講演や取材などで「管理がない」という話をすると驚かれる。特に、リモートワークなのに管理はどうしているのか、本当にちゃんと働くのか?サボらないのか?という疑問が浮かぶのだろう。

確かに目の前にいなければ、働いているのかどうかわからないから心配になるのだろう。しかし、オフィスにいたとしても、本当に働いているのかどうか、管理できているのだろうか。椅子に座ってコンピュータに向かっていれば仕事をしている・・・とは限らないだろう。一生懸命にウェブサーフィンしているかもしれない。

結局は、コンピュータを使った仕事が普及してから、ちゃんと働いているのかどうか逐一みて回ることなど現実的ではなくなったのではないか。さらに、定量的な成果での評価がしにくいナレッジワーカーになると、さらに管理は難しくなる。そうした、これからの働き方でポイントとなるのが「セルフマネジメント」だ。

一人一人がセルフマネジメントを身につけて自律的に行動する組織は、決められたことだけをする人で構成された組織よりもはるかに柔軟で、これからの変化の時代を生き延びることができるようになるだろう。本稿では、そんなセルフマネジメントな組織をどうマネジメントしてきたのか、振り返ってみた。

管理の要らないほどの信頼関係を入社前に築いておく

私たちが取り組んでいる「納品のない受託開発」は、お客様へのコンサルティングとプログラミングを組み合わせた仕事であり、それは成果を定量的には測ることのできない、管理することがとても難しいナレッジワークだ。

自分もそうだが、ナレッジワーカーたちはきつく管理されるよりも、自由に考える時間を与えたほうが生産性が高くなる傾向にある。とすれば、いっそ管理をしない方向で経営ができないかと考えたのが私たちの経営スタイル「エクストリーム経営」だ。

会社が細かな管理をしない代わりに、各自が自分のことは自分で管理をする。さらに、自分のことだけが出来れば良いわけでなく、周りと協調して活かすこともできることが重要で、そこまで出来て「セルフマネジメント」だと呼んでいる。

セルフマネジメントな組織にするためのポイントは、採用前と採用後のそれぞれにある。採用前については、以前にも記事を書いているが、応募から半年から一年ほどの期間をかけて、お互いにじっくりと判断できるようにしている。

時間をかけているのは、なにも採用プロセスを通じた見極めという側面だけでなく、入社前に信頼関係を築くためでもある。社員になったからと、そこから信頼関係を築くのではなく、信頼関係が出来ていて、もはや社員だと思えるなら、そのタイミングで入社すれば良いのだ。実態が先という訳だ。

管理はしないがマネジメントはしている

セルフマネジメントができる人材を採用して、あとは放置すれば、自己組織化されたチームが出来上がるかと言えば、そうではない。

チームとしても個人としても働く意義やミッションについて共有し、どうしていきたいのか、どんな未来を目指しているのか希望やビジョンについて話し合い、何を大事にしているのかの価値観や企業カルチャーを伝えていかなければいけない。

私たちの会社で言えば、社長ラジオという仕組みで音声を使った共有をしたり、YWTと呼ぶ社長との1on1での面談を半年に1度実施したりしている。それに、このブログを書くことも社内に思いを伝える方法の一つだ。

そうした無形で、定性的で、短期には効果の出にくいことをするのが、セルフマネジメントのチームのマネジメントだ。そもそもマネジメントとはそういうものだろう。

そのようにマネジメントの仕事こそ本来は定性的で、管理することが難しい仕事の一つだ。マネージャを管理するために数字だけに頼れば、不幸なことが起きてしまう。数字だけに頼った管理の行く末が、粉飾決算などの社会問題なのではないか。

数字を見ないのは愚かだが、数字だけに頼るのはもっと愚かだ。人はコンピュータや機械ではない。数字の通りに動くことはない。数字はあくまで過去の取り組みの結果であり、今の状態を把握するためのものだ。その先のことを考えるのは数字が出発点ではない。見るべきは人だ。

適材適所を見つけること、Whyから始めよ

セルフマネジメントな組織なので指示命令はないが、個々人にあった役割やミッションを見つけて提案することはある。全員が同じことをする必要はないし、一律で評価する必要もない。

本人にとって、好きなことで、得意なことで、会社に貢献できること、その3つが重なるところが見つかれば、あとは任せても大丈夫。それが適材適所と言える。

そして、外発的動機に頼らないのもセルフマネジメントの組織をマネジメントするポイントだ。報酬や地位を餌にして、指示命令をして嫌な仕事をさせても、ナレッジワークでは生産性も出ないだろう。大きな影響を与えるのは内発的動機だ。

そんな内発的動機も、高めようとして高まるものでもない。モチベーションなんて無理やり高められても、しんどいだけだ。意欲の高いときも、低いときもあっても良い。多少、パフォーマンスが出ない時があっても良いように会社があるのだ。

ただし、内発的動機でうまく働けるかどうかは本人次第だが、その前提はマネジメントできる。どんな仕事でも、意味や意義を一緒に考えることだ。そう、Whyから始めよう。以下のTEDの動画が詳しい。

責任のある仕事をすること、誰のための仕事か

セルフマネジメントに向いた仕事というのもある。決められたマニュアル通りの仕事や、責任範囲が非常に小さな仕事では、セルフマネジメントは活かせない。逆にセルフマネジメントができないなら、そういう仕事をするしかないだろう。

私たちの取り組んでいる「納品のない受託開発」は、顧問として直接お客様とやりとりをする仕事だ。マニュアルなどなく、それぞれが会社を代表する責任ある仕事だ。

価値を提供する最前線にいるので、大変だけれど、お客様の喜びはダイレクトに受け取れる。毎週お客様と直接(オンラインだけど)お会いして価値を提供しようとすると、サボってる暇なんてない。

