ホウレンソウからザッソウ(雑談・相談)へ

仕事をする上で、ホウレンソウすなわち報告・連絡・相談は大事だ。こまめな報告があれば安心できるし、連絡が行き届くことで無駄もなくなるし、相談があることで早く問題を解決できる。上手なホウレンソウは社会人にとって基礎スキルと言える。

そして、ホウレンソウが出来るようになったら、その次は「ザッソウ」だ。ザッソウは、私たちが勝手に考えた言葉で、雑談・相談のことを指している。

ホウレンソウはもちろん大事だが、良いチームにするためにはザッソウ、とりわけ雑談というのは誰しもが思っているよりも大事な要素だ。

メンバー同士が気軽に雑談しあえるチームは、心理的安全が保たれていると言えるし、イノベーションに繋がるような突飛なアイデアは雑談の中から生まれたりする、かもしれない。

なんにせよ、気軽に雑談が出来るようなチームの方が楽しそうだ。そんなチームで働きたいとは思わないか。

職場における雑談の効能

チームには雑談が大事だというのは、マネジメントする立場を経験した人ならばわかるだろう。特に、マニュアル化できない仕事をするクリエイターやナレッジワーカーのチームにおいて、仕事の上での会話と雑談に明確な違いはないからだ。

新しいアイデアが出ない、専門的な知識がなく困っている、そんな問題を解決する仕事なら、コミュニケーションしているうちに価値が産まれることがある。そこで話をする中身は、どこまでが雑談なのかどうか分けて話すことの方が難しい。雑談と相談は同じチャネルを通るのだ。

だから普段から雑談をしていれば、本当に困った時に声をかけやすくなる。普段は全く話をしないのに、困った時だけ声をかけるのは、たとえ「いつでも相談して良い」と言われていても、なかなか難しいだろう。話しかける心理的なハードルを下げておくためにも、雑談は有効だ。疎通確認のようなものなのだ。

そして雑談をしていれば、その人のひととなりやプライベートなことも多少は知れるはずだ。チーム内の助け合いが制度やルールに依ってでなく、自主的に起きるようになるためにも、仲間がどんな人なのか知ってることは大事になる。やっぱり見も知らぬ他人よりも、知ってる人が困っていたら助けようという気になるのが人間のサガだ。

人は、正論やロジックだけでは動かない。たとえ一見すると無駄なように見える雑談も、大きな視点から見れば、職場や働く人にとって大事なことなのだ。

ホウレンソウの隙間を埋める雑談

もちろん雑談が大事だと言っても、仕事もせずに雑談ばかりしていては困るし、逆に雑談することが苦手な人もいるだろう。実を言えば、私も苦手なほうだ。なんでもない他愛ない話を、ただ延々と話すのは、よほどお喋り好きじゃないと難しいのではないか。

雑談が苦手な人でもできる雑談と言えば、やはり会社や仕事に関係する話だ。最近の仕事の忙しさでも良いし、担当しているお客様や扱っている技術について、会社で起きた出来事など、会社に集まった仲間となら、仕事に関する話ならいくらでもある。そして、そうした雑談から有益な情報も得れたりする。

だったら、フォーマルな進捗会議や定例のミーティングで話せば良いし、そうすべきだという意見もあるだろうが、取り立てて報告するほどでもないような話題は沢山ある。お客様の担当者が変更になったという報告はフォーマルでしても、その理由だったりは個人的にしか知らなかったりするが、それを知ることで相手の状況を慮ることもできる。

そう、フォーマルな情報は、情報としての精度は高く、間違いなく伝わるように簡潔になっているが、それ故に人間的な感情の部分が削ぎ落とされてしまう。それは目的としては悪いことではないが、人間にとっては付帯する雑然とした情報があった方が記憶に残りやすかったり、理解しやすかったりする。それは雑談の中にひそむストーリーの力だ。

リモートワークだからこそ雑談

全社員リモートワークを始めて、オフィスを撤廃したことで課題になったことは何か?と聞かれれば、私たちのチームで最初に明確な課題となったのも雑談だった。

毎日オフィスにいれば、すれ違いざまやちょっとした機会に自然発生的に生まれる雑談がなくなってしまったのだ。それで仕事をしていく上で問題があったかというと、業務遂行という観点だけなら問題はなかったのだが。

そこで、雑談も含めた従来のオフィスにあったコミュニケーションをすべて代替できるもの、即ち、オンライン上に仮想的にオフィスを作ってしまえないか、と考えて開発をしたのがRemottyだった。

だから当初からチャットを作ろうというコンセプトではなく、複数の人が入って協調する部屋を作るイメージで開発をしてきた。顔が見えるというのも、同じ部屋で仕事をするなら当たり前の機能だ。

