リモートワークは難しくない 〜 フリーアドレスの延長にあるフリーオフィスその先へ

リモートワークは難しくない 〜 フリーアドレスの延長にあるフリーオフィスその先へ

「リモートワーク」というだけで特別な働き方、新しいマネジメントが必要で、これまでの管理職からすると忌諱すべきムーブメント、そんな風に思う人もいるだろう。もしくは、リモートワークになれば、きらめくような自由な働き方が約束されていると思う人もいるかもしれない。

いずれにせよ、それまでの働き方とは大きく違うものだと考えて、そこに至るには大きなハードルがあると思いがちだ。しかし、私たちの取り組んでいる「リモートチーム」という働き方は、それほど難しいものではない。それまでの会社の働き方を変えずに実現することができる。

リモートワークなんて、歯を食いしばってやるもんじゃない。もっと当たり前に、もっと気軽に浸透していくものだと考えている。これまでの働き方の延長、特にフリーアドレスとの相性の良さ、その先にあるものではないか、という考察を書いた。

あるオフィスでの風景

朝、始業時間である9時の少し前に出社する。フレックスとはいえ、生活リズムがあるから、だいたい同じ時間に出社する。淹れたての温かいコーヒーをすすりながら、同僚と「おはよう」と挨拶を交わして席に着く。メーラを立ち上げて、少し溜まったメールの処理から始めよう。

急ぎのメールから処理を済ませて、今日やる仕事の優先順位を見直しておく。そうしているうちに、同僚たちとの朝会が始まる。いわゆる朝礼ではない。朝会は、3人のチームメンバーと、前日やった仕事や、今日やる仕事、抱えている問題について共有するための短いミーティングのことだ。

「朝会をやろう」と仲間に声をかけると集まってくる。そのまま、その場でミーティングをしてしまう。朝会は15分程度で終わる。

朝会を解散したら、自席に戻る。最初に取り掛かる仕事は、今日中に締め切りのレポート作成だ。少し気は乗らないが、お気に入りのエディタを立ち上げて書き始めると、筆がのってくる。不思議なものだ。集中して書き終えたら、もうお昼に近い。作業は見積り通りに出来ると気持ちが良い。

作成したレポートは、メンバーに共有しておくための掲示板にアップしておく。「レビューよろしく」とメッセージを添えれば、きっと誰か見ておいてくれるだろう。

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少し早めだが、午前に予定していた仕事も終わったから、ランチにすることにした。同僚に「ご飯に行ってくるよ」と声をかけて、席を立つ。今日のランチは、馴染みのラーメン屋にしようか。少し歩くけど、それもまた気分転換になる。いい天気だ。

昼休みを終えて、自席に戻り着席する。まだランチタイムだからか、オフィスにいる人たちはまばらだ。「午後の仕事を開始」なんて呟きながら、タスクリストを見直す。このあとは、お客様との会議が入っている。資料などの準備をしておこう。

お客様との会議が始まる前に、一緒に同席をするメンバーと段取りなど少し打ち合わせをする。そうこうするうちに、お客様が会議室に入ってこられた。画面にアジェンダを映して、全体の確認をしてから会議が始まる。

会議といっても、事前にわかる情報は既にウェブで共有を済ませてあるから、主には議論が中心となる。お客様にとって価値のある内容を提供しなければいけない。しっかり議事メモを取りながら生産的な議論を続けていく。

無事、打ち合わせが終わり、お互いの宿題も明確になって解散した。ちょっと一息いれるためにコーヒータイムをとろう。そういえば、先日にやったホームパーティの際に、友人たちが持って来くれた洋菓子が残っていたはずだ。

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少し休憩をしたあと、また自席に戻り仕事を再開する。残りの時間は、プログラミングだ。休憩しながらぼんやり考えていた設計がうまくいくんじゃないか。使えるモジュールを集めて試してみよう。

夕方に少し社内のミーティングに呼ばれた。会議室に入って参加する。打ち合わせ中に、内職で掲示板のコメントをチェックする。午前中にアップしたレポート、ちゃんとレビューしてくれたみたいだな。それを正式にメールで提出しておこう。

