(UnsplashのSandie Clarkeが撮影した写真)

コミュニティ型の組織で人間関係を耕し続けるカルチャーマネジメント

前回の記事では、ソフトウェアでは内部品質を高めることが変化への適応には大事で、それを経営にも取り込んでみたら良いのではないかと書きました。

今回は、経営の内部品質を考える観点のうち「カルチャー」について考えます。

カルチャーはマネジメント(良い感じに)するもの

まずカルチャーの重要性は、改めて語るまでもないでしょう。ドラッカーですら「文化は戦略に勝る(”Culture eats strategy for breakfast”)」という言葉を残しています。

ただしカルチャーが重要であることはわかっていても、形のあるものではないため、どう取り組めば良いのか難しいところです。たとえば、ミッションやビジョン、価値観といった言葉で表現すれば良いかというと、それも大事でしょうが、それだけではないでしょう。

私たちソニックガーデンは、特定の目的やゴールありきで集まった組織ではないコミュニティ型の組織です。プログラマとして腕を磨き続けることや、仕事をポジティブなものと捉えて遊ぶように働くことなど、自分たちなりの理想のあり方を続けていくことを望んでいます。

皆で一体となって何かを達成するというよりも、今ある関係性や状態をより良くして、持続的に維持・発展していけることを望むとしたら、何かしらカルチャーっぽいものを定義して、それを頑なに守り続けるとか、みんなで復唱して覚えるというのはフィットしていません。

私たちのカルチャーへの取り組み方は、自分たちにとっての良いカルチャーとは何かを考え、自分たちでアップデートし続けていくこと、それは終わりのない「カルチャーをいい感じにすること」すなわちカルチャーマネジメントだと考えました。

そう考えると、私たちにとってカルチャーへの向き合い方が少しずつわかってきました。

「正解の暗記」よりも「考え続ける」

組織が出来たばかりの頃、人数も少ない時はカルチャーを共有する必要はありませんでした。むしろ、そこにいる人たちの共通項や考え方こそがカルチャーと言えたからです。特別に何かする必要などなかったのです。

そこから少しずつ人が増えていき、採用の際にはカルチャーがフィットするかを確認したり、入社前後からカルチャーを伝えていくようになります。組織が大事にしている考え方や仕事の進め方などを身につけてもらうのです。

私たちの場合、入社したらKPTを使った「ふりかえり」は必ず実施されます。それも、マネージャやメンターが付いて、ソニックガーデンらしい仕事の仕方が出来ているかどうかフィードバックを続けていきます。

まずは目に見える行動をチューニングすることになりますが、ふりかえりは内省の時間でもあるので、行動の根本にある考え方にも向き合うことになります。ふりかえりによってカルチャーの根にある哲学のすり合わせを行なっていきます。

私たちソニックガーデンにとっては、ふりかえりを続けることこそがカルチャーとも言えます。同様に、YWTを使った「すりあわせ」も実施しています。自分と組織の進む道のすり合わせ。これも私たちのカルチャーになっています。

ふりかえりも、すりあわせも、重要なポイントは組織側からの一方的な正解がないことです。カルチャーは、その時々の状況に応じて変わっていくものです。正解がないからこそ、皆で考え続けなければなりません。考えていきましょう。

「浸透させる」よりも「合っている」

ある程度の人数が増えて、一緒に過ごす時間が長くなると、組織にカルチャーらしきものが作られていきます。大きくなっていく組織において、バラバラになってしまいがちな考え方や仕事の進め方を揃えるために、カルチャーの浸透は欠かせないように思います。

それまで得た経験やノウハウから転化した行動指針や価値観を揃えることは、生産性に影響します。しかし、カルチャーを浸透させるというスタンスでいるのは、場合によっては正解を押し付けることになったり、コントロールしようとすることに繋がります。

また、たとえフィードバックによって行動は変えられても、根本にある考え方を変えることは難しい人もいます。そうした人にまで無理をして変わるようにエネルギーを注ぐことは、お互いにとっても、もったいないことかもしれないとも考えています。

そのため、やはり採用時のカルチャーフィットがとても重要になります。行動やプロセスのすり合わせから始まって、共通の価値観を見つけ、仕事に限らず人生の哲学までを互いに知るには時間がかかります。時間をかける以外に今の所なさそうに感じています。

そもそも、本当の自分らしさを封印して、組織のカルチャーに合わせていこうとすると、いずれ無理が出てくるでしょう。なるべく自分のままでいて、それでもカルチャーに合っていると感じられるなら、その方が良いはずです。

一方で、新卒採用のように組織で働いたことのない状態だと、まずは組織のカルチャーを知って身につけていくことができます。仕事を通じて、仕事に対する考え方を深めていくことになりますが、そこで最も大事な素養は素直さでしょう。

「ビジョン」よりも「人の関係性」

「3年くらいいたら、自分の会社だと胸を張って言えるようになった」と、先日に合宿した際に私たちのメンバーが言っていました。入社前にも時間をかけるので、実質4〜5年くらいかけて、そう言えるようになったというのです。

