「管理」を捨てて「マネジメント」を取り戻す。自律型組織を支えるセルフマネジメントの5段階〜『月刊先端教育』取材ログ

「管理」を捨てて「マネジメント」を取り戻す。自律型組織を支えるセルフマネジメントの5段階〜『月刊先端教育』取材ログ

先日、雑誌『月刊先端教育』より、ソニックガーデンの組織運営や人材育成について取材を受けました。

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誌面ではプロの編集者によって整理された記事が掲載される予定ですが、インタビューの場ではそれ以上に深く、私たちが大切にしている思想や独自の取り組みについてお話ししました。

本来、こうした取材の生の声には、結果としての仕組みだけでなく、その背後にある「なぜそうしているのか」という文脈が詰まっています。そこで、インタビューでの私の回答をトピックごとに整理し、ログとして詳しく残しておくことにしました。

「管理」に頼らず、いかにして「いい感じ」の組織を作っていくのか。その一端を感じていただければ幸いです。

私たちが「管理」と「マネジメント」を分ける理由

よく「管理しない組織」と言っていますが、そこには言葉の定義に対する私たちなりのこだわりがあります。私たちは「管理」と「マネジメント」を、明確に違うものだと判断して使い分けています。

多くの場合、マネジメントという言葉を日本語に訳す際に「管理」という言葉が当てられますが、本来これらは別物です。あえて英語にするなら、「管理」は「コントロール(Control)」や「アドミニストレーション(Administration)」にあたります。決められた形の中で統制を取り、手順通りに動くようにコントロールしていく。これが「管理」です。

一方で「マネジメント(Management)」は、ドラッカーが説いている通り、本来は「なんとかする」ということです。私たちの会社ではそれを「いい感じにする」という表現で定義しています。チームのマネジメントなら、チームをいい感じの状態にすること。プロジェクトなら、プロジェクトをいい感じにすること。それがマネジメントの本来の役割です。

では「管理職」と「マネージャー」で何が違うのか。管理職は「管理すること」が仕事になりますが、マネージャーは「現場をいい感じにすること」が仕事です。そう捉えると、後者の方がやれることや責任範囲はずっと広くなります。

例えば、Excelのチェックリストを使って進捗を細かく確認するのは「管理」かもしれません。しかし、たとえチェックリストがなくても、皆がいきいきと働ける環境を作れたのだとしたら、それはマネージャーとしての本来の仕事ができているということです。

私たちは、この大きな概念である「マネジメント(いい感じにしていく)」を行うために、あえて一個一個の細かい「管理」はなくしていこうと考えています。

セルフマネジメントにおける「5つの習熟段階」

細かい管理をなくすために最も重要なのが、一人ひとりの「セルフマネジメント」です。自分自身をいい感じの状態に保てる人が集まれば、外側からの統制は必要なくなります。

一人ひとりが自分を律することができるなら、「いつ働いてもいいし、どこで働いてもいいよね」という話になります。実際にソニックガーデンで、完全フレックスや全社員リモートワークという形に取り組めているのは、このセルフマネジメントができるという前提があるからです。

ただし、セルフマネジメントという言葉は解釈の幅が非常に広いため、私たちはその習熟度を以下の5つの段階に分けて考えています。

  • 第1段階:自己管理 朝起きて仕事を始められるか、体調管理、報告・連絡・相談といった基礎のレベルです。
  • 第2段階:業務遂行 与えられた仕事をやりきれるか。まわりと相談しながら問題解決できるかという段階です。
  • 第3段階:プロジェクト遂行 自らプロジェクトを動かし、周囲と協調して成果を出せるレベルです。世の中で言えば「フリーランスになっても十分にやっていける人材」であり、私たちの会社で自由な働き方が認められる一つの基準となっています。
  • 第4段階:他者への影響 組織の視点を持って、事業や人を育てていくことができる段階です。
  • 第5段階:未来を作る 社会に対して何を為すのか、自己中心的利他の状態を指します。

この段階を上がるために、特に私たちが重視しているのが「振り返り」です。単なる業務の改善ではなく、自分の内面を客観的に見つめる「メタ認知」を養うための内省の機会です。自分の役割が組織や社会の中でどこにハマるのかを理解し、納得感を持って働けるようになるまで、親方(師匠)が寄り添い、客観的な視点をフィードバックしながら振り返る力を共に身につけていきます。

なぜ近代的なIT企業で「徒弟制度」なのか

プログラミングやソフトウェア開発という仕事は、非常に高度で抽象的な「難しい仕事」です。マニュアル通りにやれば済むものではなく、状況に合わせて最適解を探し続ける必要があります。

