「アクティブ・ブック・ダイアローグ®」を円滑に運営するための実践的なノウハウ(ファシリテーターしたい人向け)

「アクティブ・ブック・ダイアローグ(以下ABD)」という読書会が注目されています。準備なしで参加でき、短い時間で1冊の本を把握でき、それをネタにおしゃべりできる新しいスタイルの読書会です。

準備なし、宿題なし、購入なし、手ぶらでOKの読書会「アクティブ・ブック・ダイアローグ®」

私の書いた「管理ゼロで成果はあがる」でも、ABD向けにゲラ無償提供を実施しています。詳しくはこちら

私自身も何度かABDに参加させてもらう機会を頂きました。おそらく今の時点で、日本で一番たくさん自分の本のABDに参加した著者ではないかと思います。いくつも参加してきて思うのは、ABDが成功するかどうかはABDファシリテーターの力量が問われるということ。

私としては、初めてABDに参加する方には、ぜひ楽しいと思ってもらいたいし、ABD初体験が素晴らしいものになれば参加者がまた広めてくれます。だから、ABDを開催しようとする方にはうまく実施してほしいのです。本稿では、ABDを運営する上での実践的なノウハウを紹介します。

初めてABDファシリテーターする人へ

■一度は経験者がファシリテーションしてくれるABDに参加しましょう
ABDに参加したことのない人がABDファシリテーションするのは無理があります。できれば一度は慣れた人のABDに参加してみることをオススメします。

■ABD公式サイトのマニュアルをちゃんと読みましょう
ABDの公式サイトにはマニュアルが用意されています。マニュアルすら読まずに雰囲気とノリだけでやろうとしてもうまくいきません。ちゃんと読みましょう。

■初めてやってみるなら信頼できる身内だけでやりましょう
いきなり公開イベントのような形で見知らぬ人を集めてやるのは避けたほうが良いでしょう。まずは協力的な人たちだけでやって経験を積みましょう。

ABDファシリテーションする際の心得え

■自分がホストであることを意識した気配りをしましょう
ABDの特徴は参加者側は準備なしで参加できることですが、ファシリテーター側はしっかり準備して、参加者に楽しんでもらえるようにもてなしましょう。

■ゴールは参加者に「ABD楽しかった」と思ってもらうこと
読書会なので、つい本を読むことを重視してしまいますが、それよりも参加者同士でおしゃべりして楽しんでもらうことをゴールにしましょう。

■ABDという「場」をデザインすることを忘れないように
ABDは、ただ場所を用意すれば良いわけではありません。すべての参加者が気持ちよく参加できるような場になるように設計をしましょう。

場づくりのポイント

■心理的安全性を高めることを意識しましょう
チームワークや生産性に重要と言われる「心理的安全性」ですが、ABDでももちろん重要です。最初にチェックインして知っている状態を作るなど、参加者が不安に思わないようにすることを心がけましょう。タイミングごとの具体的な行動は以下に示しています。

■参加者が自主的に行動するように促しましょう
ABDは講演を聴講するのとは違って、参加者の協力が不可欠です。参加者が楽しかったと思ってもらうには自分の意志で行動していると感じてもらうことが大事です。そのため「選択肢を与える原則」を使います。

■ABD参加しない人はいれないようにしよう
みんなで実施している横で、ABDやらない人がずっといると白けてしまうので、参加者だけの場にしましょう。基本的に、場づくりでは不快感を感じることや気分を害するようなことは避けた方が良いです。

用意する道具のポイント

道具は何でも良いかというと、そうでもありません。できれば以下はきちんと用意しましょう。ちょっとしたことで印象が変わります。

■B5用紙の方が良い
少人数ならA4用紙でも良いですが、壁に貼るのに場所が足りなくなります。手元で用意するときも場所をとってしまいます。

■ペンは寒色系の太めを用意する
細いボールペンのようなものだと、プレゼンの際に読めません。紙にもたくさん文字を書こうとしてしまいます。太いペンだとそうはいきません。色は寒色系で!

