会社は、チームではなくコミュニティだった〜技芸を磨き続ける「場」はどう生まれたか

会社は、チームではなくコミュニティだった〜技芸を磨き続ける「場」はどう生まれたか

本記事は、仕事を労働ではなく「技芸」として捉え直す「仕事技芸論」シリーズの記事です。

「なぜ会社をつくったのですか?」

起業についての取材やインタビューで、よく聞かれる質問である。多くの場合、質問者は「実現したいビジネスがあったから」「大きな市場を見つけたから」といった答えを期待しているように感じる。事業の構想があり、それを実現するためにチームを組み、会社をつくる。それが起業の一般的なイメージだろう。

しかし、私の場合は違った。事業のために起業したのではない。一緒に働きたい仲間がいて、その仲間と長くやっていくために、会社という形を選んだのだ。

技芸は個人の営みだと思われがちである。確かに、技芸を磨くのは一人ひとりの鍛錬であり、上達するのも自分自身だ。しかし、私たちの仲間が技芸を磨き続けてこられたのは、それができる場があったからだと感じている。

そして、その場は一般的に言われる「チーム」とは、少し違うものだった。私たちの会社がどのようにして生まれ、なぜ「チーム」ではなく「コミュニティ」になったのか。その経緯を振り返ってみたい。

仲間を失わないために起業した

ソニックガーデンの前身は、大手SIerの社内ベンチャーだった。プログラマとしての理想を追い求め、志を同じくする仲間と新規事業に挑戦していた。しかし、大企業の中では、せっかく育てた仲間が会社都合で異動させられることが何度もあった。それでも諦めずに続け、社内ベンチャーとして2年ほどかけて、ようやく単月黒字が見えてきたところだった。

そのとき、後ろ盾になってくれていた社長が交代することになった。事業の存続も、仲間の行く先も、自分たちでは決められない。

自分がこれまで本当に大切にしてきたものは何か。考えた末にたどり着いた答えは、事業でもプロダクトでもなかった。一番大事なのは、一緒にやってきた仲間たちだった。この仲間たちと、会社の都合に左右されず、長くやっていきたい。そのために、独立するという手段を選んだ。こうして生まれたのが、株式会社ソニックガーデンだった。

独立にあたって、自分たちが何を目指すのかを改めて考えた。私自身の根底にあったのは、学生時代の原体験である。仲間とソフトウェアをつくり、使ってくれた人たちが喜んでくれた。使う人も、作る人も幸せにできるもの。それが「いいソフトウェア」だと考えている。後にそれを「いいソフトウェアをつくる」という企業理念の言葉にした。そして、プログラマが一生の仕事としてソフトウェア開発に取り組み続けるためのビジネスモデルとして、「納品のない受託開発」を考案した。

理想と実践を、ブログや講演を通じて発信し続けた。自分たちが理想を実践してみせることで、同じ思いを持つ人たちに「自分にもできるかもしれない」と感じてもらいたかった。最初は小さな声だったが、少しずつ反応が返ってくるようになった。

未開の地に、移住者がやってきた

そうしているうちに、人が集まってきた。私たちが求人を出して、スキルの合う人材を探したわけではない。事業の成長に合わせて計画的に採用したわけでもない。理想を掲げて、それを愚直に実践している姿を見て、「自分もそこに身を投じたい」と考えた人たちが、向こうからやってきたのだ。

それは、まだ誰も住んでいない未開の土地に、一人で暮らし始めたような感覚に近い。畑を耕し、家を建て、自分なりの生活をつくっていく。すると、その暮らしぶりに惹かれた人たちが、一人、また一人と移り住んでくる。移住者たちはそれぞれに自分の理由を持っている。土地の豊かさに魅力を感じた人もいれば、そこで暮らす人たちの生き方に共感した人もいる。やがて小さな集落ができ、いつの間にか村のようなものになっていく。

ソニックガーデンに集まってきた人たちも同じだった。「プログラマとしてもっと腕を磨きたい」「お客さまに直接価値を届ける仕事がしたい」「自分の技術で食べていけるようになりたい」。それぞれが自分自身の動機を持っていた。共通していたのは、私たちが掲げるビジョンへの共感と、プログラマとして技芸を磨き続けたいという意志である。

人が足りないから採用したのではない。理想を実践していたら、その場に加わりたいという人が現れた。この順序が大切だったと、後から振り返って思う。なぜなら、この順序こそが、私たちの会社の性格を決定づけていたからである。

お客さまの現場で知った「チーム」の力

私たちソニックガーデンは、「納品のない受託開発」を通じて、お客さまのソフトウェア開発を支援している。その仕事の特徴は、お客さまのチームの中に深く入り込むことにある。

