人が成長できる組織の「マネジメント体制」とは

本シリーズ「今月のふりかえり」では、ソニックガーデンの顧問ライター長瀬が倉貫へのインタビューを通じて、現在進行形の取り組みを記事にしてお届けします。

今月のテーマは、この4月からはじまった新たな組織体制について。初めて「マネージャー職」を置いたという今回の体制変更は、ソニックガーデン始まって以来の大きな変化です。なぜ、今回の組織体制の変更に至ったのか、その思考プロセスを聞きます。

ソニックガーデンらしいマネジメントのための体制変更

ーー すっかり、暖かくなりました。

そうですね。3月から4月にかけて、少しバタバタしていたのですが、ようやく落ち着いてきました。なぜバタバタしていたかというと、4月からの組織体制の変更に向けた準備があったからです。

ーー どんな体制変更があったのですか?

職種制度というものを取り入れて、マネジメント体制を変えました。今日は、その話をしようかな、と思います。ざっくりと言うと、これまで職種としては置いてなかったマネージャー職を新たに作り、その他の職種も新たに作って、体制を整理した形になります。

ーー ソニックガーデンは管理しない経営を大切にしており、「マネージャー」という職種はこれまで置いてませんでしたよね。それを今回、新たに作ったということは、大きな変更に思えます。

そうですね。ただ、管理しない経営というのは一貫して続けていきます。管理を強めたり、ピラミッド型の組織にするためにマネージャー職を据えたのではありません。我々らしい、マネジメントのあり方を考えていった末の、今回の組織体制の変更です。この思考プロセスを説明するには、少し長くなってしまうのですが、それを話すにはこのシリーズがちょうどいいなと思い。

ーー なるほど。それでは、まずは体制変更に至った背景から聞いていきましょうか。

大きな背景としては、3つあります。1つ目が「新卒メンバーの定期的な採用とそれに伴う育成」、2つ目が「若手プログラマの育成」、3つ目が「中途入社組のスキルの差」です。

改めて考える、新卒メンバーが育つための最適な環境

ーー 1つずつ聞かせてください。まずは、新卒メンバーの定期採用と育成についてですね。

これまでソニックガーデンは、積極的に新卒の採用は行ってこなかったのですが、それでもどこからか情報を探し当てて、入りたいといってくれる学生が定期的にいたんですね。実は、まだ15人くらいしかメンバーがいなかった頃から、新卒を採用していたんです。時々入らない年もありましたが、新卒採用はコンスタントに続き、今年も2人がソニックガーデンに新卒入社してくれました。

ーー 前回、若手プログラマの育成に力を入れると言っていたこととも関連しそうですね。

そうですね。ただ、まだ今後プログラマとして職を極めていくのか、はたまた他の仕事が向いているのか、新卒入社の時点だとわからないですよね。学生時代にやりたい仕事を考えていたとしても、何が自分に向いているかは、実際の仕事を通してでないとわからないものです。

ーー 本当、そう思います。

ソニックガーデンで働きたいという思いと、プログラマを一生仕事にしていくか、はまた別の話なんですよね。もちろん、ソニックガーデンはプログラマとして腕を磨くには最適な環境ですので、ベテランのもとで修行して顧問プログラマとして成長していくという道は当然あります。

ただ、必ずしも全員が顧問プログラマと言われるような、高いコンサルティングスキルと技術力を併せもった人になれるかというと、そういう訳でもありません。だけど顧問プログラマの道を歩まないとしても、何かその人の強みや興味関心を活かした役割が見つかれば、それでいいのかなと思っています。新卒採用のことを、ポテンシャル採用と呼んでいるのも、そういう思いがあります。

ーー 前回の話でも出てきましたね、ポテンシャル採用。それは、必ずしも「顧問プログラマとしてのポテンシャル」だけを指していないと。

そうです。現に、まだ新卒採用をしたばかりの頃に入ってきた高木というメンバーは、もともとプログラミング未経験者でした。最初はRailsを教えていたのですが、ふりかえりを繰り返していくうちに、中小企業の業務改善に興味関心があることがわかったんです。そこから、kintoneを使った業務改善の案件を担当するようになり、今では業務ハックというソニックガーデンの柱のひとつとなる事業にまで成長させました。

