採用を「経済合理性」で戦わない〜知名度よりも、深く狭い信頼を

採用を「経済合理性」で戦わない〜知名度よりも、深く狭い信頼を

新しい年が始まり、最初の全体会議で改めて「ソニックガーデンの採用」について話をしました。昨年の2025年、私たちは一般的な求人媒体やスカウトといった、いわゆる「王道」の採用手法に投資してみました。

しかし、結果として見えてきたのは、自分たちのゴールと手段の間に生じる「ズレ」でした。私たちが目指すのは、広く浅い知名度ではなく、深く狭い信頼の積み重ねでした。効率的な採用を否定するわけではありませんが、私たちがなぜその道を選ばないのか。その理由を、私たちが大切にしている「文化資本」と「関係資本」の観点から紐解いてみます。

あえて試した「普通の採用」の違和感

昨年の実験以前の私たちは、いわば「オーガニック」な採用だけを続けてきました。

なんだったら創業当時はホームページの片隅にひっそりと募集を出しているだけで、社員が20人くらいの頃までは「これ以上、人は増やさなくていい」とすら考えていたほどです。まるで山奥の村に住む住民たちが、「今のメンバーだけで十分楽しいじゃないか」と、外の世界に対して少し閉鎖的になっていたような状態でした。

しかし、組織が持続していくためには、若い世代にバトンを繋いでいく必要があります。なにより、私たちの考える「いいソフトウェアのつくり方」ができる人を増やしていきたいし、そうした文化を継いでくれる人を受け入れたいと考えた時に、若い人を採用することにしました。それが4〜5年前で、それがあって徒弟制度を導入しました。

結果として、今は若い人たちが活躍しながら、さらに若い世代を引っ張っていくような形ができました。そうして、若い人の採用にさらに力を入れるために、昨年は一般的な求人媒体やスカウトの送付など、外部の力を借りた「経済合理性の高い手法」に踏み込んでみたのです。

しかし、実際にやってみて分かったのは、私にとってそれはどこか「しっくりこない」という感覚だったのです。

「経済合理性」のゲームと、私たちのゴールの違い

なぜ、王道の手法が私たちには合わなかったのか。なぜ違和感を覚えたのか。それは、それらの手法が「経済合理性の戦い」を前提としているからではないか、と思うのです。

事業を拡大し、売上を上げ、利益を積み上げる。それだけを唯一のゴールにするのであれば、広告費を投じて「低コストで自社に貢献してくれる優秀な人」を効率的に獲得しにいく手法は、極めて正解に近いでしょう。しかし、私たちが大切にしたいのは、事業を育てること以上に「いいソフトウェアをつくること」そして、「いいソフトウェアを作る、いい人を育てること」なのです。

中学生向けのプログラミング部活動「セタプロ」や、大学生がトレーニングできる環境「トレセン」。これらは経済合理性だけで考えれば、到底説明がつかない活動です。私たちの目指すべきゴールが「経済的な成長」ではないのに、入り口となる採用の手段だけをその土俵に持ち込んで戦おうとしても、どこかで無理が生じるのは当然のことだったのです。

そんな不自然なやり方では、例え優秀な人が来たとしても、数年間だけ事業成長に貢献したら去っていく、そんな関係になってしまいます。数字は上がったとしても、それは私たちの望む組織の姿ではありませんでした。

私たちの原点にある「手触り感のある繋がり」

では、私たちの本来の強みはどこにあったのか。改めて原点を振り返ってみました。コロナ禍を経て、私たちのコミュニケーションは一時的にウェブが中心となりました。画面越しの数字やプロフィールで人を判断することに慣れてしまい、どこか「ウェブだけで完結できる」という錯覚に陥っていたのかもしれません。

しかし、過去の素晴らしい縁を思い返すと、そこには常に「リアルの接点」がありました。

かつて渋谷にオフィスがあった頃、私たちは定期的に飲み会を開催していました。その場にふらりと遊びに来てくれたことがきっかけで、今も一緒に働く仲間がいます。あるいは、地方での講演のあとの打ち上げ。そこで交わした何気ない会話を、相手は「あの時の話がきっかけで」と大切に覚えてくれていて、それが数年越しの縁になることもありました。

こうした、スペックや効率では測れない「温度感のある交流」こそが、ソニックガーデンというコミュニティの基盤を作ってきたわけです。

「文化資本」としての発信、「関係資本」としての紹介

これからの私たちが注力すべきは、単なる知名度を上げることではありません。私たちが積み上げるべきは、「文化資本」と「関係資本」の二つです。

ここで言う「文化資本」とは、単に多くの人に名前を知られることではなく、私たちの掲げる文化に深く共感してくれる人が増えることを指します。ブログを書き、本を出し、技術発信を続ける。その発信に触れて「この考え方こそが自分の求めていたものだ」と深く共鳴してくれる人が一人でも増えること。それは、会う前から価値観が同期されているという、私たちの無形の資産になります。

そして「関係資本」の重要性を再認識させてくれたのが、最近の出来事でした。かつて私たちの「弟子」として修行し、事情があって別の道を選んだ沖縄の元メンバーが、コロナ禍が明けた最近になって知人を紹介してくれたのです。自分は卒業したけれど「ソニックガーデンは本当にいいところだよ」と伝えてくれる。その信頼の連鎖によって、新しい仲間が加わり、今まさに現場で素晴らしい活躍を見せてくれています。

また、昨年取り組んだ「高卒採用」においても、成功の鍵はリアルの繋がりにありました。地道に学校へ足を運び、顔の見える関係の中で深く向き合ったからこそ、素晴らしい縁に恵まれたのです。

「広く浅く」ではなく「深く狭く」生きていく

世の中にある効率的な採用手法を否定するつもりはありません。ただ、今の私たちにとっては、広告を広く撒いて効率を追う戦い方よりも、もっと大切にしたいものがあると分かりました。採用に関しても、優秀な層から選ぼうとする方針よりも、価値観や倫理観の共感を前提においた方が良いと考えています。

そうなると、数は増やせません。それで良いのです。私たちが進むのは、「深く狭く」、そして改めて「リアル」を大切にする道になります。たとえ接する人数は少なくても、私たちの文化を深く理解し、信頼関係を築ける人とじっくり繋がっていく。

「この村は、入るまでは大変だし、入った後も常に挑戦が続くから大変な場所かもしれない。けれど、もしこの価値観が合うなら、これ以上面白い場所はないよ」

そう自信を持って言える住民たちと一緒に、これからもこの場所を大切に育てていきたい。今はそう考えています。

シェア ポスト
アイコン

倉貫 義人

株式会社ソニックガーデン代表取締役社長。経営を通じた自身の体験と思考をログとして残しています。「こんな経営もあるんだ」と、新たな視点を得てもらえるとうれしいです。

新着記事をお知らせするメールマガジンを配信中です。今後の記事も読みたい方はぜひ登録ください。

購読する
Social Change!

仕事を技芸とする文化を広げるメディア