「AIで開発会社は要らなくなる」のか〜16期、社是を「いいソフトウェアをつくる。」に
ソニックガーデンは、この7月から16期に入りました。もう1ヶ月が過ぎてしまいましたが、15期の最後の全体会で、一年を振り返りながら、16期に向けて考えていることを話しました。その内容を、ここにも書いておきます。
創業して、15年。始めたときは、10年も続くのだろうかと思っていました。それが15年続いて、いまは70人ほどの仲間がいる会社になりました。まずは、お客さま、パートナーのみなさん、一緒に働く仲間たちに感謝しています。
今年に入って、AIの存在感が一気に増しました。私たちの業界には特に大きく効いてきます。「誰でもシステム開発ができるようになるなら、システム開発を仕事にする会社は要らなくなるのではないか」。そう不安に思う人もいるでしょう。
けれど私は、一周回って、これはむしろ大きなチャンスだと見ています。少なくとも、ソニックガーデンが届けている価値においては、AIは追い風だと考えています。
15期は、広がりの一年だった
まず15期を振り返ると、事業も人も、大きく広がった一年でした。
クラシコムとの資本業務提携。ソニックガーデンとして初めて、株式を使った取り交わしをしました。といっても生株ではなく、ストックオプションのような形で、経営に直接関与するものではありません。長くお付き合いしてきたお客さまと、パートナーとして長期の関係を築くための実験です。一度できたので、他の会社とも進めていけそうです。
採用も広がりました。ご縁をいただいて韓国で新卒採用のイベントを開いたところ、100名以上が集まってくれて、そのうち優秀な3名に入ってもらえることになりました。高校を卒業したばかりのメンバーも、4名が入社しています。
そのほかにも、NHKでの放送、倉貫書房の1冊目とミシマ社との業務提携、世田谷区で始めた小中学生向けのプログラミング部活動「セタプロ」、久しぶりに全社が集まったn2jk合宿。ガバナンスの面では、プライバシーマークから国際標準のISMSへと踏み出しました。ここ数年かけて固めてきたものの、ひとつの区切りです。
一つひとつを数えると、思っていた以上に、いろいろやっていた期でした。
AIを組み込んだ会社に、作り変えた
そして15期の後半、つまり今年の前半は、AIによって会社そのものが変わった時期でもありました。Claude Codeを全社の標準にすると決めて、開発だけでなくコーポレートの仕事も含めて、エージェントを前提とした働き方に組織を作り変えてきました。そのときに何を考えて決めたのかは、以前の記事に書いたとおりです。
私自身、本を書くのもブログを書くのも、いまは完全にエージェントと一緒に作る形になりました。どこまでやれるのかは、まだ誰にもわかりません。それでも私たちは、先駆けて試していきたい。振り回される必要はありませんが、うまく使いこなす側に回るということです。
その上で、ソニックガーデンにとってAIは追い風だと考えている理由が、三つあります。
システムは、使い始めてからが本番だ
システム開発会社は、システムを作れば、それで役割を果たしたことになるのでしょうか。私は、そうではないと考えています。システムは、使い始めてからが本番です。
本番では、必ず何かが起きます。トラブルが起きる。セキュリティの問題が出る。動かなくなることもあれば、ユーザーが急に増えることもある。そのとき、誰が責任を取るのか。
AIがあるのだから、自分たちだけで作ってしまう。それもアリだと思います。実際、そうやって内製していく会社は増えていくでしょう。ただ、いざ本番で何かが起きたとき、その先まで自分たちで引き受けられるか。そこは分けて考えたほうがいい気がしています。
現場で責任を負うとは、お金を払うことでも、謝ることでもありません。何かが起きても、なんとかする。それができることが、責任を果たすということです。では、その力はどこから来るのか。お金をいくら積んでも、人数をそろえても、なんとかできるわけではない。最後に効いてくるのは、技術力です。
私自身、クラシコムの取締役CTOとして100億規模の事業を支えるシステムに関わっていますが、「AIがあるから自分だけでやります、エンジニアも雇いません」とは、とても言えません。怖くてできない、というのが正直なところです。その現場責任を、自分だけで負い切れないからです。だからプロに頼み続ける。この構造は、AIが出てこようが変わりません。AIは責任を負ってくれないのですから。
