第2章 タスクばらし ── 仕事と作業の違い

試してみる(1)

翌日、僕は自分の担当であるオウンドメディアの運営について、リッキーに言われた通り、目的から考え直してみた。正直、まだリッキーが言っていることが役に立つのかどうか、半信半疑だった。でも、他になにも手立てがない。あの謎の男の言うことを試してみるしかなかった。

思い返すと、オウンドメディアの運営を坂下さんから半年前に引き継いで以降、とにかく目の前にある業務に取り組むのに必死だった。きっと、仕事ではなく「作業」になっていたに違いない。

坂下さんからの引き継ぎ資料を改めて見返してみる。一番上に、このオウンドメディアのコンセプトであり、キャッチコピーでもある「〝飲むステキ〟を再発見する」が書かれていた。そういえば、これがコンセプトだったな。これは、そのまま目的にも活かせそうだ。

僕はノートに「目的:〝飲むステキ〟を再発見できるコンテンツを作る」と書いた。それで、なんて言ってたっけ。僕はリッキーが言っていたことをメモしたスマホを確認する。ああ、そうそう、必要なタスクを書き出すんだった。僕はこの仕事で行うことを、ざっと書き出してみる。そして、それぞれにかかる時間を書き出す。毎月四本の記事を制作することになっているから、それを前提に……。

目的:〝飲むステキ〟を再発見できるコンテンツを作る

・4記事分のテーマを考える(60分)

・企画書と進行表を作成する(90分)

・制作会社に企画書を送付する(10分)

・順次原稿の確認をする(30分×4 計120分)

・記事内画像、サムネイルを作成する(?)

・公開準備(10分)

・SNSで発信する(15分)

・その他必要に応じて制作会社とのやり取り(60分)

こんなところだろうか。うん、こうやって書き出してみると、なんかスッキリしたように思う。それに結構自分って仕事をしてるんだな、という気になってきた。目的があることで、作業が仕事になったからだろうか。リッキーが何者なのかよくわからないけど、言っていることは僕の役に立っているように思えた。

―― 一週間後

僕は例の公園の、例のベンチに座っていた。もちろん、リッキーに「どいて」と言われないように、ライトから一番遠い位置だ。まだリッキーは来ていない。そうだノートに書き出したタスクを、もう一度見直してみよう。ええっと、確かノートは鞄の内ポケットに……。

「今日は私がそこに座ります」

ひ! 顔を上げると、目の前に二つの紙袋を持ったリッキーが立っていた。相変わらず無愛想だ。

「だから、どいてください」

なんなんだ。毎回毎回会うたびにどいてくださいって。

「な、なんで今日はここに? ライトから遠いですよ」

「今日は、西原さんに見た目も楽しんでもらいたいんです。ほら早く。二分四十三秒になってしまいます」

そういうと、リッキーは紙袋を僕の前に差し出した。わざわざ、袋をわけてくれたのか。僕は紙袋を手に取ると、ライトに一番近い位置に移動する。リッキーは、さっきまで僕のいた場所に座った。

「さ、紙袋に手を入れて、クロワッサンをつかんでください」言われた通り、紙袋に手を入れる。

「出して」

リッキーの動きを真似て、さっとクロワッサンを出す。ライトに照らされたクロワッサンは、光り輝いて見えた。確かに見た目もすばらしい。

「三、二、一……今です」

パリッ。僕は、リッキーと全く同じタイミングでクロワッサンを口に運んだ。

「え! 先週のと同じクロワッサンですか?」

「やはり違いがわかりますか」

リッキーはにこやかに応える。

「こんなに違うものなんですね」

その後、僕たちはじっくりとクロワッサンを堪能する。たった数秒でこんなにも味が違うのか。やるな、リッキー。

「ふぅ。おいしかった。ありがとうございます」

「いえ。一人で食べるのもいいですが、同じ味をわかち合うのもまた、幸せなことです」

「えっと、この前のミッションの話をしてもいいですか?」

僕はリッキーに聞いてみたいことがあり、すぐにでも本題に入りたかった。

「ええ。どうでしたか?」

「目的とタスクを書き出してみると、確かに頭の中が整理された気がします。それに時間も書き出してみることで、いつ、どのタイミングで仕事に取り組むかも明確になりました。ただ、やっている間にちょっとモヤモヤしたところがあって」

