第3章 ザッソウ ── 雑談のように、相談し合う

【変わった未来】アイデアが生まれる瞬間

――二週間後

立ち会議用の丸テーブルでは、飯村、藤田が会話をしていた。

「モクテルの写真を載せてる友達なんているんだ」

「そうなんですよ。見ます?」

飯村はポケットからスマホを取り出すと、藤田に見せる。

「おお、いい写真だね。これは確かに女子ウケするわ」

そこに健太が「例の企画の話ですか?」と近づいていく。飯村が笑顔で健太にスマホの画面を見せる。

「健太さんも、ほら見てください。すごくないですか?」

飯村は身を乗り出し、藤田の隣に来た健太にもスマホの画面を向けた。

「うわ! すごい綺麗。虹色になってるんだ。どうやって作ってるんだろう? この店員さんが作ってるところも見たいですよね」

藤田はなにかピンときたのか、健太の肩をポンと叩く。

「それだ! 健太。見た目が美しいモクテルの作り方をプロのバーテンダーが教える動画。それをメッセージアプリを通じて配信していったらどうだろう?」

藤田のアイデアに飯村が手を叩きながら賛同する。

「いいですね、それ! 普通に見たい! ちなみに、この友達だったらたぶん出てくれると思いますよ。目立ちたがり屋なんで」

「おお、いいね。じゃあとりあえず今度みんなでそこに飲みにいこう!」

――二日後

ミーティングルームには藤田、飯村、健太の三人がいた。企画の中心メンバーだ。

藤田は青ざめた顔をしてうつむき加減で座っている。健太が心配そうに話しかける。

「藤田さん、二日酔いですか?」

「ああ。あのバーテンダーの子、すごいおいしいカクテル作るから、ついつい飲み過ぎちゃって……」

いつになく小さい声で藤田が応える。

「鈴子ちゃん、若いのに腕は確かですから。確かバーテンダーの技術を競う全国大会でも、上位に入っていたはずですよ。せっかくモクテルを飲みに行ったのに、藤田さん三杯目から普通にアルコール飲んでましたもんね」

「いやぁ、あれは我慢できんよ。でも、モクテルもおいしかった。とりあえず俺は大丈夫だから、さっそくブレストはじめようか」

「じゃあ、僕からいきますね」

健太は自分のパソコンをモニターに繋ぐと、箇条書きで書かれたメモを映す。

「十案ほどですが、みんなとのザッソウも参考に、考えてみました」

健太の手には、あの資料はなかった。なにも持たず、時には身振り手振りを加えながら自分のアイデアを話していく。飯村も藤田も、健太のアイデアをうなずきながら聞いている。

その後、飯村、藤田からも提案があり、議論を通じて二十個ほどのアイデアが残ることになった。だんだん酔いが覚めてきたのか、藤田はいつも通りの声の大きさに戻ってきていた。

「いやあ、たくさん出たな。ここからさらに絞らなきゃいけないのは、うれしい悲鳴だ。…… っと、もうこんな時間か。もう少し数を絞るところまで今日やっちゃいたいけど、この部屋はもう出なきゃいけないな。確か坂下がリモート会議するために取ってたはずだ」

「丸テーブルで続きやりますか?」

「ナイスアイデア、健太。じゃあ移動しよう。延長戦だ」

部屋を出てすぐのところにある丸テーブルに、三人でわいわい言いながら移動をしはじめる。外で待っていた坂下が、「なんだか楽しそうですね」と声をかけながら、入れ替わるように部屋に入っていった。

丸テーブルを囲むように立ち、三人は引き続き議論を続ける。三十分ほど経った頃、議論がいい具合に煮詰まってきたのか、藤田がパンッと手を叩いた。

「よし、だいたい半分ぐらいには絞れたかな。いろいろ出たけど、やっぱ鈴子ちゃんの動画が第一候補だな」

「僕も大賛成です。あ、あと、ちょっと考えていたことがあったんですけど…… 」

「お、なんだ?」

「雑な相談みたいになってしまいますけど、もしよかったら動画制作にも関わりたいなと思っていたんです。どんなことでもいいんですけど……。映像関係の仕事には昔から興味があって」

「おお、いいじゃんいいじゃん。予算のことを考えると、まるっと全部の工程を外部のパートナーさんにお願いするわけにもいかなさそうだからな。健太が中心になって、動画制作を進めてくれるのであれば、 いろいろとやりようはありそう。その線で考えていこうか」

「あ、ありがとうございます」

「そういうことを早めに言ってくれるのは助かるよ。判断の幅が広がるし」

「あ、鈴子ちゃんからさっそく返信がありました。『もちろん、協力させて!』ですって。よかったですね」

飯村がニッコリと微笑みながら、鈴子からのメッセージを藤田と健太に見せる。

「おお! 改めて挨拶に行かないとな」

「そう言って藤田さん、ただ鈴子さんのお酒を飲みたいだけじゃないですか?」

健太が微笑みながら、藤田にツッコミを入れる。

「いや、バレた? ……って、こう見えてちゃんと俺は考えてるよ! そうだ、がんばってくれたご褒美に、健太くんに肩揉みしてあげる」

藤田がそう言った途端、健太の顔がさっと青白くなった。

「い、いや、大丈夫です。藤田さんの肩揉み、本格的すぎてマジで痛いんで」

「でも、スッキリするだろ?」

藤田が手を伸ばすと、横に立っていた健太はヒラリと身をかわし、手の届かない距離まで動いた。社会人になってからもバドミントンに打ち込んでいる健太は、軽快なステップが得意だった。ドスドスと音を立て、「待てー!」と言いながら、藤田が健太を追いかけると、もう一度ヒラリと健太は避けていく。ドスドスドス、ヒラリヒラリ。飯村は周囲を騒がしく動き回る二人に目もくれず、スマホを片手に鈴子へのメッセージを打ち込んでいた。ドスドスドス、ヒラリヒラリ……健太がふとミーティングルームに目をやると、坂下がドアから顔をのぞかせていた。

「ちょっと、なにを子どもの追いかけっこみたいなことしてんの。リモート会議の相手に、にぎやかですねって笑われちゃったよ」

「す、すまん」

「ごめんなさい!」

二人はバツが悪そうな表情で、坂下に向かって軽く頭を下げる。その姿を見た坂下は、ははっと笑いながら、また部屋の中に戻っていった。藤田は動いたせいでまた酔いが回ってきたのか、「今日のブレストはおしまいで……」と頭を抱えながら自分のデスクに戻っていく。

健太は「なんだか体が軽いな」と独り言を言うと、軽快なステップで自分のデスクに戻っていった。

私はロボットではありません
Social Change!

仕事を技芸とする文化を広げるメディア