だからこそ、私たちも心構えを変えてはいけません。AIは使うべきです。手打ちにこだわるのはナンセンスだと思っています。ただ、「AIが出してきたので、よくわかりません」では、責任を果たせない。何を作っているのか、それがどう動くのか、どう設計されているのか、どこで意思決定をするのか。そこを自分の手の内に置いておく。それさえできていれば、私たちは期待され続けるはずです。
人月を捨てたから、速くなった分が余白になる
二つ目に効いてくるのが、ビジネスモデルです。私たちは「納品のない受託開発」で、15年前から人月を放棄してきました。時間単価では仕事をしない。それを実績として15年続けてきた会社は、ほぼありません。
これが、いまの時代にどう効くか。仕事が速く進むようになったとき、その分がまるごと私たちの余白になります。次の改善に手が回るし、新しいことを試す時間も生まれる。時間で売っていたら、速くなるほど売上が減っていくので、生産性を上げることが自分の首を絞めてしまう。業界全体で見れば、そこに苦しさを感じている会社は多いはずです。とはいえ、いまから急に人月をやめると言っても、簡単なことではないでしょう。
15年前、こんなに生産性が上がる時代が来るとは思っていませんでした。それでも、品質と生産性を上げることをよしとして、みんなで取り組んできた。そのカルチャーが、AIで加速したときに追い風になっている。
ただし、ここに甘んじるつもりはありません。生産性の中身は、私たち自身も変わってきています。これまでソニックガーデンが持っていた目安や、働き方の基準も、来期をかけて見直していきます。
弟子の一期生が、主力になる
そして三つ目は、この追い風を受け取る人が育ってきたことです。AIによって、若手が一気に主力になっていくと見ています。とくに、弟子の一期生。弟子と呼び、一期生と呼んでいるうちに、もう30歳前後になり、5年ほど続けてくれました。普通の会社でも、5年いれば中堅です。実力も伴ってきて、「納品のない受託開発」の責任者を担うに値するくらいまで来た、と親方たちも言っていますし、私もそう見ています。
その世代がAIを使いこなせば、生産能力はベテランに匹敵していきます。数年前まで、うちは20代の若手とベテランに分かれていて、その間にあたる30代がほとんどいませんでした。それが、これから30代の分厚い会社になっていく。20代、30代、40代がつながると、少し上の背中を追いかけられるし、少し下に教えることで自分の型も定まる。世代が飛んでいると、この受け渡しが起きません。30代のメンバーには、会社の主力として、その顔になってもらいたいと思っています。
AIと人間を分けるのは、主体性だ
では、AIの時代に、ソニックガーデンで働くプログラマに求められるものは何か。私が考えていることを、いくつか挙げてみます。
まず、AIは使い倒す。これはAIに限りません。クラウドが出てきたときも、私たちは先駆けて使ってきました。新しい道具は、どんどん使って自分の力にしていく。
その上で、AIと人間の一番の違いは何かというと、主体性だと思っています。AIは、主体性を持てません。問いを出すのは人間だし、最初の一歩を踏み出すのも人間です。裏を返せば、主体性のない仕事は、AIに置き換わっていく。もともと私たちが「セルフマネジメント」と言ってきたのは、一人ひとりが主体性を持つ、ということでした。
主体性を持って、何をするのか。ひとつは、意思決定です。AIが出してきたものをそのまま受け取るのでも、言われた通りにやるのでもなく、自分で決める。たとえAIの出力をそのまま使うにしても、「これでいい」と自分で決める。
意思決定は、才能ではありません。練習です。頭のよさと仕事の成果が別物なのも、ここに関わっています。私はたまたま35歳から経営という仕事に就いて、何かあれば最後は自分が問われる場に立ってきました。合理的とは言い切れなくても、しょうがない、これで決めよう、と決め続けてきた。その積み重ねで、いろいろなことを決められるようになった感覚があります。大きな場面も小さな場面もありますが、怖がらずに自分で決めてほしい。決めたあとの始末をつけるのも、自分なのですから。
裏返しになりますが、チャレンジも続けなければなりません。人は、失敗して初めて一人前になるのだと思っています。私自身、経営者としてやれていると思えたのは、赤字続きで大失敗して、それでもなんとかリカバリーできた、助けてくれる仲間がいた、と実感できたときからでした。失敗するためには、チャレンジがいる。全員がチャレンジする会社になっていけたらと思います。
