「働き方改革」という言葉が注目される中で、リモートワークにも取り組もうとする企業も増えてきているように感じる。
しかし、これまでオフィスで働くことが普通だった会社の人たちが、いきなりリモートワークに取り組もうとしてもうまくいかないことも多いだろう。うまくいかなくて、リモートワークはやっぱり駄目だ、と思ってしまう人たちもいるかもしれない。
それは非常に残念なことだ。私のところにも、そろそろ失敗したケースの知見が溜まってきつつある。今回の記事では、失敗してしまうパターンと傾向について、そして、そうならないためにマネジメント側で出来ることについて考えてみた。
目次
リモートワークだと集中できて良い?
リモートワークを試してみた人の感想で、よく言われるのが「リモートワークだと集中できてよかった。たまにリモートワークするべきだ」というものだ。
オフィスにいれば、参加の求められる会議が多かったり、電話や内線がかかってきて対応したり、まわりが煩くて集中できないなんてことがある。それがリモートワークだと、静かな環境で集中して仕事ができて良い、という主張だ。
これは一見すると、確かにリモートワークのメリットのように思える。しかし、これは本当にリモートワークでなければ実現できないことなのだろうか。このままだと個人が集中できたとしても、社員同士のコミュニケーションがなくなってしまう。果たしてそれで良いのか。
リモートワークだと集中できて良いというのは、その本質を見誤っている。オフィスだと集中できないという状況は、普段の仕事で割り込みや会議が多すぎるという問題であって、リモートワークとは関係がないし、そもそもの働き方として見直すべき点だろう。
社内での会議時間が長過ぎるのであれば、関係する参加者だけに絞ったり、会議の事前に資料を共有することで効率化することを考えた方がいい。割り込みなく集中して仕事をしたいのであれば、たとえばトリンプがやっている「がんばるタイム」のように時間を決めて、全員で集中する時間を作るなど、出来ることはあるはずだ。
リモートワークの目的を、仕事に集中するためだとしてしまうと、いずれ社内のコミュニケーションがなくなってしまい、早晩うまくいかなくなるだろう。「音信不通リモートワーク」という訳だ。本来、リモートワークで目指すのは、オフィスにいるのと変わらないコミュニケーションとチームワークだった筈だ。
働き方がデジタル化されていない
リモートワークをやってみたものの、家で仕事をすると不便であったり、オフィスに行かないと出来ないことも多かったり、コミュニケーションがうまくできなかったから、込み入った話はオフィスに行ったときに、となってしまうという話も聞く。
そもそもリモートワーク云々をいう前に、その会社の職場はきちんとデジタル化できていたのだろうか。紙を使った承認プロセスがあったり、資料は紙でしかなかったり、物理的な掲示板で案内を出したりしてないか。
「アナログなままリモートワーク」という失敗パターンだ。単純な話、ペーパーレスを実現していない会社でリモートワークは無理だ。
今や、デスクワークはすべてパソコンを使った仕事にできるはずだ。メールのやりとりなんかはもちろん、予定の調整や確認、企画書やプレゼン資料を作ることも、経費の申請と処理、営業契約の締結、備品の発注なんかも出来る。
リモートワークに取り組む前に、社内の仕事をまずはデジタル化することが先だ。そして、リモートワークで使うようなデジタルツールを、オフィスにいるうちから取り入れると良い。文書共有も、進捗管理も、勤怠管理も、デジタルツールに置き換えられる。
テレビ会議にも慣れておく必要がある。込み入った話をテレビ会議で出来ないのは、ただ慣れていないからだ。テレビ会議も、大げさなシステムなんて使わずに、各自のパソコンから、それぞれ自分で繋ぐことを覚えたほうがいい。それが出来ないならリモートワークはやめておこう。
リモートワークしている人が少数派
リモートワークの試行でよくあるのが、チームの誰かだけリモートワークしてみるのを試すというパターンだ。このパターンも失敗しやすい。この失敗パターンは、「島流し型リモートワーク」と呼んでいる。
オフィスに多数の人がいるなかで、一人ないしは二人だけリモートワークみたいな形をとると、どうしてもリモートワークをしている側は孤独感を感じやすい。実際のところ、オフィスにいるからといって仲良くしている訳でもないとしても、自分以外が同じところにいると感じることが孤独感の原因になる。孤独と孤独感の違いだ。