こうした仕事の習得には、数ヶ月のOJTでは不十分です。かといって、一般的な組織における「マネージャー」という立場では、人を育てるのが難しくなる構造的な問題があります。

通常のマネージャーは、プロジェクトの成功や予算の達成に責任を持ちます。そうすると、どうしても「育成よりも、今できる人を連れてきた方が早い」という判断になりがちです。人を育てるよりも、今いる戦力で成果を出すことが優先されてしまう。これでは、若い人が育つ機会が失われてしまいます。

あえて「親方と弟子」という形を取っているのは、この構造を打破するためです。「親方」という役割には、育成そのものが自らの責務である、という明確な前提が含まれています。弟子にとっても、師匠の言うことをまずはしっかり聞いて型を身につけるという、心構えのセットアップがなされます。

親方も、弟子のことを思えばこそ、できていないときには遠慮なく指導できる。お互いの関係性を明確にすることで、本質的な育成が可能になると考えています。

仕事を「技芸」と捉え、腕を磨き続ける

私たちは、自分たちの仕事を単なる「労働」や「製造」だとは思っていません。私たちの仕事の本質は、工業的な世界観とは対極にあるものです。

工業の世界観では、属人性を排し、誰でも同じようにできるようにマニュアル化していくことが求められます。しかし、私たちの仕事には「正解」がなく、単純な「再現性」もありません。マニュアル通りに動けば価値が生まれるわけではないのです。そうなると、うまくやるためには、自分自身の「腕を磨いていく」しかありません。

この「腕を磨く」という行為は、実務の実践の中でしか身につきません。これは音楽や芸術といった「技芸」の世界と全く同じです。私たちは、技術によるわけでも芸術によるわけでもなく、プログラミングを「技芸」という位置づけで捉えています。

よく「遊ぶように働く」という言葉を私たちは使いますが、これは「仕事そのもので遊びたい」という意味です。仕事そのものが遊びのような感覚で没頭でき、自分の「作品作り」だと思えて取り組める状態。楽器の練習やスポーツと同じように、より良いコードを書くことに喜びを感じる状態を指します。

一生懸命に取り組んでいる姿が、周りから見ればまるで遊んでいるように見える。そんな風に「技芸」として仕事に向き合う文化こそが、私たちの組織を支えています。

仕事の核心としての「タスクばらし」

技術的な伝承において、私たちが最も大切にしているのが「タスクばらし(仕事を分解する力)」です。

新人の頃は、大きな仕事を目の前にしても、何から手をつけていいか分かりません。親方は、その仕事を「今日一日でできるサイズ」に分解して渡してあげます。これが親方のする「タスクばらし」です。

徐々に渡す仕事のサイズを大きくしていき、最終的には自分自身でお客様と対話し、仕事を適切な粒度に分解して実行できるところまで導きます。言われたことをやるだけでなく、自分で考えて仕事を分解すなわち「タスクばらし」できるようになる。それが自律して働くための大きな分かれ目になります。

この力を身につけ、プロとして独り立ちできるようになるまでには、長い時間がかかります。じっくりと腰を据えて取り組む必要があります。ずっと成長していける、一生の学びだと思っています。

次世代へのアプローチ:トレセンとセタプロ

こうした思想を具体化するために、いくつかの新しい取り組みも始めています。

まずは「トレーニングセンター(トレセン)」という仕組みです。採用してから教えるのではなく、採用のプロセスそのものをトレーニングとして位置づけています。プロの現場で必要なハードな練習を体験してもらい、それを楽しめるかどうか。本人の適性を見極めると同時に、入社時のスキルを高める場となっています。

また、さらに若い世代に向けたアプローチとして、世田谷区で中高生向けの「世田谷プログラミング部(セタプロ)」という活動を、一般社団法人として立ち上げました。

技芸の出発点は、何よりも「遊び」であるべきです。中高生がプログラミングで本気で遊び、物作りの楽しさを知る。そこからやがて「これを一生の仕事にしたい」と思う人が現れるような、長い目線での場作りにも取り組んでいます。

プログラミングという遊びから始まり、やがて一生の仕事へ。そんな長い目線での育成の循環を作っていくことが、今の私たちの挑戦です。

掲載誌は以下:

・雑誌『月刊先端教育』2026年2月号
AIの進化、成長分野から展望する人材育成の潮流ー『月刊先端教育』2026年2月号発売

・「先端教育オンライン」で、Webで読むこともできます(会員限定)
ソニックガーデン 管理しない組織マネジメント、徒弟制度で人は育つ

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倉貫 義人

株式会社ソニックガーデン代表取締役社長。経営を通じた自身の体験と思考をログとして残しています。「こんな経営もあるんだ」と、新たな視点を得てもらえるとうれしいです。

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