「どんな?」

「どれくらいの大きさのタスクにすればいいかが、ちょっとわからなかったんです。あと想定していた時間よりも、オーバーすることが多くて……」

「今、ありますか? 書き出したもの」

「ああ、これです」

僕は鞄からノートを取り出し、リッキーに渡す。

「へぇ。面白そうな仕事ですね。ただ、ここ気になりますね」

リッキーがノートを指差す。

「どこですか?」

「最初の『四記事分のテーマを考える』」

「ああ、はい。そこが想定より時間のかかっているところです」

「これ、もっとばらせませんか?」

「ばらす?」

「タスクを、もっと細かくばらせませんか?」

「いや、テーマはこれから考えるので、そうとしか書きようがないかなって」

「テーマを考えるために、いつもなにをしていますか?」

「下調べをします。今月考えるのは、二か月先の六月の記事。六月であれば梅雨時季ですし家飲みも増えるので、そのあたりでなにか企画に結びつかないか調べていたところです。あ、それからちょうど六月に新商品のクラフトビールが出るので、その情報とも絡めたいなと思っています。だから、新商品の情報も関係部署から集めたりしていました」

「それ、書けばいいんじゃないですか?」

「あ、ああ、確かに。えっと、いいですか? ノート」

「ああ、すいません」

僕はリッキーからノートを返してもらうと、

・新商品の情報を集める、関連部署に連絡を入れる(60分)

・情報をもとに4記事分のテーマについて下調べする(60分×4)

1. 梅雨時季の過ごし方、家飲みの楽しみ方について調べる

2. クラフトビールの歴史について調べる

3. クラフトビールと通常のビールの違いについて調べる

4. 新商品の特徴とマッチする料理について調べる

と書き足した。確かに、こうやって書き出したほうが、なにをすべきか明確になる。

「へぇ。素人の私が見ても、なにをすべきか明確になりました」

「うんうん」

「あれ、そこ、『?』が書いてありますね。『記事内画像、サムネイルを作成』のところ」

「ああ、これは、今月から新しく僕が担当することになった業務です。それまでは、別の人がやっていたのですが、産休に入ったので」

「画像まで作成するんですか。デザイナーみたいですね」

「今は、専門のデザイナーでなくても、用意されているフォーマットや素材を使って、ある程度のクオリティのデザインができるサービスがあるので。それを使うんです」

「便利な世の中ですね」

「ただ初めて使うので、どれくらい時間がかかるかわからなくて」

「試しに触ってみました?」

「いいえ、まだです。まだ、ここまでタスクは進んでいないので」

「試しに、どんなのでもいいから画像を作ってみたらどうですか? そうすれば、一枚あたりどれくらい時間がかかるかわかるでしょう。おおよその目安でもいい。『?』のままよりはマシでしょう。それに、わからないところがあれば、先に誰かに聞いておけます。いざ時間が差し迫った時に焦るよりはいいはずです」

「ああ、確かに。そうですね。明日、さっそく触ってみます」

「うーん、そんなところでしょうか。あれ、これ、西原さん一人で公開まで進むんですか? 社内の他の人のチェックなどは……?」

「ああ、入ります。マネージャーの藤田さんには、全ての原稿を確認してもらいます。あ、それも入れないとですね」

「社内のコミュニケーションは外しがちですが、しっかり入れておくといいですよ。そういうのも、立派なタスクです」

「なるほど」

「あと、抜けていそうなタスクはないですか?」

「いや、大丈夫なはず……あ、いや、画像を作成したあと、CMSを使ってWebページを作成する工程が抜けていました。これ、意外と時間かかるんです」

「CMS?」

「えっと、記事のページを簡単に作成できるシステムです。文字や画像を挿入するだけで、デザインされたページができる。コンテンツマネジメントシステム、略してCMS 」

「へぇ。便利な世の中です」

僕はリッキーからのフィードバックをもとに、改めてタスクを書き直してみた。

・新商品の情報を集める、関連部署に連絡を入れる(60分)

・情報をもとに4記事分のテーマについて下調べする(60分×4)

1. 梅雨時季の過ごし方、家飲みの楽しみ方について調べる

2. クラフトビールの歴史について調べる

3. クラフトビールと通常のビールの違いについて調べる

4. 新商品の特徴とマッチする料理について調べる

・各記事の制作会社へ送付する用の企画書を作成する(30分×4)

・進行表を作成する(30分)

・藤田さんに企画書と進行表を確認する(15分)

・藤田さんからのフィードバックを反映する(45分)

・制作会社にメールをする(20分)

――制作会社からの原稿が提出された後

・原稿を確認する(30分×4)

・記事内画像、サムネイルを作成する(明日試して確認)

・Webページを作成する(45分)

・社内での最終チェックを行う(30分)

・公開作業(10分)

・SNSでの発信(30分)

・藤田さんに報告(10分)

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