経営者が新規事業を失敗させてしまう7つの罠

経営者が新規事業を失敗させてしまう7つの罠

多くの企業が新規事業に取り組んでは失敗している。新規事業はそもそも難しく、企業の中で始める新規事業もスタートアップも成功するケースはわずかしかない。中でも既存事業をもった企業の中で新規事業を立ち上げるのは、非常に難しい。スタートアップに比べて恵まれた環境にあるにも関わらず、である。

私たちも大手システム会社の社内ベンチャーからスタートしたので事情はよくわかっているし、「納品のない受託開発」では新規事業に取り組むお客様の相談を多く受けてきた。本記事では、そうした経験から新規事業の当事者でなく、既存事業の経営側がやっていることで失敗させてしまっている点について考察した。

たくさんの関係者を入れる

仲間内で始めるスタートアップと違い、企業で新規事業に取り組む場合は、社内からメンバーを集めてきて体制を作るところから始まる。事業計画をもとに必要なスキルを持った人員が配置される。しかし、そこに落とし穴が潜んでいる。

新規事業のチームには、手を動かせない人は要らないし、手を動かすだけの人も要らない。人が増えるだけで、会議にかかる時間は増え、調整にも時間がかかり、事業の方向転換さえもしにくくなってしまう。最初は極力、人を減らした方が良いのだ。

新規事業に人は足りないくらいがちょうど良い。どんな仕事も「やるべき」で判断すると無限に増えてしまう。「絶対にやること」だけにフォーカスをするためにも、リソースは足りなくて良いのだ。人手が足りなければ知恵を出すし、自ずと優先順位にシビアになる。

新規事業は優先順位を決め、対象にフォーカスすることで成功の確率は高まる。そのためには、スペシャリストのスキルを持ちつつも、ジェネラリストとして動ける人たちで構成されなければいけない。指示を待つのではなく、自分の頭で考え協調して働ける人たちだ。無駄な人は一人として要らないのだ。

進捗の管理をしっかりとする

新規事業の立ち上げにおいて、進捗を管理することほど意味のないことはない。新規事業に進捗率は意味はないのだ。投資をしている経営者サイドにしてみると、新規事業がどれだけ進んでいるか知りたくなる気持ちもわからなくはない。

しかし新規事業においては、事業計画に記された項目やタスクがどれだけ進んでいたとしても、事業として価値を生んでいなければ、進捗はゼロであると言っても過言ではない。

つまり、ずーっとゼロの状態が続いて、どこかでいきなり1になる。それまでは0%のままだ。事業の立ち上げとは、商品やサービスを顧客が買ってくれて初めて最初の1歩を踏み出すことになる。0と1、その差は果てしなく大きい。

そこを無理に進捗報告をさせて管理しようとすると、新規事業チームは何かしらの進んでいる報告をするだろう。しかし、それは見せかけの進捗だし、新規事業に取り組む側も作業を進めるだけで新規事業が進んでいると勘違いするようになってしまう。それは新規事業にとって非常に危険なことなのだ。

結果よりも制約を重視させる

新規事業を生み出すためには、既存事業をもとにして作られたルールや制約などを超えて、やってしまわないと実現しないことは多い。にも関わらず、企業内で新規事業を立ち上げようとする際に、制約の方を重視している人たちは非常に多い。

インターネットのサービスを立ち上げようとするのに、インターネットへの接続が禁止された環境に甘んじていたり、社外のリソースを活用するのに、手続きが煩雑だったり、目的よりも手順を気にしすぎている。

それで本気で新規事業を成功させたいと思っているのか、と問いたい。新規事業の立ち上げには、前例や制度などの社内にある、あらゆるものを逸脱したとしても、結果を出せば良いという姿勢が求められる。そこまでしても成功するとは限らない。

企業内の制約を乗り越えることにエネルギーも時間も使っている場合ではないし、それまでの常識で出来なかったことをするからこその新規事業である。それこそが、新規事業を企業内でやることの真髄とも言える。正しいかどうかなんて関係ないのだ。

既存事業と数字で比較をする

これは既存事業の規模が大きければ大きいほど起こりえる。新規事業の事業計画を立てる際に、ある程度の見通しを立てる訳だが、得られる売上と利益が小さすぎると、その事業計画の実行に承認が降りない。

既にある事業を大きくしていくことと、ゼロから新しい事業を創りだすことは、まったく違う。既存事業ならば市場規模の予測は付くかもしれないが、新規事業で予測することは難しい。市場の発見、創出も目的のひとつだからだ。何より、どんな事業も最初は小さく始まるものだ。

新規事業を始める前から3年で10億、100億の売上にできるような事業計画を立てることなど難しい。ビジネスモデルが確立し、どれだけ投資をすれば、どれだけリターンがあるかわかっていれば別だが、それは新規事業ではない。

