[インタビュー]企業に出版事業を立ち上げて、続けていく、そのために。倉貫書房の倉貫義人さんとミシマ社三島邦弘さんの話。(1)

[インタビュー]企業に出版事業を立ち上げて、続けていく、そのために。倉貫書房の倉貫義人さんとミシマ社三島邦弘さんの話。(1)

2026-01-23

どうして本をつくるのだろう。本をつくることで、なにを届けようとしているのだろう。

ミシマ社という出版社で働きながら、「倉貫書房」のプロジェクトにも関わるようになった私・ノザキはずっと気になっていました。ソニックガーデンの代表であり、エンジニアであり、経営者である倉貫さんが、なぜ今出版をやるのか。そして、今年で創業20年を迎えるミシマ社が、初めて企業の出版事業に関わるようになった背景とは。

本づくりに関わった人たちへのインタビューを通して、「本」そのものの可能性とおもしろさに、あらためてじっくりと向き合えたらと思っています。まずはこのお二人に、お話を聞いてきました。

IT企業で出版事業をはじめた理由

ーー倉貫書房の2冊目『新米マネージャー、最悪な未来を変える』がついに完成しましたね! 見本が届き、2月5日の発売を控えている今、率直にどんな気持ちでしょうか?

倉貫 
そうですね。作り方に関しては、1冊目の『私はロボットではありません』は本当に試行錯誤で、よくわからない中で作ってきたんですけど、今回は2冊目ということで、前作で得た知見を活かして作ることはやりきれたなと。

あとは、今回も装丁を鈴木成一さんに手がけていただいて、編集にミシマ社さんにも入ってもらっているので、1作目からさらにいいものに仕上がったと思っています。

どちらかというと、今はこれを世の中の人にどう届けていけるのかを考えていて、いいものができたからこそ、なんとかうまく届けたいなという気持ちです。

ーー本を作ることから、届けることへ、挑戦が広がっているということですね。

倉貫
でも、ここからが難しいなーと、思っていて。どうなっていくのか、ドキドキと不安と両方ある感じですね。

ーー最近は、本を作るハードルが下がっていて、リトルプレスなども盛り上がっていますし、文学フリマなど、個人が販売する場もどんどん拡大していますが、そもそも倉貫さんは、どうして企業で出版事業をやることになったんですか?

倉貫
僕は何冊か著書があるんですが、基本的には出版社の方と一緒に企画を練るか、出版社の方から「こういうテーマで書けますか?」というご提案をいただいて本を書いてきました。会社の取り組みや考えたことをいろいろと発信していたので、その中から「リモートワーク」とか「ザッソウ(雑に相談する)」などのテーマで書いています。

そのときって、書く=「商品として書く」ことになるので、僕自身が伝えたいことよりは、「売れるかどうか?」が大事なポイントで、それは当然当たり前の話なんですけど…。

じゃあその商品に、著者である僕がどう関与できるのかというと、企画と執筆するところだけになってしまって。商品を作っているはずなのに、読者や書店に関われるかというと、そうではない。結局は、著者は書き終えたら出版社に納品して終わり、みたいなところがあって、「あれ?なんか下請けで本を書いてるな」と。どうせなら、本の販売戦略にも関われたらおもしろいな、と自然に思ったんですよね。

簡単にできるとは思ってなかったんですけど、自分で取り組んでみたらなにか気づくことあるかな、やってみたいなっていう気持ちがあって。そう思いはじめてから実際に出版事業をスタートさせるまでには、4~5年以上かかっているんですけど、たまたま一緒にできそうな人がまわりにいてくれたので、じゃあやってみようかと迂闊にはじめてしまった(笑)。

システム会社で「納品のない受託開発」を15年 

ーーいくつかのタイミングがあったとはいえ、個人の活動ではなくて、仕事や事業の延長線上に、「出版」があがってくるのはおもしろいです。あらためて、ソニックガーデンがどんな会社なのか、教えてください。

倉貫
ソニックガーデンは、創業から15年目を迎える会社で、もともとは僕が大手のシステム会社の社内ベンチャーではじめた新規事業を、買い取る形でスタートしました。

主業としてやっている仕事はシステムの受託開発で、お客様がいて、僕らがシステムを作り、そのシステムでお金をいただくという形になるんですけど、その仕組みが少し変わっていて。「納品のない受託開発」というキャッチコピーをつけてやっています。

