このたび株式会社ソニックガーデンを設立し、TIS株式会社から独立いたしました。今回、独立に際しマネジメントバイアウトを実施しましたので、TISとの資本関係はなく社員全員が退職し、完全に新たな会社として設立しスタートしました。新しいチャレンジに応じてくれたTISには大変感謝しています。事業に関する公式な内容はプレスリリースをご覧ください。こちらのブログでは、今回の独立に際しての中の人として自分の個人的な考えについてだけを残します。

プレスリリース:「株式会社ソニックガーデン」設立および事業移転のご案内


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最初のきっかけは、この4月に実施されたTISの3社合併でした。合併に関する発表があったのが昨年の秋頃で、その時期から今回の動きは始まっています。なので振り返ってみると1年がかりだったんですね。会社が合併するということは、会社が変わってしまうということです。その変化を必然とするならば、それに向けて私はSonicGardenをどうすれば良いのか考えることになりました。これまでSonicGardenは、社内カンパニーという中途半端な形ではありますが、会社の意向や他人から与えられたものではなく、私たち自身で創り上げてきた思いが強いです。そのため、自分たちのビジョンを実現すること、自分たちのやり方を選べること、何より、一緒にやってきたスタッフと働き続けるためにも、別会社として法人化を目指すことにしました。つまり、大きな変化に飲み込まれる前に、自分たちが自ら変化することを選んだのです。

当初は、私も会社や株式に関する知識もなく100%子会社という方向性で進めてきました。しかし、株式公開している上場企業の中で、新しい法人をつくるということは想像以上にハードルの高いものでした。これまで、大企業の中でアジャイル開発の実践や社内SNSのオープンソース化、社内カンパニーの立ち上げなどのパイオニアをしてきた自負をもっていた私ですが、これ以上は書けませんが、今回は従業員という形では出来ない領域まできてしまったようです。そうしたタイミングで、3.11の大地震が起きました。あのとき私は島根県に出張中で、その地震そのものを直接に感じてはいないのですが、それがより一層の衝撃となりました。テレビの中で起きる惨劇に、なす術のない自分、東京に戻ってもまたいつ地震が来るかわからないという恐怖、なにより人は簡単に死んでしまうということをまざまざとリアリティを持つことになりました。

私は、経営者としても大きな賭けに出るタイプではなく、しっかりリスクヘッジをしながら進めていくタイプだと自分で認識しています。自分の人生においてもそうで、アジャイル開発を世の中に広める手段として大企業の社長になって発信するという目標のために、これまで割と地道に企業内での出世を進めてきました。しかし、この地震をきっかけに思ったのは、そこまで到達するためにそんなに長く待てない、ということでした。本当にいつ死ぬかわからないとしたら、そんなに先のために今耐えるという選択肢で良いのだろうか、と。自分の生き方に後悔したくないという思いが強くなったのです。また、株式公開している企業でトップになったところで、果たしてどこまでの自分のビジョンを貫き通すことが出来るのか、上場企業の中を知れば知るほど、疑問をもったというのも正直なところです。ここはリスクをとるべきだと判断しました。

そうした私の思いをこれまで一緒にやってきてくれた仲間たちと何度も話し合いました。今回の思いの源泉には、親会社の意向などで解散することなく、今のメンバーでチャレンジを続けていきたいというところから始まっているので、彼らが一緒でなければ意味がありません。しかし、安定していると思われる企業で働いてきた中で、転職ではなく起業をするという選択肢は本人の気持ちだけでなく、その家族も含めての大きな決断になります。特にお子さんが産まれて間もない家庭を持っているメンバーたちは本当に大変な決断だったと思いますが、全員が共にチャレンジしてくれるという決意を固めてくれました。みんなの決断に本当に感謝しています。

起業することと法人を作ることは別の話です。よく同一視されますが、事業を興すだけであれば学生でも出来ますし、会社に勤めながらでも出来ますし、会社の中で事業を立ち上げることも起業と言えるでしょう。法人を作ることの手続きは簡単ですが、その作った会社で事業をして生活をしていくというのは大変なことです。ビジョンがあって、仲間がいるからといって、それだけでやっていけると思い込めるほど若くはありません。ビジョンの実現のためには事業戦略とビジネスモデルが必要だと知っています。よくあるベンチャーの姿だと、しばらくは無収入で頑張ったあとにひとやま当てて急成長するということを目指すのかもしれませんが、私たちが目指す姿は違います。家族を大事にする私たちは、最初から安定した収益もあげられるようなビジネスを組み込んだ上で会社を作ることにしました。それが「ソフトウェアパートナーシップモデル」です。

