「受託脳」から「提案脳」へ〜AI時代に、言われたことをやる仕事は残らない
言われたことを、きちんとやる。世の中の仕事の多くは、その積み重ねで回っています。私も、大手SIerにいた10年あまり、そういう世界で働いていました。
11年前に、「受託脳」から「提案脳」へという記事を書きました。言われたものを言われた通りに作る働き方から、相手の先を見て自分から提案する働き方へ。ありがたいことに、いまも読まれ続けています。
当時これは、プロフェッショナルの条件の話でした。どちらの目線で働くかで、信頼も、任される仕事も変わってくるからです。
AIが出てきて、この話の意味あいが変わってきました。本稿では、受託脳と提案脳とは何か、AIの時代に何が変わるのか、そして提案脳へ変わっていくために何ができるのかについて書きました。
受託脳とは、指示を出した相手だけを見て働くこと
受託脳とは、言われたものを、言われた通りにきちんと作る仕事への向き合い方のことです。ゴールは完成させること。見ているのは、指示を出した相手。
受託開発になぞらえた私の造語ですが、業界の話ではありません。上司に言われた仕事をこなし、上司の顔色を見ながら進める。社内の仕事も、殆ど同じ形をしています。
デザインなど、自分にできない仕事を専門家に頼んだ経験から言うと、指摘をすればその通りに直してくれる人に、かえって不安になるのです。こちらがわからないから頼んだのに、こちらが正解を持っている前提で確認されるからです。私の好みではなく、私の先にいるユーザから見ていいものを作ってほしいのです。
目線には、3つの段階があると考えています。自分にできることだけを見ている自分目線。相手が何を求めているかに応える相手目線。そして、相手の先にいる人まで見る、相手の相手目線です。
3つめまで来ると、いちいち確認しなくても、いい感じに仕事が進みます。目的から外れていると思えば、対等な立場で諌めることもできる。それが、提案脳です。
AIは、究極の受託脳である
AIと受託脳には、共通点があります。言われたことを、きっちりやる。ゴールを、他人からもらって動く。
そしてAIは、従来のコンピュータと違い、曖昧な指示でも意図を汲み、正解のない問題にもそれなりの答えを出してきます。嫌がらず、疲れず、いくらでも。言われたことをやる領域では、もう人間の上位互換です。受託脳が目指してきた姿の完成形、いわば究極の受託脳です。
それでも、AIは提案脳にはなりません。頼まれた土俵の中で提案らしきものは出せても、困りごとを見つけて、頼まれる前に動き出す意志がない。言ったことの結果を、引き受けることもない。提案とは、いいアイデアを出すことではなく、その結果に責任を持つことです。中身は出せても、提案者にはなれない。
だから、言われたことをやる仕事は、これからAIのものになっていきます。人に残るのは、何をすべきかを決めて、結果を引き受ける仕事です。プロフェッショナルの条件の話だったものが、仕事が残るかどうかの話に変わったのです。
AIを使うということは、発注者にまわるということです。何を頼むかを決められない受託脳のままでは、AIを使いこなすこともできません。
目線は、できることが増えた結果として上がる
受託脳と提案脳の分かれ目は、目線にあります。ただ、掛け声で上がるものではありません。講演を聞いて目線が上がるなら、いくらでも上がっています。できることが増えた結果として、後から上がるものです。
だから、日々の仕事のやり方から変えます。私たちソニックガーデンで、若手がまず身につけるのは3つです。
一つめは、タスクばらし。大きな仕事を、自分で小さく分解してから取りかかることです。分解するには、何のための仕事かがわかっていないといけません。目的はいつも頼んだ相手の側にあるので、ばらすたびに相手を考えることになり、目線が自分から相手へ動きます。
二つめは、ふりかえり。自分の仕事のやり方を、定期的に自分で見直すことです。誰かに指摘されて直すのではなく、自分で気づいて変える。続けるうちに、自分の仕事を一段外から眺める癖がつきます。
三つめは、ザッソウ。雑談と相談です。結果が出てから報告するのではなく、生煮えのうちに相談してしまう。相談した瞬間、相手は評価する人から、一緒に考える仲間に変わります。同じ側に並ぶと、相手の見ている先まで見えてくる。目線が相手から、相手の相手へ動いていきます。
3つとも、特別な能力ではありません。難しいのは能力ではなく、染みついた習慣を変えることです。
私たちソニックガーデンでは、受託の経験が長い中途の人ほど切り替えに時間がかかるので、入社までに転換の期間を設けています。社内で「血の入れ替え」と呼ぶほどです。一方、新卒や第二新卒は、徒弟制度で親方のもとにつき、最初から提案脳で仕事を覚えます。受託脳は生まれつきではなく、環境が作った習慣。習慣なら、入れ替えられます。
提案とは、企画書を書くことではない
提案というと、企画書を作って、会議にかけて、承認をもらうことだと思われがちです。
SIerに勤めていた頃、社内の情報共有がうまくいっていないことが気になって、仲間と社内SNSを勝手に作ったことがあります。誰にも頼まれず、承認も取らずに始めたのに、使う人は増え続け、最後は会社の公式なツールになり、事業になりました。いまのソニックガーデンの前身です。
その後、これを事業にする社内ベンチャーでは、逆の失敗もしました。製品を売り込んで回っても、まったく売れない。売り込みをやめて、困りごとを聞いて回るようになってから、ようやく仕事が生まれ始めました。
提案の始まりは、困っている人を見つけて、動くものを作って見せること。頼まれてから考えるのでも、こちらの売りたいものを押し出すのでもなく、言われる前に、相手の困りごとから動き出す。その主体性が、提案を生みます。動いているものほど強い企画書はありません。
そして、動くものを作って見せるコストは、AIのおかげで当時とは比べものにならないほど下がっています。
提案脳の正体は、相手とチームになること
受託脳と提案脳の違いを突き詰めると、関係のあり方に行き着きます。受託脳は、発注と受注、上と下の関係の中にいます。会社の中なら、上司と部下です。何を作るかは頼んだ側が決め、成果の責任も頼んだ側が持つ。だから、言われた通りに作ることが正解になるのです。
提案脳の正体は、相手とチームになることです。何をやるべきかを一緒に考え、結果の責任まで一緒に受け持つ。「一緒に」が、核心です。
ただ、発注と受注の関係のままでは、チームにはなりにくい。私がいたシステム開発の世界で言えば、働いた人数と時間で請求する人月の仕組みでは、知恵を出して作らずに解決するほど、売上が減ってしまいます。そこで提案が出てこないのは、意識ではなく構造の問題です。
私が独立して「納品のない受託開発」というビジネスモデルを作ったのは、この構造ごと作り変えるためでした。納品の代わりに、月額定額で顧問のようにずっと関わる。作っても作らなくても売上が変わらないから、利害がぶつからず、それは作らなくても解決できますよ、と言えます。発注と受注ではなく、同じ問題に向かうチームになれるのです。「一緒に悩んで、いいものつくる」という私たちの約束は、そういう意味です。
自分で考えて動く仕事は、面白い
受託脳から提案脳へ。いまや仕事が人に残るかどうかの話になりましたが、やることは変わりません。相手の先を見て、頼まれる前に動き、相手とチームになる。
そして、自分で考えて動いていい仕事は、面白いのです。正解のない問題に向かって、やればやるほど上達していく。受託脳から提案脳への転換は、仕事の面白さを取り戻すことでもあります。
こうした話は、9月に出る新刊『自分と社会をいい感じにする 仕事技芸論』(ミシマ社)にも書きました。このテーマで講演したときの資料は、こちらです。