やる気を引き出す組織マネジメント 5つの観点 〜 「やる気を出せ」と言わなくても良い仕組み

やる気を引き出す組織マネジメント 5つの観点 〜 「やる気を出せ」と言わなくても良い仕組み

高い生産性や品質を実現するためには、スキルや能力もさることながら、本人の仕事に対する気持ちも非常に大きな影響がある。

だからといって「やる気を出せ」と指示をして出るのなら苦労はない。むしろ誰かに言われてやるよりも、自分の意思で取り組んだ方が高い成果を出すことができる。

では、どうすればいいのか。本稿では「やる気」を引き出すために組織をマネジメントする上で何ができるのか、考えてみた。

楽しく没頭できた仕事に共通するものは何か

私は、学生時代からプログラミングをしてきた。学生時代にやっていたプログラミングと言えば、仲間たちと一緒に企画を考えて、それをプログラムとして作成することだ。

そして、完成したものをインターネットを通じてユーザに届けて、反応をもらって一喜一憂していた。それが最高に楽しかった。あの当時、誰かに指示されたわけでもないのに、いくらでもプログラミングに没頭していたことを覚えている。

その後、システム開発の会社に新卒で入社して驚いたのが、誰もプログラミングの仕事を楽しそうにやっていなかったことだ。

会社で働く人たちの仕事は、プログラムの設計図や仕様書が与えられて、それに従って自分の範囲だけの作業をすることだった。自分の作ったプログラムが使われる場面に立ち会えることもない。さすがの私も、そんな仕事は楽しいとは思えなかった。

この違いは一体なんだろうか。仕事だから楽しくないのだ、という結論は乱暴だし、そんな単純なことではないだろう。事実、私は学生時代ベンチャー企業で働いていたときは、仕事だったが楽しかったし没頭していた。

楽しく没頭できたとき、そうでないときの違いは何か、5つの観点で分析してみた。

その1、全体をわかって仕事できるかどうか

組織やチームでは、得意な領域を活かしたり、効率性を高めるために、役割分担して仕事をすることができる。その際に問題になるのが、分担した領域しか見えなくしてしまうことだ。

「その仕事だけなら、そこまで知る必要はないだろう」という侮る気持ちや、「あまり全体を説明しても難しいから、省いてあげよう」という優しさから全体像を共有しないことをしていないだろうか。

それで自分の範囲しか見えない状態になってしまっては、やる気は出ないだろう。

たとえ一部の仕事だけを任せるにしても、まずは全体像から共有しよう。自分の仕事は誰の役にたっているのか、誰からの依頼なのか、その全体像がわかっていれば頑張ろうとも思えるだろう。もしかしたら、良い提案が出てくるかもしれない。

NASAの清掃員の方に「あなたの仕事は何か?」と聞いたら、「私は人類を宇宙に送ることに貢献している」と答えたなんて逸話がある。それが本当の話かどうかはさておき、組織やチームのゴールを知っている方が頑張ることができるのは確かだ。

その2、作業ではなく仕事を任されているかどうか

「マニュアル通りにやってくれれば良い」そんな風に頼まれても、人はやる気は出ない。まして、決められた手順から外れないよう、規則や定義にしばられた中で働くとなったら、まるで機械だ。

そんな風に誰がやっても同じになる作業や、誰でもできそうな単調な作業でやる気を出すのは難しい。それは「作業」だからだ。

「仕事」と「作業」は違うものだと考えている。

「作業」とは、事前に定められた手続きに従って行う活動のことだ。一方「仕事」は、誰かに価値を届けるための活動になる。仕事で成果を出すために、途中で作業をする必要が出てくることもあるが、その逆はない。

仕事には工夫する余地があるが、作業には無い。仕事では、どうやって無駄を省いて効率をあげて、より効果的に価値を出すことができるのか、そのアプローチは任されるのだ。

自分で工夫ができると思えば、仕事に対する主導権が握れる。それはやる気につながるだろう。作業ではなく仕事を任せよう。

その3、仕事に取り組む理由があるかどうか

仕事のやり方を工夫するとき、ただ闇雲に効率だけを求めると、おかしなことになってしまうだろう。

もし手作りをウリにしている弁当屋なのに、やたら効率化した結果、手作り弁当じゃなくなってしまったら、その店の良さは消えてしまう。

どんな仕事にも目的はある。その仕事をしなければいけない理由があって、目指す目的地があるのに、そこを理解しないで工夫をしようとすると、頓珍漢なことになってしまいかねない。

