新規事業における不確実性への向き合い方〜精緻な仕様書より、変化に立ち向かう信頼し合えるチーム
倉貫 義人
キリンホールディングスのグループ会社であるCowellnex株式会社の事例記事を公開しました。
キリンの挑戦に伴走した4年。「何が必要かわからない」場所から、前例のない価値を創る。
今回、日本を代表する大手企業の新規事業という非常に重要な局面で、私たちの「納品のない受託開発」というスタイルを信じて託してくださったことに、経営者として心から感謝しています。
プロジェクトを共に進めてくださったCowellnex株式会社の皆様、そして現場で伴走し続けたソニックガーデンのメンバー、本当にありがとうございました。
この記事を通じて、私が日々感じている「新規事業における開発の在り方」についての気づきを共有します。
新規事業における「不確実性」の正体
新規事業に取り組む際、私たちは必ず「不確実性」という言葉に直面します。多くの現場では、この不確実性をリスクとして捉え、できるだけ排除しようとします。しかし、そこには一つの大きな誤解があると感じています。
不確実性の正体とは、単に「先のことが予測できない」ということではありません。本当の正体は、「実際に動くものを作り、ユーザーに届けてみないと、何が正解かが誰にもわからない」という点にあります。
開発を進め、プロダクトを世に出す過程で、私たちは多くのことを「学習」します。「あ、ここは思っていたのと違う」「ユーザーはこっちを求めているんだ」という発見です。この学習によって、昨日までの「正解」が、今日の「不正解」に塗り替えられていく。
この「前提が変わり続けること」こそが、不確実性の本質なのです。
なぜ「精緻な仕様書」が足かせになるのか
不確実性が高いプロジェクトほど、私たちは不安になり、つい「精緻な仕様書」を求めてしまいます。あらかじめ正解を決めておけば、安心できるからです。
しかし、この「安心したい」という心理が生み出す行動が、皮肉にも新規事業においては最大の足かせになってしまいます。
なぜなら、従来の「受託開発」という仕組みは、仕様を固定することを前提に成り立っているからです。最初に仕様を固め、一括で見積もりをし、その通りに「納品」することを目指す。このモデルにおいては、開発の途中で得られた「学習」は、本来歓迎すべき発見であるはずなのに、計画を狂わせる「仕様変更」として扱われてしまいます。
せっかく新しい気づきを得ても、それを反映させるには契約の変更や追加見積もりといった高いハードルが立ちはだかる。結果として、現場は「ユーザーのための改善」よりも「仕様書通りの納品」を優先せざるを得なくなります。
安心を求めて用意したはずの仕様書が、いつの間にか、変化に対応するための柔軟性を奪ってしまうのです。
「一緒に悩んで、いいものをつくる」ということ
私たちが大切にしているのは、「一緒に悩んで、いいものをつくる」という姿勢です。
これは単なるスローガンではありません。正解が誰にもわからないからこそ、「発注者」と「受注者」という主従関係を超えて、一つのチームとして共に悩み、試行錯誤を繰り返す必要があるという「必然性」から生まれた言葉です。
私たちが提唱する「納品のない受託開発」という月額定額のモデルは、実はその姿勢を貫くための「土台」です。
納品というゴールに縛られないからこそ、エンジニアは「決められたものを作る」という役割を超えて、「今、このビジネスにとって何が最善か」を、お客様と同じ目線で真剣に悩むことができるようになります。

お客さまとの共創に見る「パートナー」の姿
今回の事例の中で、Cowellnexの担当者はこう語ってくださいました。
「単なる外注先ではなく、一つのチームとして同じ目線で事業を考えてくれた。開発のプロが横にいてくれる安心感があったからこそ、迷わず試行錯誤ができた」
大企業における新規事業は、社内調整やステークホルダーへの説明など、現場の担当者様にかかるプレッシャーは計り知れません。孤独な決断を迫られる場面も多いでしょう。
だからこそ、不確実な状況でも「技術の側面から共に悩み、柔軟に動いてくれる味方」がいることが、プロジェクトを前に進める大きな力になります。
精緻な仕様書を積み上げるよりも、変化に立ち向かえる信頼し合えるチームを築くこと。私たちを外部のベンダーではなく、同じ船に乗るパートナーとして迎え入れてくださったからこそ、この共創の形が実現しました。
大企業の新規事業と「伴走者」がもたらす価値
私は、大きな組織のリソースを活かしつつ、スタートアップのようなスピード感で試行錯誤を繰り返すためにこそ、私たちのスタイルが力になれると確信しています。
大きな船を動かすには、一過性の「開発」ではなく、事業のライフサイクルに寄り添い、共に悩み続ける「技術の伴走者」が不可欠です。
受託開発の未来は、単なる「労働力の提供」ではありません。そこにあるのは、志を共にするチームによる「信頼関係」の構築そのものです。
「納品」という形に縛られず、どれだけビジネスの価値にフォーカスできるか。その一つの実践的な記録として、ぜひ多くの方に読んでいただければ嬉しいです。
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キリンの挑戦に伴走した4年。「何が必要かわからない」場所から、前例のない価値を創る。
