このブログでは何度か「ふりかえり」の重要性とやり方について紹介してきた。

ふりかえりメソッド「KPT」の基本とはじめ方

ふりかえりは、チーム活動の改善や個人の成長を促すことに大変に役に立つ手法だが、それだけでなく人間としての成熟にも寄与するものではないかと長年やってきて感じるようになった。

本稿では、アジャイル開発で使われるレトロスペクティブと、人材育成で使われるリフレクションの二つのふりかえりを比較しつつ、ふりかえりの本質的な価値について考察してみたい。

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改善のためのレトロスペクティブと、学びのためのリフレクション

最近、人材育成の場面でも「ふりかえり」が注目されているらしい。そこでは、ふりかえりのことを「リフレクション」とも呼ぶ。リフレクションでは、得られた経験をもとに学びに転換することを目的としている。

一方、私たちが以前からやっているKPTを使った「ふりかえり」は、アジャイル開発で提唱されていたものが起源で、元の英語表記では「レトロスペクティブ」と呼ばれている。プロジェクトの改善を目的としている。

リフレクションとレトロスペクティブの違いは何だろうか。言葉の表現としての意味はさておき、本質的な違いはフォーカスしてる視点が違うように思う。

リフレクションは、経験を通じて得られた個人の中にある発見を言語化していくので、内面にフォーカスして内省することを大事にしている。そのため、マネージャや上司、コーチと個人ごとに取り組む。

一方、レトロスペクティブは、KPT(Keep/Problem/Try)にあるように、現実に起きたことと、そこからの改善に目を向けている。だから、一緒に活動したメンバー同士、チームで取り組むことが多い。

もちろん言葉の違いは瑣末なことで、どちらにも学びの要素、改善の要素が含まれているし、一方で共通しているのは、過去をふりかえりはするが反省会ではなく、未来を見据えた取り組みだということだ。

レトロスペクティブに適したKPTと、リフレクションに適したYWT

こうして整理して思い返すと、私たちソニックガーデンで取り組んできた「ふりかえり」には、レトロスペクティブの観点とリフレクションの観点の双方が含まれていたように思う。

チームのメンバーと一緒に取り組んだ仕事が終わったあとにふりかえっているのは、レトロスペクティブの観点が大きいし、中途採用のオンボーディングで定期的にふりかえっているのはリフレクションの観点が大きい。

レトロスペクティブで使われるKPTの手法は行動の改善には適しているが、リフレクションにはうまく活用できないケースがある。リフレクションに向くのは、これも以前から本ブログで紹介しているYWTではないだろうか。

KPTは「Keep」「Problem」「Try」の頭文字で、良かった行動は続けて、悪かった行動は見直して、新しく試してみることになる。ここで挙げる項目は、感情ではなく行動のことであり、だからこそ改善できる。

YWTは「やったこと」「わかったこと」「つぎにやること」の略。まずは事実を確認する。その上で、その事実を経験して何を感じたのか、どう考えたのか、学びを抽象化して、その先どうしていくのかを考える。

とはいえKPTもYWTもフォーマットにすぎないので、初心者のガイドとして使う分にはよいが、必ずしも縛られすぎる必要はない。大事なことは、レトロスペクティブとリフレクションの二つの観点を持つことだ。

チームで取り組むレトロスペクティブと、個人で行うリフレクション

レトロスペクティブでは取り組みの改善をしていくので、個人の行動にも活かせるし、チームの活動にも活かすことができる。個人であれば、より良い仕事の進め方や、習慣を見直す機会になるため教育に活用できる。

たとえば、仕事で伝達ミスが起きてしまったり、寝坊して遅刻が多かったりなどの具体的な問題の解決を、具体的な方法まで考える。そのため、フィードバックする人は仕事の中身を知っている方が良い助言ができる。

チームでのふりかえりは、レトロスペクティブの観点が大きい。共通のプロジェクトや取り組みの改善をすることになるので、共通体験をしているからこそ話ができるし、ふりかえり行為がチームビルディングにつながる。

リフレクションでは、自分自身に向き合っていく行為になるので、チームというよりは個人での活動が主体となる。ただし、客観性を身につけていくために、慣れないうちは誰かと一緒に取り組んだ方が効果的だろう。