たまに勘違いされるが、Remottyの顔が見えるのは監視するためではない。オフィスに人が集まるのは監視するためではない、のと同じことだ。一緒に安心して仕事をするために顔を合わせるのだ。

また、すべての会話が時系列に流れている一方、指定しなければ通知がこない仕様も、部屋で会話している様子がなんとなく聞こえてくる、ということを再現したものだ。だから「論理出社」と表現しているが、仕事をするときはRemottyという部屋に入って始めて、仕事を終えたら部屋から出ていくというような運用をしている。

物理的なオフィスに集まらなくても、仮想的な同じ部屋で働いていれば、雑談は生まれてくる。雑談ができないようなら、物理的なオフィスに集まっても意味がない。

雑談と仕事を明確に分けない

雑談を推奨する上で気をつけたいのが、仕事の場所と雑談の場所を明示的に分けようとする動きだ。どうしても仕事は仕事できっちりと分けて、仕事の話の中に冗談だったりカジュアルな話を入れることを嫌う人がいる。

そこで、よくあるのが雑談用の掲示板と、仕事の掲示板を完全に分けてしまうこと。さらには、雑談用のツールと仕事用のツールという形でツールそのものを分けようとすることがある。しかし、それではうまく行かないだろう。

雑談専用となってしまうと、本当に雑談だけの場所となり、そこに書き込むのは相当な勇気がいる。なぜなら明らかに雑談をしていますよ、という証明になるからだ。いくら雑談が推奨されるチームだからといって、心理的なハードルはある。

そして、これは雑談なのか、仕事なのか、と投稿する際に迷いが生じることもよくない。人間は基本的に怠惰なので、少しでも面倒に感じたら、AかBかではなく、行動しないという選択肢を選ぶ。コミュニケーションの芽を摘むことになるのだ。

真面目なことも、しょうもないことも、同じ場所で流れているくらいでちょうど良いのだ。本来の良いオフィスって、そんな雰囲気じゃないだろうか。

雑談のように相談する、遊ぶように働く

私たちは「ふりかえり」という取り組みをしている。チームごとの改善や、個人の成長のための機会として、KPTやYWTといったフォーマットを使って、ふりかえりをする。ふりかえりは一人でする訳ではなく、チームの仲間や師匠と行う。ふりかえり自体はアジェンダがあるようで無い。業務のミーティングとは違うので、落としどころを決めることも、時間内に決着つける必要もないのだ。

ふりかえりは、非常にゆるい枠組みの中で行われる。だから、雑談をしているようにも見える。実際、直接業務とは関係ないことも話をする。ふりかえりで考える対象は業務そのものの話よりも、それをメタに捉える視点が必要だからだ。だけど、それで良いのだ。定期的に、ふりかえりの時間を用意しておくことで、アンフォーマルな情報が流通していくことになる。

似たような取り組みで、ランチ会を開催しているチームもある。フォーマルな進捗会議ではなく、最近どう?というのを話し合うのをランチ取りながらする、というのをリモートで開催したりするものだ。ここでも、アンフォーマルな情報が共有され、それが目に見えないチームの結束につながることもある。朝会をするチームも、同じような効果が期待できる。

ふりかえりも、ランチ会も朝会も、アンフォーマルな情報の流通に価値をおいた取り組みなのだと言える。フォーマルで、ストーリーを削ぎ落とした情報は、何も会議で共有する必要はなく、ツールを使って共有しておけば済む。むしろ、人が話しあうなら、アンフォーマルな部分こそ人間らしい情報の流通ができる。

そして、アンフォーマルな情報に加えて、進捗情報や業務上の問題について語ることも出来る。カジュアルな場所でも仕事の話が進むようになる逆転が起きることもある。ソニックガーデンの経営会議は、社長と副社長の二人でやるのだが、だいたい夜中にテレビ会議を繋いでやることが多い。経営会議だからといって、畏まったスタイルがある訳でもなく、ただダラダラと話をする。テーマは会社のことだが、大いに脱線したりもする。

経営会議で扱う議題には、正解がない。だから色々な可能性を話し合って考えなければ、より良いアイデアにたどり着けない。ときに優れたアイデアは、冗談のような話から出てくる。だから、雑談のようで良いのだ。もしかすると、経営会議の様子を外から見れば、遊んでいるように見えるかもしれない。そんなふざけたことを、と目くじら立てる必要はない。

外から見て遊んでいるのか、働いているのかわからない状態、そんな状態で働けたら最高じゃないか。高度に発達したミーティングは、雑談と見分けがつかないのかもしれない。

倉貫 義人

株式会社ソニックガーデン代表取締役社長。経営を通じた自身の体験と思考をログとして残しています。「こんな経営もあるんだ」と、新たな視点を得てもらえるとうれしいです。

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