2025年ふりかえり
倉貫 義人
去年と同様に、2025年を思い出せるようにふりかえっておきます。振り返ってみると、やはり多くの方と共に過ごすことのできた一年でした。ありがとうございました。
創業から15年目のソニックガーデン
2025年の6月末で、株式会社ソニックガーデンは14期を無事に終えることができました。2011年に5人で始まった会社ですが、少しずつ人が増えて、ようやく60人弱の体制になりました。
これも一重に、素晴らしい多くのお客様と出会いがあり、パートナーの皆さんに支えられて、ここまでくることができました。ありがとうございました。
私たちソニックガーデンは、外部資本を入れてレバレッジを効かせて大きくなるような会社ではありません。「納品のない受託開発」は、そうできるようなビジネスモデルでもないので、少しずつ基礎体力を高めて人を採用し、仕事を増やしていくという堅実なことを続けてきました。
これからも、この姿勢を崩すことなく、技芸としての深さを追求しつつ、文化としての広さを探求していきたいと考えています。
徒弟制度への注目と「親方ハウス」の建築
マネジメントの形を模索する中で取り組み始めた、親方が弟子をプログラマとして育てる「徒弟制度」は、色々なメディアで注目して頂くことになった1年でした。
もっとも大きな出来事は、NHKのドキュメンタリー番組「笑う会社革命」で取り上げてもらえたことです。私たちの徒弟制度がどのように受け取られるのか不安もありましたが、無事に放送されて良かった。
弟子として参加してくれる若者たちも少しずつ増えていき、当たり前ですが全員が順調というわけではなく、弟子をみてくれている親方たちは日々の適応課題に向き合い続けてくれています。徒弟制度でもっとも成長したのは、親方たちだったのではないかと、改めて感じています。
去年から設計を始めていた岡山の「親方ハウス」ですが、無事に施工もおわり使い始めることができました。神戸にあった「親方ハウス」も、親方の住む場所の近くへ移転をしました。
高卒採用と韓国採用を始めとする採用の広がり
2025年は採用活動が大きく広がった年でした。いくつかのチャレンジを行いました。
一つは、高卒採用を始めたことです。これまで若干名の大卒での新卒採用はしてきましたが、私たちが取り組むことが技芸であり、職人としてのソフトウェア開発なのだとしたら、高校を出て働きたい若者たちであっても受け入れることができるのではないか、と考えたことがきっかけです。いくつかのご縁も頂いて、4名の内定者を出すことができました。
次に、韓国採用も始めました。これもご縁があり、韓国での会社説明会を実施する機会を頂いたことから、韓国での就活事情を知り、日本で働きたい優秀でガッツのある若者たちと出会うことができて、3名を採用することに決めました。
高卒採用も韓国採用も、入社してくるのは来年2026年の4月になります。また賑やかになり、おそらく大変なことも沢山あると思いますが、それもまた思い出と経験値になってくれると思います。
中学生・高校生・大学生にも文化を伝えていく
昨年から研究を進めてきた高校の設立ですが、それにつながる活動として、中学生向けのプログラミング部活動「セタプロ」を始めることにしました。
プログラミングを「職業訓練」ではなく「純粋な創作」として中学生に伝えたい。そんな想いから、世田谷での中学生向けプログラミング部活動「セタプロ」の準備を進めてきました。かつて自分が夢中になったあのワクワクを、今の子供たちにも体験してほしい。来年の本格始動に向けて、新しい種をまいた一年です。
また「ソニックガーデンキャンプ」も、第7回、第8回を実施しました。プログラミング経験が浅くても始めるきっかけ作りの合宿を無料で実施しています。2025年は大学生の参加が多く、彼らにとってはインターンの位置付けに変わりつつあります。
そして、大学生の採用活動とインターンと、自身のプログラミングスキルのレベルアップをシームレスに行える「トレセン(トレーニングセンター)」も始めています。
ソニックガーデンのハッカソンと合宿の文化