上司のために働こうという気持ちより、感謝してくれて、お金を払ってくれるお客様ためなら働く意欲は湧いてくる。なんとも現金な話だが、そんなものだ。

自分なりに工夫ができる裁量があるということも大事なことだ。セルフマネジメントと言いながら、自分のできる範囲が狭すぎては結局、管理されているのと変わらない。セルフマネジメントを促進したいなら、同時に裁量を与えよう。

お客様に直接貢献できることも、自分なりに工夫をすることも、仕事する喜びの源泉だ。セルフマネジメントさせたいならば、仕事の喜びを奪ってはいけない。

デキる人ほど稼ぐ時間は短くて済む仕組み

セルフマネジメントな組織で、どうすれば各自が生産性を上げていこうと思うようになるのか。生産性をあげた方が得になるような仕組みが必要だ。ただ、その損得が外発的動機と直結してしまうと、結局はセルフマネジメントにはならなくなってしまう。ここにジレンマがある。

通常の会社であれば、生産性の高い社員がいて時間が空いたら、さらに次の仕事が降ってくることになる。だから、デキる人ほど沢山の仕事をする。その代わり、他の人よりも多くの報酬を与えることで、釣り合いを取っている。つまり、外発的動機に頼らざるを得ない。

私たちの実践する「エクストリーム経営」では、生産性を高めて時間が空いたとしても、顧客案件の仕事を入れないという仕組みにしている。空いた時間は、自分のやりたかった仕事をしても良い。オープンソースに貢献しても良いし、社内のツールを作っても良いし、新しい技術の調査をしても良い。

その時間に、仲間と一緒に活動することを「部活」と呼んでいる。会社の時間、会社の経費を使ったって良い。必ずしも、売り上げや利益に直結しなくても良いのだ。

そうした、やりたい仕事をやっている時間は、はたから見れば、遊んでいるように見えるかもしれない。それで良いのだ。遊びに見えるかもしれないが、ある意味で会社は新規性への「投資」をしているようなものだ。

個々人が、そこで好きな仕事をすることでスキルアップしてくれたり、会社の中が改善されたり、ツールが便利になったりすれば、結果として会社の成長に繋がるからだ。

生産性を高めて時間を稼いで、やりたい仕事をする

会社で働く時間には、直近の売上に繋がる「やるべき仕事」の時間と、自分がどうしても「やりたい仕事」の時間の2種類があって、誰もが両方の時間を持つことができるようにしている。前者は稼ぐ仕事で、後者は遊ぶ仕事だ。

この稼ぐところと、投資のところを部署で分けている会社もあるが、そうすると部署同士の関係性が悪くなってしまう。稼ぐ部門からすると、投資の部門は遊んでいるように見えるから、投資の部門の人たちは大事なミッションのはずが居心地が悪くなってしまう。投資の部門にエースが投入されない、なんて問題も起きる。

だから、個人の時間の中で、稼ぐ時間と遊ぶ時間の両方を持てるようにした。それらの時間の配分は、セルフマネジメントで決めて良い。

そうすると、やりたい仕事をするために稼ぐ仕事の時間は短くしようとする。生産性を高める仕組みができる。そうして空いた時間は、自分のやりたい仕事をする訳だ。やりたい仕事なのだから、管理なんてしなくてもサボることはないだろう。

だから、採用の面談では、入社してからやりたいことがあるか?ということを聞く。仕事がやりたくて入社したいと思っている側からすると、素っ頓狂な質問に感じるだろうが、お金を稼ぐビジネスモデルに則った仕事をするのは当然として、その上で空いた時間でやりたい仕事やテーマを持っていて欲しいのだ。

セルフマネジメントな組織が続くようマネジメントする

最後に、内発的動機に関する興味深い記事があった。
成功のカギは「内発的動機」にある : NIKKEI STYLE

海外のメンタルトレーニング・コーチから聞いた話です。あるお金持ちが、家の敷地内にきれいな芝を敷いたところ、近所の子どもたちがサッカーをしにやって来ました。

 芝が荒れるのでサッカーはやめてほしいな、と考えたお金持ちは、子どもたちに「サッカーを見せてくれてありがとう」とお金をあげることにしました。その額は1ドル、2ドル……と日に日に増やしました。10日目、お金持ちは1ドルを渡しました。すると子どもたちは「なぜ10ドルじゃないんだ」と不満を抱き、芝生に来なくなってしまったそうです。

 つまり、最初は自発的に始めたサッカーが、人に見てもらいお金をもらうためのサッカーという、外発的な行為に変わってしまったのです。そして、期待していた報酬がもらえなくなったので、サッカーをやる意欲が一気に削がれてしまったというわけです。

せっかくセルフマネジメントな組織を作り上げたとしても、それを維持していくことはとても大変だ。組織が大きくなればなるほど難しくなる。人が増えてくれば、ヒエラルキーにして指示命令をする組織の方がマネジメントが楽だからだ。

とはいえ、しんどいからと言って、外発的動機に頼り、指示命令するヒエラルキーを作ってしまうと、後戻りはできなくなってしまう。そうすると生産性は落ちていき、対処するために外発的動機を増やすことになり、いずれ仕事から喜びは失われていくかもしれない。それでは不幸だ。

だから、人が増えてもセルフマネジメントな組織でい続けられるようにマネジメントしていく必要がある。その知見については、これからの私たちの実践次第なので、またいずれ。

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