毎年恒例で書いている会社経営を続けている中で取り組んだ実験と結果を確認する1年のふりかえり記事です。2016年から続けてる過去の記事は以下のリンクから。

1年のふりかえり

本稿では、私たちソニックガーデンが2020年にどういった経営の取り組みをしてきたのか、そこから得られた考察について書いています。フラットな組織の運営や経営に携わる方の参考になれば幸いです。

ザッソウ管理ゼロで成果はあがる

はじめに(ソニックガーデンについての紹介)

2020年は、世の中としては新型コロナウィルスによる影響が大きい一年だったと思います。私たちソニックガーデンも少なからず影響を受けましたが、そのことに加えて、経営として取り組んだのは人数の増加への対処でした。

私たちソニックガーデンは、「納品のない受託開発」というコンセプトでシステム開発を請け負う会社です。社員数は2020年末の時点で50名。とりたてて大きな会社ではないですが、いくつかの点で特徴があります。

前述の「納品のない受託開発」という変わったビジネスモデルが1つ。もう1つが「全社員リモートワーク」で本社オフィスのない会社であること。そして、管理職のいない「管理ゼロ」のマネジメントをしていること。

一般的な会社と違うのは、ヒエラルキーや部署がないこと、評価やノルマがないこと、フラットな状態でセルフマネジメントで働く人たちで構成された組織であることです。いわゆるティール組織に近いと想像しています。

このように内発的動機付けを重視することで高い生産性と創造性を発揮できるようにしてきました。50人を超える組織になるとき、このスタイルを維持するにはどういったマネジメントができるのか、それが2020年のテーマでした。

リモートワーク(テレワーク)が一般化した影響

昨年のふりかえりで、私たちもメディアで多く取り上げられたことでリモートワークが世間に受け入れられ始めたのでは、と書いたのですが、それから半年もしないうちに、本当に広く知れ渡ることになるとは想像もしていませんでした。

新型コロナウィルスの影響は、2016年から全社員リモートワークをしていた私たちにとって、人によっては子供が休校で自宅での仕事が大変になったりなどありましたが、多くの業務ほぼ変わらず仕事を続けることができました。

先行している私たちが何か社会に貢献できないかと、私の著書「リモートチームでうまくいく」を出版社の協力を得て、無償で公開しました。また、リモートワークに関する取材や登壇などを通じてノウハウを共有してきました。

本社オフィスを持たない私たちは「仮想オフィス」のコンセプトでつくったソフトウェアに集まって仕事しています。仮想オフィスがあるからこそ、物理的に集まらなくても、気軽なコミュニケーションができて繋がりも感じていられます。

自社で開発した仮想オフィスは「Remotty」というサービスとして一般向けにも提供しています。リモートワーク注目の高まりと共に、Remotty事業も急成長することになりました。少しでも多くの企業のお役に立てれば嬉しく思います。

自分たちの会社は一体なんの会社なのか

私たちソニックガーデンは、もともとは大手システム会社の社内ベンチャーから始まりました。その当時は新規事業として取り組んでいた社内SNS製品が主事業で、その事業を買い取る形で独立をして創業したのが今の会社です。

創業時にビジョンを考える際に、ビジョナリーカンパニー2の本にならって一緒に起業してくれたメンバーの顔ぶれを見て「プログラマを一生の仕事にする会社」としました。それで「納品のない受託開発」の事業を始めました。

そこからプログラマたちが増えて「納品のない受託開発」は事業拡大しつつ、部活という制度から新規事業にも取り組むようになります。そうして今は、前述のRemotty事業をはじめ、それなりに成果をあげるようになりました。

そうしていくと、幾つもの事業を抱える私たちは一体なんの会社なのかブレそうになります。一般的なスタートアップだと受託をやめて自社事業のみにフォーカスすることが多い気がしますが、今時点の私たちは違う道を選択しました。

「納品のない受託開発」こそが私たちにとっての軸であること。それはプログラマが幸せに働くビジョンを実現するには欠かせないものだからです。私たちは、やはりプログラマが中心にある会社なのだと再認識することになりました。

プログラマの活躍を支えるプラットフォーム

事業が成長するにつれて、必要な人材は多様化していきます。提供するものがソフトウェアだとしても、開発できるプログラマだけでは事業は成立しません。マーケティングやカスタマーサポートなどの仕事があります。

私たちソニックガーデンでは、そうした役割をプラットフォームと位置付けました。創業当時は社長と副社長だけで、プログラミング以外の業務をすべてやっていましたが、それが今はプラットフォームとして抽象化されました。

プロサッカークラブがサッカー選手だけで成り立たないように、私たちソニックガーデンでもプログラマではなくとも、プロフェッショナルとして働く人たちが増えました。そうした人たちが新規事業をリードしてくれてます。

プログラマを中心としてる中で、あえて新規事業に取り組む意義を考えた時、それもプログラマの活躍する場所をつくることに繋がるからです。つまり「納品のない受託開発」とは手段が違うだけで目的は同じなのです。

