ビジネス書を出版するまでの道のり(本を出したい人のための参考に)

先日、単著としては3冊目となる「管理ゼロで成果はあがる」を出版しました。

「本を書くのはどれくらい大変ですか?」「どうしたら本を出せますか?」そんな質問を受けることがあり、私のケースですが備忘録もかねて、ビジネス書を出したい人の参考になればと書いておきます。

書籍を出版するまでにはいくつかハードルがあります。

出版社から出す商業出版の場合は、(1)まず出版できる機会が得られるかどうか。(2)次に出版の企画が通るかどうか。(3)最後に出版できるだけの原稿が書けるかどうか。あとハードルではないけれど大変なことの一つが、(4)書いた後の編集〜校正作業です。

実際は、ビジネス書を出しただけでは売れるわけもなく、むしろ出した後の方が大変だったりしますが、本稿ではひとまず発売されるまでを書きます。

自費出版と商業出版、自筆と代筆

前提として出版には2種類あります。自費出版と商業出版です。(正しい表現かどうかはわかりませんが便宜上こう使い分けます)

自費出版というのは自分のお金で製作して出す本のことです。お金と労力によっては、品質を高めたり、流通経路を広げたりできます。そういった条件はありますが、自分の意思で本を出すことができます。

AmazonだけであればJANコードさえ取得すれば出版社を介する必要なく並べられます。電子書籍だけで良いなら、さらにハードルは下がります。また、お金さえかけることができるなら、書店に並ぶ本を受託してくれる出版社もあるようです。予算次第といったところです。

一方で商業出版は、出版社から出すため自分の意思だけでは出すことはできません。出版社がリスクを負って販売をするので、編集の眼鏡にかなった著者だけが本を出すことができます。出版社から出せるので、流通経路の確保や書店営業などを任せることができます。

自費出版か商業出版かという出版に関する前に、本を執筆するにも2種類あって、自分自身で書くパターンと、ライターさんに書いてもらうパターンがあります。

奥付などに「編集協力」や「ライティング」などがあれば、それはライターが書いているパターンです。ビジネス書や芸能人本の多くは、ライターが書いているそうです。その場合は、商業出版ですがライターへの支払いコストがかかります。

自費出版か商業出版か、自筆か代筆か、それらの組み合わせがあるわけです。私の本は、商業出版でかつ自分で書いた形です。本稿で扱うのは、そのパターンです。

出版の機会を得るにはコンテンツがすべて(前提編)

商業出版の場合、いくら著者が出版したいと思っても、そもそもチャンスがなければ無理な話です。どうすればいいのでしょうか。

まず出版社から出したいと思ってもらうことからです。持ち込みでも紹介でも良いですが、そこで大事なものがコンテンツです。とくにビジネス書はフィクションではないので、そこに書かれる中身は著者独自の経験やノウハウを反映したものになります。それは文章の表現力や構成力よりも必要な代え難いものです。

たとえば、他の誰もやったことのない体験をしていたり、仕事や会社でユニークな取り組みをしていたりといった実績や中身がないと、どれだけ面白いことを考えられるのだとしても書くチャンスはもらえません。

さる全世界ベストセラーを出した編集の方と話をしたときに仰っていたのが「本業を頑張ってください!」ということでした。本業を一生懸命にやっていないとコンテンツにはならないという話です。厳しいけど、納得です。

圧倒的な実績があれば、出版社からお声がかかることもあるし、それなりの人脈にもなっているはずで、そうなれば知人から出版社を紹介してもらえることもあるでしょう。その場合でも、紹介する人にしても実績がない人を紹介するのは難しいですね。

逆に圧倒的に面白いコンテンツさえあれば、実際に執筆するのはライターに任せてしまっても良いでしょう。読者が知りたいのは中身なのですから。

ブログを書いておくというのは一つの実績になります。少なくとも、どんな文章を書く人なのかは伝えられるし、その内容がコンテンツのタネになるでしょう。私の場合は、ソニックガーデンの経営者という本業と、300以上の記事があるブログの掛け合わせだったかなと思っています。