なにより、仕事に取り組むだけの理由を知らずにいては、やる気を出すことは難しいだろう。

仕事に取り組む意義は何か、組織としての狙いは何か、ゴールやビジョンはあるのか、それらに共感できればやる気も出てくるし、改善するための工夫の仕方も変わってくるだろう。逆に共感できないような反社会的なビジネスだったら、やる気も出なくなってしまうはずだ。

さらには、仕事をする本人にとっても意味はあるのかどうか、その点もフィットできれば、より一層やる気も出るだろう。理由を語るところから始めよう。

その4、結果にフィードバックが得られるかどうか

誰も見ていない、誰からも反応がない、やっていても手応えを感じない。そんな環境で仕事を続けていくやる気は出るだろうか。よほどストイックな人でも無理だ。

自分のしている仕事に対して、何らかのフィードバックがあることで、意味のある仕事をやっているんだと感じることができる。

誰かのために働く、喜んでもらいたいという気持ちは大きなモチベーションになる。それなのに喜んでもらえた様子も見えないとしたら、頑張る気は起きないだろう。

自分がやった仕事に対して、良いことも悪いことでも、どちらにしても反応があることで働いている実感が得られる。

そして、フィードバックというのは、一度の大きな反応よりも、小さくても頻度の多い反応の方が良い。半年に一度だけの面談でこってりフィードバックされるよりも、毎週に少しずつ軌道修正するようなフィードバックをもらえた方がやる気は出る。

なんだったら、普段からのメンバー同士の雑談のようなコミュニケーションでも良い。互いの存在や仕事に反応することは、生産性に影響を与えるのだ。

また、お客様やユーザから直接フィードバックをもらえることが、なによりやる気に繋がる。できるなら、価値を生み出す人と、価値を享受する人の間に入る人やものを排除した方が良いだろう。

その5、成長できる挑戦をしているかどうか

簡単すぎて退屈な仕事や、難しすぎて一向に成果の出せない仕事は、楽しむことができないし、やる気も失われていくだろう。

最初のうちはチャレンジングで、そこから学ぶ要素の多かった仕事でも、長年続けていって慣れてくればくるほど、できることは増えるけれど退屈にはなってしまうものだ。

それは、まったく同じ仕事を続けていることが原因だ。どれだけ意義のある仕事だとしても、同じ仕事で慣れてくると、飽きてくる。

そうした状況に陥らないために、仕事の内容をチューニングしたり、新しいチャレンジを取り込めるようにしていくと良いだろう。新しいことへのチャレンジといっても、一気に難易度をあげると、それはそれでやる気を失ってしまう。

ただし組織やチームで働くメンバー側が自分から仕事の種類を変えていくのは難しいだろう。できるのは転職だけだ。だからマネジメントする側が、適切な難易度の仕事にチャレンジできるようにしていくしかない。

どういったチャレンジをしたいのか、今時点の習熟度はどれくらいなのか、そのコンセンサスを築くことから始めよう。

貴重な「やる気」という資源を無駄遣いしないように

ここまでの5つの観点が、本人の持っているやる気を、組織としては阻害しないようにするためのポイントになる。やる気を出させるというよりも、やる気を失わないようにするのだ。

そもそも、他人が人のやる気を無くさせることは簡単だけど、他人のやる気をコントロールすることなど不可能に近いと私は考えている。

組織やマネジメントでなんとかしようとしても、本人のプライベートでつらいことがあったりすれば、やっぱりやる気は出せないはずだ。むしろ、そんなときにも、やる気を出させようなんて酷な話だと思う。

だから、やる気などなくても一定の成果が出せるような仕組みを作ることが先にするべきことで、やる気があればさらに良いという状態を作った方がいい。

また、やる気なんて上がったり下がったりするもので、ずっとやる気がないままなんてことはないのだから、多少やる気がない時期があったとしても、それを助け合っていけるようなチームを作ることが先ではないだろうか。

倉貫 義人

株式会社ソニックガーデン代表取締役社長。経営を通じた自身の体験と思考をログとして残しています。「こんな経営もあるんだ」と、新たな視点を得てもらえるとうれしいです。

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