会社を再発明するために試した3つの実験と結果 〜 ベテランが管理職にならなくて良い組織

会社を再発明するために試した3つの実験と結果 〜 ベテランが管理職にならなくて良い組織

2016年のソニックガーデンの経営を振り返ると、新規事業の創出、オフィスの本質、人が増えた組織のマネジメントに取り組んできた。それらの取り組みは、一般的にイメージされる「会社」とは違う、新しい会社を作るための実験だったように思う。

1)稼がない「部活」から新規事業の創出

1つ目は、遊びで始めた部活から新規事業が生まれたことだ。

仕事中にできた「ゆとりの時間」で、社内の仲間と一緒に好きな活動をすることを、社内では「部活」と呼んでいる。自分の給料分くらいの仕事さえしてくれれば、それ以外は自由時間となって好きなプログラミングをしても良いという制度だ。

以前は、その活動を「新規事業」と呼んでいたが、せっかく効率化して作った自由時間なのに、変なプレッシャーがかかって楽しむことができなくなってしまった。そこで稼ぐことは諦めて、気軽に好きなことができるよう「部活」と呼び方を変えた。

2016年では、そんな部活の活動のうち「イシュラン」で売上が立ち始めた。これまで3年以上もコツコツと、儲けのためでなく、社会問題の解決のために続けてきたことが、全県のデータを集めたことで、わかりやすい価値になったのだ。

このことは嬉しい誤算だった。もちろん事業になることを目指して活動はしていたが、タイムリミットなしコスト度外視で「部活」として進めてきたからこそ芽が出た訳だ。新規事業でやっていたら、儲からないからと途中で挫折していただろう。

この実験では、新規事業の創出をノルマとするのではなく、ゆとりを作り遊べる環境を作る方が、実は新規事業の創出につながるのだという結果を得ることができた。

2)オフィスを撤廃して完全リモートワークへ

2つ目は、オフィス移転を機に物理オフィスをやめたことだ。

かねてからリモートワークを推進しているソニックガーデンとしては、ちょうどオフィスの契約更新のタイミングで、物理的なオフィスはなくしてしまう決断をした。

実際のところ、普段からサイバーオフィス「Remotty」を使って「論理出社」して仕事をしていた私たちにとっては、物理的なオフィスの有無はさほど重要ではなくなっていたからだ。

基本的に、全国各地に住んで家から仕事をしている人たちが大半だから、全員リモートワークが主で、オフィスに行くことはオプションの位置付けなのだ。家よりも働きやすい場所の提供や、リモートワークが許されていない弟子たちのために、3箇所のワークプレイスは用意している。

結果、半年間やってみたが、特に大きな問題は起きていない。オフィスであったような雑談も、ちょっとした会話すら、もはやRemottyで実現することができている。

このことから、オフィスと会社を分離して考えることができるようになった。会社の本質とは、オフィスではなく、一緒に働く仲間である。仲間がいれば会社になる。

3)ベテランが管理職にならなくて良い組織にする

3つ目は、ついに社内にチーム体制を導入したことだ。

私たちは、セルフマネジメントできる人材で「管理のない会社経営」をしており、これまでずっと部署やチームで分けることなくやってきた。しかし、今年はついに人数が20人を越えてきてしまった。

私たちの組織の規模に関するポリシーは、人数をKPIにしないこと。人数を増やすことを目標にはしないし、逆に少ない人数でいるために排除することもない。だから良い人材がいれば入ってくるが、やめる人がいないため結果的に人数が増えたのだ。

1つのチームで人数が多くなりすぎたことと、ベテランと中途入社で実力の差が大きくなったことから、社内のコミュニケーションや助け合いがうまく作用しなくなりつつあった。そこで、社内をいくつかのチームを分けることにした。

普通なら事業部みたいにしてベテランと中途、若手をバランスよく配置した組織にするかもしれないが、そうなると中間管理職が生まれてしまうし、ベテランは結局、後進の指導をしなければいけなくなる。他人をマネジメントする負担が生まれる。

「プログラマを一生の仕事にする」という理念を掲げるソニックガーデンとしては、ベテランになると管理職になるようなキャリアパスにしたくなかった。ずっとプログラマでいられる形、むしろベテランになった方が自由にプログラミングできる方がいい。

そこで、組織の分け方をトップクラスの人たちのチームと、まだ修行中の人たちのチームに分けることにした。そうすると、トップクラスからすると一方的に助けることも、指導に時間を取られることもなく、高いレベルの中で切磋琢磨できる。修行中の人たちは、同じレベルで助け合いができるし、助けてくれる人がいなくなれば責任感も芽生える。実にうまく作用した。

職人としてプログラミングの腕を磨いて目指すのは管理職ではなく、トップチームに入ることだ。

フラットな組織のままスケールをするための組織構造としての実験だ。結果として、全員で高みを目指せる組織にできた。マネージャを置かない組織分割の発明ではないかと自負している。

経営はもっと自由で良い

経営に正解はないし、絶対にうまくいく手法もない。だから、いつも実験をするつもりで色々な取り組みをしている。うまくいったものは続けるし、ダメだったら、また違うアプローチでやってみる。

会社で仲間と遊んではいけない、オフィスに集まらないといけない、組織は管理者がいないといけない。どれも、ただの固定観念に過ぎない。会社も経営も、もっと自由に考えて良いのではないだろうか。

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倉貫 義人

株式会社ソニックガーデン代表取締役社長。経営を通じた自身の体験と思考をログとして残しています。「こんな経営もあるんだ」と、新たな視点を得てもらえるとうれしいです。

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