毎月のハッカソンは継続しています。ハッカソンで、自分の力を試して確認すること、仲間が頑張っていることを知ること、新しい技術を試すこと、様々な効能があると感じています。売上だけを考えたら、その時間もお金になる開発をした方が良いのですが、これこそ文化への投資だと考えています。
2025年は、新しい試みとして「ハッケーション月間」という取り組みも始めました。「ハッケーション」は「ハッカソン」と「バケーション」を組み合わせた造語です。(ハッカソン自体が「ハック」と「マラソン」の造語でもありますが)地方などに行ってハッカソンをしたあとに、その仲間たちとバケーションも楽しもうという企画です。
これまでは適当なタイミングで行きたい人だけが行くという感じでしたが、人数が増えてきたこともあり、全社で数名単位でハッケーションを実施して良い月間としたのです。たくさん参加して楽しんでくれたようでなによりでした。
また、ビジョン合宿と呼んでいる全プログラマが集まる合宿を、2025年からは年に2回の定例行事化しました。これもソニックガーデンの文化です。
コーポレート領域とガバナンスで信頼の強化
プログラマたちの活躍の裏にあるのが、コーポレート組織です。以前は社長と副社長の二人で支えてきたのですが、それを組織化してきました。社内外のコミュニケーションを担う広報グループ、バックオフィスを支える管理グループ、プログラマの採用を担う採用グループ、新しい企画の推進をする経営企画があります。
この1年は、月次決算の仕組み作りや内部監査を取り入れて、会計上の信頼を高めることに取り組みました。また、以前からPマークは取得していましたが、より高度な認証ということで、「納品のない受託開発」という独自のモデルに合わせた形でISMSを取得しました。
グループ会社や自社サービスなども、少しずつではあるけれど大きくなり、関係する企業も幅広くなっていることから、グループ全体も安心して見える形を作りつつあります。
8月には、私が取締役CTOを務める株式会社クラシコムと、ストックオプションのような形での資本業務提携を結ぶことになりましたが、上場企業と取り交わすことができる位の盤石さと信頼性を持つことができたことは、一つの安心材料になりました。
倉貫書房の2冊目と出版業界への活動
出版活動も大きな転換点を迎えました。12月には、尊敬するミシマ社さんと業務提携を結び、「倉貫書房」としての活動が本格化しました。
まず倉貫書房としては2冊目となる「新米マネージャー、最悪の未来を変える」の予約を開始しました。発売は、2026年の2月の予定です。この2冊目も、1冊目と同様の小説の形で「自分とチームを『いい感じ』にする」をテーマにしたエンタメ仕事小説です。1冊目の主人公の数年後という設定ですが、2冊目からでも読むことができます。
この2冊目は、原稿の作成自体もかなり難航し、一度は全面を書き直ししたほどですが、おかげで良い内容に仕上がっています。この本の編集から、ミシマ社さんに入ってもらっています。装丁は1冊目と同じ鈴木成一さん、イラストに大桃洋祐さんという豪華な布陣です。
単なる自費出版のように思われますが、きちんと書店での流通も行います。直販による「一冊一冊を丁寧に届ける」ことを目指した新しい座組の実験をしています。2026年も、出版業界に向けて何かできることの模索していきたいと考えています。
ザッソウラジオ4年目とザッソウ合宿
仲山進也さん(がくちょ)と続けている「ザッソウラジオ」も、気づけば多くのリスナーに支えられる場になりました。もう4年目になりました。
1月 木村琴絵さん 2月 青木耕平さん
3月 徳永健さん 4月 井手直行さん
5月 タムカイさん 6月 坪谷 邦生さん
7月 山本 崇雄さん 8月 松崎 良太さん
9月 藤田 祐司さん 10月 西村 卓朗さん
11月 友安 啓則さん 12月 大澤 あつみさん
そして、2025年は、リスナーの皆さんと「ザッソウ合宿」を開催しました。何をするか決まっていない合宿でしたが、それでも40名近いリスナーの皆さんが集まってくださって、本当にありがとうございました。とても楽しい思い出になりました。