そして、集団で働く上では、多数派のいる場所に最適化されていくものだ。オフィスにいた方が便利で、コミュニケーションも取りやすい。もともとオフィスで働いている集団だとしたら、なおさらだろう。会議室にみんないる中で数人だけがオンラインで繋いだりすると、どうしても会話に入っていきにくい。
そうなると、どうしてもリモートワークをする側が苦労をする。リモートワークをしている方は、リモートワークをさせてもらっているのだからと引け目があるため、その距離を埋めようと努力するだろう。しかし、オフィスにいる多数派の方は、そこまで気を使えない。
リモートワークでもうまくコミュニケーションするためのツールがあっても、リモートワークをしている側は積極的に使っても、オフィスにいる多数派が使わなければ、効果は半減する。リモートワークをする側が少数派で苦労するようでは、うまくいかない。
私たちの場合は、全社員を公平にするために全員リモートワークを前提とするようにした。社長の私が率先したことで広めることができた。人数の多い会社であっても、一緒に働くチームはあるはずなので、まず試すなら、その少人数のチーム全員でやってみると良いだろう。
リモートワークを優遇措置だとしている
リモートワークを仕方なく導入しようとすると失敗するだろう。社員がどうしても地方に帰りたいので仕方なくリモートワーク、介護や育児のために辞めるくらいなら家から仕事を許可する、そんな動機で導入するパターンだ。
マネジメント側としては、積極的な動機づけがある訳ではないので、どうしても大目に見ている、という態度になってしまう。つまり、リモートワークは社員の当然の権利というわけではなく、優遇された人たちの限定措置という訳だ。
そうなると、リモートワークをさせてもらっている側にしてみると、とても肩身の狭い思いをすることになる。ただでさえ会社に迷惑をかけてしまっているのに、その上で、リモートワークをさせてもらえるなんて、という気持ちになる。
他の人からの目も気になるだろう。自分以外は毎日通勤して働いているのに、自分だけが許可されているとなると、多少の不便があっても我慢してしまう。しかし、我慢しながら働くようでは続かない。この「仕方なくリモートワーク」パターンも失敗しやすい。
同じような発想で、リモートワークをするには、事前の申請が必要で、相応の理由がなければ許可されないというのも、うまくいかない。そんな面倒なことをするくらいなら通勤するし、いっそ会社をやめてしまった方がマシだと考える。
私たちがリモートワークでうまくいくように工夫したのは、社長である私自身がリモートワークを始めたので、不便なことは解消していくことが出来た。もし、本当にリモートワークを成功させたいならば、リーダーのあなたから取り組むべきだろう。
リモートワーク実現したいマネージャのための注意点
さて、今回は4つの失敗パターンを紹介した。
・音信不通リモートワーク
・アナログのままリモートワーク
・島流し型リモートワーク
・仕方なくリモートワーク
どうだろう、これからリモートワークを取り組もうとして心当たりがある場合は、少し考えてから取り組んだほうが良い。
リモートワークを実際にしている人が気をつけることは、今は多くの記事やブログが出ているので、ここではマネジメント側で何をするべきか考えてみよう。
まず、リモートワークに取り組む目的をしっかりと考えて、会社やチームで共有すると良いだろう。そして、その目的は本当にリモートワークで解決するのか、考えるべきだ。個人作業の集中を目的とするなら、もっと別の方法がある。
一部の人に仕方なくリモートワークを許可するのではなく、会社なりチームなり全体の目的と照らし合わせた制度とすること。そして、過剰にリモートワークをありがたがるような雰囲気にしないことだろう。
そして、便利も不便も体験してみないとわからないのだから、チームで取り組むなら全員で試してみることだ。リーダーだけは別だとか、むしろそちらの特別扱いはしない方が良い。隗より始めよ、という訳だ。
そうすると、リモートワークを前提としたチームの課題は出てくるだろうが、それもチームの課題として取り組めば、乗り越えていくことができるはずだ。ぜひ前向きに取り組んでみてほしい。