リフレクションとは「反射」なので、今の状態を伝える鏡の役をする人がいると良い。リフレクションの相手役は変化を強制する必要はなく、ありのままの状態を伝えて本人に気付いてもらうことで行動を促す役割を担う。

人に顔を洗えと言っても聞かないかもしれないが、鏡を見せて顔が汚れていることに気付かせてあげると、自ら顔を洗う可能性が出てくる。リフレクションの相手役の取り組みは、いわゆるコーチングに近いかもしれない。

レトロスペクティブで得られる効果と、リフレクションが果たす成果

レトロスペクティブもリフレクションも、継続していくことで効果がある。一度だけのふりかえりでは改善されたかどうかも判断がつかないし、自分のことを知ると言っても、それは日々変化していくものだからだ。

レトロスペクティブをチームで取り組むことで、自分たちのことを自分たちで改善していくことになる。それが繰り返されると、自分たちのやり方は偉い誰かが改善するのではなく、自分たちで変えていっても良いと認識が変わっていく。

変えることができるという成功体験が続くと、チームのことが自分ごと化していく。そうすると、また改善しようという意欲も湧く。このように改善していく姿勢を成長マインドセットと呼ぶが、それが身につくだろう。

リフレクションでは自分の行った行動と結果から学びを言語化していくので、続けることで自分がどういった人間なのか理解が進むようになる。そうすれば、より上手に自分自身を活かすことができるようになってくるだろう。

私たちソニックガーデンでは、セルフマネジメントを重視した経営をしている。全員にセルフマネジメントを身につけてもらうのだが、自分を活かすためには己を知ることが出発点になるので、リフレクションが必須である。

日記を書くのも良いリフレクションになる。より客観視するために、誰かが読むことを前提に書くブログのようなものも良いかもしれない。私たちの会社では、ふりかえりの内容を含んだ日報を書くことを推奨している。

生産性を高めるレトロスペクティブと、人間性を磨くリフレクション

セルフマネジメントを構成するのは、技術面と人間性の両面がある。技術面は、スキルや仕事の進め方といった生産性に関わるものだ。少なくとも一人でも仕事で価値を発揮できないとセルフマネジメントは成立しない。

一方で、どれだけ技術力があっても人間性が欠如していては、周囲との関係性も悪くなってしまうし、それは結局のところ自分の成果を発揮させることを難しくしてしまう。人間性もセルフマネジメントの大事な要素だ。

レトロスペクティブのふりかえりを続けることで、技術面の生産性を高めていける。この観点は非常に大切だけど、この観点だけでは伸び悩んでしまうだろう。リフレクションでの内省で人間性を磨くことができる。

生きている限り、色々な心をザワつかせることは起きる。仕事に一生懸命に向き合うほどに、大変なこともあるだろう。他人と比べて落ち込むこともあるだろうし、自分のことなのにもどかしく感じることもあるだろう。

そうしたときにこそ、自分の心に静かに向き合って、できていないことよりも出来たことに目を向けていけば、きっと学びの機会になるはずだ。そうして内面の成長すなわち人間として成熟していくことができる。

私たちの会社では、個人の自立を促すことを大事にしている。そのために、技術面での成長だけでなく、人間としても成熟できるような場にしていきたいと考えていて、そのためには「ふりかえり」は欠かせないのだ。

「ふりかえり」から始めよう

チームを良くしたいと考えているマネージャや、成長したいと考えている個人から相談を受けた時は、まずは「ふりかえり」から始めてみたらどうだろうか、とアドバイスしている。

そうすると不思議な顔をされることがある。何もしてないのに、まずはふりかえりをしろというのだから。しかし、今の状態を見てみることから始めないと、何をしたら良いかわからないはずなのだ。

そして、何をすれば良いのかは目的と状況によって違うのだから、必ずコレだけすれば良いという正解はない。だから、自分でふりかえってもらい、考えてもらうことしかできない。だから、ふりかえりから始めてもらう。

ふりかえりは、本を読んだ知識だけでは上手にはできない。自転車と同じで、何度も練習をすることで身につけることができる。徐々に上手になれば、複利的に成長と成熟が進むのだから、早めに始めるに越したことはない。

そして、ふりかえりをするときには、レトロスペクティブとリフレクションを意識してみるのは良さそうだ。

拙著「管理ゼロで成果はあがる」というチーム作りの本を書いたときも、第一部の第1章にもってきたのが「ふりかえり」だったのでした。