[インタビュー]インタビューで培った取材力を土台に、企業の思想を「小説」で伝える。『新米マネージャー、最悪な未来を変える』著者・長瀬光弘さんの話。(1)

[インタビュー]インタビューで培った取材力を土台に、企業の思想を「小説」で伝える。『新米マネージャー、最悪な未来を変える』著者・長瀬光弘さんの話。(1)

2026-02-13

本づくりに関わった人たちへのインタビューを通して、「本」そのものの可能性とおもしろさに、あらためてじっくりと向き合えたらと思っています。今回は、『私はロボットではありません』『新米マネージャー、最悪な未来を変える』著者の長瀬光弘さんにお話しを伺いました。長瀬さんはいったいどんな方なのでしょうか?インタビューライターとしてのキャリアを積んできた長瀬さんが、小説を書くことになったきっかけとは――。

印刷会社で営業の仕事をしていた

――早速ですが、まずは長瀬さんご自身のことを伺わせてください。これまでと今と、どんなお仕事をされているのでしょうか?

長瀬
もともとはサラリーマンだったんです。大学を卒業して、新卒で印刷会社に入って、そこで3年ほど営業をやっていました。僕の入社当時で創業60年ぐらいの、中規模の会社だったんですが、出版印刷もやっていたので、出版社に出入りすることもよくありました。具体的には、書籍編集者の人から入稿データをもらったり、色校を持っていって確認したり、待ってる側でしたね。データ全然来ないな、とか、カバーデータだけ後になります、とか言われて、工場の生産管理の人と調整するとか。

――よく言ってます・・・。

長瀬
だからその頃から、広く「本」には関わっていたんです。ただ、当時僕が入社したころが、ちょうど電子書籍元年と言われている2010年~2011年で、KindleとかLINEとか、Twitter(X)のようなSNSが出はじめて、出版業界自体がどんどん右肩下がりになっていくころで、当然それは印刷会社にも影響が大きかった。出版印刷が強い会社でもあったので、なかなか状況が厳しくて、会社の雰囲気もあまりよくない。同じころに東日本大震災があり、「この先どうするんだろう?」ということを考えはじめて、まさに主人公の健太くんみたいな感じでした。

――長瀬さんご自身の経験と小説の物語は、そういうふうに重なってくるんですね。

長瀬
あのころ感じていた、会社が考えていることと自分感じていたことのギャップだったり、世代によって同じ会社で働いている人たちの考えが違ったり、ということに直面した経験は、倉貫書房の仕事をするうえでは、原体験として根付いています。

印刷会社の仕事を今ではすごく尊敬していますけど、当時はやっぱりここでやっていくのは結構厳しいなと思っていて、飛び出す選択をして、制作会社に入りました。編集がいてデザイナーがいて、という小さな会社で編集の仕事をしはじめたのが、ライターとしてのいまの仕事の出発点です。

――そこは紙ものをつくる制作会社ですか?

長瀬
そこは、ウェブをメインにやるところで、広告代理店のお仕事を受けたり、書籍編集とは別の種類の編集を学んでいましたね。

ライターとして独立し、「マネジメント」に出会う

――その後、2018年にフリーライターとして独立されるわけですが、長瀬さんが得意とされている、組織づくり、チームマネジメントなどのジャンルにはどのように出会ったんですか?

長瀬
フリーになると言っても、特に何か仕事があるわけでもなかったので、フリーランス向けの求人サイトをいろいろ見ていて。そこで最初に見つけていいなと思ったのが、今も継続して一緒にやっている、アトラエという会社の「Wevox」というサービスだったんです。

「Wevox」は組織の現状を可視化して、組織力を向上することをテーマにしたプラットフォームで、僕が独立する時に、ちょうどそこがオウンドメディアを立ち上げる話があったので、じゃあ一緒にやりましょうか?となったんです。

「Wevox」では、エンゲージメントが大事なテーマなんですが、当時の僕はそういったものを全然知りませんでした。それこそ制作会社とかって、エンゲージメントとか、マネジメントとか、そんな発想ないじゃないですか。10人ぐらいの会社で、社長、先輩、同僚はトリッキーな人ばかりで、みんなものづくりが好きな人たちの集まりで。つくるものにはフィードバックしたり指摘したり、というのはありますけど、それはマネジメントとはちょっと違うというか。言葉すらほぼ聞いたことがなかった。

――よくわかります。

長瀬
そういうところから、活き活きと企業で働く人を増やすことを目標に掲げている人たちと出会い、しかも僕と同じかもっと若い人たちがそういうことを言っていて。こんな人たちがいるのかと、衝撃を受けましたね。

その人たちを応援したいなっていうのもあるし、メディアであれば、自分がやってきた経験も活かせるので、じゃあやろうとなったのがはじまりです。「DIO」というオウンドメディアのコンテンツづくりからメディア全体の運営までを一緒にやっています。だから組織づくりとか、マネジメントへの関心は、そこからですね。

倉貫書房の仕事することになったきっかけも、もともとは、「DIO」でソニックガーデン(※倉貫書房を主宰する倉貫義人が代表を務めるソフトウェア会社)を取材することになったのが最初の出会いです。

きっかけとなった、コロナ禍の取材

――どんな取材だったんですか?