新卒採用をしていなければ、業務ハックという事業もなかったでしょうし、その後に業務ハッカーとして入社することになるメンバーとも出会わず終いだったでしょう。

ーー 会社自体のポテンシャルを広げるという意味もあるんですね。

経営陣だけの頭で考えていたら、その枠を超えるアイデアや仕事はなかなか生まれません。そこに、ポンっとまっさらだけど、思いや熱意を持った新卒メンバーが入り、彼・彼女たちが育っていく中で、考えもしない新たな動きが生まれていく。私たちが新卒採用を辞めない理由は、こうした新たな動きがどんどん起きてほしいという思いもあります。

ーー これまで、新卒メンバーは入社後どのように仕事をしていたのでしょうか?ベテランプログラマの中に入っていく訳ですよね。

基本的には、私か副社長の藤原が面倒を見ながら、簡単な仕事からお願いするというのが、大きな流れでした。社内イベントの準備や事務の仕事、徐々に慣れてきたら自社サービスのお客様対応や広報の仕事など、いろいろな体験を通じて仕事を知っていく期間を1〜2年ぐらい取っていました。

その間に、ふりかえりを繰り返しながら、どういう仕事をしていくか、どんなことに興味関心があるか、本人の中でも考えを固めていってもらうのです。

仕事を通して自分の進む道を見つけ、自立していく

ーー 顧問プログラマのもとにつく、という訳ではないのですね。

そうした仕事もありますが、メインでは私か副社長が面倒を見ていましたね。というのも、新卒からいきなり顧問プログラマのもとについても、仕事が高度すぎて、なかなか手伝えることがないんですよね。

あとは、まだセルフマネジメントもできない状態なので、そのスキルを身につけるサポートをしなければいけません。顧問プログラマのもとで仕事を覚えながら、セルフマネジメントのスキルも身につけるというのは、かなりハードです。

ですから、やはり最低でも1〜2年くらいは、簡単な仕事を通じて、やりたいことを見極め、セルフマネジメントのスキルを伸ばす期間が必要なんです。それに、簡単な仕事とはいえ、間違いなく社内メンバーの助けにはなるので、周りからも感謝されて自信になるし、関係性を築くことができますしね。

ーー ということは、これまでは実態として倉貫さんや藤原さんが新卒メンバーのマネジメントをしていたということですね。

そうなんです。自分自身、改めて考え直してみて、そういえば経営陣がマネジメントを担っていたんだなと気づきました。経営の仕事は細かいものもたくさんあるんですよね。プログラマがやらないことを全部やるのがソニックガーデンにおける経営、と考えているので、経理やら広報やらいろいろな仕事があるんです。これは、プラットフォーム型の経営という考え方でもあって、経営が会社のプラットフォームを整備して、その上でプログラマに思う存分仕事をしてもらうという考え方です。

このプラットフォーム側の仕事の手伝いを、主に新卒メンバーにしてもらっていました。ただ、ここ数年は様々な役割を担うメンバーが増えてきてくれたおかげで、経営の仕事もある程度は分担できるようになってきたんです。となると、私や藤原のもとにいても、あまり細かい仕事をお願いできなくなってしまっていた、というのがここ最近の状態でもありました。会社のフェイズがまた変わってきたということです。

ーー なるほど。だから、改めて誰が新卒メンバーの面倒を見るのかを考えていったのですね。

その結果として、経営以外でも新卒メンバーのマネジメントを行うメンバーを据えようということで、新たにマネージャーという職種を作ったという流れになります。ですので、冒頭に言ったように、管理をするため、ではなく、新卒メンバーが仕事を通じて自分のやりたいことを見つけ、セルフマネジメントスキルを身につけてもらうための体制変更になります。

ーー 一般的な会社だと、マネージャー=管理職という捉え方がほとんどで、管理することが仕事だと思われがちですが、そうではないと。

私は、以前からマネジメントとは、管理をすることではなく「いい感じにすること」だと捉えています。ですから、マネージャーは若い人の面倒を見ながら、いい感じにしていくことが役割になってくる。

そして、セルフマネジメントは自分自身をいい感じにしていく、ということになります。ただ、それができるまでは長期的に成長を見守ることが必要ですので、その期間はマネージャーを役割として置いていこう、というのが今回の体制変更の1つの考えです。

内省ワークショップからはじまる、3日間の採用プロセス

ーー 2つ目に、若手プログラマの育成を挙げていましたが、同じような背景でしょうか?