チャレンジと意思決定を積み上げていくと、だんだん自分の持論を持てるようになります。持論があれば、相手が経営者だろうと社長だろうと、対等に話ができる。経営者や社長になるほど、一緒に議論してくれる相手を求めているものです。
社是を「いいソフトウェアをつくる。」に更新した
そして、理念をアップデートします。
これまで私たちは、三つの理念を掲げてきました。社会に対して「いいソフトウェアをつくる。」、お客さまに対して「一緒に悩んで、いいものつくる。」、仲間に対して「いいコードと、生きていく。」。
このうち「いいコードと、生きていく。」は、捨てるわけではありません。ただ、AIがいいコードを書けるようになっていくと、いいコードそのものは、私たちだけの強みではなくなるかもしれない。いいコードの裏にはいい設計があり、その裏にはいい意思決定がある。そう考えると、いまの私たちが最も大事にすべきなのは、コードの手前にある「プログラマの働き方」なのだと思うのです。だから「いいコードと、生きていく。」は、前面から一歩下がって、その土台に回ってもらうことにしました。
同時に、「プログラマ」という言葉を取り戻します。一時期、採用の場面で「プログラマ」と名乗るのをやめようか、という話がありました。けれど、みんな結局プログラマと言っているし、私もこの言葉が好きです。エージェント型のAIを使うようになって、私は自分の本を正々堂々と「自分で書いた」と言えています。それと同じで、AIを使っていても、自分で意思決定しているなら、それはプログラミングをしている。パンチカードがキーボードに変わり、キーボードがエージェントに変わっただけのことです。
そのプログラマという言葉とともに、「プログラマを一生の仕事にする。」を、もう一度掲げます。以前この言葉を外したのは、「一生」は重い、「仕事」は遊びか仕事か曖昧だ、と言われたからでした。けれど、いままさに書いている「仕事技芸論」で、私は、仕事は究極の技芸であり、行き着けば遊びになる、と主張しています。だったら、いいのではないか。先の見えない時代に「一生やるんだぞ」と言えることは、むしろ力強いのではないか。
三つの理念を毎回となえるのは大変なので、いちばん大事なことを中心に置くことにしました。それが「社是」です。会社として是とする、ということ。
- 社是:いいソフトウェアをつくる。
- お客さまへの価値:一緒に悩んで、いいものつくる。
- ありたい姿:プログラマを一生の仕事にする。
この三つは、コーポレートサイトの「私たちについて」にも掲げました。
「ありたい姿」というのは、未来の約束ではありません。いまの私たちは、もうプログラマを一生の仕事にできているはずだ、という現在の言葉です。この会社が10年、20年、30年と続いて、私が何度も前言撤回しながらもこの言葉を撤回せずにいられたら、「やっぱりできたね」と言える。そういう言葉として置いています。
社是にした「いいソフトウェア」とは何か。ユーザーと作り手の両方が幸せになるもの、だと考えています。それには三つの観点があります。目的がいい。ユーザーの習慣を変えること。体験がいい。ユーザーが使ってよかったと思えること。そして、作り方がいい。作り手自身が、作ってよかったと思えること。この三つがそろって、初めていいソフトウェアになります。
これからも、変化していく
16期にあわせて、経営体制もひとつ新しくしました。長く執行役員を務めてきた野上誠司が、取締役執行役員に就任しています(詳しくは別の記事に書きました)。
ソニックガーデンは、経営と執行を分けません。開発と運用を分業しないのと同じです。一体でやることに手触りがあり、そこにクラフトがある。私たちは、そうやって技芸として仕事をしてきました。だから取締役になっても、立場や距離が大きく変わるわけではなく、これまでの延長にあります。その延長の先には、副社長の藤原も、私もいます。
だいぶ変わるように見えるかもしれません。それでも根っこは、これまでと同じです。これからも変化していく。その予言だけを残して、16期もやっていきます。どうぞよろしくお願いいたします。
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