「正解のない仕事」と向き合い見えてきた道と流派

本シリーズ「今月のふりかえり」では、ソニックガーデンの顧問ライター長瀬が倉貫へのインタビューを通じて、現在進行形の取り組みを記事にしてお届けします。

第1回では、「正解のない仕事」に向き合う中で気付いた、ありたい姿に徹底的にこだわるソニックガーデンは会社というよりも“道”を極めようとする流派のようだという話です。ありたい姿の実現のために、経営者が担う役割とはなんでしょうか。

正解のない仕事に取り組むための仮説検証

ーー 「今月のふりかえり」では、ソニックガーデンの経営の考え方やその時々のできごとからの発見などを、インタビュー形式でまとめていきたいと思っています。

はい、お願いします。

ーー まずは、このコンテンツをはじめようと思ったきっかけから話していただきましょうか。

そうですね。これまでブログでは、私が実践してきたことからの気付きをもとに考察記事として書いてきました。私の書く記事は、ある程度自分の中で考えが固まったものを文章にしてきたんですよね。

ですので、一つの考察に至るまでにはいくつもの思考であったり、仮説検証を経ています。考察記事を書くにはそれなりに時間をかけていますし、自分の中である程度の確信を持ってから書いてます。

ーー 倉貫さんの考察記事は、すごく読み応えがありますし、読む度に気づきがあります。そうした記事が生まれるのは、たくさんの思考と仮説検証を経ていたからだったんですね。

そうした記事はこれからも書き続けていきますが、一方で、考察記事を書くにいたるまでの仮説検証も実はすごく重要だったりするわけです。経営している中でも、いろいろやってみて、違うかなと思ったらやめますし、いけそうと思えば少しずつ深めたり、広げたりしていきます。

そうしたプロセスはなかなか記事にして残すのは難しいのですが、取材形式で、月1回程度の頻度で記事にするのなら、できるのではないかなと思ったのが一つのきっかけです。

もう一つは、以前インタビューをしてもらうことで、より自分自身の思考が深まり、考え方がアップデートされるという経験があったんですね。ですので、こうした機会を通じて、自分自身の考え方を見つめ直して、その時々の仮説と検証をふりかえられるといいな、と思っています。

ーー なるほど。ソニックガーデンの経営や組織での仮説検証を、ふりかえってみようということですね。

そうですね。なので、ここで話した内容は時が経てば変わってしまうものもあると思います。その前提で、残しておこうかな、と。

ーー ではさっそくですが、最近の仮説といいますか、何か考えていることはありますか?

最近だと、改めて私たちは「正解のない仕事」に携わっているんだと考えていて、正解のない仕事という前提があったうえで、ビジネスモデルであったり、組織のあり方があるんじゃないかと。

正解のない仕事においては、経営者である私も何が答えなのかは知りません。ですので、メンバー同士、あるいはお客様と相互にコミュニケーションを取りながら、その時における最適解は何かを見つけていく姿勢が必要になってきます。

正解のない仕事を前提としたビジネスモデル

ーー なるほど。ソニックガーデンの「納品のない受託開発」は小さく開発したものをお客様と一緒に触りながら、少しずつソフトウェアを作っていきますよね。あれは、お客様と一緒に最適解を探るスタイルでもあるのですね。

そうです。従来の受託開発は、事前に定めた要件定義に従って開発を進めていきます。しかし、この変化の激しい時代に、完全に先を見越した要件定義は難しいですよね。では、なぜ要件定義を欲するかというと、見積もりを作るためであったり、納品時に揉めないようにするためでもあったりするんです。

ーー でも、お客様も何が正解かなんてわからないですよね?

