費用対効果ではなく「投資対効果」の高かった取り組みと得たもの

費用対効果ではなく「投資対効果」の高かった取り組みと得たもの

木こりのジレンマという話がある。刃こぼれした斧で一生懸命に木を切っている木こりに、「斧を研いだらどうか」というアドバイスをしたところ、「木を切るのに忙しくて、斧を研ぐ暇はない」と答えたという逸話だ。

短期的な目線だけでは、長期的には損をする。短期的に得るものがなくても取り組むのが投資だ。それは何も金銭だけが投資の対象ではない。これからの時代、特に金銭だけに頼るのはリスクが大きいだろう。

スキルを磨くことや、人脈を広げること、それにかける時間も投資と言える。投資というのは会社に限らず、個人の活動にも言える。投資なので無駄になるかもしれないが、取り組まなければリターンを得ることはない。

本稿では、私が若い頃から個人的に取り組んできたことで、「投資対効果」が高かったと思えることを経験談として書いた。

ブログを続けること

かれこれブログを書き始めて10年以上になる。元々はプログラマである私は、ブログのような日本語を書くことが得意ではなかった。改めて昔のブログを読むと恥ずかしくもある。

ブログは一朝一夕に出来るものではない。このブログだけで始めて9年、300記事ほど今の時点で溜まっているが、これを短期間で書くのは難しいし、書いてきた記録は後から作れない。夏休みの絵日記のようにはいかない。

ブログを続けて得られたものは、金銭的な価値ではない。昨今のブログ論の多くは、注目を集めてどれだけ稼げるか、みたいな話が多いが、その方向性に個人的には興味はない。ただ稼ぎたいなら普通に働いた方が費用対効果ははるかに高いからだ。

この記事で書いているのは、費用対効果ではなく、投資対効果の話だ。

ブログでの抽象化と言語化を通じて知的生産性が高まった

私のブログには、どこに行ったとか何を食べたという日常の話はないし、売れる商品を紹介する話もないし、わかりやすいノウハウもない。書いているのは、考えていることや経験して学んだことの言語化したもの、すなわち言論や主張だ。

誰かに読まれる前提で言語化することで、自分の考えを整理することが出来る。良い経験をしたとしても、言語化しなければ記憶に残りにくく、次の経験に活かせない。言語化には抽象化する力が必要だ。抽象化されていない経験は応用できない。

そしてブログとして世に出すために、自分にしか書けないことは何か、と考える。その時に、自分のアイデンティティや価値観を強く意識することになり、結果として己の軸が強化されていく。

ブログを書いたことで知的生産性は高まったと思う。

客観性と消費者意識、マーケティングの基礎が身についた

自分だけの手記でなく公開するためには、他人への配慮も必要となる。真っ当な反論や意見なら良いが、謂れなき批判は避けたいし、誰かを傷つけてしまうこともなるべく避けたい。そのために様々な観点から思考する癖がついた。

自分の意見に自分で反論をし、極端な意見も考えてみたりする。自分の中に、何人もの人間を持つイメージだ。結局は自分が生み出した読者像なので、主観から逃れることはできないが、それでも多少は客観性を磨くことができたと思う。

この姿勢はマーケティングに通じている。ただ漫然と書くだけでなく、どうすれば多くの人に届くのか、読みやすいだろうか、価値があると感じられるのはどうすれば良いのか、考えてきた。

ターゲットを考えて自分の作品を届ける創意工夫は、マーケティングの基礎となる考え方だった。

コミュニティに貢献すること

今でこそ非常に多くの勉強会が、東京なら毎夜のごとく開催されているが、私が社会人になった頃の20年ほど前は、これほどはなかった。それでも少しはあった。

エンジニアだった社会人2年目の私は「アジャイル開発」という手法に惹かれ、それを広めようとしているコミュニティを知り、勉強会に参加するようになった。

最初はただ参加して聞くだけだったのが、そのうちに運営スタッフとして手伝うようになり、数年後にはユーザ会の代表までさせて頂くことになった。

会社と違って有志の集まりでは、誰の許可もなく運営の手伝いはできるし、年齢に関係なくリーダーでさえ任される。もちろん全てボランティアで、見返りが欲しくてやっていた訳ではない。義務感というより、ただ楽しかったからやっていた。

会社にいるだけでは得られない経験と人脈

コミュニティでの経験は、直接的に自分の報酬をあげてくれた訳ではないし、短期的に何か得られた訳でもない。しかし、そこで得た人間関係は20年近く経った今も続いているし、そこでの出会いがきっかけに自分が想像してた以上の活動ができた。