書きたい気持ちの著者目線から読者目線へ(企画編)

チャンスをもらえたら、次は企画です。タイトル案、コンセプト、企画の概要、対象読者、類書と独自性、目次・構成案、著者プロフィールあたりを考えて、企画書を書きましょう。

企画を作るとなると、どんな本を書こうかな〜と考えてしまいがちですが、そのままでは企画が通らない可能性があります。書籍は著者のためにあるものではなく、読者のためにあるものだからです。だから読者目線で考える必要があります。

たとえば、今回の私の本「管理ゼロで成果はあがる」では、最初は、私たちソニックガーデンでの取り組みを紹介するようなイメージの企画を立てていました。

しかし、今回ご一緒した技術評論社という出版社の読者層や、読んでほしい人をイメージしたところ、今のソニックガーデンを紹介するだけでは「へ〜」「いいね」と他人事になってしまいかねないと思ったのです。

そこで、最初に立てた企画を捨てて、ゼロから考え直しました。読んでくれた人が自分で取り組んでいけるように再現性を持たせよう、それもステップを踏んで辿っていけるフレームワークとなるように作り直しました。とても大変なことでしたが、読者目線にたてば今の形にしてよかったなと思います。

企画の中でもっとも時間をかけるのは、目次案です。目次は言ってみれば、書籍の設計書みたいなものです。どういったメッセージを、どういった順番で説明するのか、どういった内容なのか、目次には込められます。この時点で、どういった内容を書くのかも、ある程度は考えました。

実際に書き始めたことで修正や入れ替えなどは発生しますが、まずは全体を考えてみることで本としての完成品が見えてきます。「管理ゼロで成果はあがる」の目次はコチラ。あとシェアされやすさを少し意識して、目次だけで読んだ気になるように作りました。

あと、案外に大事なのは著者プロフィールです。出版社としては、その著者がどれだけ影響力があるか、どういった実績があるのか知らないので、出したいと思ってもらえるような内容にしておく方が良いでしょう。

企画書を書くのは、編集部に通すためではなく、自分自身で企画を練り上げるためです。面倒臭いと思いますが、その面倒さこそが作品作りの一部なのですから、そこを避けてしまうと自分の作品ではなくなります。

飾った文章よりも、わかりやすい文章を書く(執筆編)

企画が通れば、やっと執筆です。この時点で特に出版社と契約とかは結んでいません。納期もあるようで、ないのです。そもそも執筆しきれなければ出すこともないからでしょうか。(正直、ちょっと良くない仕組みだなと思います)

文字数としては、ビジネス書では8万文字程度から12万文字が妥当です。今回の「管理ゼロで成果はあがる」の場合は、最終的には10万5千文字程度でした。実際に書いたのは、12万文字ほどで校正・編集されて文字数は減りました。

ブログと違って結構な文字数になるので、ひとつひとつ丁寧に書いていくと時間がかかりすぎてしまいます。一筆書きで出版される状態を目指して書こうとせずに、あとから見直して編集する前提で、ざっくり一気に書いてみると良いでしょう。

私の場合、「はじめに」「おわりに」から書き始めて、あとは前から順番に書いていったのですが、途中で飽きてしまったり、詰まってしまったりしたら、後の章に飛んで書いたりしていました。

そのためにも、企画の段階での目次構成は重要です。目次を作っているうちに、だいたいどんなことを書くのか決めていきます。おおよそのボリュームも見えるし、書きたいネタは目次の中にメモしていきました。

文章については、ビジネス書の場合だと、そこまで流麗な表現や洒落た言い回しを使う必要はなく、わかりやすさを重視した書き方で十分です。格好をつけるよりも、読みやすさを意識した方が良いでしょう。

文章の構成としては、最初に共感できるような一般的な事例や状況を出して、そこから問題は何か読者に認識してもらい、その解決となるアイデアを書いたのち、そのアイデアの証明となるような事例やたとえ話を入れるようにします。