一般的な受託開発のビジネスモデルは、システムを最後まで作って、お客様に納品して、お金をいただいて、そこで関係性が終わるのが通常なんです。でも僕らは、提供しているシステムやソフトウェアは、お客様の事業が続く限り必要ですよね、もしくはお客さんの事業が続く限りは直したいですよね、という発想に立っています。

一度納品してしまうともう直せないし、納品するなら最初に全部決めなきゃいけないし、という状況を解決するために納品をなくし、月額定額にして長くお客様とお付き合いしていく。言ってみたら、顧問税理士、顧問弁護士のような形で、顧問でソフトウェア開発をパートナーとしてやっていく、そんなビジネスをやっているのがソニックガーデンです。これが15年続けている事業で、現在は100社以上のお客様にシステムを提供しています。

大事なのは、経済資本より、関係資本より、文化資本

ーー会社にとって、とても大事な部分を長く担っていく、ということですね。でもこれが出版事業とどうつながるのかが、まだ…。

倉貫
僕が最初に書いた本が『「納品」をなくせばうまくいく』(日本実業出版社)というものなんですけど、まさしく僕らがやっていることの紹介でもあり、IT業界自体がこういう問題を抱えていて、こうするとうまくいくかもしれないです、ということを提案した本だったんです。僕自身が本を書くだけじゃなんか寂しいな、と思いはじめたのもそこからですね。

ちょっと遠回りな話になるかもしれませんが、ソニックガーデンという会社は、社員をたくさん集めて、お客様にどんどん送り込んで、規模を拡大していく会社かというと、そうではなくて。

やっている仕事が、顧問税理士や顧問弁護士のようだと先ほど話しましたが、お客様の顧問として働くことになるので、ただただ手を動かせばよいのではなく、お客様の相談に乗りながらものづくりまでするという、結構難しい仕事をしている。そうなると、僕らの会社で仕事ができる人って、それだけの経験があったり、実力があったりして、かつ僕らが一緒にやっていて楽しい人じゃないとやっていけないですよね。だから会社の規模を簡単に大きくせずに、僕らのカルチャーにフィットする人だけを集めていくという戦略をとっています。

そうすると、会社の中で大事なことは、「売上」よりも「社員」であったり、「社員」よりも大事なのは、もともとある「文化」だな、と。会社の中では、経済資本/関係資本/文化資本という表現をしていますが、僕らの会社の中では「文化資本」と呼ばれるものを、一番大事にしていこうと話しています。

であれば、文化に関わることに対して、会社としても取り組めるといいなと思っていて、それは会社の文化を発信することでもあるし、そもそも世の中にある文化がうまく広がることに、何かしら貢献できたらいいなと思ったときに、本をつくりたいという個人的な思いが掛け算になって、会社のお金を使って出版事業をする形を実現させてもらったという経緯です。

「なんか感覚が合う」はどうして?
ミシマ社との業務提携に至るまで

ーー2024年3月に始まった倉貫書房は、今回の2冊目刊行に合わせて出版社のミシマ社と業務提携をしました。三島さんは雑誌『ちゃぶ台14』の中で、倉貫さんとの出会いを「初対面のときの私の警戒心といったらひどいものでした」と書かれていましたね(笑)

三島
いやいや本当に。大変失礼しました。でも、一年近く倉貫さんとお仕事をご一緒させてもらう中で、目指す方向や、問題だと思っているポイントが同じというか、当然アプローチの方法は違うんだけれど、なぜか感覚が合うんですよね。なんでだろう、と思って最近気づいたのは、一つは、重要なところで使う単語が似ているなと。先日倉貫さんがある文章に「大事なのは商売なんだ」と書かれていたんです。

実は僕も昨年刊行した『新・仕事のお守り』(ミシマ社)という本の中で、結構な分量を割いて商売のことを書いています。それと、先ほど倉貫さんがおっしゃった、経済資本、関係資本、そして文化資本。ここを貫くもの。ある種、串刺しにするものの一つとして「商売」があることを、僕自身は自著『出版という仕事』(ちくまプリマー新書)の中で書いてきたつもりです。IT業界の人は、もう少しなんていうか、別の言葉を使うようなイメージだったんですよ。

倉貫
はい、はい(笑)

三島
だから倉貫さんの言葉の使い方には、グッと、近いものがあるなと思わず感じてしまうところがあるのですが、いかがですか?