■マスキングテープが良い
セロテープやガムテだとベタベタするのと、テープが切りにくくて時間がかかってしまいます。

■細めのポストイットを用意
後で出てきますが、ギャラリーウォークのときに使います。ペンで印をつけるよりも見やすいです。

時間配分のポイント

ポイントの一つは、なるべくしっかりとダイアローグの時間をとるようにしましょう。ABDでは、読むことが中心ではなく、おしゃべりこそが大事です。以下が参考の時間配分です(15〜16人の場合)

挨拶〜チェックイン 14:00 – 14:15(1人1分)
オリエンテーション 14:15 – 14:30
ウォーミングアップ 14:30 – 14:40(練習ABD)
分担とコサマライズ 14:40 – 15:10
リレー・プレゼン  15:10 – 15:40(1人2分)
ギャラリーウォーク 15:40 – 15:50(休憩込み)
ダイアローグ第一部 15:50 – 16:15
ダイアローグ第二部 16:20 – 16:45
チェックアウト   16:45 – 17:00

事前準備のポイント

ABDが始まるまでに以下を準備しておきましょう。

・ゲラがない場合、本を裁断しておきましょう
・裁断した紙(orゲラ)を人数分に分割しましょう
・それぞれ1枚目の右上あたりに大きめに番号をふっておきましょう
・プレゼン用紙を10枚ずつ位に束にしておきましょう
・広いテーブルに原稿とプレゼン用紙をセットして並べておきましょう

チェックインのポイント

ABDが始まったら、最初に必ずチェックインをしましょう。この後、おしゃべり(ダイアローグ)をするので、まったく知らない人同士だと不安になります。参加しようという気持ちを盛り上げるためにも必須だと思います。(チェックインしない会に参加しましたが、やはり駄目な空気でした)

チェックインは一人一人に自己紹介をしてもらうだけでOKです。名前だけでなく「最近のマイブーム」とか簡単にテーマを設定するのも良いでしょう。長くなりすぎないように、うまく司会進行しましょう。人数が多い場合はグループに分けても良いと思います。

「肯定ファースト」という言葉があります。人は肯定されると気持ちが乗って話ができます。相手の話を聞くときは、まずは肯定から入りましょう、という考え方です。話を聞くときも、無表情で聞くのではなく、頷きや相槌を打つことで話し手は肯定された気持ちになります

アクティブリスニングとも言いますが、ABDでは全員が発表者になるので、互いに肯定ファーストの気持ちで話を聞く姿勢を持つことをシェアすると良いでしょう。

オリエンテーションのポイント

ABDが初めての人が一人でもいる場合は、まず練習をしてみることをオススメします。いきなり本番にすると、プレゼンの書き方などが下手だったりして、進行を妨げてしまうからです。

私がよくやる練習は「はじめに」と「おわりに」を使ったものです。参加者をそれぞれペアになってもらい、片方の人には「はじめに」を、もう片方の人に「おわりに」を担当してもらって、それぞれ1枚の紙に要約して、互いにプレゼンしあってもらうという形です。

時間は、要約に5分、プレゼンに3〜4分でやってもらいます。短いので焦りますが、ABD本番に向けてのウォーミングアップになります。これで「はじめに」「おわりに」を全員がざっくりと理解することができるので、この後の内容も読みやすくなります。

終わったら全員のプレゼン用紙を掲げてもらって、よくできたプレゼンを紹介して、参考にしてもらうと良いでしょう。このタイミングで以下の注意を伝えると良いです。(やってからフィードバックの原則)

・用紙は横に使います
・ペンの色は寒色を使います
・1枚に4行程度におさめます
・イラストなどは自由に入れてOK

担当を分担するポイント

書籍のどの部分を担当するのか、ランダムに配っても良いのですが、ここでは自分の読みたい原稿を自分で持ってもらうようにしたりしています。

特に私の本「管理ゼロで成果はあがる」の場合は、章ごとの分量をだいたい同じにしているので、読みたい章をとってもらうようにしています。そうすると、自分で選択することになるので前向きな気持ちになります。

ABDも読書会なので、本全体を読もうとしてしまいそうになりますが、ポイントとしては歯抜けでも良いということです。ABD全体の場としてサマライズの時間が長くなりすぎたり、読むのが慣れていない人たちが多い場合に、無理して全部を分けて担当にしなくても構いません。

そもそもABDの時点で完全であることは捨ててるのだから、本の全体を読むことよりもリズム感などを重視した方が良いでしょう。場合によっては、第2部だけなど絞っても良いと思います。実際、私の本では2部だけとかしてます。

コサマライズのポイント

コサマライズでは、参加者の方への注意として「自分の意見や感想は入れない」ということを伝えてください。自分の意見を入れてしまうと要約にはならないので、他の人のインプットとして違ってくるからです。

もう1つの注意点は「枚数は少なくても良い」ということです。むしろ、短い枚数にまとめた方が良いよということを周知しましょう。

コサマライズ中は、みんな真剣に読み込むのでシーンとしてしまうため、多少のBGMは流すようにすると良いでしょう。進行のために制限時間を設けると思いますが、ファシリテーターは途中2回ほど残り時間を伝えつつ、状況を見て残り時間をのばしてあげてください。