「仕事技芸論」でSocialChange!の刷新
ソニックガーデンでは「遊ぶように働く」という働き方のビジョンはあったのですが、時に「遊びながら働く」と誤解をされることがありました。
私たちが目指すのは、まるで遊んでいるように見えるくらい楽しそうに働くということです。
そこに至るためには何が大事なのだろうか。私たちが、徒弟制度や職人の文化として取り組んできたことは一体何か、ということを考えた時に「仕事を技芸とする」という考え方でした。
仕事を報酬を得るためだけの労働とするのではなく、取り組むことに学びがあり、個人の成長があり、作品作りでもあり、文化的な活動でもある。その上で報酬が得られる。そう認識をアップデートできたら、もっと仕事に対してポジティブになれるのではないか、と。
それが私が伝えたかったことではないか、という仮説のもと、私のブログ「Social Change!」に「倉貫書房」「ザッソウラジオ」を内包する形でリニューアルしました。
2025年の内省的なふりかえり
こうして書き出してみると、色々と取り組んできたな、と思い返すことができました。ちょっと手を広げすぎたきらいもあります。ここに、クラシコムでの取締役CTOとしての責務も乗っかっているので、個人的には少し溢れてしまったかも、と感じています。
また、こうした様々な取り組みが一体どこに繋がっていくのか、それほど強い確信をもって進めている訳ではなく、不安に苛まされることも多々あります。
売上だけを上げること、利益を出すことだけを考えていくなら、取り組まなくてもよいことも多いでしょう。中学生の部活が経済的なリターンが得られるとして、どれだけの期間が必要になるのか、とても効率の良い投資とは言えません。もはや、投資と考えるのもおかしい位の時間感覚です。
新卒や第2新卒を弟子から育てることだって、費用対効果で言えば、途中で去っていく人のことも考えたら、割りが良いとは言えないかもしれません。
それでも、私たちソニックガーデンとして出来ることにお金も人も費やしていくのは、その過程で得られる学びや喜びがあるのではないかと思うようになりました。結果だけ見れば投資を回収したかどうかで決まりますが、過程に価値があるのだとしたら結果には左右されることはなくなります。
育成など時間をかけることをやっているのは、むしろ長く楽しめて良いのではないか。弟子たちは、先達の背中を見るとその遠さに慄くこともあるかもしれない。しかし、一歩ずつ自分のペースで進み続けていければ、背中を追うことさえも喜びになるかもしれない。じっくり進めば良いのです。
これも、結果よりも過程を重視するという「仕事を技芸とする文化」の一つの考え方のように思います。
共に歩んでくれる仲間たちへ
最後に、この一年を共に走り抜けてくれた仲間たちへ、感謝の気持ちを伝えたいと思います。
ソニックガーデンのメンバー、クラシコムの皆さん、そして倉貫書房やザッソウラジオを支えてくれている方々。いつも本当にありがとうございます。
正直に言えば、代表である私自身が「これでいいのだろうか」と立ち止まりそうになる瞬間もあります。新しい挑戦を詰め込みすぎて、余裕をなくしてしまうこともありました。そんな時、皆がそれぞれの現場で「技芸」を磨き、目の前のお客様やプロダクトに対して「いい感じ」を追求し続けてくれている姿に、私自身が一番救われてきました。
私たちは、誰かに強制されてここにいるわけではありません。ソニックガーデンは、「仕事を技芸とする」そして「遊ぶように働く」という、少し変わった、けれど最高に面白い生き方を選んだ同志です。
結果がどうなるか分からない挑戦も多いけれど、その過程にある試行錯誤や、ふとした瞬間に生まれる喜びや対話を、これからも一緒に楽しんでいけたら嬉しいです。焦る必要はありません。2026年も、自分たちの歩幅で、じっくりと「いいもの」を創り続けていきましょう。
また新しい一年、皆と一緒に働けることを楽しみにしています。