第3章 ザッソウ ── 雑談のように、相談し合う

チームの役に立ちたい

最悪な未来の動画に気力を奪われた僕は、ぼーっとした頭でなんとか用賀駅までたどり着くと、コンビニで最低限の食事と水、缶ビールを買い、家路に向かう。はぁ……。なんだか、久しぶりに大きなため息をついた気がする。今日はビールでも飲んで、すぐに寝よう。

とぼとぼと歩いていると、僕は信じられない光景を目にした。人は驚くと二度見をするというけど、本当にそうだった。絵に描いたような二度見をした僕は、その無愛想な男と目があった。

そう、例の公園で、ブランコを全力で立ち漕ぎしているリッキーと。

「な、なにしてるんですか、いい大人が」

僕は足早に公園に入りながら、リッキーに話しかける。明らかに異常な光景だった。 Tシャツにジーパン姿の五十過ぎに見える男が、こんな夜に全力でブランコを漕いでいるのは。もう少ししたら振れ幅が百八十度になりそうなぐらい、ブランコは揺れている。そのまま鎖がちぎれて、ブランコごと一緒に飛んでいってしまいそうな勢いだ。

「ああ、危ないですよ。近づくと」

「いや、リッキーだって危ないよ! そんなに揺らしたら」

せめて笑っていたらブランコを楽しんでいるのがわかるのだけど、無愛想な顔のままだから余計に不気味だった。

「実験中なんですよ。もういいかな……」

リッキーは漕ぐ力を弱めたのか、少しずつ揺れがおさまっていく。ふぅ……。見ているだけでひやひやした。

ブランコが止まり、リッキーが降りる。手をパンパンと叩くと、リッキーはスマホをポケットから取り出した。

「さぁ、どうかな」

スマホをぽちぽちと触ったあと、リッキーは「ウソでしょう」と天を仰いだ。全くもって、意味がわからない。

「ど、どうしたんですか」

「はぁ、ちょっと座りましょう。二十分以上漕いでいたので、もうヘトヘトです」

そんな長い時間漕いでいたのかと思いながら、例のベンチに二人で腰をかける。

「すみませんが、なにか飲みものを持っていますか?」

ちょうどコンビニで缶ビールと水を買っていたので、その二つを取り出し「どちらがいいですか?」と聞く。

「うーん、究極の選択ですね。今回は水にしておきましょう」

「どうぞ」

僕が水を差し出すと、リッキーは軽く頭を下げ「いただきます」と言いながら受け取った。

「それにしても、なんであんなことをしていたんですか。実験って言ってましたけど」

「いやぁ、見事に失敗に終わりました。ただ、もうあんなことをしなくていいと思えば、前進したと言えます」

本当に意味がわからない。

「これ、知ってますか?」

リッキーがスマホの画面をこちらに向けてきた。画面には、『ウォーキングファンタジー』というゲームアプリが映っている。歩数に応じてキャラが成長し、敵を倒してアイテムをゲットしていく、いわゆる位置情報ゲームというものだ。

「ああ、知ってます。昔、ちょっとだけやってました」

「どこまでいきました?」

「レッドドラゴンを倒すところまで」

「ええ、すごいじゃないですか。ファーストシーズンのラスボスですよ?」

「でも、そこで止めちゃったんです。確か十二万五三三二歩、歩いていたはずです。面白かったですけどね。ちょうど、仕事が忙しくなっちゃって」

「よく覚えてますね。すごく歩いているじゃないですか。今はサードシーズンなんですけど、復帰してもすぐ戦えますよ。それだけ歩いていたら」

「そうですか。でも、それがどうしたんですか?」

「いやね、歩くのもいいんですけど、しんどいじゃないですか。だから、ほら」

リッキーはいたずらっ子のような顔になり、少しだけ舌を出しながら、ブランコを指差す。

「あ、ずるしようとしたんですね。ブランコを漕いで歩数を稼ごうと」

「と思ったんですけど、対策とかしているんでしょうね。全く歩数が増えていませんでした。最初は振り幅が小さいからかなと思って、どんどん漕いでいるうちに、あんなことに。はぁ……疲れた」

「そんなにヘトヘトになるなら、最初から歩いたほうが楽だったんじゃないですか?」

リッキーは水を飲みながら首を縦に振る。

「全くもってその通りです。まぁ、でも、もし同じようなことをしようとする人がいたら、私は止めることができます。強い説得力を持って。それは、成長とも言えます」

「ものは言いようですね」

「そうです、そうです。少し違う言い方をすれば、ものは考えようです。考え方次第で、起きた出来事はどんな意味合いにもなるんです」

「そういうもんですか」

「ふぅ、落ち着いてきました。助かりましたよ。西原さんが水をくれなかったら、倒れていたかもしれない」

「それは、よかったです」

言おうか言うまいか。今日見た動画のこと。水をあげたんだから、ちょっとぐらい話してもいいよね。

「……そうだ、また見ちゃったんです、最悪な未来を。よかったら、またリッキーも見てくれませんか?」

リッキーが、ちょっと面倒くさそうな顔をしたのがわかった。

「どうして?」

いつもの無愛想な顔で尋ねてくる。

「いや、リッキーにも見てほしいなと思って」

「どうして?」

「リッキーなら未来を変える方法がわかるかな……と」

「どうして未来を変えたいんですか?」

「このままだと……他のメンバーに変なやつだと思われてしまいます」

「変なやつでなにがダメなんですか?」

そうだった。リッキーは変わり者だった。こんなことを言ってもきっと共感してくれないだろう。

「僕はリッキーとは違うんです。変なやつだと思われたら会社で浮くし、のけものにされるかもしれない。そうなったら、すごく会社に行きづらいし……」

「そうですか。でも、この前の動画を見た限り、西原さんのチームのメンバーはみんな、そんなことをするようには見えませんでした」

「確かに、今のチームはすごくいい人ばかりです。僕を変人扱いする人はいないと思います。でも、他のチームには、もしかしたら……。せっかく今まで変な目立ち方をしないで、真面目に働いてきたのに台無しです」

「変なやつだと思われたくないから、私に動画を見てほしい」

「そ、そうです」

「そういう理由だとしたら、動画は見たくないですね。私には興味ありません」

「どういう理由だったらいいんですか?」

リッキーは口をへの字にして、首をかしげる。あ、これは、思考を他人に委ねている時のサインだ。

「だから、聞いているんです。どうして未来を変えたいのか、と」

「もっと、役に立ちたいんです。チームのみんなの」

「立派な心構えです。そのためには、どうすればいいと思いますか?」

「……変わりたいです。もっと、こう、なんか、いい感じにみんなに貢献できるように」

パンッとリッキーが手を叩き、微笑みを浮かべながら左手をこちらに差し出してきた。

「私でよければ、喜んで協力します。さ、動画を見せてください」

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