打ち合わせも終わると、さぁ、もういい時間になった。そろそろ今日中に返事が必要なメールと掲示板の処理だけしてから、終わることにしよう。「お疲れ様でした」そう言って、席を立って退社する。

あ、そういえば今日は飲み会をするって人たちがいたな。あとで少し顔を出してみようかな。そんなことを考えながら、パソコンをシャットダウンして、仕事部屋を出て家族のいるリビングに向かった。

実は、リモートワークで働く風景

これは一見すると、オフィスで働く普通の人の働き方のイメージに思えるかもしれない。しかし、実は私たちが取り組んでいるリモートチームで働く様子なのだ。こうして文章にすれば、これまでの会社のオフィスで働いているのと変わらない。

もう少しディテールを加えてみれば、リモートワークでどのように実現しているのか、理解してもらえるだろう。

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例えば、「出社する」とあるが、私たちの場合は「Remotty」という仮想(デジタル)オフィスにログインすることを意味している。それを私たちは「論理出社」と呼んでいる。Remottyを使えば、仕事をしている同僚の顔が見える為、誰が出社しているか一目瞭然になる。

Remottyに論理出社したら挨拶するのも、普通のオフィスに出社して挨拶するのと変わらない。一般的なチャットと違って、Remottyには「自席」の概念があるため、誰とはなしに挨拶をすることができる。全員に通知されてしまうことを気にする必要がないのだ。

朝会をするために声かけは、メンション(@hogehoge)を使う。自席にいても、メンションをした人にだけは通知が届く。そうすると、リアルタイムに人が自席に集まってくるのも見えるようになっている。そこで、Remottyからツール連携をしているZoomというテレビ会議を起動する。

ZoomはURLだけで共有した人が入ることのできるテレビ会議のツールだ。参加者たちは、表示されたURLを各々がクリックしてzoomを起動する。そうするともうテレビ会議が始まる訳だ。それでフェイストゥフェイスで、口頭でのミーティングが出来る。

メール処理やレポート作成、プログラミングなどは、どのみちパソコンを使ってする仕事であり、どこにいても出来る仕事だから、自宅やコワーキングスペースなどで座って仕事をすれば良い。その作業の間も、Remottyは起動したままなので、同僚の顔は見えている。

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Remottyはオフィスであり、自席があるようなものなので、離席をするときなどは周りに声をかける。実際には、挨拶と同様に自席のチャット部分に書き込みをするだけだ。それで、通知はいかないが全体のタイムラインに流れるので、なんとなく同僚たちには伝わる。

私たちの会社では、昼時になると、絵文字のご飯マークがタイムラインに並ぶ。

リモートワークの場合、ランチは各自でとることになる。ここにあるように、本当に家の近所のラーメン屋にいっても良いし、自宅で家族と一緒に昼食をとっても良い。ランチタイムを家族との時間にすることが出来るのは、在宅勤務の特徴でもある。

また、席に戻って来た時など、独り言をチャットに書き込むことで存在感を出すことが出来る。ここはリモートワークのポイントだ。

お客様との打ち合わせも、テレビ会議で行う。事前に、もしくは直前に共有したURLに、お客様も一緒に入ってもらうことでテレビ会議となる。つまり、テレビ会議のURLは、会議室の代わりと言っても良い。画面共有をすれば、議事メモやホワイトボードの代わりに出来る。最初からデジタルデータなので、むしろ便利だ。

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仕事の合間の休憩も、在宅勤務なら自宅でとることになる。仕事の合間をぬって、洗濯物を取り込む人や、子供の送り迎え、家庭訪問や授業参観に参加する人もいる。これらは、家から離れたオフィスに通っていては難しい。子供がいる家庭なら、子供との時間は圧倒的に増える。

社内のミーティングも、もちろんテレビ会議だ。ミーティング中にちょっとしたメールの処理などしても良い。そして、最後に仕事が終わったら、また自席に挨拶を書き込んで、Remottyの画面を閉じる(Chromeであれば、タブを閉じる)。