新規事業が始まってからも、既存事業と並べて四半期ごとの報告などさせるのもナンセンスだ。事業が違うなら、売上指標や利益構造が違って当然。そこを横並びに評価しようとすると、新規事業などしない方が良いと考えるに決まっている。

新規事業の狙いが他にある

企業として新規事業に取り組むとき、そこにどんな目的があるのか。担当者が新規事業をやりたくてやる、既存事業がシュリンクする危機感でやる、会社の風土を変えるためにやる、それではどれもうまくいかない。

事業をする目的は、何か顧客となる人や会社の問題を解決することが第一だ。世の中の問題でも良い、誰かの困っていることの解決でも良い。その解決に価値を見出す人がいて、お金を出すから商売になり、それが続けられたら事業になる。

企業の思惑を入れてうまくいくほど、新規事業は甘いものではない。実行するメンバーも、事業の成功よりも企業の狙いに重きを置いて活動することになるし、企業側としてもその成果にも甘んじた評価をすることになる。

自社の問題を解決するための新規事業ではうまくいかない。京セラ創業者の稲盛さんの言葉「動機善なりや、私心なかりしか」。これが、どんな事業でも出発点になるはずだ。

ロジカルにリスクを排除する

新規事業の計画を立てる際にリスクを考え出すと何も動けなくなってしまう。無謀なことをする必要はないが、うまくいかないリスクは付きものだし、うまくいかないことの方が多い。損得勘定だけでロジカルに考えるなら、新しいことはしないという結論になってしまう。いろいろ考えた結果やめる、という言葉はよく聞く。

さらに企業内の新規事業では、予算と執行のための決裁を受けようとすれば、普通にリスク判断をすれば、止めることになるだろう。大企業になればなるほど、決裁を通過する人数が増え、それごとに企画が丸められるか、止めようとする動きが増えるだろう。

そうして最終的に決裁の通る計画書は、総花的なアイデアになり、他社の事例を参考にしたようなものになる。果たして、そんな新規事業などうまくいくだろうか。

新規事業ならば、そのアイデアはそれまでの常識にないものかもしれない。多少クレイジーなアイデアでも構わない。ロジカルに考えることも大事だが、論理的に導けるなら誰もが同じ答えにたどり着いてしまう。本当にうまくいくのか?と疑うようなアイデアの方が良い。その仮説を検証することこそが、新規事業なのだから。

事業ごとにチームを組み替える

企業で新規事業に取り組む際、多くの企業がゴールを決めるプロジェクト型にしているが、それも大きな落とし穴になっている。プロジェクトは事業ごとの成否に合わせて解散し、また新しい事業に合わせて人を入れ替える。こうするとせっかくのチームで得た経験値をなくすことになるのだ。

新規事業はうまくいかないことの方が多い。うまくいかなかった際の経験は貴重なものだ。むしろ、その経験を生かすことで、その次はよりうまくできるかもしれない。だから、事業に合わせてチームを組み替えるのではなく、継続させたチームの中でいくつも事業に取り組む方が良い。

私たちの前身は社内ベンチャーだったのだが、社内ベンチャーを始める際には特定の事業をターゲットにした計画で始めたが、一度、社内ベンチャーという組織を作ることができたら、あとは与えられた予算の中で、何度も様々な新しい事業に挑戦した。

本来なら、当初の計画以外のことをするのはご法度だったかもしれないが、そのチームで結果を出すためなら、そうするしかないと当時は判断して取り組んだ。その判断は間違っていなかったと、今なら思える。そこから「納品のない受託開発」のような新規事業が生まれたのだから。

まとめ)新規事業のジレンマ

新規事業に取り組む活動は、始める段階で予測のつかないことが多い。少しずつでも進めていくことで、見えてくるものも多く、経験を積めばアクションも変わってくる。しかし、企業において何か投資を行うには、事前の計画や見通しが必要となる。それが新規事業の抱えるジレンマと言える。

また、新規事業の立ち上げは、指示命令をしたり管理をしたからといって実現するものではないし、本人たちがいくら努力してもうまくいかないケースの方が多い。その失敗にペナルティがあるなら、誰も会社で取り組まない。会社の業務でないなら、そんな心配せずに取り組めるが、ならばいっそ会社を辞めて立ち上げようとするだろう。それだと会社にとっての新規事業にはなりえない。これも新規事業のジレンマだ。

こうした新規事業におけるジレンマを解消するために、私たちの会社ではいっそ新規事業と呼ばずに「部活」という制度を作って実験を行っている。ちょうど部活の取り組みが公開された。この部活制度については、また改めて別の機会に紹介しよう。

ソニックガーデンの”部活”から始まる新規事業〜乳がんの病院・名医ガイド『イシュラン』ができるまで

イシュラン

倉貫 義人

株式会社ソニックガーデン代表取締役社長。経営を通じた自身の体験と思考をログとして残しています。「こんな経営もあるんだ」と、新たな視点を得てもらえるとうれしいです。

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