地方のIT産業に思うこと

地方のIT産業に思うこと

富山に講演で来たのですが、前後でいくつか雑談をしているうちに感じた地方におけるIT産業の印象を残しておきます。これは私が聞いた話が中心なので、真実とは違うかもしれないですが、ひとつの側面としてあることは間違いないでしょう。正直モヤモヤした気持ちは拭いきれない。

地方のソフトウェアベンダの仕事の多くは、当然ですが受託開発が殆どです。その案件も東京での案件がほぼ全てであり、大きめの企業システム構築が多いようです。オフショア開発のようなものであり、中国などがライバルになるのでは?という印象を持ったんですが、やはり言葉の壁もあるし、早めに確認して調整しながら作っていくためには、近くて日本人同士が良いということでした。その辺りで差別化されているのかもしれませんが、おそらくチャネルがすでにあるからというのが大きいでしょう。発注側にとっても今までのパートナー企業をやめてオフショアにするリスクは大きいでしょうから。

一方、発注側のユーザ企業の話。地場の大きめの企業は、内製化に向かっているらしい。大きめの企業であれば、まだシステム開発のニーズはあるらしく、開発案件が出ている状況ではあるが、それが内製でおこなうという流れ。中小企業の場合、5年以上前一昔前に作ったシステムを動かしている。部門ごとにバラバラに部門サーバを持っているような状況。すでにサーバもOSも古くなっていても、動くのだからそのまま動かしているらしい。けっこうな投資として5年前に作ったシステムが、うまく使いこなせずに、5年たって今になってようやく使いだしたという話もあるらしい。

クラウドの波は地方に届くのか。クラウドをどう捉えているかを聞いてみた。ユーザ企業にとっては、クラウドとは何でどんなメリットがあるのかがまだ理解できていない、ということだった。雑誌やセミナーなどで、クラウドの表面的なことはわかるが、それによって自分たちがどう嬉しいのかが見えてこない、ということでした。あえてクラウドとは何かを定義せずに話に出してみたところ、印象としては、AmazonEC2やWindowsAzureのようなIaaSのイメージで話をされていたので、地方におけるクラウドの認識はそうなのかもしれない。地方のユーザ企業は、中小であろうと、やっぱり「自分たちの会社は特別」ということをどこも考えていて、例外処理の固まりだというお約束の言葉もでました。こういった現状があれば、受託開発の市場はなくならない。

中小企業こそ、システムに多大な投資をするのでなく、安価なクラウドIaaSを使うなりして、本業のビジネスに投資する方が良いような気もするのですが、今時点で乗り換えるという選択肢はないようです。というのも、すでに稼働している状況で、戦略的にクラウドの活用をしようという自らの変化のためには、資金的にも人的にもコストがかかるため、それだけの動機付けがない、ということ。今のシステムがどうしようもなくなってきたときに、初めてクラウドなりの可能性を検討することになる。それは、今ではなくまだ数年先の話という。安くて良いものであれば市場が産まれるということではなく、厳然とした必要性がなければ変化してまで新しいものに取り組むということはない、ということ。

中小企業にとっては、変化する必要性がない。少しショックではありますが、当然のことかもしれません。もっと戦略的にシステム投資を考えたり、事業戦略を検討していく企業が強くなり、勝ち残って行くとは思いますが、そうではなく、現状を継続していくことにフォーカスしてる企業も多くあるということですね。だからこそ、中小企業のままなのかもしれません。そして、そこには攻めるための変化はあまりないという事実。地方の中小企業にクラウドはまだまだ届かないような気がしました。また、もっとショックだったことが、現在のシステムの面倒は社内の人間が見ている場合、もしそれが「サービス残業」でメンテしたりしてる状況だったら、クラウドでアウトソーシングすることで、見えてなかったコストが見えるようになってしまって、むしろマイナスかも、と考える経営者もいるかもしれない、という話。その発想はまったくなかったのでショックでした。

ソフトウェアベンダーにとってのクラウドの話。AmazonEC2だけでなく、日本でもIaaSクラウドが広まりつつあるのかと思っていたら、今になってデータセンターを建築しているという話を聞いて、これも驚き。今さらそのビジネスはコスト的にも既に顧客のニーズにあわないのではないか、とも思ったんだけども、ユーザ企業はそんなに新しい情報をもっていないなら、売ることはできるのかも、と思う。やはり、データをクラウドというよくわからないところに置くのは不安という気持ちが多いというところに対応できるらしい。ソフトウェアベンダーの人にとっては、クラウドが広まりすぎると、サーバやサーバOSが売れなくなるだろう、という心配があるらしい。OSも無料になってしまうんじゃないか、とか。今までの自分たちのビジネスを脅かす存在と捉えているのが印象的。クラウドをチャンスと考えているようなところは少ないのだろう。

新しいことや変化に対応するには、相当な体力と動機が必要。今を生きることが重要な中では、そこまで進めることが出来てないというのが、ユーザ企業、ソフトウェアベンダーの両方にあるような印象。特に印象的な言葉は「クラウドにしてその先に本当に何があるの?」と「米国に踊らされているだけではないか?」。一方で、そうした変化は確実に訪れていることを感じており、IT産業が大丈夫だろうか、という危機感はもっている。だけど、変化の波に乗ってその先にいくか、変化の波が過ぎ去ってから乗るか、地方では後者の印象が強かった。

おそらく地方で新しいことに挑戦していこうとされているユーザ企業もソフトウェアベンダーも沢山あるとは思います。そして、あまりポジティブに書けなかったのですが、今の事業を継続するということもとても大切で重要で意味のあることだとも思います。今回は、私の少ない聞いた話をもとに印象を書きました。この状況をひとつの事実と捉え、市場を開拓していくチャレンジもしていく必要があるのだろう、と考えています。

あ、それとは別に、iPadやAndroidの話題や、TwitterやFacebookの話題なども出て、パーソナルな領域では、全然遅れてなくて、地方とか関係ないな、という印象ももちました。

倉貫 義人

株式会社ソニックガーデン代表取締役社長。経営を通じた自身の体験と思考をログとして残しています。「こんな経営もあるんだ」と、新たな視点を得てもらえるとうれしいです。

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