第1章 変わりたいですか ── 思考を他人に委ねる癖

リストラ第一号(2)

無心で午後からの仕事を終え、自宅のアパートがある用賀駅まで電車を乗り継ぐ。その間、何度かFVSにアクセスしたが、まだ「未来動画を生成中」という表示のままだった。偽物だったのか、あるいはなにか不具合が起きているのか……。正直、本当に抽選に当たったのかどうか、まだピンときていなかった。

駅に着き、改札を出てすぐのコンビニでサンドイッチとアイスコーヒーを買う。FVSのことが気になって、自炊をする気分ではなかった。コンビニを出て、アパートまで歩き出す。自宅までは大通りを歩いて十分。歩いている間も、ときどき立ち止まってはポチポチとFVSをリロードしていた。

まだか……。ストローに口をつけ、アイスコーヒーを一口飲む。なんとなく空を見上げると、大きな満月が浮かんでいた。いつもより、色が濃い気がするな。ポテトチップスのコンソメ味みたいな色だ、なんてくだらないことを考える。もう一度、アイスコーヒーを飲み、スマホを見た時、僕はピタッと足を止めた。

FVSの画面に、ずらっとサムネイルとタイトルが並んでいたのだ。見ると、どれも僕に似た男が映っていた。心臓の音がどんどんと大きくなる。

足を止めたところは、ちょうど公園の前だった。すべり台とブランコ、そしてベンチが三つほど置かれたこぢんまりとした公園。僕は足早に公園に入ると、ライトに照らされたベンチに腰をかけた。

動画のタイトルは翻訳されて日本語になっている。「【3年後】ジェットコースターに乗って大騒ぎ」「【4年後】黒焦げのカレーになっちゃった」など、なんともたわいのないタイトルの動画ばかりだ。試しに一つ見てみると、少しだけ年を重ねたように見える僕が、友達とジェットコースターに乗り、遊んでいる様子が映っている。

なんだ、これ。一緒に映っているのは、確かに大学時代の友達で、今でも年に数回は遊んでいる。三年後も、きっとそんな関係が続いているのだろう。微笑ましい気分にはなるけど、当選メールに書かれていたような「刺激的な毎日」が駅に着き、改札を出てすぐのコンビニでサンドイッチとアイスコーヒーを買う。FVSのことが気になって、自炊をする気分ではなかった。コンビニを出て、アパートまで歩き出す。自宅までは大通りを歩いて十分。歩いている間も、ときどき立ち止まってはポチポチとFVSをリロードしていた。によって訪れるとは思えない。スクロールしていくと、どんどん動画が出てくるが、いずれも想像できそうな未来ばかりだった。

なんだ……と思いながら漫然とスクロールを続けていたその時、「【10年後】変わらないと、こうなります」というタイトルが目に入った。サムネイルを見ると、冴えない中年男性が映っている。誰だ、これ? 気になった僕は、その動画をタップする。

動画がはじまると、オフィスで、サムネイルに映っていた中年男性が、部下と思われる若い女性になにやら言われているシーンが映る。僕は、急いでポケットからワイヤレスイヤホンを取り出し、耳に着けた。

「まだ終わらないんですか? そんなに簡単な仕事、新人でも一日で終わりますよ。もう、一週間経ってますが」

「いや…… すいません……。もうすぐで終わるんで」

「昨日もそう言ってましたよ! 絶対に今日には終わらせてください」

「はいはい、わかってます」

「なんですか、その言い方は……!」

どうやら部下と思っていた若い女性は、中年男性の上司だったらしい。そして、この中年男性は仕事ができずに、怒られているのか。まさか……ね。

続いてシーンが変わり、先ほどとは違う部屋で、中年男性よりもさらに年上で上司らしき白髪の男性が、すごい剣幕で座っている。その部屋に中年男性が入ってきた。白髪の男性の前に立った中年男性は、カメラに背を向け顔は見えないが下を向き、明らかに元気がなさそうだ。それに加え、信じられないぐらいの寝癖がついていた。ダメそうだなぁ、この人。……いや……自分……なのか?

「君、いい加減にしたらどうだ。この会社は優しい人が多いからと言って、甘えてはいないかね?」

「いえ、そんなことは。一生懸命、働いているつもりです」

「つもりじゃ困る。もう何度も君には注意をしたし、成長を促してきたはずだが、もう限界だ。ウチも新興企業との競争が激しくなり、いよいよ人員整理に着手しはじめた」

「あ、そうなんですか。大変ですね」

「…… 申し訳ないが、君が弊社のリストラ第一号に決まったよ」

「またまた、ご冗談を。この会社は国内飲料メーカーでも五本の指に入る、超安定企業ですよ。六十年以上の歴史だってある。いくら新興企業が出てきたからって、これまでリストラもなしにがんばってきたじゃないですか……」

「君は、これまで一体なにをがんばってきたんだ! 従順な社員でいてくれるのはありがたいが、いくらなんでも仕事の質が低すぎる。もう君みたいな人材を抱えておけるほど、余裕がないんだよ。おそらく来週の経営会議で正式に決まり、通達がくる。心の準備をしておくように」

そして僕は、上司の男性が発した一言に背筋を凍らせた。

「それから、西原健太くん。再就職の支援については、人事総務部から連絡がくるから。しっかり目を通して、第二の人生をよく考えて決めてくれ。…… 以上だ」

おいおいやっぱり、今、西原健太って言ったよな……? 僕と同じ名で呼ばれたその中年男性は、肩を落としたままくるっと回り、カメラに体を向けた。よれよれのスーツ、だらしないネクタイ、薄汚れた革靴……。全身をくまなく観察していたその瞬間、僕は動画を止めて中年男性のネクタイをじっと見た。そこには、映ってはいけないものが映っている。いやいや、まさか、ウソだろ……。

僕は、自分の胸元のネクタイピンを見た。八角形の中に、グリーンでKの文字が入った、珍しいデザインのネクタイピン。これは所属するバドミントンの社会人サークルチームのシンボルマークだ。以前大会で優勝した時に、チームメンバーが記念に作ってプレゼントしてくれた一点もの。

この世で一つしか存在しないネクタイピンを、動画の中年男性もつけている。そして、同じ名前で呼ばれている……。この男は、本当に未来の僕なんだ……。

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