未来に成し遂げたい「ビジョン」、今を一緒に戦ってくれる「仲間」、未来と今を繋ぐ「ビジネスモデル」この3つが揃ったことで、ようやく会社としての第一歩を踏み出すことになりました。なので、今回の独立にしても一か八かの大きな賭けという感じでもなく、割と現実を見据え堅実にいけるところは堅実にいっています。それでも、起業というのは実験のようなものだと私は思っています。人にとって自分の信じるビジョンがあったとしても、それは仮説に過ぎません。仮説では理解してもらえる人は少なく、自分が正しかったことを証明するには実験をするしかありません。多くの起業家は、自分自身の正しさを証明するために実験で試しているように思います。そう思えたら、もしうまくいかない時があっても、それは仮説が間違っているだけなので、修正すれば良いだけです。会社の終わりが自分の人生の終わりではないと割り切ること。

ここに書ききれないことと、当然ここに書けないことなど沢山ありますが、誰にとっても今時点の最良の選択ということで、今回のチャレンジが決まりました。今回の発表で、多くの方々から励ましのお言葉を頂きました。ありがとうございました。またちょうど、このブログを書いているときに、Facebook上で、ブレイクスルーパートナーズの赤羽さんからもお祝いのコメントを頂きました。その続きで、SonicGardenが会社として目指したい姿や、ソフトウェアパートナーシップモデルに関する質問などを頂き、お答えさせて頂く中で、改めて自分の考えの整理が出来ました。ありがとうございました。そのやり取りの一部始終が私にとっても興味深いものとなったので、転載をしておきます。


Yuji Akaba:
設立、おめでとうございます。ぜひ素晴らしいベンチャーとして急成長していってください。不安な時はいつでもご連絡ください。

Yoshihito Kuranuki:
ありがとうございます!私たちの目指す企業像は、(急成長するという)今現在のベンチャーの目指すべきとされる姿とは違うという自覚もあり、だからこそ次の起業のモデルとなれるよう考えています。

Yuji Akaba:
なるほど! もう少し解説していただけますか?

Yoshihito Kuranuki:
SonicGardenとしては、IPOやバイアウトでのEXITを今は目指していません。ソフトウェア企業はナレッジワーカーの集団で、ナレッジワーカーの組織は大企業である必要はないと思っています。そして、ソフトウェア企業は、物理的な工場を作る必要などなく、大規模な資金投入がなくても良いのではないか、と考えています。そうなると、キャピタルゲインを諦めさえすれば、IPOを目指す必要はなくなります。IPOしてビジョン実現の戦略が採れなくなることもあり、結局MBOするくらいなら、最初からIPOしない、という選択です。

Yoshihito Kuranuki:
株式市場を前提とした経済が行き着くところまでいくとして、その次があるとしたら、少なくとも知識社会においては、大規模な資本投資による大量の生産や従業員での企業という形ではなく、お客様への価値提供とそこからの収益だけで成り立つ社会が出来れば良いし、そのためにもITを活用することが重要になってくるのではないか、と考えてます。

Yuji Akaba:
それだと資金調達に困りませんか?

Yoshihito Kuranuki:
果たして大規模な資金調達が必要なのか、というとそれはないと思っています。しかし、新しいイノベーションのための商品開発をしていくための原資は稼ぐ必要がありますね。そのために、私の考えたのは「ソフトウェアパートナーシップモデル」と呼んでいる受託だけれども、かなりの時間の自由度を持つことが出来る仕事をしながら、新しいサービスの開発も出来るようにしています。

Yuji Akaba:
もう一つ質問させてください。ソフトウェアパートナーシップモデルというのは、どういったものでしょうか? どういう条件、スキル・スタイルの時に可能なものでしょうか。 大半のベンチャーはこの問題に苦しんでおり、答えが全くないものですから。

Yoshihito Kuranuki:
そうですね、普通であれば商品開発をする時間をとりたいけれども、資金が足りなくなり受託に手を出すものの、コンサルにせよ開発にせよ時間を切り売りすれば、時間が足りなくなってしまいますね。私のビジョンではプログラマを中心に考えているので、出来るのはプログラマ限定になりますが、先日ブログに書きました。 https://kuranuki.sonicgarden.jp/2011/09/post-50.html (オフェンシブな開発〜「納品しない受託開発」にみるソフトウェア受託開発の未来)

Yoshihito Kuranuki:
私たちは、よくある(企業:サービス)=1:1、になるのでなく、(1:他)で、沢山の新しいサービス開発を失敗も含めてチャレンジすることで成功確率を高めようとしています。そのために、ちゃんとお客様をつけて仕事をしつつ、失敗も経験として次に活かせるスタートアップのプラットフォームのような企業になりたいと考えています。それもブログで書きました。 https://kuranuki.sonicgarden.jp/2011/09/post-45.html (リーンスタートアップを実践してのこれまでとこれから)

