第2章 タスクばらし ── 仕事と作業の違い

【変わった未来】運命の一か月後

――とある月曜日の朝。健太の所属するマーケティング部第一グループのチームミーティング

「さて健太には、今週から新しいプロジェクトに参加してもらおうと思ってる」

話をしているのは、健太が所属するマーケティング部第一グループのマネージャー藤田。ミーティングルームにはマーケティング部第一グループのメンバーである健太、飯村、中村、坂下が揃い、藤田の話に耳を傾けている。健太は突然名前を呼ばれて驚いたのか、肩をビクッとさせた。

「あ、あの、知ってます」

「え? 知ってます……?」

「ああ、いや、そのなんでもないです。ぜひ、やらせてください」

「じゃあプロジェクトについて説明するぞ」

その後、藤田から炭酸水飲料『Hours』のSNSキャンペーンについて、そして健太に依頼する仕事について説明がされる。

「……という感じだ。どうだ健太、いけそうか? 今週中には分析データの資料がまとまっているとうれしいな」

「あの、もう少しだけ今回のプロジェクトの目的について聞いてもいいですか?」

藤田は一瞬狐につままれたような顔をしたが、すぐに微笑みを浮かべる。

「お、いい質問じゃん健太。具体的には、二十代前半を中心とした若年層の取り込みを狙っていきたい。まだ仮説だが、これまでの試験運用で、工夫次第では若年層の炭酸水需要を掘り起こせるんじゃないかという見通しが立っている。ただ実際に、今の若者がどうメッセージアプリを使っているかは不透明な部分も大きい。そのあたりを改めてデータも見ながら、考えていきたい」

「そういうことですね。じゃあ若年層のデータを中心に分析したほうがいいでしょうか」

「そうだな。ただ、まだあくまで仮説だから、他の年齢層についてのデータも見たい。重点的に若年層のデータを見るのはいいけど、それだけに絞るのはまだ早いかな」

「なるほど、承知しました。資料は藤田さんだけが見るものですか?」

「そうそう。だから、体裁とかはテキトーでいいよ。なんのデータかちゃんとわかれば」

「わかりました。いずれにせよ、このキャンペーンを通して、一人でも多くの人にHoursを飲んでもらって、ステキな時間を過ごしてもらいたいですね」

「いいね。そうそう、目指すのはそこだね」

「目的が明確になったので、タスクばらし……ええっと、仕事を整理してみます。それで、もし今週中が難しそうとわかったら相談させてください」

「おう、いいよ。他の業務は大丈夫? オウンドメディアの運営とか」

「残りは、オウンドメディアの画像作成とページ作成ですが、今日の午後には終わる予定です。それ以降はHoursキャンペーンの仕事に、ほとんどの時間を使えると思います」

「わかった。じゃあいいキャンペーンになるようにがんばっていこう」

「はい!」

ミーティングが終わり、デスクに戻った健太は、ノートにタスクを書き出しはじめる。一番上には、しっかりと目的が書かれている。「あとで分析ツールを試しに触らないとな」とつぶやきながら、どんどんタスクを書き出し、横に分数をつけ足していく。その表情はどこか楽しそうだった。

――翌日の火曜日

「あの、中村さんってメッセージアプリの分析ツールって使ったことあります?」

「もちろん、あるぜ」

健太からの質問に、時代錯誤のガッツポーズで応えたのは、分析ツールオタクの中村だ。

「あれ、癖すごいだろ」

「そうなんですよね。さっき試しに触ってみたんですけど、案外時間かかりそうだなと。もっとうまい使い方、中村さんなら知ってるかなと思って聞いてみました」

「いいよ、今時間あるから教えてあげるよ。コツさえつかめば使いやすいから」

――三十分後

「すごいですね、中村さん。こんな方法があるんですね。これで分析がはかどります」

「いえーい、褒められたぜ」

時代錯誤のピースサインをする中村を横目に、健太は「ありがとうございました」と端的にお礼を言うと、さっと自分のデスクに戻っていく。

「最近の若い子はスマートだね……」

誰もいない空間にピースサインを送り続けながら、中村はさみしそうにつぶやいた。

――二日後の木曜日

「健太、どうだ例の分析は?」

打ち合わせから戻ってきた藤田がデスクに戻りがてら、健太に話しかける。

「四十代までの分析は一通り終わって、残りは五十代、六十代です。明日、ざっと資料にまとめるので、今週中には渡せると思います」

健太は藤田のほうに顔を向けながら、手に持っていたコーヒーを一口飲んだ。その様子は、とても落ち着いていた。

「おお、いいじゃん。ところでデータを見て、なにか発見あった?」

「若年層を狙うという筋はよさそうです。あとで詳しく見てもらえばわかりますが、明らかに二十代のほうが動きがアクティブですね」

「なるほどね。いいキャンペーンになりそうだな」

「そうですね。絶対に成功させましょう」

健太はもう一度コーヒーを飲むと、デスクにコップを丁寧に置いた。コップの柄に描かれた漫画のキャラクターは、凛々しい表情でまっすぐに前を見据えている。

一連の様子を向かい側の席から眺めていた飯村が、「なんだか、健太さん、今日はできるビジネスパーソンって感じですね」とつぶやく。健太が飯村のほうにくるっと体を向け「ちょっと飯村さん、今日はってどういうこと?」とツッコミを入れる。一連のやり取りを眺めていた藤田が、ガハハと大声で笑い出した。とっさに両手で口を隠す飯村の動きを見て、健太も笑い出す。しばらくの間フロアには、にぎやかな笑い声が響き渡っていた。

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