今回の記事は、UltimateAgileStories2というアジャイルに関する同人誌に寄稿した記事を転載します。

UltimateAgileStories2は、今後アジャイル関連でのイベントでの頒布を予定しているとのことで、頒布の情報は、http://ultimateagilestories.blog.fc2.com/ にて告知されるそうです。(本誌の頒布により得られた利益は、全額、東日本大震災の被災地支援として寄付されます)

私以外にも沢山の方が記事を書かれていますので、ご興味のある方はチェックしてみてください。今回、私の寄稿した記事は、アジャイル開発に関わるきっかけになった話について紹介しています。

Take the first stepTake the first step / imanka

はじめの一歩を踏み出そう

私は今、ソニックガーデンという会社で代表取締役をしています。ソニックガーデンの事業のひとつに「納品のない受託開発」というキャッチフレーズで行っているソフトウェア開発のビジネスがあります。これは、アジャイル開発に取り組んで十年かけて、ようやく辿り着いたビジネスモデルです。

世界の何事にもきっかけがあります。私がこうしてアジャイル開発を追求した結果のビジネスモデルをもつ会社を作ることができたのも、アジャイル開発に出会うことが出来たからでしょう。

私とアジャイル開発の最初の出会いは、"eXtreme Programming"(XP)でした。XPを知ることがなければ、XPに取り組んでいくことがなかったとしたら、そして、XPを取り巻く人たちとの出会いがなければ、今の私はありません。

本稿では、私にとっての「はじめの一歩」を紹介しようと思います。

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2000年の夏。社会人になって2年目。とても大変だった大きなプロジェクトが終わって、システムエンジニアとしての経験も少し積んで、まわりを見る余裕が出て来た私に、会社からオブジェクト指向に関する研修に行かないか、という提案がありました。

当時はまだ若く尖っていた私は、プログラミングや技術には自信があって、会社の薦める集合研修なんてレベルも低くてあまり意味がないし、面倒だなぁと思っていました。でも仕事の時間で研修に行けるならいいか、と軽い気持ちで行くことにしました。

少しなめてかかっていた研修ですが、いざ研修に参加してその内容の難しさに打ちのめされることになります。オブジェクト指向技術の研修と聞いていたけれど、実際は、順番に様々な講師の方が出て来て、オブジェクト指向に限らず彼らの専門分野について話したりワークショップしたりする内容でした。

後になってわかったのですが、その研修で講師をしてくれたのはオブジェクト指向の世界で有名な人ばかりで、研修会社のカリキュラムというよりも、会社を超えたコミュニティから教えてもらうようなものでした。研修後、外の世界を知れば知るほど、なんと恐れ多い人たちから教えてもらっていたんだろう、と思ったものでした。

その中の一人が、現チェンジビジョンの平鍋健児さんでした。彼の持ち時間では、オブジェクト指向ではなく「eXtreme Programming」についてずっと話をされました。ソフトウェア開発で大事なのは技術だと思っていた私にとって「技術よりも人」というメッセージに最初は違和感を覚えましたが、彼の情熱的な話し振りだけは印象に残ったのでした。

その研修を終えて、私は講師をしてくれた方々の関わるコミュニティに興味を持つようになり、XP(アジャイル)に興味をもつようになり、会社における仕事以外での人間関係の広がりについて考えるようになりました。

これが、私のXPとの最初の出会いでした。これ以降、XPの本を読み漁り、自分のまわりから小さく実践を繰り返していき、その良さも悪さも含めて理解していくことになります。

それから数年後、もう一度、平鍋さんに会うことになります。

XPに出会ってから、コミュニティに参加したり、自分の出来る範囲で実践をしてきたのですが、その実践のひとつで自分がプロジェクトリーダーをさせてもらった案件でXPを採用したプロジェクトがありました。私は、そのXP導入事例を社外に発表したいと思っていました。

当時、ブログで発信するという発想はまだなかったし、なによりも、なにがしかの出版物に自分の記事を載せたいという思いをもつようになっていました。

平鍋さんが主催されていたイベントに参加者として参加し、そのイベントが終わった後、彼のところにいって、あなたから自分がXPを知ったきっかけをもらえたこと、それから色々と身の回りで実践をしてきたこと、そして、それを社外に発表したいし協力してもらいたいと思っていること、を話しました。

私にとって、なんて恐れ多いことだろう、そして、なんてずうずうしいことだろう、と思いつつ、本当の本当に緊張しながら、何度も声をかけるのはやめておこうかと逡巡を繰り返して、だけど、意を決して話しかけたのです。私はきっと深刻な顔をしていたと思います。

そうしたら彼の返事は「やれば良いじゃないですか」だったんです。特に考えることもなく、淡々と。その瞬間、私の中で何か気負い過ぎていたものが消えたんです。なんだ、ああそうか、やれば良いのか、と。

その後、私はとある雑誌でXP導入事例の記事を書くことになります。私にとっての社外に自分の主張も含めた内容を公開するのは初めてのことでした。それをきっかけにして、私の人生は少し変わったような気がします。

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これがわたしの「はじめの一歩」を踏み出したお話です。

うまくいく保証なんてない中で自分から動き出すことは本当に勇気がいることです。そんなときに、相談をした相手まで一緒になって難しそうに考えてしまったら、きっと勇気が出なくなってしまうでしょう。

私は今、それなりに頑張って来たこともあって、若い人から一歩を踏み出そうとする相談を受ける機会があったりします。彼らはとても深刻そうな顔をして相談にきます。

そんなとき、私はこういうのです、なるべく淡々と「やれば良いじゃないですか」と。

(初出:UltimateAgileStories2 2012年8月刊行)