プレゼン準備のポイント

コサマライズで時間がきて終了をしたら、それぞれプレゼンの準備ですが、参加者の方には手元でプレゼン用紙を連結してもらうようにしましょう。壁に1枚ずつ貼り出すと後で回収が大変になります。

ファシリテーターはサンプルを用意しておきましょう。B5用紙を横向きにして、それを縦に2枚並べたら、それらをマスキングテープで連結します。そうして、プレゼン用紙を縦に並ぶ感じで全部、連結させましょう。

それができた人から、貼り出していきますが、実際に貼り出す前に、貼り出す壁の前に順番に並んでもらったりしています。全員が横一列にプレゼン用紙を持った状態で並んだら、そこで記念撮影。その後、一斉に貼り出します。

そうすると、遅れている人は順次、前に並んでいく人を見ることになるので慌てて頑張ってくれます。また、全員で横に並んでみることで、貼り出す場所のだいたいの位置も把握することができるのです。

リレープレゼンのポイント

リレープレゼンはテンポが重要です。時間は一人あたり90秒〜2分にして、ファシリテーターがタイムキーピングしつつ進めましょう。ゲーム性を持たせることでうまく時間配分できた人が誇らしい気持ちになるように。とはいえ、時間を厳密にしすぎて気分を害するようなことは避けるようにしましょう。

順番よくできるように次の人が待機してもらうことも案外と大事です。また、交代のときにハイタッチをしてもらうのはオススメです。プレゼンは中々に緊張するので、終わった時の開放感と次の人へのバトンになります。

プレゼンを聞く側も「肯定ファースト」のアクティブリスニングを心がけてもらいましょう。とても簡単で、何は無くとも頷くだけです。ハイタッチしてるときに拍手も忘れずに。

またプレゼンでは「著者になったつもりでプレゼンしてください」ということも言うと楽しめます。特に、著者である私自身が参加した時はネタとして必ずお願いしています。

ギャラリーウォークのポイント

リレープレゼンのあとは、ギャラリーウォークといって各自が気になったところにポイントをつけるということをします。

このときの私のポイントは、本につけるような細いポストイットを配って、気になるところ、もっと深掘りしたいところ、ダイアローグでのおしゃべりのテーマにしたいプレゼン用紙に貼ってもらいます。

ポストイットにすると、ペンで印をつけるよりもぱっと見で票の集まったプレゼン用紙がわかりやすくなります。カラフルなポストイットを使うと、より映えます。

ギャラリーウォークの時間を休憩時間に使うようにしています。次のダイアローグの開始時間だけ伝えて、適宜に休憩を取りながら貼り付けてもらうことで混み合わないようになるし、それぞれで雑談がうまれたりします。

ダイアローグのポイント

ダイアローグでは、気になるポイントが共通する人同士で集まる方が盛り上がります。よくやるのがギャラリーウォークでたくさんの付箋が貼ってある人を順に表彰しつつ、それらの人たちを中心に人が集まってダイアローグできるようにしています。

ダイアローグに参加する人数は3〜4人程度が良いでしょう。人数が多いほど一人あたりの発言が薄くなってしまうし、なにより聞いてるだけより話した方が満足度は高まるので、全員が発言できることを気遣いましょう。

ダイアローグ中はリラックスして話せるように、お菓子など手でつまめるものを選んで置いておくと良いでしょう。ダイアローグまでのところで、かなり集中して消耗するので、チョコなど甘いものを。

ダイアローグは別のグループ分けで都合2回以上やれると良いでしょう。ずっと同じグループで話すより、適宜時間をきって、グループ分けし直すと良いです。ワールドカフェ的に一人残して入れ替わるか、ギャラリーウォークの付箋が次に多いものでグループを作るかします。

ダイアローグで話すのは、本の内容を深掘りするのも良いですが、謎解きにならないようんしたいものです。自分たちの状況や目的にあわせて考えれば、本の通りにするという話にならないはずです。自分ごとに当てはめて話し合うようにファシリテートしましょう。

チェックアウトのポイント

最後はチェックアウトです。肯定ファーストを改めて伝えてから実施すると良いでしょう。かなり話しやすい状況になっていて長くなりがちなので「一言だけ」とお願いしましょう。感想については、ABDについて、本の内容について、どちらでもOKです。

最後の最後に、ファシリテーターとしての挨拶でおわりますが、ぜひ参加者の人が拍手しやすいように感謝の言葉で締めてあげてください。

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倉貫 義人

株式会社ソニックガーデン代表取締役社長。経営を通じた自身の体験と思考をログとして残しています。「こんな経営もあるんだ」と、新たな視点を得てもらえるとうれしいです。

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