ここ数年は、年末に1年のふりかえり記事を書いています。テーマは実験と結果、そして結果としての組織です。会社経営は常に新しいことの連続であり、どんな取り組みも実験のようなものだと考えているからです。

2016年は部活から新規事業がうまれたり、オフィスを廃止して全社員リモートワークを開始した年でした。2017年は社員数が増えたことでチーム制を導入したこと、業務ハックを提唱し始めた年でした。2018年はセキュリティやコンプライアンスに対応しつつも自由さを失わない組織に取り組んだ年でした。

さて本稿では、2019年のソニックガーデンをふりかえりながら、実験から得た学びを共有したいと思います。

ザッソウ管理ゼロで成果はあがる

リモートワーク・テレワークが世間に受け入れられ始めた?

2019年2月に日本テレワーク協会から「中小企業テレワークチャレンジ特別奨励賞」を頂きました。これまでソニックガーデンの取り組みは先鋭的すぎたせいか「テレワーク」界隈からは声がかからず、ずっと「リモートワーク」と言い続けてきたのですが、今回は「他社の参考には時期尚早であるため」ということで特別枠で賞を頂きました。ありがとうございました。

ソニックガーデン、『オフィスを持たない経営』実践を評価され、日本テレワーク協会より特別賞を受賞

2019年は、私の感覚になりますが非常に「テレワーク」「リモートワーク」が注目された1年だったように思います。ありがたいことに、私たちの仮想オフィスで働く全社員リモートワークの働き方は多くのメディアで取り上げて頂きました。

地上波のテレビ番組でも、日テレ「世界一受けたい授業」と「news zero」、NHKの「キクツボ!」など、他にもローカル局の番組などでも多く取り上げて頂きました。これまではウェブ系のメディアが多かったですが、一般の人が視聴るメディアでテーマとして求められるほどには一般化されてきたのでしょうか。

そんな私たちの働き方ですが今となっては仮想オフィスで働くだけでなく、旅をしながら働く人たちも多く出てきて、それも当たり前の光景となりました。

私たちは、もはや自分たちの働き方をリモートワークともテレワークとも言いません。ただ普通に働いているだけ。2020年代のうちには多くの企業がこうなっていけば良いのになと考えています。

株式会社ラクロー設立とソニックガーデン取締役の新任

私たちソニックガーデンの勤怠管理は以前から自動化されており、昨年の年末記事にも書いた「ラクロー」という仕組みを使っています。(正確には、自分たちのために作った仕組みがあり、それをサービス化したものがラクローです。)

ラクローの特徴は「打刻レス」で、コンピュータのログから勤怠データを作成することです。それにより社員の手間は減り、会社側は確実な労務管理が行うことができるというものです。

そのラクローが今年に入り大きく動き出しました。まず4月に、この打刻しない方式の適法性について厚生労働省から認可を頂くことになりました。

打刻レスの勤怠管理サービス「ラクロー」、厚生労働省が適法性を認める ~2019年4月施行改正労働法に適合した労働時間の把握を実現~

まだ当時はベータ版として提供を開始していましたが、正式サービス開始を前に、ラクローを事業として取り組む事業会社を作ろうということになりました。自社サービスから事業会社を作ったケースは私たちにとって初めてのことで、相当に慎重に議論を重ねて考えました。

よくよく考えたのは経営の体制です。ラクロー社の代表取締役社長はすぐに決まりました。ラクローの企画から事業化までを行った岩崎がすべきだからです。問題は、それ以外の取締役をどうするのか。よくあるのは親会社の社長が取締役に入る体制です。これは取締役の名の通り、社長が暴走しないよう取り締まるために入るのです。資本的な構造を考えると妥当ではあります。

しかし、私たちの会社ではセルフマネジメントを重視して、社員に対して管理や統括などをしていません。その方が生産性も創造性も高まると信じているからです。そんな私たちが会社の経営に関してだけは、管理・監視をするというのは違和感しかありません。そもそも私が取締役で入ったところで、管理などはうまくできません。

実現したいのはソニックガーデンとラクローの双方にとって良い状態を作れる体制です。本質は、どちらかに不利益をもたらさないようバランスをとることであって、それが従来のガバナンスの考えだと取締役を入れるという形だったのでしょう。それをセルフマネジメントで再発明できないか、考えました。

私たちが採った案は、ラクロー社の社長に就任すると同時にソニックガーデンの取締役にも就任してもらうこと。そうして、ソニックガーデン社長の私や副社長は、ラクローの取締役には入らないということです。

