今回紹介するこの本は、実は私が自分で選んだのではなく、ソニックガーデンの副社長である藤原から「きっと気に入りますよ」という太鼓判とともにオススメされた本です。
本書を読み終えた今、とても共感するところがたくさんあり、確かに私の「お気に入りの一冊」になりました。この本には、私がこれまで考えて実践してきたことに近いことが言語化されて書かれていました。
そして、私もこんな本を書きたかったんだ、と少しの嫉妬と悔しさも残りました。
この本を読むことで、会社を大きくしなければいけないがために、自分のライフスタイルを犠牲にするようなワークスタイルをすることは本当に幸せなことなのか、見直すきっかけになるかもしれません。
私もよく講演でも話している「小さな会社で、楽しく働き、豊かに暮らす」という思想について、本書では色々な事例を紹介しながら説明しています。それを実現するには色々な要素があると思いますが、本書は「ブランディング戦略」という切り口で説明しています。
「ブランド」は大きな会社だけがするものではなく、小さな会社こそが「ブランド」を持つことで、ライフスタイルとワークスタイルを充実させることが出来るようになる、と著者は言います。
私たちの会社であるソニックガーデンも、社員数が10人にも満たない小さな会社ですが、多くの皆様に知ってもらうことで、理想に近い働きかたが出来ています。意識してなかったですが、それは「ブランド」だったのかもしれません。
目次
読書メモ:ソニックガーデンの場合
ここでは本書を読んで気になった部分を、私たちの会社であるソニックガーデンでのケースで考えながら紹介します。
p036.「会社自体にファンをつけていく」「会社自体に価値をつける」
「お客様」である前に「ファン」になって頂く、という発想。これは「グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ」で学んだことと同じですね。大事なことだし、そういう会社が生き残ると思います。
ソニックガーデンは小さい会社なので、マーケティング予算はそれほど潤沢にある訳ではありません。そこで、自分たちの仕事の進め方や、ソフトウェア開発で学んだことなどをブログや寄稿などを通じて業界に還元しつつ、そのことで多くの方に知ってもらうということをしています。
p041.小さな会社のブランド戦略は「大好きなお客さまとだけ付き合うための戦略」
ブランディングを実践していくことで、どんなお客様と仕事がしたいか、ということが実現できるという話です。私たちもこのことの重要性は実感しています。ソニックガーデンではソフトウェア開発の受託もしますが、よくある人月商売も技術者派遣もしていません。それをすると経営者としては安易に稼ぐことのできることはわかりますが、それをしてしまうと起業した意味すらなくなります。
だから、ソニックガーデンでは受託をする際に人月も派遣も一切しないのですが、そうである姿勢を前面に打ち出したブランディングをしています。だからこそ、ソニックガーデンに相談に来て頂くお客様は、その時点でずっと絞られますが、間違いなくソニックガーデンのスタイルに共感を憶えたお客様だけに来て頂くことができています。
p106.ファンをつくるためには、「まずは自分たちが最高に楽しく仕事をすること」
楽しそうに仕事をしていることが、ファンになってもらうために大事なこと、というのは当たり前のことだけど忘れがちです。自分たちの会社や上司の愚痴をいったりする人の会社にファンはつかないですよね。
ソニックガーデンでは、受託開発をする際に心がけているのは「お客様にもソフトウェア開発の楽しさを知ってもらうこと」です。私はソフトウェア開発は元来クリエイティブで楽しいものだと信じていて、それを実現するためにアジャイルなどに取り組みましたが、今や自分たちが楽しむだけでなく、お客様ともその楽しさを共有したいと思っています。
p112.ミッションづくりに、とことん時間とエネルギーを
本書では会社におけるミッションこそが、揺らぐことのないブランドの基盤であると繰り返し伝えています。確かに、使命感よりも儲けることが先にくる会社にブランドはないのかもしれません。
ソニックガーデンでは、会社を設立したタイミングでミッションやビジョンが確立していましたが、これは社内ベンチャー時代から入れて3年目でようやく出来上がったと言っても良いくらいに時間をかけました。今思えば、社内ベンチャーという苦しく不安定な立場でいた時間が、自分たち自身の存在理由を深く考え直す良い時間だったのかもしれません。
そして、ソニックガーデンでは半年に1度、ビジョン合宿と呼んでいる一泊二日の合宿にいっています。そこで全員でミッションとビジョンの見直しをするのです。前回おこなった2011年12月の合宿の様子はこちらでブログにしています。
p116.いつも頭にポジショニングを
小さな会社に適したポジションは「激戦区から、ちょっとズレたところ」、小さな会社の基本戦略は「戦わないこと」と著者は言います。そのためにポジショニングを意識する必要があります。
「激戦区からちょっとズレたところ」というのは、すごく実感としてあります。ソニックガーデンの商品である社内SNS:SKIPなどは、大手企業も参入している激戦区になりつつありますが、私たちは5年以上、そのマーケットでビジネスをしてきた実績があり、競合他社と違って提供する価値を「会社を元気にすること」と位置づけることで、欧米でつくられた製品ではできないヒューマンケアを含めることで、競合との差別化を図っています。そして、ニッチであっても、その価値を求めるお客様の数は、小さな会社をやっていくなら十分なほどにいらっしゃいます。
成功の定義
本書では、小さな会社で成功することについて書かれています。そして、本書によると成功とは「幸せになること」「思い描いた理想のライフスタイルを完成させること」ということです。
私は起業したときによく言われたことが「そのビジネスモデルで成功することを期待してます」とか「ぜひ成功してください」とか言われました。ありがたいお言葉なんですが、でもずっと違和感があったんですよね。
今現在のソニックガーデンでは、赤字もなく利益がちゃんとある状態で、社員のみんなも家族との時間を持つことができて、今この瞬間が大金持ちってことではないけど、豊かに楽しく暮らせているので、私としては成功なんだけど、他の人からは成功と見えないのかな、と。
それは、成功の定義が人によって違うからなんですね。大企業になったり、上場して大金持ちになったら成功だと思う人もいれば、そうじゃない人もいます。私たちの価値観は、小さな会社でも、信頼出来る仲間と、喜んで頂けるお客様と、楽しく働き豊かに暮らすということなので、気にする必要はなかったのかもしれません。
社長の仕事
この本には社長の仕事は「3年後に生き残ってる理由を、今日考える」ということが書いてます。私も同感です。小さな会社の場合、社長自身がプレイングマネージャをしていることが多いので、社長としての仕事を持てないことになり、結果として会社がちゃんと儲かることに繋がらないという悪循環がありますね。
ソニックガーデンでは、ありがたいことに社長が「社長の仕事」をする時間をかなりもらっています。だからこそ、新しいビジネスモデルを産み出せたり、ブランディングや人事にも力を入れることが出来ています。
ソニックガーデンは2代表制を採用しており、副社長も代表取締役なので、普段の業務の遂行はCOOとして副社長だけでまわせるようになっています。また、チーム全体が自立的でスタッフそれぞれがビジネスの判断もできるようになっていることも強いです。そんな仲間と一緒に起業できて、本当に幸せなことです。