2つ目に関しては、中途で入ってくる若手プログラマの育成なので、通じる部分もありますが、プログラマとして腕を磨く前提の人をどうマネジメントするかという視点が入ってきます。

ーー なるほど。その道はある程度決めた若い人に対して、どういい感じにしていくかということですね。

というのも、前回話をしたキャンプに参加してくれた人の中から、数名ですがソニックガーデンへの入社が決まったんですね。キャンプ後に応募してくれた中から、採用プロセスを通じて、入社に至りました。

ーー お、もう決まったんですか。ソニックガーデンだと1年は採用プロセスに時間を掛けるのが通常だと思いますが。

今回は、少しプロセスを変えたんです。キャンプに参加してくれた人は、もともとプログラマとして働いていたけど、さらに腕を磨くために会社を辞めている人がほとんどです。そういう状態の人たちに対して、さすがに1年も時間をかけて採用を行うことは難しい。ですから、キャンプをクリアした人に対しては、3日間の採用プロセスの中で、判断をしようということにしたんです。セレクションと呼んでいて、サッカーでいう入団前のテストのような形ですね。

ーー そうなんですね。セレクションの内容もぜひ知りたいです。

大前提として、これまでの採用と変わらず、我々が応募者を判断するだけでなく、応募者もソニックガーデンの仕事内容、働き方、カルチャーなどを理解したうえで、判断してもらうというのが、セレクションの目的となります。

ですので、まずは自分が何をしたいのか、どういう働き方をしたいのかをしっかり考えてもらうために、1日目は内省のワークショップを行いました。

ーー え、採用プロセスなのに、内省のワークショップですか?

珍しいとは思いますが、いきなり自分が何をしたいか、どう働きたいかと言われても1人で考えるのは大変ですよね。若いときであれば、なおさらです。ですので、まずはしっかり内省をしてもらって、自分がこれから何をしていきたいのかを改めて考えてもらう1日にしました。

ソニックガーデンで何をしたいかではなく、プログラマとして、1人の社会人として何をしたいか、という根本的なレベルで考えています。そうやって、深いところまで自分をふりかえっていくと、人生の方向性とソニックガーデンが合っているかがだんだんわかってくるかな、と。

プログラマとして経験値を積む「トレーニングセンター」

ーー 採用前にもかかわらずその深さまで一緒に考えるというのは、これまでの採用プロセスでも大切にしていたという、相互理解や、相互の信頼関係の構築を考えると、筋が通っていますね。

根本的な考え方を変えずに、3日間にぎゅっと圧縮したイメージです。2日目は技術試験で、1日中ずっとプログラミングをして、ソニックガーデンのベテランプログラマからのレビューを受けます。この1日で、技術的にどのくらいのレベルにいるかを見ていきます。

そして、3日目に私と面接を行い、それまでの2日間で考えたこと、ソニックガーデンに入ったあとのイメージなどをすり合わせていきます。最終的に、応募してくれた中から数名が選抜されて、入社となりました。結果的に採用とならなかった方も、一方的に不採用を突きつけるのではなく、今のタイミングを考えたときに違う道に進んだほうがいいんじゃないか、というコミュニケーションを取っています。

ですので、じゃあどういう道がいいのか、といった話までしましたし、何かしら持ち帰ってもらうものはあったんじゃないかなと思っています。

ーー キャンプを経て入社したメンバーは、新卒メンバーとは違い、プログラマとしての道を歩むことを決めているものの、まだ経験は浅いですよね。

現場経験はほぼありませんので、まずは訓練をする必要があります。ですので、そうしたメンバーが現場に出て働く前に経験値を得られる環境として、「トレーニングセンター」を作りました。そこで1年程度は、プログラミング技術を学んだり、価値観や仕事の仕方を学んでいきます。

そうした期間を経たうえで、本当の意味での入社といいますか、プログラマとしてソニックガーデンに入っていくという流れを考えています。トレーニングセンターのセンター長もマネジメント職になります。

セルフマネジメントスキルを育てるためのマネジメント

ーー なるほど。新卒メンバーとはまた違う育成の場を作ったんですね。では、3つ目の「中途入社組のスキルの差」について教えてください。

最後は、中途入社組の中でのスキルの差です。中途入社組は年に1〜2人ほどいますが、さきほどのトレーニングセンターがない頃に入ったメンバーは、いきなり「納品のない受託開発」の現場に出るため、苦労していることも多々あります。

それも訓練の内という捉え方もあるのですが、若いメンバーだとセルフマネジメントもまだこれからという中で、顧問プログラマとしての腕を磨く必要があり、やはり難易度としてはすごく高くなります。そういったメンバーに対しても、改めてセルフマネジメントスキルの成長を促すためにマネジメントが必要だという考えも、今回の職種制度に繋がっていきました。

