生産性の高い組織を実現するための小口化の原則

生産性の高い組織を実現するための小口化の原則

高い生産性を実現する方法は2つ。1つは時間あたりの生産量を上げること、もう1つは無駄を省いてロスを減らすことだ。

では後者の無駄を減らすためにはどうすれば良いだろうか。「無駄をなくそう!」なんて掛け声だけで出来るならば苦労しない。

様々な経験から、無駄を省くには原則があることを発見した。それは、大きな単位で扱うと無駄が多くなるが、小さな単位にすると無駄は減らすことができる。すなわち小口化することだ。

本記事では、無駄を省くための「小口化」とその効果についてまとめた。

ソフトウェア開発における無駄の原因

ソフトウェア開発では昔からウォーターフォールというやり方で開発されることが多かった。

作りたいシステムがあったら、最初に要件定義と言って要件を洗い出して確認する。次に、その要件を満たすような設計を行う。すべて設計が終わったら一斉にプログラミングして、最後にテストをして品質を確保して出荷する。

このやり方は、一見すると効率的だ。それぞれの工程ごとに専門性があるし、同じ工程は一度に済ませた方が生産性は高い。しかし、実際にはそううまくはいかない。

色々な問題がある中でも最も大変なのは、出来上がったものが、欲しかったものと違っていたということが起きることだ。もしくは、作ってみたものの使われない機能ができることもある。

そうなる前に、もっと早く動くもので確認しておけば手戻りや無駄に作ることも少なかったに違いない。

そこで工程ごとに一斉に作るのではなく、動くものまで一気通貫で少しずつ作っていく方法が注目されるようになった。それがアジャイル開発と呼ばれているものだ。

バッチサイズの大きさがもたらす無駄

工場や物流の世界で、一回に処理する量をバッチサイズやロットサイズと呼ぶ。バッチサイズが大きい方が、まとめて処理をすることができて効率的なように見えるが、必ずしもバッチサイズが大きければいいというわけではない。

リーンスタートアップという本は、手紙を封筒に封入する作業があった際に2つの方法で試した実験が載っている。1つは、すべて折ってから、一気に封入して、まとめて宛名と切手を貼るというバッチサイズの大きな方法。もう1つは、1枚ずつ折って封入して、宛名と切手を貼って仕上げていくバッチサイズの小さな方法。

果たして、どちらの方が生産性が高かったのか?・・・こちらに答えがある。

そう、バッチサイズが小さい方が早いのだ。

リーンスタートアップの要は、このバッチサイズを小さくするという点にある。MVPと呼ばれる最小で価値のあるプロダクトを作って市場で確認しようとするのも、作る前に顧客を見つけにヒアリングにいくのも、小口化して無駄を省くという考え方に基づいている。

アジャイル開発にも、リーンスタートアップにも共通しているのは、期間や物量の単位を小さくするということだ。小さくすれば無駄を省くことができるのだ。

小口化することで負担を減らす

サラリーマンには馴染みが薄いかもしれないけれど、個人事業主や副業をしている人は確定申告をしているはずだ。税金が還付されるのは好きだが、確定申告が好きという人はあまりいないだろう。処理が煩雑で面倒だからだ。

しかも、一年に一度しかしないものだから、どうやって書けば良いのか、手続きはどうか、忘れてしまっている。だから、とても億劫なものという印象を持っている人は多いのではないだろうか。

これがもし、毎月あるとしたらどうだろう。毎月あんなことをすると思うと恐怖だけど、12分の1の量でいいわけだから、かなり分量は減る。毎月のことならあまり忘れることもなさそうだ。毎月のルーチンにしてしまえば、心理的負担は小さくなるように思う。

実際には変えることはできないけれど、もし小口化できるなら効果は期待できる。

ソフトウェア開発の業界では、それまで社内で確認していた機能を、実際にユーザが利用する環境にソフトウェアを配置するリリースと呼ばれる仕事がある。テストをして手順書をつくり、問題が起きたらリカバリーできるように準備をした上でリリースを行う。けっこう心理的負担の大きな作業だ。

これも、プロジェクトの最後に一度だけやろうと思うと、相当に大変な負担になるが、私たちの会社だと、できるだけ頻度をあげて実施するようにしている。毎週のようにリリース作業を行い、複数のプロジェクトがあるので、頻繁に社内のどこかでリリースが起きている。

しょっちゅうリリースできるようにするために、テストやリリース作業を自動化したり、バックアップやリカバリーも簡単にできるように普段から準備するようになる。そうすると、リリース作業でさえも日常業務になってしまうのだ。

コミュニケーションの小口化

個人同士ではLINEやFacebookメッセンジャーなどのチャットを使っていても、ビジネスシーンではいまだにメールを日常的に使っている人も多いだろう。

メールを使ったコミュニケーションの難点は、受け取った相手の反応がすぐにわからないことだ。相手がどう受け取るかわからないので、送る側は誤解されないように気をつけて書こうとするし、必然的に長くなってしまう。