外部の業者として指示を受けて作業するのではない。お客さまの内製メンバーのように振る舞い、ときには経営陣の一人のような立場で、事業とソフトウェアの両面から一緒に考える。お客さまと私たちのメンバーが組み合わさって、一つのチームになるのだ。それが私たちの提供する価値である。

だから、私たちのプログラマは、それぞれが異なるお客さまの現場に入っている。あるプログラマはスタートアップの創業チームに参加し、別のプログラマは老舗企業の新規事業チームで働いている。どの現場でも、お客さまのミッションを共有し、チームの一員として成果を出すことが求められる。

こうした仕事を続ける中で、チームというものの力を私たちはよく知っている。共通の目標に向かって、異なるスキルを持つメンバーが力を合わせる。互いの強みを活かし、弱みを補い合う。ミッションが明確であればあるほど、チームは強くなる。私たちは様々なお客さまの現場で、その力を何度も目の当たりにしてきた。

会社はチームではなかった

私たちのプログラマは、お客さまの現場ではチームの一員として働いている。しかし、ソニックガーデンという会社自体は、一つのチームとして動いているわけではない。全員が同じミッションに向かって、一丸となって働いているわけではないのだ。

では、ソニックガーデンとは何なのか。

様々なお客さまの現場に出ていったプログラマたちが、帰ってくる場所。それがソニックガーデンだった。

現場で得た経験や知見を持ち帰り、仲間と共有する。他の現場で起きている課題や工夫を聞いて、自分の仕事に活かす。技術的な相談をしたり、困ったときに助け合ったりする。新しい技術を一緒に学んだり、コードレビューを通じて互いの腕を磨いたりする。

その姿は、エンジニアのコミュニティや勉強会に近かった。いろんな会社で働くエンジニアたちが集まって、互いの知見を共有し、刺激し合う。あの空気感と似ている。ただし、私たちの場合、それが会社という形をとっていた。

チームには共通のミッションがある。メンバーはそのミッションを達成するために集まり、スキルによって選ばれる。ミッションが達成されれば解散することもある。目的ありきの集まりである。チームの経営は、船の経営に似ている。目的地を決めて、そこに向かって全員で漕ぎ進む。

一方、コミュニティにはゴールがない。参加者は、それぞれが自分自身の目的を持って集まってくる。共有しているのはミッションではなく、ビジョンや価値観である。だからコミュニティは、ミッションが変わっても存続し続ける。コミュニティの経営は、街の経営に近い。土地を耕し、住みやすい環境を整え、集まってきた人たちと一緒に暮らしを育てていく。先ほどの「未開の地に移住者がやってくる」という感覚は、まさにこれだったのだと思う。

ソニックガーデンに集まった人たちは、「いいソフトウェアをつくる」というビジョンに共感し、「プログラマを一生の仕事にする」という価値観を共有していた。しかし、日々の仕事で取り組むミッションは、一人ひとり異なる。それぞれのお客さまの現場で、それぞれのチームの一員として、それぞれのミッションに向き合っている。

つまり、ソニックガーデンはチームではなく、コミュニティだったのである。チームはお客さまとの間に生まれるもの。ソニックガーデンという会社は、同じ志を持つプログラマたちが集い、技芸を磨き合うコミュニティだった。

実践が先、理論は後だった

ソニックガーデンはチームである必要がなかった。むしろ、コミュニティだからこそ、長く続けられる場になり得た。チームはミッションが終われば解散する。しかし、コミュニティは続いていく。技芸を磨き続けるには、終わりのない場が必要なのである。

この「チームではなくコミュニティだった」という認識は、最初から持っていたわけではない。コミュニティという概念を学んでから組織を設計したわけでもない。理想を掲げて実践していたら、自然とそうなっていた。振り返ってみて、ようやく言葉がついたのである。

実践が先で、理論は後だった。

管理をやめたのも、徒弟制度を取り入れたのも、独自の評価の仕組みをつくったのも、最初から狙ってそうしたわけではない。コミュニティとしてのソニックガーデンを、いい感じに運営しようとした結果、一つひとつの実践が積み重なっていった。理論や方法論を先に学んで適用したのではなく、目の前の課題に向き合い続けた先に、それぞれの形が生まれた。

技芸を磨く場は、設計してつくるものではなく、理想を実践し続ける中で自然と育っていくものなのかもしれない。そして、そうした場は、チームよりもコミュニティと呼ぶ方がふさわしいのではないだろうか。

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倉貫 義人

「納品のない受託開発」を提供する株式会社ソニックガーデンの創業者で代表取締役。アジャイル開発は原点。経営理念は「いいソフトウェアをつくる。」「一緒に悩んで、いいものつくる。」「いいコードと、生きていく」著書「ザッソウ」「人が増えても速くならない」など多数。「心はプログラマ、仕事は経営者」をモットーに、ブログ書いてます。

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