「AIは高い」のではなく、使いこなせていないと高い〜全社でAIに振り切った一ヶ月

「AIは高い」のではなく、使いこなせていないと高い〜全社でAIに振り切った一ヶ月

この記事は、連載「Claude on SonicGarden」の最終回です。初日に、全社でClaude Codeを標準にする理由を書きました。そこから一ヶ月、ソニックガーデンのプログラマたちが毎日それぞれの現場を綴ってきました。最終日にあたる今回は、その外側の話です。経営者として何を見て、何を決めたのか。 #claudeonsonicgarden

いまAIに本気で取り組もうとしている経営者の多くが、使えば使うほど料金が膨らんでいくことに、頭を悩ませているのではないでしょうか。実際、私たちソニックガーデンでも、この一ヶ月で利用料は2〜3倍に跳ね上がりました。請求額を見たときは、これは経営判断のいる金額だな、と慄きました。

これだけのコストをかけて、本当に続けるべきなのか。かといって、使わなければ取り残される。どこまで本気で乗ればいいのか、決めきれない。だから、ひとまず様子見になる。私たちも、例外ではありませんでした。

様子見は、慎重ではなく迷いのコストではないか

様子見というのは、リスクを避けているように見えて、実は別のコストを払い続けている。決められないことのコストです。使うか使わないかを各自の判断に委ねているあいだ、組織は迷い続けます。迷いは目に見えないから、コストとして計上されません。けれど、確実に組織の勢いを奪っていきます。

そう考えると、経営者の仕事は、正解を当てることではないのかもしれません。半年後にどのAIが勝っているかなんて、誰にもわからない。わからないなりに、迷いをどこかで終わらせること。それが、決めるということです。

だから私たちソニックガーデンは、Claude Codeを全社の標準にすると決めました。より良いものが出たら、そのときはまた全員で乗り換えればいい。ばらばらに迷い続けるより、全員で決めて、全員で動く。

一度知った便利さには、もう戻れない

とはいえ、決めるにしても、コストは現実です。トークンの料金は、これからも上がっていくものとして見ておいたほうがいいでしょう。

このとき、考え方は大きく二つに分かれます。一つは、保険をかける考え方。AIは使うけれど、いつ大きく値上がりしても止められるように、AIなしでも回る状態を残しておく。慎重な経営として、よくわかります。もう一つが、保険をかけずに振り切る考え方です。

私たちソニックガーデンが選んだのは、後者でした。なぜか。そもそも、AIなしの状態に「戻る」ということが、もうできないからです。

電気のことを考えてみます。洗濯機が電気で動くようになったのに、電気代が高くなるかもしれないから洗濯板も捨てずにとっておこう、とはなりません。掃除機があるのに、ほうきも忘れないように、ともならない。一度その便利さを知ってしまえば、人はもう、それがある前提で暮らし始めます。技術は、なかったことにはできない。

AIも、たぶん同じです。この生産性を知ってしまったら、なかった頃には戻れない。いつでも引き返せるように身構えながら、おっかなびっくり前に進む。ブレーキを踏みながらアクセルを踏むことは、もうできないのです。保険をかけたつもりでも、戻る場所のほうが、もう無いのですから。

後戻りできる決断と、できない決断

こうした振り切り方は、これまで殆どしてこなかった。普段は、経営の判断をできるだけ後戻りできる形にして、小さく試すところから始めます。やってみて、違えばやめる。それが殆どです。

それでも稀に、後戻りのできない領域に踏み込むしかないときがあります。10年前、全社員リモートワークでオフィスを手放したときが、そうでした。調べて、試して、準備はします。けれど最後は、不退転で決めるしかありません。あのときも、振り切った先で、会社とは器ではないのだと気づきました。

非エンジニアも含めた全社員でAIに振り切る今回も、その類の決断だったと考えています。

高いのではなく、使いこなせていないと高い

戻れないのなら、やることは一つです。引き返すのではなく、使い倒して、先に行く。生産性を上げて、上がった分で、これまで以上の価値を生み出していく。料金が上がるのなら、その分は、そうやって稼げばいい。

そもそも「AIは高い」というより、「使いこなせていないと高い」のではないでしょうか。ばらばらに使えば、料金だけがかさんでいきます。同じ金額でも、組織で使い方をそろえれば、そこから生まれる価値は変わってきます。

だからこそ、組織で揃えることに意味があります。同じ道具を同じように使うからこそ、誰かの工夫が、そのまま誰かの学びになる。初日に書いた「壮大な部分最適化」で終わらせないために、組織で標準をそろえる。ケチって小さく使うのとは、逆の道です。

振り切ってみて、変わったのは姿勢だった

全社で振り切ってみて、見えてきたことがあります。

一番大きかったのは、生産性でも、料金でもありませんでした。変わったのは、技術よりも、組織の姿勢のほうだったのです。

象徴的だったのが、弟子を育てる立場の親方たちです。それまで親方たちは、育成にAIをどこまで使わせるか、距離を測りかねていました。手を動かして覚えるべき時期に、AIに頼らせていいのか。答えの出ない問いの前で、考えあぐねていたのです。

ところが、ひとまず使わせてみようと振り切ったとたん、その先を考え始めました。AIがある前提で、人はどう育つのか。そもそも育成とは、何をすることなのか。立ち止まらせていた問いが、決めたことで、前に進む問いに変わったのです。

弟子たちのほうも、それぞれに試行錯誤しながら、会社としての使い方を学ぶ勉強会を開くようになりました。そう、決めたことがもたらしたのは、便利な道具ではなく、迷いの終わりでした。迷いの消えた組織は、横並びで、安心して試せるようになります。これは現場の中にいると見えにくく、経営者の位置からだからこそ見えた変化でした。

この変化は、エンジニアだけのものではありませんでした。コーポレートの仕事でも、エージェントとの協働が始まっています。非エンジニアの現場で何が起きているかは、また別の記事にゆずりますが、姿勢が変わったのは、会社全体だったのです。

先に行ったうえで、考える

振り切るというのは、勢いで突っ込むことではありません。立ち止まるのをやめて、次の問いに進むことです。あの親方たちが、使わせると決めたとたんに、AI前提の育成という次の問いへ進んだように。

その先の答えを、私はまだ持っていません。AIで会社はどう変わるのか、仕事はどうなっていくのか、わからないことだらけです。それでも、もう進み始めています。半年後には、また景色が変わっているのでしょう。

考えてから動くのではなく、動いてから考える。先に行ったうえで、考える。それが、私たちソニックガーデンの、この一ヶ月でした。

* * *

1ヶ月の短期集中連載として、毎日1本ずつ綴ってきたこの連載も、今回が最終回です。毎日書き続けたソニックガーデンのプログラマたち、そして読んでくださったみなさん、1ヶ月間、お疲れ様でした。

連載の記事一覧は、以下のページから辿れます。

まとめページ: https://www.sonicgarden.jp/tech/claudecode

ハッシュタグ: #claudeonsonicgarden

倉貫 義人
倉貫 義人
ソニックガーデン 創業者
クラシコム 取締役CTO

「納品のない受託開発」の実践者。著書多数。心はプログラマ、仕事は経営者。

新着記事をお知らせするメールマガジンを配信中です。今後の記事も読みたい方はぜひ登録ください。

→購読する
シェア ポスト
前の記事
Laravel Live Japan 2026で登壇してきました:別々の道から、同じ場所で交わるということ