第4章 言いたいことを言い切る

【変わった未来】また、揉めそうですね

――とある水曜日 ミーティングルームにて

「斬新な刺激。なんかクセになるので、もう一度飲んでみたい」

「他の味より印象に残っている。このグレープフルーツだからこそ、という味がする」

「こんなグレープフルーツを作っている町にも興味が湧いた。面白そうな町だなという印象です」

ミーティングルームで、健太、赤井、古田がそれぞれノートパソコンを見ながら、何かしらの文章を読み上げている。

「健太さん、これは、狙い通りかもしれませんね」

赤井が顔を上げ、健太に話しかける。

「うん。刺激が強い味に対してのコメントが一番多いし、ポジティブだね」

「評価シートのスコアも高いですね。赤井さんと健太さんの読み通りです」

「いや、古田さんの意見も含めてだから。このチームの読み通り、ですよ」

健太は嬉しそうに微笑み、話を続ける。

「よし、じゃあ刺激が強い味で、決めましょうか。飯村さんにも伝えておきます。これが、この会社の希望を創る商品になるといいですね。いや、そうしないといけないな」

赤井と古田は揃って大きく首を縦に振る。赤井が口を開く。

「次は、いよいよブランディングでしょうか、健太さん」

「うん、そうですね。パッケージデザイン、ネーミング、PR施策案などを固めていきます。また、忙しくなりますよ」

古田が、いっそう強く、首を縦に振りながら、「でも、また揉めるかもしれませんね」と言う。健太が少し怪訝そうな顔をして、「どうして?」と尋ねる。

「いや、ほら、このチームのみんなって結構考え方がバラバラな人たちが集まってるかなと思って。何がいいか決める時、大変そうだなって」

健太は納得した表情でうなずき「確かに、そうですね」と答える。一呼吸おくと、話を続けた。

「でも、だからこそいい案が生まれると思います。頑張って、チームでいい案を出したいですね」

和やかなムードがミーティングルームを包む中、一人だけ浮かない顔をしている浜村部長がいた。浜村部長がのそっと口を開く。

「本部長は、いろいろ言ってくると思うよ。大丈夫かな。社内の調整も大事だよ」

「部長の言うこともわかりますが、消費者テストの結果には本部長も何も言えないのではないでしょうか」

「まぁね……。でも、あの人は手強いよ。刺激が強い方向性で進めるのは止めないけど、覚悟はしておいてね。次があるから、私はこれで」

そう言い残すと、浜村部長はのそっと部屋を後にした。古田がキョトンとしながら話す。

「部長、浮かない顔してましたね。そんなに不安なんですかね」

健太が眉をひそめ、答える。

「心配性だからね、あの人。でも、今回の結果に浮かれず、気を引き締めていかないといけないのは部長の言う通りです。希望を創る商品にできるかどうかはこれからの動き次第です」

古田は立ち上がると、おもむろにホワイトボードに黒いペンでまん丸な円を描き始める。そして、円に何かを描きたしていく。健太と赤井はその様子を黙って見ている。古田が満足そうにうなずき、ペンの蓋を閉めると、ホワイトボードには見事なグレープフルーツの絵が描かれていた。円の中には顔が描かれ、かわいらしいキャラクターとしてデフォルメされている。

「グレープフルーツって、かわいいですよね、見た目が」

赤井が首をかしげて「ええ、そうですか?」と言いながら、立ち上がり、ホワイトボードに絵を描く。

「僕は、こんなイメージです。ドシッとしていて、力強い」

古田ほどうまくはないが、たくましい腕がついたグレープフルーツを描く赤井。健太も席を立つと、「僕はこんなイメージ」と、満月の中に誰かがいるような絵を描いた。三人の中で、絵が一番下手なのは健太だった。

「こ、これなんですか? グレープフルーツ?」

「いや、ほら、その。グレープフルーツって満月みたいじゃん。それで、満月から宇宙人が覗いてるようなさ」

健太が必死に説明をする様がおかしかったのか、古田と赤井があははと笑い出す。

「ちょっと、なんで笑ってるんですか」

古田が口を押さえながら、「すいません。味があると思います。絵も、考え方も」とそれとなくフォローする。健太は肩を丸めながらペンを置くと、右手で後頭部をかきながら、ホワイトボードに描かれた三人の絵を眺め始めた。

「それにしても、確かにここから先も大変そうですね。この三人の中で、グレープフルーツのイメージがこんなに違うなんて」

三人の肩越しに見えるグレープフルーツは、それぞれが違う姿をしている。ホワイトボードの右端には、もう一つグレープフルーツが描けるスペースが空いていた。

健太はそのスペースをそれとなく触りながら、「ここからが正念場か」とつぶやいた。

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