Yoshihito Kuranuki:
これでようやく最初の話に戻りますが、SonicGardenでは短期的な急成長でEXITを目指すプロジェクト型の企業ではなく、むしろゴーイングコンサーンとして、日本から世界で使われて喜ばれるサービスを作り出す仕組みを持つ企業になることがビジョンです。 http://www.sonicgarden.jp/company (株式会社ソニックガーデン会社案内)

Yuji Akaba:
倉貫さん
お気持ちはよくわかりました。このアプローチが適用しやすい業種、分野があるように思います。
1.一番フィットする分野、サービス
2.比較的実施しやすい分野、サービス
3.向かない、お勧めできない分野、サービス

はどういったものになるでしょうか。

Yoshihito Kuranuki:
ソフトウェアパートナーシップモデルの方は、お客様がビジネスオーナーになるので、営業体制などはお客様が持つので比較的どういった分野でも対応できます。それでも、外向けの売上のたつサービスや新規事業などが向いてると思います。

Yoshihito Kuranuki:
スタートアッププラットフォームモデルとして自社で作るサービスの方は、当たり前ですが、ウェブのビジネスをするサービスが前提です。広告型でも直接取引のフリーミアムでも可能ですが、ビジネスオーナーになりますので、あまり営業マンが必要だったりするビジネスは向いていないと思います。
例えば、37signalsはSonicGardenのベンチマークにしていますが、彼らのようなITツール提供の分野は向いてますが、Grouponのような営業マンを抱えるような分野は難しいと思います。
人を投入することでしかリニアに売上が延びないようなビジネスの場合は、リーンにやりにくいと感じます。

Yuji Akaba:
倉貫さん、ブログを何度か読み直して、ポイントは「月額定額で開発・運用を行う」ということだと理解しました。正しいでしょうか。
月額定額にしても、費用の根拠は必ず求められますし、定額ということは結局、その定額内の工数でやるわけなので、通常の受託開発とどう違ってきますでしょうか?

Yoshihito Kuranuki:
はい、「オーダーメイドをサービス利用料で月額定額」というところがポイントですね。
そして、仰る通りの疑問が産まれますが、私たちのビジネスでは作業にかかる工数をお客様に提示しない、という方針を採っています。決められたキャップの中で、要件を上から順にこなしていくだけで、結果はパフォーマンスに表れます。お客様には毎月出し続けるパフォーマンスで判断頂きます。具体的には実際に機能が出来たり画面が出来たりリリースしたり、など動くソフトウェアで判断してもらいます。
それではどれだけのパフォーマンスが出るのか?という発注時の不安があるのに対しては、1ヶ月は無料で開発します。フリーミアム的にパフォーマンスに満足頂ければ、2ヶ月目以降に課金させて頂きます。そして、パフォーマンスが出るかどうかのポイントとして「チーム固定」ということをお約束させて頂いており、最初に担当したプログラマが最後まで面倒を見ます。

Yoshihito Kuranuki:
お客様とは、私たちの方法では、Pivotal Trackerというクラウドの要件(チケット)管理ツールを使って、リアルタイムに共有しますが、その要件についてはだいたい1週間くらいの単位で実現のお約束はしますので、そこを見て行けば、この先どれくらいでどこまでいけるか、過去にどれくらいでどこまで出来たか、は、いつでも完全に見える化出来ています。

Yoshihito Kuranuki:
グッチのバッグを買うときに、必ずしもかかった作業工数でお金を払う訳ではないのと同じで、費用の根拠は工数ではなくても良いと考えます。
プログラマが努力や経験を経て生産性を上げたとしても見積もりが下がってしまい、ビジネス上の売上や利益につながらないのが、これまでの一括発注・請負の形でした。一方で派遣のように作業時間でお金を頂くとしても、時間と金額が決まっていれば生産性を上げるモチベーションにはなりません。
従来の受託開発との違いは、この方法だと生産性が向上すれば、お客様に満足頂くパフォーマンス量は変えずに、自分の時間を多く持つことができるという点です。そうして出来た時間を、他のお客様の仕事でシェアしても良いし、自社の新たなサービス開発にあてても良いという訳です。

Yuji Akaba:
そうなんですね。素晴らしいですね!

Yoshihito Kuranuki:
どこまでも本当にうまく行くかどうかはわかりませんが、今のところ、この方法に共感頂き、お仕事を頂けるお客様もいらっしゃいますし、弊社の事例としていくつか出てきました。
このビジネスモデルが成り立つには、出来る量で嘘をつかないという「信頼」が重要になってきます。そのために「属人性」は排除するのではなく、これは「人に依存するビジネスである」と割り切りました。元々、プログラマはマニュアル化することのできない仕事をするアーティストだと考えていましたので、合致してます。
ただし、その割り切りのためには、IPOして急激に大きくしない、とか人が多い意味での大企業を目指さない、などの経営方針が必要になってきます。その判断は、これまでの私の上場企業の中の社内ベンチャーという立場では採ることができません。そうしたことから今回のMBOを決意をしました。