それで、仕事の1日が終わりだ。

飲み会だってやっている。「リモート飲み会」と言って、テレビ会議を繋いだまま、各々が手酌でお酒を飲む会だ。リモート飲み会の良いところは、ちょっと顔を出して、すぐに帰ることもできる、とても気軽なところだろう。

リモートワークは難しくない

このように、リモートワークをあまり特別視せず、むしろ今までの働き方の延長で、場所が変わっただけとすることで難しさのハードルはかなり下がるはずだ。

今、クリエイティブな仕事をする人たちが働く企業の多くで、自分の固定席を持たず、好きな場所で働けるフリーアドレス制度を導入している。自由さと柔軟さで、全社の横断的なコミュニケーションの活性化などで注目されるが、一方で、もとからあった一体感が失われることもある。

フリーアドレス自体は良いとしても、チームで働く際に集まれる精神的な「オフィス」は必要だったのではないのだろうか。従来のオフィスには、チームの一体感やコミュニケーションを産み出す効果があったのではないか、と考えられる。

ではオフィスとは一体なんだったのか。

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ここで改めて「オフィス」というものを再発明して考えたい。フリーアドレスのように物理的な軛からは自由になっても、チームとして働くための環境が必要で、それがオフィスなのだとしたら、機能性で考えれば必ずしもオフィスは、物理的なハードウェアである必要はないのではないか。

もしソフトウェアでオフィスを表現することが出来るのであれば、フリーアドレスであろうと、営業の出先であろうと、出張先のホテルからでも、場所に関係なくチームとして働くことができる。繋がる場所さえあれば、各々の仕事こそ、どこでだって出来るのだから。

そして、繋がる場所はソフトウェアで実現されたオンライン上の場所であっても構わない。MMORPG(多人数同時参加型RPG)のようなゲームをする人なら、オンラインに居場所がある感覚は理解できるだろう。人の概念はすべてプログラムとして実装され得るのだ。

仮想オフィスとしては、Slackチャットワークのような、リアルタイムに会話のできるチャットツールも候補に上がるし、SococoRemottyのようなオフィスらしさを追求したツールも良いだろう。

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元からある物理オフィスと、オンライン上の仮想オフィスは競合しない。リモートワークだから仮想オフィスが必要なのではなく、もとより一緒に働く仲間がいるなら、それらが繋がれる場所を増やすことで、より繋がりを強固にすることができる。

つまり、仮想オフィスとは物理オフィスを補完し、拡張し、強化するものだ。フリーアドレスや、コワーキングスペースの活用など、いまどきのオフィス環境を実現するというなら、なおさらだろう。

そうして仮想オフィスで繋がれるなら、個々人の身体のある物理的な場所はどこであっても、大丈夫になるだろう。つまり、リモートワークが実現する。順番としては、仮想オフィスで繋がることが先で、それは物理オフィスにいても出来ることだ。

・第0段階:物理オフィスあり、仮想オフィスなし
→ 一般的な会社、物理的な対面での会話のみを重視

・第1段階:物理オフィスあり、仮想オフィスあり
→ 先進的なIT企業、Slackやチャットを活用したコミュニケーション

・第2段階:物理オフィスなし、仮想オフィスあり
→ もはやオフィスのいらない会社、実例は私たちソニックガーデン

* * *

私たちソニックガーデンで取り組んでいる、セルフマネジメントやフラットな組織は、経営の手法として取り入れているだけで、仮想オフィスがあるからリモートワークが出来ることとは、切り離して考えている。

だから、リモートワークだけなら、それほど難しくないのだ。ホラクラシーやティールは別次元の難しさがあるし、そうでなくてもリモートワークは実現できる。

いきなり第2段階の、物理オフィスをなくすことは難しいだろう。まず第一歩は、物理オフィスに重ね合わせるような、仮想オフィスを用意することだ。それでうまくいかないようなら、リモートワークなど夢のまた夢だ。諦めた方がいい。

ツールはなんでも良いから、まずはチーム力を高めるために仮想オフィスから始めてみよう。そこから始まる。

倉貫 義人

株式会社ソニックガーデン代表取締役社長。経営を通じた自身の体験と思考をログとして残しています。「こんな経営もあるんだ」と、新たな視点を得てもらえるとうれしいです。

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