そうして長く書かれたメールは、受け取る方にとっても重たいものになり、また返事が遅れるということもよくある。一度ずつの単位が大きくなってしまっているからだ。分量と期間が小さくなれば、もっと気軽にコミュニケーションとれるのに。

そこでコミュニケーションを小口化する手段としてチャットは有効だ。チャットを使ってリアルタイムに相手の反応を伺いながら話ができるなら、不必要に長い文章を書く必要がなくなり、手っ取り早く伝えられる。

とはいえチャットなのに長いメールのような文章を送ってくる人もいるが、それはツールの問題ではなく、リテラシーの問題だ。相手との小さなやりとりを通じてコミュニケーションを完成させる方が無駄がない。

フィードバックの機会を増やす

優れた成果物にするためには、より多くのフィードバックを受けた方が良い。それも早い段階からフィードバックを受けることで軌道修正しやすくなるし、手直しのダメージも少なくなる。

ふりかえりを定期的に実施するのも、フィードバックの機会を増やすことになる。半年や1年の単位でふりかえりをしようとしても、とてもじゃないが覚えていないし、フィードバックも難しい。せめて一週間単位で行うのが良いだろう。

慣れてくれば、もっと短い単位でふりかえりをしても良い。一週間に一度ということに縛りをもって、次のふりかえりまでモヤモヤした気持ちを抱えていては生産性に響くし、改善できることがあるのに改善しないのはもったいない。

ふりかえりの頻度を増やしていけば、一度の時間も短くなる。常に軌道修正ができるようになることが究極の状態と言える。お客様との打ち合わせがあったら、それが終わった後に社内のメンバーでふりかえりをしたりしている。リリース作業も一緒にやったあとにふりかえりをする。

フィードバックの機会をどうすれば増やすことができるのか、を考えていくことは小口化での無駄の削減に繋がるだろう。

タスクばらしで小口化する

タスクばらしをするのも、仕事の小口化に繋がっている。仕事というのは、途中の状態では意味がない。いくら進捗率を伝えても、仕事が進んだことにはならないのだ。仕事が進むというのは、仕事を終わらせることなのだ。

しかし、大きな仕事のままでは、終わらせるまでに時間がかかってしまう。それでは、そのリードタイムはなんの進捗もないことになってしまう。そこでタスクばらしをしよう。

タスクばらしをすることで、大きな仕事を小さな仕事の集まりに分解する。そして、小さくなった仕事を終わらせていくことで、仕事は進むように、進んでいることが見えるようになる。

また、せっかくタスクばらしをしたのに確認する機会の頻度が少なければ意味が薄くなる。そこで、進捗のミーティングも小口化することを考えよう。たとえば、朝会を実施するのも良いだろう。毎朝、少しずつ進捗を確認していけば、まとめて一気に確認する必要がなくなる。

小さくして頻度を増やすことが小口化というわけだ。

小口化すれば自立する

ビジネスの面でも、小口化することは重要になる。大口の顧客を抱えることは、経営としてありがたいことでもあるが、事業継続のリスクにもなる。

というのも、大口顧客を持ったことで売上の大きな範囲を依存することになってしまうと、いなくなったら会社が傾くとなれば下請けのような関係になってしまいがちで、本当のパートナーではいられなくなってしまう。

また、大口顧客だからと特別対応をするようになるとオペレーションコストがぐんと上がってしまう。なるべく例外を作らないようにした方が効率的だ。

取引を、なるべく数を多く分散させておくことでリスクヘッジが可能となる。これも小口化の一つと言える。

サラサラな組織

小口化を語るとき私は、人間の身体の血流がサラサラかドロドロか、というイメージを思い浮かべている。

不摂生をして不健康になれば、血中の塊が大きりドロドロになって流れが悪くなってしまう。それが、いずれ血栓になって重大な病気を引き起こしてしまいかねない。

血液の粒度が小さければサラサラになって、流れがよくなる。血の巡りが良いと、やはり健康な身体でいられる。

組織も同じようなもので、組織内のコミュニケーションや仕事の流れがサラサラであればうまくいっている。そのために、なるべく停滞をしないように小口化していくことで、良い流れを作ることができる。

小口化をすることの大きな効果であり目的は、習慣化することにある。

大きな単位の仕事や取り組みは、どうしても特別なことになってしまう。特別なことは大変なので、たとえ良いことであっても取り組むことが億劫になる。それを、少しずつやっていくことで、ハードルをさげて気軽に取りかかれるようにする。小口化すると気軽になって、日々の中に溶け込んでいく。それはもう習慣と言える。

習慣になってしまえば、無理をせずとも続けることができるようになる。人間の身体も組織のあり方も、良い習慣が健康の秘訣というわけだ。

倉貫 義人

株式会社ソニックガーデン代表取締役社長。経営を通じた自身の体験と思考をログとして残しています。「こんな経営もあるんだ」と、新たな視点を得てもらえるとうれしいです。

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