自分の人生では無縁だと思っていた書籍を書く機会を頂いたのも、自分の経験や発見を講演で伝えていくようになったのも、コミュニティに参加していたからだった。自分よりも年上の人たちの組織のリーダーをしたことも、とても大きな経験だった。

今にして思えば、そうした経験を20代のうちから出来たことは、とても貴重だった。普通に会社にいれば若造とみなされてしまって、出来なかったことだと思う。その経験の獲得が、会社以外のコミュニティに参加して得られた価値だった。

頼まれたことは全て受けるから広がる可能性

もちろん、自分が受益するだけのフリーライドでは、そうしたチャンスはもらえなかっただろう。まずは貢献することが先にあってのことだったと思う。

今、経営をするようになって思うのは、どんな商売も同じで、まずは貢献が先にあって、利益は後からついてくるのが本質だということだ。お金が手に入る前提の仕事だけをしているのは、そのときは良いけれど事業が広がっていくことはない。

自ら貢献する他に、頼まれたことは殆ど断らなかった。書籍も講演も代表も、声をかけてもらえて、少しハードル高いなと思ったけれど、引き受けて何とか頑張ったことが成長の糧になった。なにはともあれコミュニティには本当に感謝している。

今でも、コミュニティからの依頼は日程さえあえば受けるようにしている。

人を育てること

自分の腕を磨くことを一番に置いている職人気質の人は、人の育成を厭う傾向がある。人を育ててる時間があれば、自分を育てたいという思いや、育てても結局は独り立ちして去っていくということが理由だろう。その気持ちもわからなくもない。

受講料を徴収する教育ビジネスならいざ知らず、仕事の中で人を育てることに短期的なリターンはないかもしれない。しかし、教育ビジネスと違って、仕事の中で人を育てるときは、ただ仕事の手順を教えるだけでなく、考え方も伝えていく筈だ。

育成する中で、自分の仕事に対する哲学や姿勢、価値観なども合わせて教えることになる。いずれ育った暁には、近い価値観をもって、かつスキルのある仲間になるのだ。スキルだけある人よりも、よほど戦力になり相性も良い。仲間づくりなのだ。

仲間が欲しいなら、いっそ育てることから始めよう

ソニックガーデンを経営していて、よく聞かれるのが、どうやってそんなメンバーを集めたのか?ということだ。中途採用のメンバーは、もちろん厳選を重ねた優秀な人材を採用しているからだが、創業時からいる初期のメンバーは、どうだったか。

元々ソニックガーデンは、大きな会社で自分で立ち上げた社内ベンチャーを、そこの社員だった私が買い取る形で独立してできた会社だ。スピンアウトした形だが、その際に一緒に前職を辞めてついてきてくれたのが当初の取締役のメンバーだ。

その一緒に起業してくれたメンバーたちは、元々は私の部下であり、さらに言えば前職の会社に新入社員として入ってきた人たちだ。なので、新卒の時代から目をかけて育ててきた人たちが、いつのまにか力を付けて、一緒に独立してくれたのだ。

かなり長期的な視点で見れば、とても投資対効果の高い取り組みだったと思う。

人の育成はコントロールできない難しい課題

また、人を育てるという経験も得難いもので、育てる側にとっても成長の機会にもなる。指示をしたからといって人は育たない。人の成長はコントロールできないもので、育つための支援をしなければいけない。たしかにまどろっこしい感じはする。

自分でやったほうが早いのはわかっていながらも、コントロールできないもので成果を出すための思考は、ただ決まったものを作るだけの経験とは違うスキルを身に付けられる。そして、本当に役に立つのは、コントロールできない中での思考力だ。

ブログにも似ているが、人に考え方を伝えるために、自分の考えを整理する機会にもなる。確かに育てても離れていってしまう方が確率的には大きいかもしれないが、うまくいけばリターンも大きい。無駄を恐れていては投資はできないだろう。

経験を伝えていくことも投資

ここに書いたことは、どれも実際にやったから良かったと思えているだけで、他の人にとって本当に良いかどうかは本人にしかわからない。

だから無理強いして経験させることでもない。しかし、だからといって伝えることに意義がないとは言い切れない。伝えないと始まらない。

つまり、こうした記事を書くことも私にとっては投資なのだ。

倉貫 義人

株式会社ソニックガーデン代表取締役社長。経営を通じた自身の体験と思考をログとして残しています。「こんな経営もあるんだ」と、新たな視点を得てもらえるとうれしいです。

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