ーー 主に若手メンバーのセルフマネジメントスキルを育てるという目的があり、メンバーの状況に応じて、用意される環境は細分化されているという形ですね。

はい、セルフマネジメントは長期的な視点で培っていくものです。前に考察ブログでも書きましたが、セルフマネジメントの成長は五段階に分けられると考えています。この中で、第三段階あたりまでいけると、ひとり立ちして仕事ができるようになるのですが、そこまで1人で辿り着くのはとても難しいです。ですので、成長を促す役割としてマネージャーを置き、それに合わせて職種制度を整えたということですね。

フラットであり、フェアでもある組織に

ーー 確かに、これまでの話を踏まえると職種の必要性はよくわかります。

これまでは全員が同じルールで働いていましたが、それは全員がセルフマネジメントができるという前提でのルールだったんですね。そうなると、セルフマネジメントに熟達した人と、まだおぼつかない新卒レベルの人が同じルールで働くことになり、いびつな状態が生まれます。

新卒や若手からすれば、いきなりフラットだけど猛者だらけの環境に放り込まれる感覚になるでしょう。だからといって、まだセルフマネジメントできていない人を基準に会社のルールを考えて適用すれば、今度は顧問プログラマが窮屈な思いをします。

「管理をしない」と「マネジメントをしない」は全く別の話です。しっかり成長を支援して一人前になってもらえれば、顧問プログラマと同じルールで、セルフマネジメントを前提に自由度高く働くことができる。ソニックガーデンらしい、人としての成長の階段を登れるようにするための、職種制度と言ってもいいですね。

ーー 若い人からしても、自分が今どういう段階にいるのかがわかるのは、意欲にも繋がりそうですよね。成長のための苦労はもちろんあるでしょうが、居場所がわからない、行き先がわからない不安みたいなのはなさそうだなと思いました。

そうですね、ステップを登れるように、というのは意識しています。あと、重要なのは、職種はありますが決して人としての上下関係があるわけではありませんし、フラットであることに変わりはありません。

とはいえ、若い人のフラットと、ベテランプログラマにとってのフラットは違うでしょうから。それぞれにとっての「フラットな環境」を生み出すことで、結果として組織全体がより“フェア”になればいいなと思っています。

「人の成長」を考え続けた結果としての、体制変更

ーー メンバーのみなさんの反応はいかがですか?

受け入れてくれたのではないかと思います。ソニックガーデンは適応し、変化し続ける組織だというのはずっと言っていますし、今回の職種制度を考えていくプロセスもすべて社内スレッドでオープンにしていました。だから、みんなからしても、流れを把握したうえでのスタートなので、大きな戸惑いとかはなかったかと思います。背景をわかっていたので、納得感も持ててもらえていたはずです。

ーー 考えていくプロセスをオープンにしていくのは、いいですね。

改めて、今回の変更について考えていて思うのは、「成長」が大事なキーワードなのだなということです。若い人の成長もそうですし、マネージャーとなったメンバーにとっても、大きな成長の機会になると思います。それは、経営者である私も同じです。経営者として、今回のような変更を考えていく過程で、自分自身もまだ成長できるという感覚を覚えましたから。

そして何より、3年5年先を考えたときに、若い人の成長にこそ大きな可能性が潜んでいるので、彼・彼女たちがしっかりと成長できるように、長い視点でマネジメントできればいいなと思っています。

ーー 長い視点での成長というのは、大切なポイントに思えます。どうしても、「即戦力がほしい」という話になりますもんね。

人を労働者として見ていれば、即戦力という発想を持ってもおかしくないとは思います。ただ、私たちは人をただ生産性を上げるための労働者とは見ていません。価値を生み出す、ナレッジワーカーとして、そして長く一緒に働いていきたい存在として、一人ひとりのメンバーを考えています。

「納品のない受託開発」をはじめとするナレッジワークは、「人」がいないと成立しないんですよね。いくら高スペックのパソコンだけを並べても、何も生まれないんです。ですから、人の長期的な成長に投資するというのは、ソニックガーデンにおいてはある種、合理的な判断とも言えます。

まだ制度変更をして間もないですし、今後何か変化があるかもしれませんが、人が成長できる組織である、という軸は大切にしていきたいですね。

長瀬光弘

フリーエディター・ライター。メディア運営やコンテンツ制作、コピー開発などコトバに関わる幅広い領域を手掛ける。得意&好きなテーマは組織づくり。岐阜県在住。

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