新取締役就任と株式会社ラクロー設立のお知らせ

こうすることで、双方の取締役であるため利益相反しないように自分の中でバランスを取ることになります。それこそセルフマネジメントが発揮される場面です。しかも、ソニックガーデンから経営の関与がないため、自由に経営をしていくことができます。

ソニックガーデンとしては、2015年以来の新しい取締役の新任となりました。ここ数年フラットな組織を作ってきたことで、取締役の役割とは何か悩むこともあり廃止も考えましたが、ここにきて意味が出てきたように思います。

多様性とは求めるものではなく受け入れた結果である

ラクローのような事業が誕生し、今回のように事業会社が出来たのは、それが出来る人材が入社してくれたことがきっかけです。彼はもともとプログラマからキャリアをスタートしていたけれど、ソニックガーデンにはプログラマ枠で入ったわけではありません。ちょうど組織が大きくなるタイミングで、経営サイドを支援するために入ってもらいました。

当時として非常にイレギュラーな存在でしたが、それでもなお採用したいと思わせる人材であったのです。そして、その期待通りに自分でポジションを確保してパフォーマンスを発揮してくれました。プログラマしか採用しないというポリシーにこだわりすぎていたとしたら、今のソニックガーデンはなかったでしょう。

ソニックガーデンの経営は非常に合理的ゆえに、すべて計算通りに作られたと思われがちですが、実はそうではなく、都度のイレギュラーに対応する形で成長を繰り返してきました。

今では毎年のように採用している新卒採用も最初はイレギュラーでしたし、全社員リモートワークというのも最初は一人の在宅勤務というイレギュラーがきっかけでした。イレギュラーというからには想定していたわけではありません。そうしたイレギュラーを、組織に少しずつ取り込んでいくことで組織のアップデートを図ってきたというわけです。

そして、組織が大きくなるにつれて、そうしたイレギュラーを受け入れるゆとりも大きくなってきたように思います。2019年は、それが顕著に現れた年でした。

社員が住んでいる場所の広がり(18都道府県)はもちろん、海外や国内を旅しながら働くプログラマたちがいたり、子育て中のお母さんプログラマがいたり、自社の経理を担当しながら顧客の顧問までする業務ハッカーがいたり、自社サービスの営業が得意な人がいたり。関係会社まで含めると50名以上の組織になりました。

こうなると、人材は多様にならざるを得ません。多様性のために人を採用したわけではありませんが、結果として多様になったのです。ここからイレギュラーを取り込んでいくことができれば、きっと成長することができるのではないかと信じています。

どこまで多様性を許容するのか、何のために会社があるのか

2020年には、ありがたいことにソニックガーデンは10期目を迎えます。10年続いてきたことで受け入れられる器が大きくなり、多様性を許容しつつ変化しながら成長することができました。

とはいえ、なんでもあるがままに受け入れて良いのだろうか、とも考えてしまいます。受け入れたことで良かったこともありますが、新しい変化を受け入れることは少なからずリスクもあります。

また、会社に人を迎え入れるときに、どういった人は受け入れて、どういった人は拒絶せざるを得ないのか。能力や人格と報酬や条件がマッチすれば良いかといえば、そうではないと考えています。

おそらく私たちにとって、会社というのは資本の再生産をする経済活動だけではないと考えているため、企業価値を高めてくれるなら誰でも良いというわけではないからです。売上をあげてくれさえいれば良い、適切な報酬さえくれれば良いという関係ならば、今ならばフリーランスとの契約でいいはずです。

全社員リモートワークの私たちにとっては、労働者が必要な工場があるわけでもなく、「納品のない受託開発」という顧問型のビジネスをしているので、大量に人が必要というわけでもありません。セルフマネジメントであり、上司がいて仕事があてがわれるわけでもないのです。

こうなると私たちを繋ぎ止めているものは一体なんなのでしょうか。ビジョンやミッション、価値観といったものはあると思いますし、それがあった上で何かということを考えたいのです。

しかし残念ながら、今時点で定まった答えは見つかっていません。私たちは仕事という人生の镸い時間を共に過ごす共同体であり、その共同体にいることに居心地の良さを感じている仲間たちです。そうであるからには、少なくとも自分たちの居場所そのものを良くしていこうと思える人たちと一緒にいたいと思います。それができる今のメンバーたちには感謝しかありません。

そして、これからも規則と管理ではなく、尊敬と感謝でもって組織を成立させ続けるには、一体どうしていけばいいのか。来年も私たちの実験は続きます。