そんな関係性にまでなれたら、もはや細かいプロセスや価値観の確認や浸透などは要らなくなります。お互いにとても信頼しあえていれば、もはや何をやっていてもソニックガーデンらしいと言えるようになるからです。誰かが認定することなどないのです。

そこまで時間はかかりますが、そうなれば個々人の持つビジョンが何であっても応援できる気持ちになります。もし今までの組織のビジョンにないような夢を持ったとしても、それを実現できる場として組織があり、結果として組織のビジョンもアップデートされます。

特定のミッションを持たないコミュニティ型の組織だからこそ、そこにいる人のビジョンは多様であっていいと考えています。ただし、それが誰でも良いかというと、そうではなくて、やはり長い関係性を持った同士だからこそ成立しうるのです。

入社したら即、関係性が出来上がる訳ではありません。ビジョンを応援しあえる仲間になれるかどうかは契約関係で成立するのではなく、助け合ったり、信頼される振る舞いをしたり、仕事はもちろん仕事以外でも関係性を築くことで出来上がります。

私たちにとってカルチャーとは、ビジョンやミッション、価値観も大事だけれど、それ以上に関わってくれる人たちとの関係性にも宿っているのだな、と思うようになりました。そして、これも時間がかかるのだから、焦らずにいきましょう。

「キャッチコピー」よりも「語り合う」

カルチャーに正解はないし、そもそも関係性も要素ではある一方で、言語化していく部分は続けていきたいと考えています。自分たちが会社や仕事をどう捉えているのか、暗黙的な感覚だけでなく言葉にすることで捕まえることができます。

一方で、ミッションやパーパスといった形で一言にまとめることは、まだまだ難しいと感じています。「プログラマを一生の仕事にする」と言ってますが、これはいくつかあるビジョンのうちの一つであり、世の中に対するというより自分たちの理想に過ぎません。

他には、セルフマネジメントを身につけて自分も他者も活かせる人たちが、それでもいたいと思える組織であること、一生懸命に仕事に取り組むと、それが周りから遊んでいるように楽しそうに働いていること(遊ぶように働く)であったり、色々とあります。

もうしばらくは、良い言葉やキャッチコピーが見つかるまでは、このブログや社長ラジオといった形で短くはないけれど言語化することは続けていければと考えています。それも、ある意味で私たちソニックガーデンのカルチャーかもしれません。

そういった意味では、私たちはわかりにくいものや白黒がつけられないものを、誰かにわかりやすく答えを出してもらったり、割り切ったりしてもらうよりも、自分たちで納得いくまで話し合って、理解できるように努めてきたように思います。

最近は、月に1度は「全体会」と称して全社員が集まって、全員で会社のことを考える場を用意しています。そこで、簡単に答えの出せないような会社の価値観やあり方について、ブレイクアウトルームで数人単位で語り合うようにしています。

「完成させる」よりも「更新し続ける」

全体会ではカルチャーについて語り合いますが、それをアウトプットの形には今の所していません。会社や同僚のことを考える時間が増えると、その対象のことが大事だと思うようになるはずで、語り合うプロセス自体に意味があると考えているからです。

互いのことを知り合う関係性が広がって、会社のことを考える機会を増やすために、普段の業務に加えて、会社に関わる仕事をすることも推奨しています。プロとしての業務だけに専念してしまうとなると、アウトソースの関係に近くなってしまいます。

カルチャーは組織に存在し、組織を構成するのは一人一人になるのだから、カルチャーマネジメントは組織にいる誰かの仕事ではなく、全員で少しずつ取り組んでいくものだと考えています。その旗振り役として経営者や人事部がいるとしても、です。

カルチャーに取り組むのは、成長を続けるサービス開発に似ています。特に、人が増えていく間は組織自体が変化していくので、それに合わせたカルチャーの取り組みも変えざるを得ません。実験と検証でバージョンアップを繰り返す、まるでプロダクト開発のようです。

カルチャーの取り組みは、どこかで完成を迎えるようなものではなく、ずっと時間とお金の両方について一定の投資をし続けるものです。必ずしも実を結ぶかどうかはわからないけれど、投資と考えれば、そういうものです。

ここ最近の私たちで言えば、自由が丘に加えて岡山にもオフィスを開設しました。全員が集まるためではなく、若い社員たちが関係性を構築し、仕事の仕方も学びやすくするための場として用意したものです。合宿なども再開しています。

リアルの場を使った関係構築の話は、また別の機会に。

***

カルチャーについて改めて考えてみると、その取り組み自体にカルチャーを感じるものになりました。時間をかける、終わりを決めない、削ぎ落とさない。

プログラマ集団の私たちは効率厨のところがあるけれど、効率化して良い部分と、効率化せずにあえて時間をかける部分があることを知っています。そうして、本質的に時間をかける部分には、じっくり取り組んでいきたいと考えています。

それって、私たちソニックガーデンの名前の由来でもある、良いソフトウェアを作るには工数よりも時間が必要だという考え方に通じる部分があります。やはり私にとって組織はソフトウェアなのです。

倉貫 義人

株式会社ソニックガーデン代表取締役社長。経営を通じた自身の体験と思考をログとして残しています。「こんな経営もあるんだ」と、新たな視点を得てもらえるとうれしいです。

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