読者が抱えている問題を解決するための本なので、主観は多少は入れても良いですが押し付けないようにして書きました。

Google ドキュメントを活用した執筆&編集(校正編)

商業出版のいいところは、編集の方が担当としてついてくれることです。文章を読みやすくするための指摘などをしてもらえるのは助かります。結構カットされましたが、読みやすさに関しては任せた方がいいし、一人目の読者としてのフィードバックをしてもらいました。

プログラミングに似ているなと思ったのは、DRYを意識した編集をしたことです。DRYというのは「Don’t Repeat Yourself」の略でプログラミングをする際に重複したコードを書かないようにすることです。書籍でも同じで、似たような内容、重複した内容はバシバシとカットされました。

今回、私の執筆ツールは「Google Document」を使いました。編集の方とGoogle Driveでフォルダを共有して、その中に必要な原稿や図表を入れて共有しています。

Githubを使って原稿管理をするという話も最近は聞きます。差分管理などを考えたりすると使いやすい、ハードルはGitの使い方だけという話ですが、私の場合はGitは当然使いこなしていますが、それでもGoogle Documentにしました。

というのも、共著のような複数の人で同時に書くことはないし、なによりスマホを使って執筆していたからです。隙間時間を使って、ちょっとずつ更新していくのにスマホでそのまま書けるのは良かったです。

編集の方とのやりとりも1対1だし、基本的に書くのは私で、指摘を編集という役割分担なので履歴を残しつつ、コメントでやりとりできるので十分でした。

いつでもリアルタイムで執筆状況がわかってしまうという良し悪しもありますが、書いている途中でのフィードバックは避けたいので、こちらから依頼して確認してもらうようにしていました。

他に使ったツールは、連絡事項や議論はFacebookメッセンジャーを使い、打ち合わせはZoomを使ったテレビ会議で行いました。おそらく、相当効率化された執筆だったのではないかと思います。実際に編集とリアルで会ったのは数回だけでした。

そのうち一つが、面白かったのは書店でのミーティングでした。執筆の中盤くらいだったか、実際に書店に一緒に行って、ビジネス書のコーナーを巡りました。そこで、最近のビジネス書で注目されているものや、売れている傾向などを共有しつつ、どういったデザインでいくのかなど雑談をしました。

あとは、校正作業が終盤に差し掛かった頃に、一気にやり遂げてしまいたかったので、ペアプログラミングならぬペア校正を行いました。互いに宿題形式にするよりも圧倒的に効率は良かったです。

著者の仕事は原稿を書くことだけで終わらない

原稿の校正をしながら、あとはタイトル決め、表紙のデザインなども進めます。

今回はタイトル決めが非常に難航しました。当初の仮タイトルはあったものの、より多くの人に手に取ってもらうには、やはりタイトルが非常に重要だからです。なんだったら今の時代こそ、タイトルだけで勝負が決まっているといっても過言ではありません。

基本的な考えとして、原稿の元々の部分は私が書きますが、書籍を販売するのは出版社だし、そのノウハウや知見は出版社側の方があると思っているので、装丁やデザイン、タイトルなどは、なるべくお任せする方針でいました。

とはいえ、自分の本ではあるから、納得のいっていないものをつけるのも気持ちが悪い。そのためタイトルだけは非常に悩み、結果こうなりました。

ここまでして、ようやく著者の手を離れます。あとは印刷して書店に配本されていきます。が、最初に書いた通り、これだけでは本が売れるとは限りません。年々と本全体の売上が下がっている中で、書籍の点数は増えていっているそうです。

本は放っておいても売れるわけではないのです。だから著者自身でアピールしていく活動が求められます。それがまた大変なことですが、そうした本を売るための話はまた別の機会に。

倉貫 義人

株式会社ソニックガーデン代表取締役社長。経営を通じた自身の体験と思考をログとして残しています。「こんな経営もあるんだ」と、新たな視点を得てもらえるとうれしいです。

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