書評:システムインテグレーション崩壊 ~これからSIerはどう生き残ればいいか?

書評:システムインテグレーション崩壊 ~これからSIerはどう生き残ればいいか?

私の書いた『「納品」をなくせばうまくいく』の発売とほぼ同時時期に発刊されたのが、本書「システムインテグレーション崩壊 ~これからSIerはどう生き残ればいいか?」です。なかなか刺激的なタイトルです。

日本のIT業界のうち、とりわけ受託開発の世界についての問題意識を書いた本が同時期に出たのは何かの縁を感じますし、もしかしたら多くの人が同じように問題意識を持っていて、その数が一定数を超えてきた証かもしれません。

この記事では、本書「システムインテグレーション崩壊 ~これからSIerはどう生き残ればいいか?」を読んでの感想と、気になったポイントを紹介します。

システムインテグレーション崩壊 ~これからSIerはどう生き残ればいいか?
斎藤 昌義
技術評論社
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システムインテグレーションの世界を俯瞰

私の本では、ソフトウェアの受託開発の世界における私から見た問題点と、そこから導きだした解決の仮説、そして経験からの実績を元に書いています。なので、あくまでプレイヤーとしての視点で、私個人からの観点となっています。それに対し、本書「システムインテグレーション崩壊」では、より俯瞰した視点で全体像が掴めるようになっています。

第1章の「システムインテグレーションが崩壊へ向かう3つの理由」での問題提起に始まり、システムインテグレータやユーザ企業での内部における課題、これからのビジネスで求められる要素、クラウド・オープンソース・アジャイルといったキーワードの解説、そしてこれからの在り方への提言など、大きく全体像を掴むのに最適です。

事例やインタビューなどが途中で差し込まれ、より多角的な観点から捉えることができるでしょう。こういった本は、私には書くことができないので、こうして様々な視点から問題提起が行われるのは、とても良いことだと思いました。

私自身、もともと大手のシステムインテグレータさんで働いていたので、システムインテグレータの課題として書かれていることが、とても実感をもって理解できました。同じように、システムインテグレータの中で働いている方々が読むと、漠然と感じていた危機感や不安についてドキッとするのではないでしょうか。

ただし、ではどうすればいいか、というところまでは、本書ではハッキリとは書かれていません。それを考えるのは、本書を読んで行動を起こそうとする読者の皆さんなのでしょう。

新しい3つの収益モデル

本書で提唱されている「顧客価値を高めて、対価を得ることで、ビジネスを成り立たせる」ということをどうやって実現するのか、その具体的な事例のひとつとして、なんと私たちソニックガーデンの「納品のない受託開発」も取り上げて頂いています。71ページです。

提唱されているのは、サブスクリプション、レベニューシェア、成果報酬の3つで、サブスクリプションとして「納品のない受託開発」が登場します。残りは、日本ユニシスさんやNTTデータさんという事例が並ぶ中での一つで、規模感が違いすぎて恐縮しますね。

1点だけ私たちがやっていることと少し違う点があったので、補足しておきます。

引用:p73「また、お客様にとっては、資産を持つ必要はなく、すべて経費化できることもメリットとなるでしょう。」

違うというのは、お客さまはすべて経費にする訳ではないんです。「納品のない受託開発」というキャッチフレーズではありますが、実質は、私たちの持ち物ではなく、お客さまの持ち物なので、お客さまに資産計上はして頂きます。新規開発にかかった分が計上対象になります。納品というのはその区切りに過ぎないので、納品という様式がないからといって計上しないわけではないのです。

残りのモデルは「レベニューシェア」と「成果報酬」ですが、私の考えとしては、顧客である事業会社と開発会社との間ではうまくいかないのではないか、と思っています。当初にリスクをおって破格か無報酬で開発を行い、ビジネスが成功すれば大きなリターンを得られるのが、特徴かと思いますが、ビジネス側や営業側を顧客側に任せてしまうのは、開発会社にとって非常にリスキーです。開発会社は、作ることは出来るかもしれませんが、営業活動をする訳ではないので、レベニューが立つがどうかのコントロールができないからです。

レベニューシェアや成果報酬を成立させるためには、それぞれの役割分担ではなく、ビジネスも開発も共同で行える関係でないとうまくいかないのではないかな、と思っています。

イベントを行います

本書「システムインテグレーション崩壊 ~これからSIerはどう生き残ればいいか?」の著者である斎藤昌義さんとの共同イベントの開催が決まりました。

受託開発ビジネスはどうなるのか、どうすべきか

私の視点からの問題提起と、斎藤さんからの問題提起、それを受けて、参加者の皆さんと一緒になって議論していくスタイルで考えています。ぜひご参加ください。

倉貫 義人

株式会社ソニックガーデン代表取締役社長。経営を通じた自身の体験と思考をログとして残しています。「こんな経営もあるんだ」と、新たな視点を得てもらえるとうれしいです。

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