なぜ、あの会社は儲かるのか? ビジネスモデル編

なぜ、あの会社は儲かるのか? ビジネスモデル編

AppleやGoogleが強いのは何故か。新興のベンチャー企業が既存企業を押しのけて成長できるのは何故か。商品やサービスの魅力が高いというのも理由かもしれませんが、本当の強みは、彼らの持つビジネスモデルです。

他社には無い新しいビジネスモデルを持つことで、製品の品質や優位性だけで競争する必要はなくなり、永続的な競争優位性を保つことができます。多くの企業で今、求められているのは、そうしたビジネスモデルのイノベーションです。

私たちも、ソニックガーデンという会社を作って「納品のない受託開発」というソフトウェア受託の世界で新しいビジネスモデルを構築したことで、今までやってこれたこともあり、新しいビジネスモデルの重要性はとても理解できます。

今回、私が読んだ「なぜ、あの会社は儲かるのか? ビジネスモデル編」という本では、どうすれば日本企業で新しいビジネスモデルを構築することが出来るのか、ということに対して、様々な身近で有名な企業で取り組んでいる新しいビジネスモデルを紹介するとともに、それを別の業界・業種で適用するための視点のヒントを伝えてくれています。

この本がとても面白く、参考になる点が沢山ある本だったので、この記事で紹介します。

ビジネスモデルとは?新しく構築するには?(前半)

本書では、ビジネスモデルを「儲けるための仕組み」と定義して、自社で新しいビジネスモデルを構築する方法は3つあるとされています。(p.15)

1つはゼロから全く新しいビジネスモデルを考えつくというもの。しかし、それは既存事業を抱える企業ではリスクがありすぎて難しいでしょう。

2つ目は、同業の新しいビジネスモデルをベンチマークとして自社でも構築するというもの。それも価格競争に入るだろうし、先行者利益は得られません。

そして、本書の中心のテーマとなっているのが、3つ目の異業種における成功したビジネスモデルを取り入れることで、新たなビジネスモデルを構築する、というものです。

本書では、その異業種からのヒントを得た新しいビジネスモデルを構築した多くの具体的な事例がたくさん出てきます。

金融ビジネスにおける定石のビジネスモデルを不動産業に取り込むことで非常に安定したビジネスモデルを構築した「スターマイカ」(p.22)、

高速ツアーバスの世界でネットを通じたボリューム型の市場に転換しホテルでのノウハウを活かした「楽天バスサービス」(p.35)、

素材のブランド化という一見意味のなさそうなことを別々の業界で行った「ゴアテックス」と「インテル」(p.49)、

ホテルのコンシェルジュをお手本に法人をやめて個人サービスに特化した「スルガ銀行」(p.56)、

GPSとセンサーを組み込むことで部品の需要予測が出来るようになった「コマツ」と業界は違えど同じアプローチを行った「富士ゼロックス」(p.65)、

旅館業から再生・運営受託事業へと転換し所有と運営を分離した「星野リゾート」そして同様に所有と運営を分離した「パーク24」(p.79)、

タイヤ貼り替え再生(リトレッド)事業に乗り出すことで顧客価値を再定義した「ブリヂストン」と同様に顧客価値を再定義した「GE」の航空機エンジン事業(p.91)、

などを中心に、まだ多くの事例を紹介しています。

ビジネスモデルを見る視点と、変革の課題(後半)

本書の後半も事例は盛り沢山ですが、少しメタな視点をもって、分析的な観点でビジネスモデルの構築について表現されています。

本書では、ビジネスモデルの構成要素として「Who、What、How」という視点と、①顧客価値提案、②利益方程式、③鍵となる経営資源、④鍵となる業務プロセス、という視点が提案されています(p.105)。

そして、異業種のビジネスモデルを考える視点として、以下の7つが挙げられています(p.107)。

  1. 顧客の再定義
  2. 顧客価値の再定義:主にメーカー用:サービス・ドミナント・ロジック
  3. 顧客価値の再定義:主にサービス業用:マイナスの差別化
  4. 顧客の経済性
  5. バリューチェーンのバンドリング/アンバンドリング
  6. 経営資源の持ち方(ヒト、モノ)
  7. 定番の収益モデル

顧客の再定義では、青梅慶友病院での、病院の顧客は入院する患者だけでなく、その家族も顧客であると再定義した例から、「意思決定者と利用者が違う事業のモデル」を教えてくれます。他に、BtoCからCtoBへの変換なども紹介されています。

「サービス・ドミナント・ロジック」も面白い。「人は四分の一インチの穴を買うのであって、四分の一インチ・ドリルを買うのではない」という言葉の通り、製造業であってもサービスの考えかたに変えていくことを示唆しています。

ここで比較に出される「グッズ・ドミナント・ロジック」という考えかたが、企業と消費者の関係は両者の間で価値が交換されることを示し、一方でサービス・ドミナント・ロジックでは、製品やサービスを顧客が使用する段階での価値が重要だと言っています。

これは、私が常々、言っている「Point of Sales」と「Point of Use」の話とまったく同じことです。ソフトウェア開発の世界での、サービス・ドミナント・ロジックが、私たちの提唱する「納品のない受託開発」なんですね。

それぞれの項目について他にも、たっぷりの事例を交えて本書では紹介されています。ベネッセ、WOWOW、アシックス、カーブス、ガリバー、ヤマハ、スーパーホテル、アマゾン、フランスベッド、スタジオアリス、ブックオフ、リブセンス、西松屋、電通、グリコ、ソニー損保、QBハウス、Skype、セブン銀行、などなど、多くの注目企業のビジネスモデルが紹介されています。

「売り切らない」モデルへ

本書で紹介される新しいビジネスモデルの多くは、それまで「売り切り」をしてきた企業が「売り切らない」ビジネスモデルに転換したものでした。「売り切らない」モデルには以下の7つの特徴があると本書では言ってます(p.216)。

  1. 景気の影響を受けにくい
  2. 顧客により近づける
  3. 顧客リストをアクティブに維持
  4. ソフト・サービス事業の拡張
  5. 製品改良ノウハウの蓄積
  6. バージョンアップが容易
  7. 中古市場のコントロールが可能

「売り切らない」モデルにすることで、競争優位性を持つことができるのは、私たちソニックガーデンもよく理解しています。

ただ本書でも指摘されていますが、「売り切る」モデルから「売り切らない」モデルに転換すると、一時的な売上の減少が発生してしまいます。それまでまとめて売っていたものを、定期的な売上に変化させるというのはそういうことです。それが、多くの企業でその取り組みを難しくさせています。

私たちソニックガーデンの「納品のない受託開発」も、既存事業を持った上で転換するということであれば、始めることは出来なかったと思います。私たちは会社をゼロから立ち上げたので、そのタイミングだったからこそ、この事業を始めることが出来ました。この辺りについては、またブログの記事にしたいと思います。

本書の第4章では、そうしたビジネスモデル変革の課題になるような、組織の壁や評価の壁、などといった問題について取り上げています。この辺りも、多くの方の共感を得られるところでしょう。

ビジネスモデルを考えることに関わる人は読んでおいて損は無い本だと思います。

倉貫 義人

株式会社ソニックガーデン代表取締役社長。経営を通じた自身の体験と思考をログとして残しています。「こんな経営もあるんだ」と、新たな視点を得てもらえるとうれしいです。

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