もちろん事業開発に携わるプログラマ以外の人たちも、自分なりの内発的動機付けで取り組んでもらっています。その結果、様々な事業が立ち上がり戦力が分散されることになりますが、それは受け入れることにしました。

コミュニティ型の組織でチーム分割した課題

創業当時は一つのチームだった会社が、少しずつ人も事業も職種も増えたことで多様性が増して、コミュニティのようになってきました。「チームとコミュニティの違い」という記事に書いたコミュニティ型の組織です。

これまでは、その中で助け合いを起きやすくするために数人ごとのチームに分けて運営をしていました。親密さを産む効果はありましたが、そのチーム分けまでは自律的に行われておらず、経営サイドで考えていました。

そこで起きた課題は幾つかあります。事業と目的をもったチームを作ると、そこに所属する人は、その目的から外れた仕事に取り組む心理的ハードルが高くなってしまうこと。個人よりもチームの方が主体になってしまうのです。

事業の拡大を第一義にする会社なら、それでも良いのですが、私たちの場合は個人の内発的動機付けと自由さを大事にしているからこそコミュニティ型の組織なので、その状態はあまり良い状態とは言えません。

他にも、一度つくったチームが固定化されてしまうと、新しい人が入りにくい状態になったり、逆に人が増えたチームは身動きが取りにくくなってしまったりと、組織の柔軟さが失われつつあるように感じました。

自主的に生まれるプロジェクトに兼務で参加

ティール組織で有名なビュートゾルフが、12人ごとのチームが多数あって成立していることを参考に考えたチーム制でしたが、いくつも事業や案件があって、それぞれ人の組み合わせや仕事の内容が違う私たちには合いませんでした。

そんな中で私たちの会社を見渡すと、実に多様なプロジェクトがあることに気付きます。お客様の案件も1つ1つがプロジェクト、自社サービスごともプロジェクト、社内でいくつかある改善委員会もプロジェクトです。

他に、4〜5人で集まってやっている自主的な勉強会やザッソウ(雑談・相談)の会などもプロジェクトのようなものです。そして、働く個人は複数のプロジェクトに兼務で参加しています。だから全員に特定の上司がいないのです。

そう考えると経営サイドで決めたチームなど要らなかったのです。複数のプロジェクトに参加するからこそセルフマネジメントが必要で、それができれば自立した個人が相互につながっていれば十分です。その関係性こそコミュニティです。

プロジェクトは新しく何かを始めたい人が、まさしくリーダーとなって人を社内外から集めれば良くて、何をするかよりも誰とするかを重視できます。それぞれのプロジェクトは少人数のチームで良いのです。

個人の思いから始めた活動を組織に取り込む

このように考えると、今時点の私たちにとって会社とは共通のビジョン・価値観で集まった個人の繋がり(ソーシャルグラフ)であって、その上で様々なプロジェクト(目的をもったチーム)が存在しているコミュニティになります。

一般的に組織マネジメントを考えていくと、人をグルーピングして統制し、その秩序を保つ方向に進めていくように思います。私も考えかけましたが、それはこれまで私たちが取り組んできた方向とは真逆だと気づいたのです。

これまで私たちの組織は、働く人たち個人の内発的動機付けによって組織と活動の幅は広がってきました。たとえば「業務ハック」を事業として取り組むようになったのは、業務ハックに思いをもったリーダーがいたからです。

組織に人が増えるにつれて人材の多様性は増していきます。そうなると思いの方向は広がっていきます。そこで、個々人のやりたいことと会社でやろうとしていることをすりあわせすることで、会社の目的も進化させてきたのです。

私たちにビジョンはありますが、組織の形は固定化せず柔軟に変わってきました。これは意図して変えたのではなく、その時点ごとに現実を見て、変化した現場の状態をもとに会社の概念をアップデートしてきた結果です。

私たちの会社の目的は、個人が自立すること

私は、以前から取材などで「社長の責任」について聞かれたときに、会社の状態がどうなろうと社員(と給与)を守ることではなく、たとえ会社がなくなったとしても、どこでも生きていける社員になってもらうことだと言っています。

昭和の時代ならいざ知らず、今のような先の見えない環境で、しかも人生100年と言われている時代において、会社が社員の生涯を守ることなど不可能です。個人が自立することこそが、会社が存在する目的ではないかと考えています。

個人が会社に依存しなくなることで、本当の意味で会社と対等な関係になります。全員がフリーランスになれということではありません。それぞれが自立した上で、信頼しあい相互に強みを活かして助け合える関係が目指す姿です。

その目的に合わせて組織の形は適宜アップデートしていく方が自然です。少しずつ、その時々の状況に合わせて見直していくのは、プログラムのメンテナンスをしていくことに似ています。組織はソフトウェアなのだと実感しています。

ここに書いたことは今時点での観測に過ぎず、うまくいくかどうかはわかりません。だからこそ、経営というのは試行錯誤を繰り返していく実験みたいなものだと思います。また1年、私たちの実験は続きます。