第2章 タスクばらし ── 仕事と作業の違い

試してみる(2)

こうやって書き出してみると、最初に書き出していたものよりタスクは多いし、時間がかかることがわかった。

「おお、いいじゃないですか。しかし、本当に面白そうな仕事ですね。私と代わりませんか?」

「いや、いきなりリッキーが来たら、みんなびっくりしますよ」

「そうですか? こう見えて器用なので、なんでもできますよ」

「そ、それより……さっきよりもさらに、スッキリした気がします。想定より時間がかかるのは、自分のスキルが低いからだと思っていましたが……」

「そもそもの時間の見積もりができていなかった」

「ですね。それに正直、この一週間でどこまで仕事が進められたのかも、よくわからなくなっていたんです」

「進捗が把握できない」

「あと下調べをタスクに入れず、ろくに進まないうちに、企画書を作ろうとしていました。それで思ったより時間がかかって」

「無駄なタスクに時間をかける」

「そうなんです! こうやってタスクを眺めてみると、下調べにしっかり時間をかければ、企画書もスムーズに作れるということがわかります。焦って企画書を作らなくてもいい」

「タスクばらしって言うんです。そういうのを」

「タスクばらし?」

「ええ。タスクばらしの習得が、このミッションの目的でした。見事達成ですね」

リッキーが微笑みながら、小さく拍手をする。タスクばらしってなんだ?

「どういうことですか?」

「いや、あの未来の動画の西原さん。タスクが全くばらせてなかったように思えたんです。マネージャーさんから言われたことを、目的もろくに確認しない。目的がないから……」

「作業になっていた」

リッキーが大きくうなずく。

「そして、タスクも書き出さず、時間の見積もりもしていないから……」

「約束の期日を過ぎてしまった」

「はい。途中、マネージャーさんから進捗を聞かれても、答えられないのは当然です。いや、答えてはいましたが適当でしたね。何パーセントってよく言いがちですが、タスクを把握していないのにそういう言い方をするのは危険です。仕事をしている気になってしまいますから」

「うーん……なるほど」

「目的を決め、その目的に向かうまでのタスクを分解しながら書き出し、時間を見積もる。これが〝いい感じ〟に仕事をするために必要なスキルの一つ、タスクばらしです」

「そういうことか……」

僕は肩からなにか重たいものが、一つ取り除かれた気がした。未来の僕は、タスクばらしができていなかったから、せっかくの新しいプロジェクトというチャンスを棒にふってしまっていた。それにやる気までなくして、ふてくされて……。「課題が見つかったということは、目的が見つかったことと同じです」。初めてリッキーに会った日に、聞いた言葉を思い出す。

リッキーはあの動画を見た瞬間にわかっていたんだ。タスクをばらせていないことが課題であり、目的はタスクばらしができるようになること、だと。

「ああ、あの、ありがとうございます。こんなにすばらしい知恵を教えていただいて……。ど、どうしてこんなことを教えてくれるんですか?」

「教えている? いえ、あなたが勝手に気づいているだけです。私は、思ったことをただ口にしているに過ぎません」

「そ、そうですか。でも、リッキーだって自分の時間があるはずですけど……」

「ええ。大好きなパンを食べるという、大事な自分の時間です。そこに、たまたま西原さんがいるだけです。それにさっきも言いましたが、二人で味をわかち合うのもいいことです」

「そうですか」

どうも本心を隠しているように思えたけど……これ以上、詮索するのはやめにしよう。

「あの、最後にもうひとつ。どうして、こんな知恵を持っているんですか? 失礼かもしれませんが、お仕事はなにを?」

「……私は、無職の隠居おじさんですよ」

リッキーが視線を落としながら、つぶやいた。どこか、さみしげな表情に見える。あれ、なにか聞いてはいけないことを聞いてしまったか……?

「あ、あの、すいません。失礼なことをお聞きしてしまいました」

「え? どこが失礼なんですか?」

リッキーが顔を上げると、いつもの無愛想な表情に戻っていた。

「今、ちょっと嫌そうな顔をしていたので。気分を害したかな……と」

「ああ、いや、ちょっとやっかいな問題を思い出してしまいまして」

「や、やっかい……?」

「ええ、とんでもなく……」

な、なんだろう。まさか、重たい病気かなにか……?

「できてしまったんです」

できた……? 腫瘍とか、そういうやつ?

「な、なにが……?」

「新しいパン屋さんが」

「へ?」

「この大通りを渡って、百五十メートルほどのところに、できたんです。私好みの素朴な佇まいのパン屋さん。これは大問題です。やっと、このクロワッサンのベストな時間を導き出せたのに。また新たなクロワッサンと、向き合わないといけません。そのことを考えたら、自然と視線が下がってしまいました。これからまた、難関なミッションがはじまるな……と」

なにを言ってるんだこの人は。真剣に心配して損をした。

「さて、私は私で新たなミッションに立ち向かいます。西原さんも……未来を変えるためのミッションがあります」

そ、そうだ。まだ未来は変わっていない。せっかく、リッキーに教わったことを無駄にしないようにしないと。

「そうでした」

「この手の知恵は、実践しないと意味がありませんから」

「はい。がんばります」

「それでは、また」

そうぶっきらぼうにつぶやくと、リッキーはいつものように風になり、公園を後にした。

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