はい。だから、途中で要件が変わったりするのですが、その度に見積もりを作り直したり、余計な開発費用がかかったりとコストが重なっていきます。その結果、無駄な機能が多かったり、事業の本質にはそぐわないソフトウェアが開発されてしまう。このように正解ありきの要件定義にあわせて納品する構造に問題があると考えました。

だから、私たちは「納品のない受託開発」というビジネスモデルを作ったのです。

ーー ビジネスモデル自体が「ソフトウェア開発には正解がない」ことを前提として考えられているんですね。

ですから、中途入社のプログラマで、要件定義ありきの考えが身に染みついている場合、まずはそこから抜け出すことからはじめることになります。

たとえ技術力があったとしても、「正解のない仕事」に取り組む思考法やコミュニケーション能力はすぐには身につかなかったりするんです。最適解を探る姿勢は、ソニックガーデンが大切にしている考え方でもあり、仕事の方法でもあるので、入ったからには頑張って身につけてもらうようにしています。

「ふりかえり」で身につく最適解を見つける力

ーー どうやったら身につくものなのでしょうか?

重要なのが「ふりかえり」ですね。ソニックガーデンでは「ふりかえり」と言って、仕事での成果や気づき、困ったことなどを話す時間を設けています。ソニックガーデンのやり方に慣れるまでは、頻度を高く行い、ふりかえりの中で私たちなりの考え方を身につけてもらいます。

ただ、ここで大事なのは誰も「正解は持っていない」ということです。つまり、個別の案件の対応方法などに対しての答えなどありません。なので、ふりかえりは正解かどうかを確認する場ではありません。ふりかえりをする本人自身がどういう仕事をしたか、そこでどんな気づきがあったか、次に何を活かせそうかといったことを自ら考えてもらうのです。

ーー ふりかえり自体も、正解がないことを前提とした場になっているんですね。

そうやって、考えてもらったことに対して、必要に応じてアドバイスをすることはあります。それは、メンバーが自分自身で最適解を導くための、サポートをしているにすぎません。こうしたふりかえりを繰り返すことで、正解のない仕事と向き合う能力がついていくんですね。

正解のない仕事と向き合うには、高いセルフマネジメント能力、つまり自分で考えて、自分で判断していく能力が必要なのですが、ふりかえりはそうした力を伸ばす場でもあるんです。ふりかえりやセルフマネジメント能力に関しては、また別の機会にでも詳しく話したいと思っています。

ソフトウェア開発道ソニックガーデン流

ーー 少しいじわるな質問になりますけど、「正解のある仕事」という前提でビジネスモデルなり、人を育てようとした方が楽だったりしませんか…? 多くのノウハウがありますし…。

そこがポイントというか、私たちは、こうした進め方にこだわりがあるんです。そもそも世の中に正解のあるものはないと考えています。だから難しくても、正解のない仕事に向き合っていくための進め方を極めたいと考えています。

そうなってくると、経営者としてビジネスについて考える一方で、進め方やあり方にこだわった「道」みたいなものも極めようとしているんじゃないかと最近考えているんですよ。

ーー 道…ですか?武道とか、華道とか。

はい。私たちの仕事には正解がない。結果に正解がないからこそ「取り組み方」にこだわっているんだと思います。少なくとも取り組み方は自分たちで正解は決められる。それが「型」のようなものではないかと。

そうした、私たちなりの型で取り組めば、きっと結果が出ると信じているし、もし結果が出なかったとしても、納得いきますよね。

弓道には「正射必中」という考え方があります。的に当てることではなく、正しい姿勢で射ることに集中するという意味で、自分たちもまさにそうした姿勢であったり、取り組み方を大事にしてきました。そして、それを10年以上続けてきたことで、ぼんやりとながら道になってきたんじゃないかと思うんです。

そうした、自分たちなりの道があって、そのうえでビジネスや組織がある。そう考えると、いろいろなことがスッキリするようになったんです。

ーー 面白い考え方ですね。でも確かに、ソニックガーデンのこだわり具合は、道と言っても過言ではないですね。そのくらいの信念があるからこそ、今のソニックガーデンがあるというのもうなづけます。