困りごとを解決するから、買ってくれる

倉貫
そうですね。もしかしたら、僕らがIT企業の中でも、何万とか何十万、何千万みたいなユーザーを抱えられます、みたいなことになると、商売の感覚よりは、ビジネスとか事業みたいな感じになっちゃうのかもしれないですけど、どちらかというと僕らのやってる仕事が、基本的には一社一社、お客様と寄り添って、お客様の悩みに僕らも一緒に悩んで、いいものを作る、ということをやっているので。自分たちの価値を提供する相手が目の前にいて、そこで頑張ったからこそ報酬をいただけるっていうことがあるとしたら、これは本当に最初の原始的な価値交換に近いな、っていう感覚があって。

そういうことをちゃんと意識したのは、新規事業を自分で始めて、それこそ自分で商品売りに行ってからです。新規事業だと、最初に事業計画で「何社獲得」とかって書いちゃうんですけど、目の前にお客様がいたら、「獲得」とかって感じではやっぱりないんですよね。

要は、事業計画を実現する、もしくは売上が立つとか、儲かるためにお客様に商品売るという売り方をしても、お客様は絶対買ってくれない。そうではなくて、お客様の困っていることを解決するようにしたら、買ってくれる。昔の僕は愚かに順番を間違えていて…。まずはお客さんに役に立ってお金をもらう。商売って、こういう順番だって、辞書には多分そう書いてあるんですけど、わかってなかったんですよね。

三島
面白いですね。今の倉貫さんがおっしゃった実感って、まさに今回の新刊にも出てるなって思いました。「入社8年目の壁を救う、実用エンタメ仕事小説」と帯にはありますが、『新米マネージャー、最悪な未来を変える』というタイトルのように、初めてマネージャーになり、新規事業を任されたときに、やっぱり最初は順番間違えますよねー。

倉貫
そうですよね。

三島
だいたいは、上から降ってくる数字とか目標に自分が縛られてしまって。責任者のポジションになったときに、この発想をできる人とそうでない人それぞれいるなと、僕も会社をやりながら感じています。

でも個人にかぎらず、業界が抱えている問題も一緒なのかも。右肩下がりで本の売り上げが落ちてきて、今どう売上を増やすか?っていうことばかりが、業界紙を賑わしていて。それってまさに獲得の発想ですよね。

正しい型を守ること、市場規模を知ることで健全さを保つ

倉貫
僕は、二つの観点があると思っていて。一つは、よく会社の中で「正射必中」って言葉を使うんですね。

三島
ほう。

倉貫
「正射必中」って、弓道の世界の言葉で、僕も聞きかじりなので別に弓道をやっていたわけではないんですけど、正しい弓の引き方をすると、必ず当たるっていう発想が「正射必中」。その真逆の考え方が「必中正射」で、当たったらいい打ち方だったねとなる。「正射必中」は、外れるかもしれないけど、正しい引き方をしている限り、その正しい引き方はちょっとずつ上手くなるってことなんですね。「必中正射」だと、毎回当たり外れが出る。だから、型を守って型通りにしっかりやろうっていうことの方を僕らは大事にしていて。

それからもう一つの観点で言うと、「業界の規模」なんですけど、出版業界、IT業界、それ以外の業界もいろいろ見てると、その業界が時代に応じて求められている市場規模は、なんていうか、もういかんともしがたいものがありますよね。

三島
そうですよね。

倉貫
そんな状況の中で、めちゃくちゃ良かった時代の市場規模をなんとか維持させようとして無理するってことが起きると、うまくいかなくて。そうじゃなくて、市場規模は小さくなるかもしれないけど、健やかに維持できるっていうところは、いろんな業界にあるんじゃないかと感じていて、なんかそこを間違えちゃうと、ねじれが起きちゃうというか、規模とか数字を前提にやんなきゃっていうことが起きるなと。

でも、もうそこは、人の力の及ぶところではないので、その中でいかに健全に保てるのかを考えるときに、基本の型とか、いいものを作ろうとする姿勢しか、もう残らないんじゃないか?みたいな気持ちでやってますね。

三島
なるほど。すごくおもしろいです。

(2)につづきます。


倉貫書房
仕事を“技芸”とする文化を広げる」ことを目的に、株式会社ソニックガーデン創業者である倉貫義人が主宰する出版事業。メディア『Social Change!』を活動の拠点とし、思想の発信と「紙の本」の刊行を両輪で進めている。
https://kuranuki.sonicgarden.jp/shobo

株式会社ミシマ社
2006年10月設立。「一冊入魂」を理念に、原点回帰の「ちいさな総合出版社」としてスタート。取次を経由せず書店と直接取引する「直取引」をメインの営業形態としている。2020年からは書店と出版社をつなぐプラットフォーム「一冊!取引所」の立ち上げに寄与するなど、独自のスタイルで出版活動を展開している。
https://mishimasha.com/


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