地方に暮らすエンジニアの抱える課題と希望

地方に暮らすエンジニアの抱える課題と希望

先日、島根県の松江で行われた「松江Ruby会議06」というイベントで講演をしてきました。講演のテーマは『「納品のない受託開発」とエンジニアの働きかたのこれから』というもので、「納品のない受託開発」「地方」「Ruby」「ギルド」について話して欲しいと依頼を受けました。

色々と新しいネタも入れた資料ですが、今回の記事では、地方で働くエンジニアについて、その講演で話したことをもとに考えてみたいと思います。

“地方”を言い訳にしている人たち

あちこちの地方に講演で伺うことも多く、懇親会などに参加すると地方における問題を聞かされます。確かに様々な問題があるのもわかります。だからといって何か提案をしても「そうはいっても地方だと難しい・・・」という言葉をよく聞くのです。

しかし、果たして本当に「地方」が問題なのでしょうか。

そこで思い出すのは、東京にいても現状を変えようとしない人たちの言葉です。彼らはこう言います「そうはいっても小さい会社だから難しい・・・」逆に「そうはいっても大企業だと難しい・・・」と。まったく同じことを言ってるように思います。

世の中には、たとえ地方だろうが、会社が小さかろうが、大企業にいようが、うまくやっている人たちはいます。その人たちに共通するのは言い訳などしないということでしょう。どんな状況に置かれても、何の障害もないなんてことはありません。

「地方」ということを挑戦しない免罪符に使っているのではないでしょうか。何をするにも難しい問題があるのは当たり前で、その問題を解決することこそが経営だと思います。そう考える人が少ないというのが致命的な問題かもしれません。

エンジニアにとっての格差はない

経営から見た場合はそうですが、技術やエンジニアとしてはどうかといえば、地方にも優秀なエンジニアはたくさんいる、という印象をもっています。

メインフレームの時代ならいざ知らず、今はインターネットやオープンソースがあり、どんな技術や情報も簡単に手に入る時代です。また、開発用のPCだって個人で手に入るし、ITに関して言えばどこにいても大きな格差などなくなりました。

そうなると、地方にいても勉強しようと思えばできるし、クラウドソーシングを使って仕事の経験も積めるし、スマートフォンのアプリを作って利用者に届けることだってできます。言い訳をする余地はありません。実際、やってる人は、本当に地方にいることなど感じさせない方々ばかりです。

ただビジネスとなると別で、そこはどうしても所属する会社が取ってくる仕事をしなければならないし、フリーになってもその地方の会社の下請けや常駐のような仕事をすることが多かったりするようです。それは非常にもったいないことです。

今はどこにいたって仕事は出来る

私たちソニックガーデンでは、在宅勤務でも社員やパートナーの応募をしていますが、それは優秀なエンジニアならば場所に捉われずに一緒に働きたい、という思いからです。

リモートワークをしながらも「納品のない受託開発」のように、顧客と直接に話をして要求を聞き出したりするような仕事も、まったく問題なく出来ています。オンラインで仕事をするための環境は、技術的には完全に整っているといえます。できないところがあるなら、それはただの気持ちの問題でしょう。

私たちの会社では、むしろリモートワークを推奨しています。もちろん、東京に本社オフィスがあるので、そこを使うことは自由ですが、オフィスに来たから仕事している、という発想ではなくなっています。私たちにとってのオフィスは勤怠管理の場所ではなく、ただ働きやすい場所だから出社するのです。

地方で在宅勤務のリモートワークをする社員と、東京のオフィスで働く社員とで、会社によっては給与格差があるという話を聞いたりしますが、私たちの会社では、地方に住むからといってそういった格差をつけることはしていません。どこに住んでも同じ水準なのです。そうなると、地方で働く方が、むしろお得かもしれません。

顧客を変えなければ、変われない

「この地方を活性化する!」という志をもった方もたくさんいます。しかし、その志を持って地元の企業を対象に受託開発をするのは戦略として不適当です。地方で地方の企業相手に受託の仕事をするというだけでは、地方の中でお金が回るだけで、それほど活性化に繋がらないからです。もちろん、意味がないわけではありません。

ただ、地方の活性化が外貨を稼ぐということであれば、受託開発ではなく製品販売やEコマースなどの形で、全国や海外に向けてサービスを提供する事業をすべきでしょう。従来の受託開発の発想のままでは、大手の下請けやニアショアという形での不利な仕事しかなくなります。

お金の流れを捕まえることが商売の基本です。大きなお金が流れているところを捕まえて、そこから自分のところに持ってくるのが商売です。「納品のない受託開発」での顧客の多くは東京ですが、その仕事を在宅勤務という形で地方で実現しています。それは地方の活性化に繋がっているのでは、と考えています。

地方を活性化したい志があるならば、地方だけに目を向けず、大手の下請けに甘んじるのではない商売をしましょう。これまでの顧客を変えずに、現状を変えたいというのは無理があります。商売の仕方を見直す前に、商売の相手を見直すのです。

地方にいながら社会を変えていく

顧客を変えるというのは、経営の立場でないと出来ることではありません。顧客を変えるというのは新規事業を始めるのと同じことで、経営者であっても相当に困難なことなのです。経営者ではなく、エンジニアとして顧客を変えたければ、身を置く環境を変えるのが一番の近道です。

私には「プログラマを憧れの職業にする」というミッションがあり、そのために「納品のない受託開発」を広め、IT業界の商習慣を変えようと行動しています。多重請負をやめるためには発注者が変わるべきという話がありますが、私はそうではないのではないか、と思っています。

この現状を作り出しているのは発注者ではなく、下請けや派遣でのしょうもない仕事を請ける会社があることです。そして、そうした会社であっても甘んじて働いている人たちがいるからなんです。そういう不利な条件でも働き、不利な条件でも仕事を請け負う会社がいるから、発注者も使うのでしょう。

この多重請負の業界構造を作り出しているのは、多重請負で苦しんでいる下請けにいる人たち自身なのです。そうしたところから優秀な人はもっと独立した方が、自分のためでもあり、世のためでもあるのです。ただし、独立しても常駐派遣をしては意味がありませんし、下請け仕事をしても意味がありません。それでは多重請負の再生産が起きるだけです。とはいえ、自力で仕事を取ってくることが難しいのもわかります。

そこで、私たちが始めたのが「納品のない受託開発」のオープン化です。フリーランスになって「納品のない受託開発」に取り組むことが出来る組合(ギルド)を作りました。組合に参加すればチームの一員として「納品のない受託開発」に取り組むことができつつ、フリーランスとして自分のしたかった挑戦に取り組むことができるのです。

その際に、地方であることはハンディキャップになりません。むしろ、地方に住みつつ「納品のない受託開発」を実践し、豊かでゆとりのある働きかたをすることは、エンジニアにとっての理想の一つと言えるのではないでしょうか。そして、そうしたフリーランスを増やしていくことがIT業界を変えていくことにもつながるのです。

これが私の目指すビジョンです。

Country landscape
Country landscape / Colby Stopa

倉貫 義人

株式会社ソニックガーデン代表取締役社長。経営を通じた自身の体験と思考をログとして残しています。「こんな経営もあるんだ」と、新たな視点を得てもらえるとうれしいです。

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