先人たちも、それぞれが大切にする道を様々な手法で極めようとしてきましたよね。武であれば武道ですし、華であれば華道になる。そして、それぞれには流派があるんです。

ーー ああ、ありますね。

であれば、私たちはソフトウェア開発を通して道を極めようとしているので、「ソフトウェア開発道ソニックガーデン流」になるのかな、なんてことも考えています。

ーー じゃあ、さきほどのふりかえりは「流派を身につける」時間でもあるということになりますね。

そうです。ふりかえりを通じた伝授は私以外にもベテランメンバーが行うこともあるので、彼らはさしずめ師範代でしょうか。そうなると私は創始者ということになりますね。肩書きも創業者というより創始者なのかも(笑)。

ーー 創始者ですか(笑)。不思議としっくりきますね。

まぁそれはさておき、自分たちが行っているのは道を極めることである、という視点があると、これまで抱いていた会社経営における違和感も解消されていくんですよ。

大切にするのは「自分たちはどうありたいか」

ーー 違和感というのは?

例えば、会社経営にはビジョン・ミッションや最近だとパーパスを持つことが、一般的には大事だとされています。確かに大切なので、ソニックガーデンも企業理念を掲げています。会社が社会に対してどのような価値を提供するかをしっかり言語化し、方針付けをするために重要であることは間違いないです。

一方で、私たちが大切にしている「プログラマを一生の仕事に、高みを目指す」という考え方は、自分たちがどうありたいかを掲げたものなので、内向きなメッセージなんですよね。これを、どう扱えばいいのかと。

ーー なるほど。確かに、どこにも当てはまりそうにないですね。従来の会社経営においては、「自分たちがどうありたいか」を掲げるフレームがない。

そうそう。だから、一般的な会社で考えたらあるべきミッションやビジョンよりも、自分たちのあり方にこだわっていて良いのだろうか、というモヤモヤがあったんです。だけど、これが道や流派だと考えれば、スッキリします。

そのうえで、自分たちにとっての道とは何か、流派とは何かは、改めて考えていかなければいけないと思っています。これから少しずつ、考えをまとめていきたいですね。

ーー ふと思ったのですが、私自身プログラミングとは縁のない、ライター業を営む人間ですが、ソニックガーデンの考え方にはすごく共感するところが多いんですね。経営方法、ビジネスモデル、人に対する考え方など職種は違えど、勉強になる部分が本当に多い。それは、もしかしたら「道」の部分にシンパシーなり、学びを得ているのかもしれません。

なるほど。確かに、異業種の方からも共感して頂くことはありますね。私たちが大切にする「道」というのは考え方なので、プログラマでなくても何かしら感じるところはあるのかもしれませんね。

もちろん、私たちの考えに興味も価値も感じないという人がいるのも理解しています。世の中の全員に考えを押しつけることはしませんが、もし私たちの活動や考え方を知って「こんな道もあったんだ!」と希望を持ってくれる人がいれば、すごくうれしいですね。

ーー そうですね。私も、倉貫さんやソニックガーデンのみなさんからはいつも道であったり、歩み方を学んでいますから。そうした経験を、このシリーズを通して少しでも多くの人に届けられるといいですね。そのために、創始者が考えていることを、毎月インタビュー記事にしていく、と(笑)。

そんなにおおげさなものにはなるかどうかはわかりませんが(笑)、ざっくばらんに話していこうとは思います。その時々で考えていること、活動していることも変わってきますから。月1回程度、話しながらソニックガーデン流の考え方であったり、活動の意味を整理できればいいな、と思っています。

ーー いい感じの締めになったので、今回はここまでにしましょう。では、また次回お話できるのを楽しみにしています。

長瀬光弘

フリーエディター・ライター。メディア運営やコンテンツ制作、コピー開発などコトバに関わる幅広い領域を手掛ける。得意&好きなテーマは組織づくり。岐阜県在住。

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