組織変革の難しさと足並みを揃えない進め方

組織変革の難しさと足並みを揃えない進め方

自分の所属する会社をなんとか変えたい。そう考える人は割と多い。経営者じゃないので組織変革なんて大層なことでなくても、新しいツールやリモートワークなんかの新しい働き方を導入したり、良くなるように会社を変えていきたい、といったところだ。

もっとドライに、自分に合わない会社だったら辞めて次の会社に移るという考えの人もいる。そうでなく、そこでしか出来ない仕事や、そこで働く人たちが好きで、愛着もあって辞めたい訳じゃない。だったら、その組織を今よりも良くしたいと思うのは当然のことだろう。

しかし、そう簡単に今ある組織を変えていくことはできない。大企業なら尚更だ。私自身、組織を変えていこうとした経験もあり、どうすれば良いかアドバイスを求められることも多い。そこで、本記事では組織変革に取り組んだ経験から気づいたこと、そして私の考えを記したい。

SIerの中でアジャイル開発を主流派に出来なかった

私は前職時代、それなりに大きな会社で働いていた。新卒で入った当時に2千人、私が会社を作って独立した頃には2万人以上の会社になっていたので、それなりに大きな組織で働いたと言ってもいいだろう。システム開発会社、いわゆるSIer(システムインテグレータ)だった。

多くのシステム開発のプロジェクトがそうであるように、私が参加したプロジェクトも大変な仕事が多かった。残業も多かったけれど、それでも楽しく仕事はしていた。ただもっとうまく出来るのではないか、という気持ちは常にあった。そんな中で出会ったのがアジャイル開発と呼ばれる開発手法だ。

アジャイル開発に関する本を読み、知れば知るほど、自分でもやってみたいという気持ちが高まり、少しずつ導入し実践をしてきた。いつしかアジャイル開発を広めていくことが自分の使命のように感じるようになり、社内外での活動を続けてきた。

自分の関わるプロジェクトでは、なんとか強引にでも導入することは出来たし、それなりの結果を出してきた。それもあって講演や執筆の機会も頂くことができた。しかし、だからと言って会社全体の主流派には到底至ることはなかった。

様々な要因があるのだが、私の気づいた本質的な問題は、納品することがゴールのビジネスモデルと、アジャイル開発で得られるベネフィットが一致していなかったという点だ。(その気付きは将来の「納品のない受託開発」に繋がることになるのだが)

ビジネスモデルへの最適化と組織変革のジレンマ

では、既存組織にいてビジネスモデルを変えることができたかというと、組織の中にいる人間がボトムアップでひっくり返すのは出来なかった。なぜなら組織とは、そのビジネスモデルで最大限に効果が出るように最適化されているからだ。

組織図も指示命令の流れも、評価や品質の基準、キャリアパスや採用も、組織を構成するすべてがビジネスモデルに従っているのである。そのビジネスモデルで売上を上げ、利益を生むことが組織の使命なのだから、そうなって当然なのだ。

アジャイル開発を広めようと、いくら勉強会をして啓蒙活動を続けても、人も組織も変わらなかった。それは、組織や人に問題があるわけではなく、誰もが真面目に一生懸命に働いていて、だからこそビジネスに最適化された組織になったからである。

皮肉にも組織を強くすればするほど、変化への適応性が下がってしまうのである。ビジネスモデルと組織は不可分であり、大きくなって成熟した組織であればあるほど変革は難しくなるのだ。

改めて考えたことは、果たして本当に組織変革は望まれているのか、ということだ。そして、組織がビジネスモデルに従うのなら、ビジネスモデルを変えることなどできるのかどうか。私の出した結論は、変えるのではなく、作るということだった。

新規事業から始める理想の組織づくり

前職時代の最後に私が取り組んだのは、社内ベンチャーだった。自ら立案した新規事業を実行するための新しい組織を作らせてもらった。従来の事業部と分けることで、本業のビジネスモデルに支配されない組織を作るためだ。

そもそも新規事業を始めようとした動機の半分が、それまで育ててきた自分のチームを維持していきたいからだった。当時は既に現場部門でなく、全社部門に異動になり、アジャイル開発の啓蒙や社内向けのSNS開発などを行う自分のチームを持つようになっていた。ただ、売上を持たない部署だったので、社内で大変な案件があれば、すぐに人を持って行かれるという危機感が常にあった。

そこで自分たちも事業を始めて顧客を持てば、そう簡単に人を持っていかれることなどないだろうということから、新規事業の立案と会社への提案をすることにしたのだ。理想の組織ありきで事業を始めたと言ってもいい。

社内ベンチャーは社長直轄の組織だったこともあり、新しいビジネスに合わせた組織作りをすること、どういった人を採用するかといったことなど、多くの裁量を持たせてもらうことができたおかげで、自分たちがやりたいと思う組織に近づけることができた。

既存の組織全体の足並みを揃えて、一斉に変革するというのは現実的ではなかった。もちろん新しい組織を新規事業とともに作ることも簡単なことではないが、既にあるものを変えることに使うエネルギーより、非常に前向きで健全な使い方だと感じたものだ。

今あるものを変えるのではなく、新しいものを広げていく

「組織変革」という言葉は、非常に曖昧なもので、だからこそ、こぞって望んだりするのだろうが、実際のところ、組織が一気に変わることなどありえないし、どうなれば成功かもわからない。

組織がビジネスモデルに従うものだとすれば、ビジネスモデルから変える必要があるが、ビジネスモデルとは変えるものではなく、新しく生み出すものだし、そのためには小さく検証するところから始めるしかない。そして、それに紐づく組織が出来る。

個人として、本当に実現したい働き方やチームのあり方があるのなら、新しいビジネスと共に作っていくことが、遠回りに見えて近道なのだろう。組織を変えようとすることは、自分以外の人に変化を強要することに他ならないが、それは抵抗される。自分が先頭に立って切り開くなら、応援してくれる人たちは出てくるはずだ。

そして企業にとっても、そうした新しいビジネスとチームを許容し応援することで、もしうまく広がれば会社が変わっていくことになる。そうして、いつか主流派が入れ替わることで、組織変革はなされるのではないだろうか。

変革は目的でなく手段だ。新しいビジネスと新しい組織を作り、それを広げていくことで世代交代は果たされる。そうした結果として、変革したと言えるのだろう。

倉貫 義人

株式会社ソニックガーデン代表取締役社長。経営を通じた自身の体験と思考をログとして残しています。「こんな経営もあるんだ」と、新たな視点を得てもらえるとうれしいです。

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