長瀬
ちょうど2020年のコロナ禍の時期で、リモートワークが一気に広まりました。ソニックガーデンはコロナよりもずっと前からリモートワークの体制をとっていたので、じゃあこの状況でどんな組織づくりをすればよいのか?というテーマで取材を申し込んだんです。

対応していただいたのは、副社長の藤原士朗さんで、話がすごくおもしろくて、ソニックガーデンの考えをよく表した記事になりました。それを藤原さんも気に入ってくれて、その縁でまた一緒に仕事ができたらという話になって。


▼DIOに掲載された記事は、こちらからお読みいただけます。
「組織構造をひっくり返せ! ニューノーマルの先駆企業が語るプラットフォーム型組織とは?」
https://get.wevox.io/media/think-sonicgarden


長瀬
ちょうどソニックガーデンが、コーポレートサイトのリニューアルをしようと思っていたようで、じゃあちょっとそこを一緒にやりますか、みたいな感じで藤原さんと倉貫さんとのミーティングをして。そこで倉貫さんと初めて顔を合わせたんです。

小説×仕事シリーズのきっかけとなった仕事

――はじめは藤原さんとのお仕事だったんですね。倉貫書房の構想について、倉貫さんから話されたときのことを覚えてらっしゃいますか?

長瀬
僕と倉貫さんの間で、そういう話が具体的に出てきたきっかけとなった出来事が明確にあって。ソニックガーデンが創業10周年のときに、社史をつくったんですよ。10年の歴史を一冊の本にしようということで、倉貫さんや、藤原さんのように創業期から長くいるメンバーを中心に、僕が取材をしてストーリーにまとめていきました。

倉貫さん自身がおもしろい方ですし、他のメンバーもやっぱりみんな個性的だし、本人たちは別に先進的なことをやろうと思ってやってはいなくて、プログラマーとして単純に楽しく働くにはどうするかっていうのを考えた結果、今の形があるっていうだけの話なんですけど、ソニックガーデンの歴史は世の中からみればすごく先進的でおもしろくて。14章分の、結構ボリュームのある社史をつくったんです。

それを倉貫さんがおもしろがってくれて、読みながら、長瀬は小説を書けるんじゃないかって思ったみたいです。倉貫さんがずっと出版事業をやりたいと思っている話はときどきしてたんですけど、この社史がきっかけで、小説で仕事の本をつくってみますか?みたいなことからはじまりました。


▼このときの「社史」は、こちらからご覧いただけます。
「ソニックガーデンストーリー 10年分のふりかえり」
https://www.sonicgarden.jp/join_us/blog_articles/history


実際どう書いていく?

――倉貫さんの長瀬さんに対する見立てからはじまっていたんですね。でも、長瀬さんはそれまで特に小説を書いてきていないですよね?

長瀬
そうですね。僕はどちらかというとずっとインタビューライターをやってきていて、それで自分の強みを発揮できていると思っていたので、小説を書こうとはそこまで思っていなくて、ましてソニックガーデンの仕事の中でそういうことをするとは考えてもなかったです。

インタビュー記事をつくるのと小説を書くことでは全然別物じゃないですか。だからできるかな?というのはもちろんあったけれども、文章に携わっている者からしたら、「小説書いてみる?」という話がきたら、そりゃあ「やりますか!」ってなるよな~っていう。書いてみたいという気持ちのほうが大きかったですね。

――書いてみよう!と思って書けるものですか・・・?

長瀬
そこは本当にいろいろ勉強しました。ベタに小説の作り方の本を何冊か読んだり。自分がこれまでライターで仕事をしてきたぶん、逆に小説を書くことに対してオリジナリティを出そうというふうには思わなくて。先人たちの教えを、素直に真似できるところは真似しようっていうモードになれた部分は結構あるかもしれないです。20代のころだったらこうはいかなかったと思いますけど、いい距離感で小説を作るというプロセスをとれたのは、自分が小説を取り組むタイミングも良かったのかなと。

フィルムアート社さんが出している「類語辞典シリーズ」というのがあって、これがめちゃめちゃ良かったんですよ。

――そうだったんですね。小説の書き方に関する本や辞典などを使ったとしても、長瀬さんが書く以上、長瀬さんの経験や感じていたものは作品に漏れ出てきて、その結果他の作品とは別のものになりますよね。

長瀬
はい。使えるものは使ってやってますし、こういうことをオープンにするのもいいと思ってます。意外とみんなこういう本って、読んで終わりだったり、使わなかったりするんですよ。ガンガン使ったほうがよくて、これって倉貫書房の1冊目の『私はロボットではありません』のリッキーのセリフに通じるんですが、まさに知恵を実践した結果が、この本です。

「知識を得るために本を読むのはすばらしいことですよ。ただ大事なのは、ナレッジワークにおける学びは、経験からしか得られないということなんです」
「これまでの経験をふりかえって、今西原さんが向き合っている仕事に活かせることはないか。今の仕事でとりあえず動いてみて、ふりかえりをして、そこから学べることはないか。そうやって、なんとかかんとかやっていくしかないんです」(『私はロボットではありません』188頁)

(2)につづきます。


『新米マネージャー、最悪な未来を変える』

▶︎本の購入・試し読み:https://kuranuki.sonicgarden.jp/books/2/stories
▶︎書店向け仕入れサイト:https://1satsu.jp/item/31425/


長瀬光弘(ながせ・みつひろ)
ライター/株式会社想像プロダクション代表取締役 1987年岐阜県生まれ。印刷会社、制作会社勤務を経て、2018年よりフリーライターとして活動。2023年に株式会社想像プロダクションを設立。「美しい言葉から、楽しい想像を」をテーマに、メディア運営やコンテンツ制作、コピーライティングなどを手掛ける。株式会社ソニックガーデンの顧問ライターを務め、倉貫書房の立ち上げに参画。組織づくり、チームマネジメントなどのジャンルを得意とし、他に組織づくりメディア『DIO』の企画・制作責任者も務める。

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