとして与えられた「希望を創る商品」の企画を考え続けている。でも、どうにも思いつかない。
この会社に入って、新商品の開発にはいくつか携わってきた。自ら企画して、新商品として発売されたものもある。ただ、いずれもある程度売れるのが堅い、定番商品ばかりだった。希望を創ったか、と言われると疑問符がつく。
会社がわざわざ方針を出しているのは、ありきたりな定番商品を企画してもダメということだ。でも、希望を創るってなんだ? 正直、森沢本部長もわかっていないと思う。だから、「若い人たち」にまかせたことにしたいんだ。会社が掲げる方針に、一生懸命に取り組んでも意味があるんだろうか。「どうせ半年もしたら忘れてるさ」……喫煙スペースで交わされていた会話が頭をよぎる。
雑念が邪魔をして、企画を考えようとしても、思考が止まってしまう。一歩も進めず、二歩も下がれずをここ数日は繰り返していた。
ノートパソコンをぼーっと見ていると、チャットツールに通知マークがついた。このチームで仕事のやりとりや情報共有を行うためのスレッドだ。古田さんから、【確認お願いします】というメッセージと共に資料が添付されていた。
古田さんに整理をお願いしていた、炭酸水商品「Hours」の販売データの一覧だ。古田さんはデスクにいない。いつもオフィスの窓際にあるフリースペースで作業しているから、きっとそこにいるんだろう。
ダウンロードをして、ファイルを開く。企画について考えながら、さーっと目を通す。ん? なんか、日付がごちゃごちゃになってるところがあるし、合計の数値も間違ってるようだけど……。
ポチポチとセルをクリックすると、設定がおかしいところがたくさんあった。……またか。
【ありがとうございます。いくつか、間違いがありますが、こっちで直しておきます】と、すぐに返信をする。少しして、両手でごめんのポーズをした絵文字のスタンプがついた。
はぁ、結局、僕がやるのか。これで何回目だろう。
【次は、先日のSNSでのキャンペーンの効果測定について、パートナー企業からレポートが上がっているので、目を通して要点をまとめてほしいです。他部署と部長への報告用に使います。今週中にお願いできますか?】というメッセージと共に、パートナー企業からの資料を添付して古田さんに送る。
【わかりました】と、そっけない返事が返ってきた。こんなもんなのかな、上司と部下のやりとりって。まぁ、「やらない」と言わないだけマシなのか。
チームをいい感じに、チームをいい感じに。リッキーと決めた冒険の目的を果たすために、何をどうすればいいのか見当もついていなかった。
ふと、目の前に大きな満月が現れた。僕は驚いて、ビクッと肩を上げる。とうとう頭がおかしくなって幻覚が……。
「はい、健太さん」
聞き覚えのある声が、満月の向こうから聞こえてくる。顔を上げると、飯村さんが無表情で満月……に見える何かを差し出していた。飯村さんは、僕の一年後輩の女性社員で、昔は同じチームで働いていた。今は開発部に異動しているんだけど、何をしに……?
「はい」と言いながら、飯村さんが満月のような何かをグッと差し出してくる。
いや、それだけじゃわからないって。
「こ、これは何?」
「何って、見ればわかるでしょう。本当に、飲料メーカーの社員ですか?」
久しぶりに、飯村さんの毒舌を聞いた気がする。飯村さんは思ったことを率直に言うのだけど、おっとりとしたその見た目もあってか(あと、言うことが全部的確で)、不思議と憎まれることはなく、毒舌キャラとして周囲からは親しまれる存在だった。
「えっと……」
よく目をこらして見ると、満月に見えたのは、果物だった。多分、グレープフルーツだ。
「グレープフルーツ?」
「そうです。私の祖父母がグレープフルーツとかみかんの農家って知ってましたよね?」
「なんか、聞いた気もするけど」
「言いました。初めて会った日に。まぁ、覚えてなくてもいいんですけど、おばあちゃんから大量に送られてきて」
「……?」
「なんか、珍しい国産品種らしいんですけど、ほとんど市場には出回らないんです。苦味がすごい強くて。でもね、その後に強い甘味があって、おいしいんですよ。ただ、こういうクセがある品種を扱う店がどんどん減っちゃって。余ってもしょうがないからって、私にたくさん送ってくるんです」
「そ、そうなんだ……」
「まぁ、おじいちゃんも半分隠居生活で、そこまで積極的に売り出そうとしてないというのもありますが。私は好きなんですけどね、この苦味」
毒舌キャラの飯村さんが、苦味のある果物が好きなのは、なんだかピッタリだった。僕に余裕があれば、話をもっと聞いてもいいんだけど、古田さんから送られてきた資料をすぐに修正しないといけない。
「あ、ありがとう。後で、食べてみるよ」とさりげなく話を終える雰囲気を出すと、「はい、ぜひ。では」と飯村さんは隣のチームにグレープフルーツを配りに行った。
手に持ったグレープフルーツをノートパソコンの横に置くと、僕はすぐに資料の修正に取り掛かった。こんなことをしているから、ゆっくり企画を考える時間もない……。古田さんも頑張ってるとは思うけど、なんか、もうちょっとしっかりしてほしい気もする。
こういう時、できる上司なら、なんて言うんだろう?